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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第18話 遭逢

 建物の外を確かめたとき、あまりの静けさにぽかんとする。さっきまでの争いはなんだったのかと拍子抜けしてしまい、おいでと手を動かしてルルを呼ぶ。


「今はいないみたいだ、移動しよう」

「待って、低級しか使えない支援魔法を掛けておくわ」


 ルルの魔法は身体の強度を高めたり、軽くしたりする。とりわけ移動に関する魔法は、低級といえども敵の攻撃を回避するのに有用な支援魔法だ。シレントのような荷運び人には特に重宝する。


「ありがとう、ルル」

「どういたしまして。じゃあ行きましょ」


 ダンジョンはやけに静かだ。あちこちに魔物の死体が転がっているので、普段であればいくらかギルドに買い取り指定のある素材を持ち込みたいが、残念ながら今は許されない。煙草を指に挟んで歩き、ふうっと煙に吐く。


「さっきまではやけにあちこちで魔物が争ってたんだけど、もう決着がついたのかな。来るときは大変だったんだよ、ミノタウルスもいたから」


「ミノ……あれがいたの? よく生きてたわね?」


 ルルは驚いてから、寂しそうに笑った。


「いいなあ……。あなたは強いのね」

「戦うのは好きじゃなかったんだ。消極的だった僕も悪いさ」

「でもディルは、そもそもあなたを戦わせる気なんか……」


 言いかけてやめた。シレントの扱いは傍目に見てもよくなかった。本人が黙っているから、誰も口を出さなかっただけだ。荷運び人なのだから荷物だけ運んでいればいいと。結果的にそれがシレントの望む形でもあったがゆえに。


 いつも自信家で努力を絶やさないルルが目を伏せて落ち込む。何を言って良いかも分からない状態で、ただむずむずする感覚に苛まれていた。


「気にする必要はないさ。結果論だ。だけど君たちを見捨てたことは許せない。……傷は治してやったけど、その場に置いて来たんだ」


「そう、会ったのね。死んでないならいいわ、頬を引っ叩けるから」


 今度こそパーティを抜けてやる、と意気込んでふんふんと鼻を鳴らすルルを微笑ましく見つめ、帰ったらディルと大喧嘩だなと想像する。


「無茶は駄目だよ。まともにやりあったらディルの方が強い────」


 何かが、空から飛んできた。地面に叩きつけられて、ぐしゃりと鈍い音を立てて形が崩れたとき、シレントはそれが人間の頭部だと気付く。


 他の冒険者がいたのか。あるいは、と考えて思わず口を手で押えた。


「嘘だろ、ディル……!?」


 これといった特徴のある青年ではない。少し生意気なだけで、どこにでもいる流行りが好きな青年だった。さきほどまで話していなければ判別すらできなかったであろう事実と、彼を惨たらしく殺した何かに対して背筋が凍りつく。


 ルルは恐怖に狩られてシレントの腕にしがみつき、顔を青くさせた。


「いったい何があって……」


 回復薬を使ったはずだ。疲労こそあれ、傷は治癒して万全な状態に戻った。シレントも見届けた。にも拘わらず、ディルは殺された。逃走を許されなかったか、独りでも一匹や二匹くらいなら勝てると踏んで返り討ちにあったのか。


 それは分からない。だが、万全の彼は金級にあがる機会に恵まれるだけの実力をつけてきた。簡単に死ぬだろうか。そう思ったとき、脳裏を嫌な予感が過る。


「まさか────いるのか?」


 鼻歌が聞こえてくる。ゆったりと歩いてくる何者かの気配を感じた瞬間、シレントもルルも全身を潰さんとする重圧を感じて、動けなくなった。


「ふんふん、ふふん……。ん、人間か」


 目の前に立っているのは白銀の鎧に身を包み、浴びた返り血を滴らせる悪魔のような騎士。一見すると人間のようにも思えるが、気配はまるで異なった。


「貴公らは余の敵か、否か」

「……君は魔族だな?」


 シレントがルルを庇うように前に出た。


「いかにも。余の名はゼロ。気高き女騎士であり吸血鬼(ヴァンパイア)である。再び問おう。貴公らは余の敵か、否か。答えねば首を刎ねる」


 レアナたちがいても勝てるかどうか、そう思わせるだけの圧がある。海の遺跡であった魔族とは比べ物にならない。五百年前の人間はこれをどう封印したのかと深く考えたくなる。周囲に魔物がいなくなった理由がハッキリした。


「会話が成り立つのなら聞きたい、君と話し合うことはできるか」


「敵でなければ。そこなる首の男は鎧を置いていけと剣を向けたゆえ殺したが、人間は仲間意識の強い生物であろう。貴公らもまた余の敵ではないのか?」


 とてつもない圧に、言葉を間違えれば殺されると思った矢先。

 怯えながらもルルがひょいっとシレントの背後から顔を覗かせる。


「ディルはアタシたちを見捨てて逃げた奴よ、仲間なんて呼べるわけ……!」

「ム……。失敬。そちらの小娘は矮小だ、言葉も理解できよう」


 兜の中、鋭い眼光がシレントを射抜く。


「男、貴公は違う。────魔族を殺したな」

「なっ、なんでそんなことを……。僕にできると本気で思うか?」


 騎士は小さく掲げた手で徐に拳を握りしめた。


「我らは誇り高き魔族である。生まれるべくして生まれた。突然変異体などではない。生を受けた瞬間から最強の称号を背負い、歩み続けてきた」


 力強い言葉に後退りしそうになる。騎士は一歩ずつ進みながら言った。


「我らは瘴気のクリスタルが生誕させし者。血肉を分けた兄弟のように育ち、皆が人間との闘争に敗れて封印された。未だなお、その封印は完全に解けてはいない。ゆえに余は此処で待ちわびた。我が兄弟たちに会えることを」


 兜の装飾になっている獣の毛皮を掴んで脱ぎ、足下に兜を転がす。透き通るような白く長い髪と肌。赤い瞳。言葉を紡ぐ度にちらと見える鋭い牙。


 伝承でしか見られない吸血鬼の特徴を、ゼロは全て持っていた。彼女は傍によると、シレントの近くですんすんと臭いをかぎ分けて────。


「死んだのはドルクトスか、可哀想に。会うこともままならぬまま、憎しみの中に沈みゆくとは……。我が弟、ドルクトス。────なんと無様な奴だ」


 顔を顰めて毒を吐き、ゼロは二人を横切った。


「立ち去るがよい。貴公ら如き、斬り捨てるまでもない。他の兄弟たちによって屠られるであろうよ。一秒でも長生きしたくば二度と踏み入らぬことだ」


 黒い風が吹き、ゼロの姿は消えた。

 心臓の鼓動がよく聞こえる。今にも破裂しそうな緊張感が緩く解れた。


「ね、ねぇ、シレント……今のは何?」

「帰ってから話そう。とにかく今は助かった。僕らは見逃されたんだ」


 足が震える。支援魔法が掛かっていても、逃げ切れないと理解させられた。


 だが、深く考えている場合ではない。ゼロがいなくなると同時に、あちこちで魔物たちの咆哮が響き始める。活動が再び始まったのだ。


 立ち去ろうとして、一度だけゼロの辿った道を振り返った。


「……彼らにも名前があるんだな」

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