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明日断罪される悪役令嬢、今夜の内に一服盛る。  作者: ラララキヲ


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2>> 断罪当日 

     

 

 

 

 

 目覚めはとても爽やかだった。

 部屋の外が騒がしかったけれど、わたくしは気にせずに呼び鈴を鳴らして侍女のヘレンを呼んだ。


「おはようございます、お嬢様」


「おはよう、ヘレン。

 外で何かあったの?」


 目を細めながらそう聞いたわたくしにヘレンは少しだけ気不味(きまず)そうに視線を逸らして口ごもった。

 しかし直ぐに笑顔を作って自分の仕事に取り掛かる。


「少し問題が起こった様ですが、お嬢様はまず朝の準備を致しましょう。湯浴みの準備は終わっておりますので、どうぞこちらに」


 困ったような顔を隠せずに笑うヘレンのその表情に気づかないふりをしてわたくしは笑顔を浮かべてヘレンに従う。


「分かったわ。ゆっくり湯に浸かる時間はあるかしら?」


「それはさすがに……」


「あらそうなの? ならササッと済ませちゃいましょう」


「はい!」


 不自然にならないように自然を演じてわたくしはヘレンと朝の会話をする。

 何があったか知っているからこそ自然に。いつも通りに。婚約者からエスコートを断られたことに腹を立てながら。今日の卒業式を楽しみにしつつ、エスコートのない卒業パーティーに不満を挙げながら、わたくしは朝の準備を終えた。


「お父上がお呼びです」


 家令が呼びに来たのでわたくしは心底不思議そうな顔をして家令に付いていった。

 心の中では笑いが収まらない。


 あぁ……、ヒロインざまぁwww



「お呼びと聞いて参りました。

 今日は卒業式とその後の準備がありますので手短にお願いしますね、お父様」


 カーテシーをして顔を上げると父は不機嫌な顔を隠そうともせずに眉間にシワを寄せていた。そして苛立たしげに机を指で叩くと一つ小さなため息を吐いた。


「あぁ、そのことだが。

 今日の予定は全て無くなった。

 お前は部屋で待機しろ」


「はい?」


 父の言葉にさも理解できずに聞き返したように返した。


「卒業式と卒業パーティーは無しだ」


「……え? そ、……え? 卒業式が、取り止めになったのですか……?

 な、……なぜ……?」


 自分でやっていてなんだが、知らないフリというのは結構難しい。だけど父には気取られてはいないようだった。

 理由が分からず慌てるわたくしに父の方も困ったように肩をすくめた。

 

「問題が起きた……」


「な、何が起こったのですか?!」


「詳しくは言えん。

 言えんが……、お前の婚約にも影響がある。それだけは覚悟しておけ」


 父の言葉にわたくしは目を見開いた。


「こ、婚約ですって?! で、殿下に何かあったのですか?!」


 焦りで自然に身体が動いたかのように父の座っている執務机の前に近付き、その机の上に両手を置いて上半身を父に近付けた。しっかりと目を合わせていても父の反応は変わらない。わたくしに違和感を感じていない証拠のようで少しだけ安心した。


「それはまだ言えんのだ。私にもまだちゃんと知らされていない」


「殿下がわたくしをパーティーでエスコートできないことと、何か関係があるのですか?!」


「何?! そんなことを言われていたのか?!」


 わたくしの言葉に父が初めて表情を変えた。驚いた表情には先ほどまでの苛立ちの他に少しの怒りが滲んでいる。

 そんな父から視線を逸らしてわたくしは少しだけ言いづらそうに伝えた。


「はい…… 昨日お手紙で……」


「その手紙はちゃんと保管してあるな?」


「はい。勿論ですわ」


「その手紙は後で役に立つだろう」


「後で……とは、なんですか? あの……、本当に、殿下に何があったのですか……?」


「……今は部屋に戻っていなさい。こちらが呼ぶまでは外には出ないように」


 雰囲気を変えた父にわたくしはもうこれ以上は何も聞き出せないと肩を落として姿勢を正した。

 そして小さく頭を下げる。


「……はい、部屋に戻りますわ。

 …………何か分かりましたら直ぐに教えて下さいませね……?」


 そう言って窺うように父の目を見ると父は疲れたように一度息を吐いて「分かった」と言ってくれた。

 そしてわたくしは自室に帰った。

 なんだか怖いからと言ってヘレンには部屋の中で待機してもらって、わたくしはソワソワと不安な気持ちを隠しもせずにヘレンの前で落ち着かない姿を見せた。

 

「お嬢様……大丈夫ですよ」


 ヘレンが声を掛けてくれる。


「……殿下に何かあったのかしら?

