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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第4話 仕事道具



 冒険者には拠点がいる。多くは町に数多く存在する宿に泊まるが、中には持ち家のある冒険者の存在する。ただし、それには相応の実績による稼ぎが必要だ。


 銀級のシレントには、とても無理な話。そもそも荷運び人が稼げる現実がない。パーティに所属しても、その取り分は他より少ないのが常識である。なので格安のギルド二階にある宿を借りるのが当たり前だった。


「ねえ、レアナ。どこへ行くんだい、ダンジョンへ行くんじゃ……」

「武器もナシに行ってどうするよ。取りに帰らないとな」

「ああ、それもそうか。ごめん、つい気が急いていたようだ」


 手ぶらでダンジョンなど自殺行為も甚だしい。新たな門出に浮かれていて、最も当たり前なことが頭の中から消し飛んでしまっていた。


 冒険者の街には、上級から最上級の冒険者が暮らす住居エリアがある。実績に囚われず、個々が土地を買って過ごしやすい家を建てた。豪邸もあれば、小ぢんまりした家もある。その中でレアナの家は、いくらか大きくはあるものの急ごしらえのおんぼろな雰囲気漂う外観で、家よりもずっと広い庭だけは立派に手入れが行き届いているのが目立った。本人曰く、それが最も落ち着くからだという。


「立派な家だね」

「見る目あるじゃねえか。さあ、入った入った!」


 招かれるがままに家の中を覗きながら入り、シレントはぎょっとする。


「これは、うん。なんともなあ……」


 着た後の服や食べくずから、なんのシミが付いたのかも分からない毛布は丸めて椅子に置いてある。幸いなのは足の踏み場がまだあることだけだ。


「掃除した方がいいんじゃないか?」

「できたらやってら。忙しいんだよ、こちとら稼ぐのに大変さ」


 二階へ上がっていくレアナの後をついていく。階段にまで脱いだ服や下着が散らかっていて、シレントもどこを見ていれば良いものかと天井を仰ぐ。


「悪いな~、遠くて。私の部屋からしかバルコニーに通じてなくてよ」

「それは構わないけど……なんでバルコニーに武器を?」

「デカすぎて家に入らないからだよ。邪魔だから、下から飛んで運んでる」


 はてさてどんなものかと気になってバルコニーへ出たとき、シレントは思わず言葉を失った。それがあまりにも荘厳に映ったからだ。


 無骨で巨大な戦斧が寝そべっている。畏怖と敬意を自然に抱かせてしまうほどの圧倒的な存在感が、武器でありながら生きていると錯覚させる。


「こ、これは……なんてすごい代物なんだ。触ってもいいか!?」

「ああ、構わねえよ。そいつもあんたならキレたりしねえ」

「ありがとう! これほど洗練された武器を見るのは初めてだよ!」


 濁った白に染まった戦斧の重さには感動すら覚える。もし手から滑り落とせば、床に大穴を開けてしまいそうだと緊張感すら抱く。


「無骨に見えるけど、細かく装飾が彫ってある。まさか全体が竜の牙で出来ているのか? しかも防護の魔術を刻んで強度をあげている。なんて精巧な造りなんだ。どうやってこれほどのものを……何百万じゃ済まないぞ、これで豪邸が建つ」


 意外にマニアなんだな、とレアナは隣に屈みこんで斧を片手に持った。


「前のパーティで狩った巨竜の牙を獲って造ってもらったんだよ。この手の加工はドワーフじゃねえとできないから、結構な価格だったぜ。貯金全部なくなっちまった。その分の価値はあったけどな」


 巨竜の牙を一本残らず粉になるまで砕き、特殊な魔石と混ぜて限界まで圧縮。ひとつの塊にした後、さらに削って斧の形を仕上げていく。そもそも頑強すぎる牙は、粉にする工程でさえ時間が掛かる。注文してから完成まで二年を待った、職人の技術の粋そのものであり、手にする者さえ選ぶ超高級品だ。


「ついこの間完成してさ、コイツで白金級の昇格もキメたんだぜ。頑丈だから本気でぶん回せばスチルゴーレムも綺麗に真っ二つときた」


「あの核以外鋼鉄みたいに硬いゴーレムが……凄いな」


 歳は取ったが心は少年だ。振り回してみたいという衝動が湧いたが、瞬時に胸の奥にしまい込む。自分よりもレアナが振り回していた方が絵になる気がして。


「つっても、これから私たちが入るダンジョンには過剰だが」

「うん。依頼はゴブリンの巣穴に入った新人冒険者の捜索だからね」


 せっかくなら探索よりも依頼を受けてさくっと稼ごうという話になったが、受付では今のところ目ぼしい依頼は来ていなかった。そこへ丁度、新人冒険者が行方不明の知らせが届いたので、遊びにいく感覚で受けた。


 元々魔物が生息していた地域が──特に洞窟や遺跡など──何らかの事情でダンジョン化してしまい、魔物がどこからともなく湧き続ける現象が起きている。低級ダンジョンでも油断をすれば餌食になるケースはいくらでもある。戦斧は過剰と言いながら、レアナが見せびらかしたいのと最悪の事態に備えての備えだ。


「そういや、あんたは? 荷運び人なのに麻袋のひとつも持ってないのか?」

「ああ、おじさんの道具はコレさ」


 ジーンズのポケットから取り出した人差し指ほどの小さい筒。その先端にある蓋を外すと、筒だったものは膨らんで縦長のバッグに姿を変えた。袋の口を絞る紐を緩めれば、中から何枚かの羊皮紙と羽根ペンを取り出す。


「このバッグは君の斧といっしょで特別な魔法が刻んであるもので、世界にひとつしかないどんなものでも無限に入るバッグなんだよ。中身が増えると羊皮紙のリストに勝手に名前と数が加わって、僕が一本線を引けば────」


 試しにシレントは『煙草3箱』と書かれた部分を線で引くと、袋の口から煙草が3箱、ぽんっとトウモロコシの種が弾けるように飛んで床に転がった。


「便利だろ。ちなみに制約は、リストに加わった種類の数に合わせて重量が変化することだ。だから本人の筋力が容量を決めると考えてくれたらいい」


「なんでもってことは、家とかでも入ったりすんのか?」


 素朴な疑問にシレントは残念そうに笑った。


「それは無理だよ。大きさだけは限界があって、せいぜい人間の大きさが精いっぱいかな。だから昔は、よくダンジョンの遺品や遺体の回収に携わってた」


 ダンジョンで命を落とす冒険者の遺体を回収する仕事は、並大抵の胆力で出来るものではない。ただでさえ危険なダンジョンに乗り込み、その遺体を遺族のもとへ持ち帰るという依頼は、荷運び人もまた死亡するリスクが高いのだ。


 レアナは横目に意外そうに見つめた。


「大概は金級のダンジョンだろ。怖くなかったのか?」

「怖いよ。でも、誰かの役に立てるからね。泣かせてしまうとしても」


 どんな気持ちで遺体を詰めて帰るのだろうか。想像もつかない寂しさが零れる表情に、レアナも何を言っていいか分からなくなり、斧を肩に担いで立ち上がる。


「要らねえこと聞いちまったな。行こうか」

「おっと、そうだね。早く探してあげないと。きっと不安だろうし」

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