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慣れないヒールに気をつけて!

掲載日:2026/05/16

 本日は王立学園創立記念パーティの日。広間には豪華な食事が並べられ、学園の生徒達がダンスを踊っている。学園の者なら誰もが待ち焦がれ、全力で楽しい思いをする素晴らしい日だろう。

 しかしとても残念な事に、今私は全く楽しくない。むしろ早く帰りたいとすら考えている。

 右足首がズキズキと痛むのだ。右足を踏み出せば、着地の衝撃が骨をぶん殴る。左足を踏み出そうとすれば、全体重が右足に乗った瞬間、足首が破裂したかのような激痛が襲いかかってくる。

 あぁ、慣れないピンヒールで動き回るのではなかったわ。うっかり足をひねるだなんて淑女の風上にも置けない。

 私は歩くのを止め、左足に体重を乗せたままその場に立ち止まる。一見、両足でしっかり立っているように見えて、実は右足は添えているだけという、ほぼ片足立ちの体勢をとる。この体勢が今のところ一番負荷がかからなくて良い。ただ、集中しなければ、すぐにバランスが崩れてしまう。私は周りからの情報を、目から耳から頭から除外し、バランスをとることのみに専念していた。


「クレテリア!お前との婚約を破棄する!俺は真実の愛を見つけたのだ!エリアナと婚約することをここに宣言する!」


 後ろから、私の名を呼ぶ声が聞こえ、私の意識が周りを見始める。

 目の前には私の婚約者ヴァニッシュ王子と、同じクラスのエリアナさんが、なぜか勝ち誇ったような笑みを浮かべて立っていた。

 ……名前以外何も聞こえなかったわ。一体今どういう状況なのかしら。


「おや、意外と冷静だな。メソメソと涙を流しているかと思ったが、どうやら杞憂だったらしい」


 ヴァニッシュ王子はそう言って鼻をフンッとならす。

 涙を流しているかと思った……?そうか!?ヴァニッシュ王子は私が足を捻って動けないことを、何かで気づかれたのだわ!それで、事の度合いを伺いつつ、もし助けが必要なら手を貸してくれようと考えているのね!いつもはあんなに気が利かないのに、今日はやけに有能じゃない!?


「気を抜くと涙がすぐにこぼれそうです。――ですが、公爵家の娘が公共の場で泣くなど、あってはならないことですから」

「それは殊勝な心がけだな。……さて、今回の件だが、俺はお前に非があると考えている。原因は何だと思う?」

「それは……高すぎたことでしょうか?」


 私は足下をちらりと見る。始めて履いたピンヒールにしては、ヒールが高すぎたのだ。もう少し身の丈に合った物を選んでさえいれば、こんな惨めなことにはなっていなかっただろう。


「そうだな。お高くとまっていたことも原因の一つだ。お前の行動はどれも気を遣わなすぎなんだよ!」


 確かに、私は自分に気を遣っていなかったのかも知れない。ヒールが高い物を履いているというのに、いつものようにドタバタと駆け回り、あげく足首を捻挫する。もっと自分の体をいたわって行動すべきだった。

 ありがとうヴァニッシュ王子。私、自分をもっと大切にするわ。……にしても今日の王子はやけに優しいわね。足首を捻ったなんて、馬鹿にする最高のきっかけになるでしょうに。なんだか調子が狂うわ。


「そうですね。今さら遅いかも知れませんが、これから気を遣えるよう努力いたします」

「――本当に今さらだが、やらんよりはましだ。せいぜい精進しろ」

「ありがとうございます。――それで、そろそろ私はどこかで休養したいのですけど」

「休養?あぁ心の傷が、とか言う奴か。俺の知った話ではないわ。勝手にしろ」


 心の傷というより足の捻挫なのだけれど。それに勝手にしろって?出来るものなら、ぜひそうしたいものですけども、足が痛すぎて動けないのですよ!……さっきまでの気遣いの出来るヴァニッシュ王子は一体いずこへ?もしや幻覚だったの?


「……承知いたしました。ですが、せめて保健医のクルーディア教諭をお呼びいただけませんか?」

「なぜクルーディア先生の名前が……まさかお前、俺がクルーディア先生に振られた事を知っているのか!?」


 何それ!?初耳なんですけど!?


「ヴァニッシュ様!?本気で愛したのは私だけだと、そうおっしゃられていましたよね!?あれは嘘だったのですか!」


 それまでヴァニッシュ王子の隣で、自信に満ちた笑みを浮かべていたエリアナさんが、急に叫び始める。

 ――何が何だか。足首どころか頭まで痛くなってきたわね。

 今の言い方だと、エリアナさんにヴァニッシュ王子は告白してて、誰もそれには突っ込んで無くて。

 

 ……もしかして私、いつの間にか婚約破棄されていたのですか!?


「ち、違うんだエリアナ!」

「何も違いません!もう良いですわ!」


 エリアナさんはそう言って、踵を返しパーティ会場から颯爽と出て行ってしまう。「待ってくれ!」と言って、彼女を追いかけるヴァニッシュ王子。ポツンと一人取り残される私。


 ……だれか保健室まで運んでくださいませんかね。


******


 当たり前の話だが、例え王子だとしても家同士の婚約を勝手に破棄することはできない。あの後、王家からは正式に謝罪と謝礼が届き、公爵家から正式に婚約破棄申し入れを行った。ヴァニッシュ王子とエリアナさんは、罰として学園から無期限の停学処分が下された。

 結局、彼らは破局したようだ。周りから聞いた話によれば、真実の愛だとか何とか宣言していたらしいが、一体それはどこへ行ったのだろうか。


 私はというと、彼らが去った後、周囲の人の助けを得て、なんとかクローディア教諭のいる保健室にたどり着くことができた。残念ながら、パーティの後半は保健室に居座ることとなったが。

 ……急にヒールが高い靴に挑戦するのは止めようと、肝に銘じた瞬間だった。

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