 …………お父様にわたくしの婚約にも問題が出るかも知れないと言われたのよ……本当に……何があったのかしら……」


「こ、婚約にですか?!」


「えぇ……、卒業式も中止でその後のパーティーすら無いのですって……、一体何があったのかしら…………

 怖いことではなければいいのだけれど……殿下が心配だわ…………」


 わたくしは不安気に窓の外の空を見上げた。

 青く晴れた明るい空は、わたくしの心を映したかのようだった。


 わたくしはニヤつきそうになる口元を全力で隠して心の中だけで笑う。絶対に顔になんて出さない。今のわたくしは、卒業式がなくなった理由が分からず不安になっている一人の卒業生でしかないのだから。


「……殿下…………」


 婚約者を心配して遠い空を見つめるわたくしを、ヘレンが後ろから心配そうに見つめている。

 そう、ちゃんと見ていてね。

 貴女はわたくしのことをよく知っている第三者という『証人』なのだから……♡

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 結論から言うとヒロインと攻略対象者たちは自滅した。自滅したという言葉は実際には違うのだが、()()には本人たちしか居らず、その現場から他者を排除したのも本人たちの意思であり、あの空間には彼らしか居ないことを護衛していた王家付きの騎士たちが証言しているので、彼らは起こった出来事を『誰かの所為』にすることができないのだ。だから()()を他者の所為にできない。


 あの日、卒業式の前日に、5人だけで離宮に集まったヒロインたちは、大人の目が無いことを良いことに酒に溺れ、(たが)を外し、理性を失った獣と化して、


 乱交した。


 次の日に朝の準備をしに離宮にやって来た従者や侍女やメイドたちが目にしたのは、全員全裸で乾いた体液を身体の至るところに着けたままで重なるように寝ている王子や聖女や側近たちの姿だった。

 その姿を見た侍女やメイドが悲鳴を上げたが誰一人として目覚めることはなく、全員が気を失うように寝ていたという。

 そして全員の身体には情事の後と思われる痕が残っていた。唯一の女性だった聖女などは全身に噛み跡が残されていた。最初は王子たちが聖女を襲ったのかと思われたが、王子たちの身体にも“男性を受け入れた形跡が全員にあった”ことから、聖女だけが襲われた訳では無いことが分かった。

 王子たちは5人全員で言葉通り『乱交』したのだ。


 離宮での問題は直ぐに王城を駆け巡った。聖女だけが襲われたのならそこまで女性たちは騒がなかったかもしれないが『王子含め男性たちが体の関係を持った』ことが、女性たちの好奇心を刺激してしまい、憶測が妄想を呼び、事実が妄想を具現化して、更に妄想を肥大化させた。

 そうなるともう噂に戸は立てられない。


「え?! 嘘っ?! 男同士で?!?」「あの殿下が?!」「皆さま美しかったものね!」「まぁそんなトコロを?!?」「やだウソっ!そんなコトを?!?」「キャー! あのお美しいレオナルド殿下のお口が……っ?!?」「側近のケビン様は女性より魅力的ですものね……」「わたくし見たのですけれどセドリック様って凄く綺麗な筋肉をしてらして……っ!」「タラント様はわたくしより細い腰をされてたから……!」「そんな男性同士でなんてっ!!?」「そんなコトができてしまうのねっ?!?」「まぁ?!?まぁまぁまあ!!!」「お繋がりになったの〜?!?」「そんな全員でなんてっ!?!?」


 盛り上がった女性たちを誰が止められるのか……

 暇だったわたくしも折角だから前世の知識を有効活用してメイドたちの噂話に交ざってみた。当然認識阻害の魔法と変身の魔法で姿を変えてね。


「私聞いたんですけど男性同士ってお尻の穴の奥に……」「そうそう結構入るんですって……」「あら? 知りませんの? 女性が知らないだけで男性同士の間では……」「そういえばこんな話も……」


 面白いことに噂の中では殆ど聖女のことが出てこなかった。一番の被害者かも知れないのに全然皆の関心を引いてはいないということは、やはり他の人達も『男性の中に一人だけ交ざっていてそれをおかしいと思う素振りも見せない聖女という女性』に違和感を持っていたんだろう。 

 むしろ複数の男性に囲まれていても気にしないそんな女性は『娼婦のように振る舞っていてもおかしくない』と皆が思ったのかも知れない。だって平民の女性だってこの世界では男性とは一定の距離を取るものなのだから。聖女だからと言えばそのルールが無効になるなんてことはあり得るはずがない。それが無効になるのはそういう商売をしている女性だけ……

 だから噂の中では聖女が殆ど心配さえされていないのかもしれないと思った。


 王子の醜聞(しゅうぶん)に国王が慌てて箝口令(かんこうれい)を敷いたけれど噂は既に城を出た後だった。聖女と王子とその側近の痴態(ちたい)(またた)く間に王都を駆け巡って消すこともできなくなった。

 まぁわたくしも噂話を広めた一人ですけどね。


 聖女が目を覚ました時には自分の立場が地に落ちた後だった。

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 わたくしがしたことと云えば、ワインの中に強いアルコールと強い媚薬を入れただけ。

 5人が密室で集まると知っていたら誰だってそうするわよね。

 目を覚ました聖女が半狂乱になって、媚薬を混ぜた犯人は悪役令嬢(わたくし)だと叫んだらしい。

 だけどわたくしは伝える。


「わたくしが薬物を入れた? ならどうしてそれは毒薬ではないのでしょうか? 

 わたくしなら媚薬だなんてそんな“皆さんを喜ばせるようなもの”は使いませんわ。

 どうせバレるのでしたら毒薬を使って殺した方が早いではありませんか。だってこうやって疑われて、最悪()()をかけられるのですから。生かしておく意味が分かりませんわ? 皆さんもそう思われません? どうして毒薬ではないのでしょう?? ね、だから。

 彼らが今生きている。

 それがわたくしが犯人ではない証拠、ですわね」


 そう言って苦笑したわたくしを見て皆さん黙りましたわね。父はわたくしが犯人だと思うのなら確固たる証拠を持ってこいと言っていましたけれど、証拠などある訳がありません。わたくしがラスボスとしての(ちから)に目覚めたのは卒業式の前日。それまではちょっと魔力が多いだけの普通の令嬢だったのですから。聖女が何を騒いだところで証拠も出ないし、証言だってない。

 だって密室を作っていたのは聖女(じぶん)たちなのだから。自分たちの乱交騒ぎをわたくしの所為にされても困りますわ。


 媚薬も強いアルコールも聖女の荷物から出てきたことから、やはり卒業前の気の緩みと卒業した後は学生の時のような関係ではいられないという焦燥感(しょうそうかん)からの行動だろうと思われた。

 勿論聖女の荷物から媚薬が出てきたのはわたくしが魔法で入れておいたからだけど。後から聖女がどれだけ自分は知らない入れていないと言っても誰も信じられなかった。だって男性たちと『既成事実』を作って得をするのは誰かを考えれば自然と誰かを想像できてしまうから……


 あの5人の中で既成事実を作って得をするのは元平民の聖女しかいない。誰が考えてもその答えに行き着いてしまう。なぜならあの時点ではまだ殿下はわたくしと婚約関係にあり、側近たちにもそれぞれ婚約者がいたから。

 あの時点では、聖女は攻略対象者の誰とも『公的』な関係ではなかった。普通に考えれば聖女と攻略対象者たちの関係は卒業と共に終わるもの、もしくは年に数回会話をする程度の関係になる筈のものだった。普通は『卒業パーティーで婚約破棄をして聖女を伴侶に選ぶ』なんて誰も考えないから。

 学園を卒業して一番立場的に困るのは聖女ただ一人。そんな彼女が媚薬を持ち出した……

 その可能性と、『家で寝ていた悪役令嬢(アンジェリーナ)がどうにか手を回して離宮の酒に媚薬を混ぜた』可能性を比べて、後者の可能性の方が高いと思う人はどれだけいるだろう?

 わたくしが『なぜ毒薬じゃないのか?』と疑問を投げ掛けたこともあり、皆の中にも『悪役令嬢が媚薬を忍ばせる意味はあるのか?』という疑問が湧き上がって聖女を擁護する声は殆ど上がらなかった。

 元々身持ちの悪い聖女が遂に媚薬で男たちを落とした。王子とその側近たちによる男同士の乱交騒ぎの噂話と並行して、そんな話が王都を駆け巡り、聖女がどれだけ自分は被害者だと訴えても誰も聞く耳を持たなくなっていた。


 そして殿下たちの方はと言うと……


 彼らは目を覚ました後、全員が発狂して絶叫した。愛する女を抱いた幸せよりも親友だと思っていた男友達を抱いて抱かれた事実に驚愕と絶望を同時に味わったらしい。

 夢だと思いたくても身体中に残った痕と身体の奥で疼く違和感と痛み、そして何より鮮明に思い出せる記憶が何よりもの証拠だった。彼らの記憶が残っているのもわたくしの魔法。覚えていないから何もなかった等と言われても困るので全てを覚えてもらっている。

 この国では同性愛を否定はしていないけれども貴族の中では血を残すことが最優先ということもあって自身が当事者でなければその可能性を考えることなど()ずない。彼らも当然自分がその当事者になるなんて想像もしたことがないだろう。

 そんな彼らが既に自分は同性と、それも友人()()と既に性行為をしてしまった後なのだから、彼らの心境はどうなっているだろうか。折角“最愛の聖女”と肌を合わせるという夢のような時間を過ごしたというのに、そのことよりも“そこに交ざった男友達(異物)”のことの方が彼らには耐えられない現実だったようで、目を覚ました後の彼らは泣き叫んで目を離すと自死を選んでしまいそうになるほどの錯乱状態にあるらしい。誰一人としてまともに話ができる状態ではないらしく、離宮で何が起こったのかを少しも聞き出せずに王宮関係者も困っているらしい。


 当然その日の卒業式も卒業パーティーも参加などできるはずもなく。彼らを抜いての卒業式やその後のパーティーなど……できなくもないのだが、王子含め高位貴族数名と聖女の起こした騒動による王宮や学園関係者の混乱した状態ではまともに式やパーティーなどできないだろうと全ての予定が取り止めとなったのだ。

 まぁ彼らが参加しない卒業式をしたとしても集まった卒業生や在学生がする話といえば箝口令(かんこうれい)など役に立たなかった()話でもちきりになるのが目に見えているので、噂の沈静化を図る意図もあるのだろうが……まぁ無理ですよね。


 だってその話題を一番詳しく知っている人物(わたくし)が率先して市井(しせい)で噂を流してるのだから。

 

 

 

 

      

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― 新着の感想 ―
穴ならなんでも良いと思わせる媚薬…なんて劇物オソロシイ 薬もった犯人が誰かとか以前に1晩紅一点お泊まり会(当人達が人払済み)した時点で弁明の余地無さすぎる笑
戦国日本とか「もともとそういう文化があった」ならともかく、薬盛られただけで一人とはいえ女居る状況で男同士という選択肢出るものだろうか? 少なくとも一人は「薬で開放されただけで、元々秘めた思い持ってた男…
毒薬ではなく、媚薬… 殺されはしませんでしたが、社会的に抹殺されましたね 立場のある人たちでしたから、殺された方がマシだったかもww 醜聞ネタですから、王族や貴族、教会の力はかなり削がれるでしょう
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