雪の日に幼馴染に面倒ごとに駆り出される
「今日に限って雪かよ」
俺は家を出た瞬間に降ってきた雪を恨めしく思いながら言い放つ。
「めんどくせえし帰ろうかな」
俺はぼそりとつぶやく。今日は学校は休みだ。だが、部活に駆り出されたのだった。別にに入りたくなかったのに、成り行きで入ってることになってしまった部活に。
ポケットのスマホを取り出し、体調悪いとメッセージを送ろうかと思い始めた瞬間、背中に何かが当たる。俺は少し驚きながら後ろを振り向く。そこには今一番会いたくない存在がいた。
「晃、今帰ろうとしたでしょ」
「雪奈、なんでここにいる?」
佐々木雪奈。俺の幼馴染。部活に入れた元凶。
「あんたさぼりそうだなって思って。監視にきた」
雪奈はニヤリと笑う。図星だったでしょ、とでも言いたげであった。俺ははあとため息をつく。家から出たのが失敗だったと思いながら。まあ家にいても、きっとこいつに連れ出されたとも思うが。
「てか、さっき何あてたんだよ」
「軍手。今日使うようの」
俺は下に視線をむける。確かに軍手が落ちていた。俺はそれをさっと拾い上げる。そして、それを雪奈に返そうとする。
「それあんた用のだからね。どうせ持ってこないと思ったから」
確かに持ってきていない。というか持ってこいとも言われていない。それにこんな雑に扱われたものを使うのもどうかと思う。それらの点を突っ込もうと思ったが面倒になりそうでやめた。大体こういう事を突っ込んでもろくなことがない。一個言い返しただけで百を言い返される。理不尽ではある。だが、長年の付き合いだ。もうそこには慣れた。
「ほらさっさと行くよ」
雪奈は俺の隣をさっと通り過ぎる。俺はへいへいと返し、雪奈のあとを追う。
「ところでよ、今日はいつまでなんだ?」
「終わるまで、まああんたが真面目にやれば二時間もあれば終わるんじゃない?」
二時間もかよと思いながら俺は口をつむぐ。絶対に力仕事になることがわかっているので、憂鬱な気持ちに少しずつなっていく。俺の内心を見透かすように、雪奈は言う。
「どうせ、普段運動してないんだからちょうどいいでしょ」
「だから辛いんだろうが」
「あんたの普段が悪い」
雪奈は俺の反論に即座に返す。俺はもう一度ため息をつく。
「つうか雪降ってきたし、ある程度でいいだろ今日の奴」
「無理。今日整理終わらせないと。今度の準備に間に合わないから」
雪奈のにべもない返答を聞いて、「さいですか」と俺は諦めながら言う。
雪奈と一応俺が入っている部活は園芸部だ。冬のこの時期に何をやるかはわかっていない。俺は人手が必要な時だけ駆り出される。今日は物品の整理をやる予定だ。昨日部費で買ってきたものが届いていたのを雪奈は確認していた。
俺は憂鬱な気持ちになりながらも雪奈のあとを追い、学校へと向かうのであった。
学校につき、園芸部の部室の前にいくと、大量のものが前に置いてあり、部員は俺たち以外もう集まっていた。園芸部の顧問の三藤先生もいて、みんなと談笑していた。
「すみません、遅れました」
雪奈は謝る。三藤先生が部員の声を代表するように雪奈に笑顔で言葉を返す。
「いえいえ、まだ集合時刻前ですし」
雪奈は頭を下げる。俺も頭をさげておく。余計なことをすれば後がめんどくさい。
「ではみなさん揃いましたし、整理始めますか。みなさん昨日打ち合わせした通りでお願いします」
三藤先生と部員のみんなが動き始める。俺は打ち合わせを聞いてねえんだけど、と思っていると、雪奈が俺に向かって言い放つ。
「晃、あんたの仕事は、ごみ捨てだから。とりあえずそこにあるの全部お願いね」
雪奈が指をさした先を見る。そこには大量のゴミ袋が置いてあった。俺はまじかよと思っていると、雪奈は「さっさとやる、早く帰れなくなるよ」と冷たく言い放つ。俺はため息を吐くと、ごみ袋を持つ。三藤先生は優しく、俺に声をかけてくる。
「晃君、すみませんがよろしくお願いしますね。無理しないで、休めるときやすんでください」
「ありがとうございます」
「雪も降っていますので気を付けて、やること終わったら手伝いますねもしくは手伝いをさせます」
俺は三藤先生に頭を少し下げる。三藤先生はいい人だ。雪奈に強引に部活にいれさせられた事情を理解していて、俺に配慮をしてくれる時もある。来年で定年で、俺たちと一緒にこの学校をいなくなる予定だ。三藤先生がいたから、俺は園芸部をやめていないところもある。まあ実際はやめたら雪奈がめんどいというのが理由の大半だが。
そして、しばらく俺はただひたすら園芸部の部室と学校のごみ捨て場を往復するのであった。幸か不幸か雪は強くなることもなく、ほとんど積もることもなさそうであった。雪が強くなれば、帰れるのにとも思っていた俺は少し悲しくなった。
そんなことを思いながら、俺は作業を続ける。そんな俺に悲劇が起きた。
ごみ捨て場にある段ボール用の収納庫の扉がまったく開かないのであった。鍵は閉まっていないのだが、なにかがずれているようで全く開かない。俺がしばらく格闘していると、三藤先生の声が聞こえてくる。
「大丈夫ですか?」
俺は声をしたほうに振り向く。三藤先生はゴミ袋を持っていた。どうやら手伝いに来てくれたようだ。
「いや扉が開かなくて」
「おや少し見せてください」
三藤先生はゴミ袋を近くに置くと、俺に代わって扉を開けようとする。
「鍵は閉まっていないようですね。となると」
三藤先生はぼそりと何かをつぶやく。俺が「どうしますか?」と言った次の瞬間、三藤先生は扉を蹴る。そこそこ大きい音と、温厚な三藤先生の突然の行動に俺はびっくりする。そして、さらに驚くことになる。扉は開いたのであった。先ほどまで開かないのではないかと思うほどだった扉がスムーズに。
「開きましたね、よかったです」
「ええ」
三藤先生は俺がびっくりしている様子に気づく。
「すみませんね。この扉は開かなくなったら、扉の下のほうを蹴ると開くときがあるんですよ」
「そ、そうなんですね。いきなりでびっくりしました」
「晃君も覚えておくと損はないですよ」
三藤先生は冗談を言っているかのように笑顔で言う。俺は笑顔で「覚えときます」と返す。そして、持ってきた段ボールを中に入れる。
「扉はまだ開けときましょう。また開かなくなっても困りますし。用務員さんに報告しときます。まあ毎回治らないんですがね」
「わかりました。新しくもできないですよね」
「そうですねぇ、怪我人とかでるわけでもないのでね」
三藤先生は「そんなこと関係なく、新しくできるのがいいですけどね」と苦笑交じりに言う。俺も苦笑する。
「あっそうだ。ありがとうございます。手伝ってくれて」
「いえいえ、お気になさらず。晃君にはいつも手伝ってもらっていますし」
三藤先生の即座の返答に俺は少しほっこりする。そして、この優しさを雪奈も持っていればいいと思う、ひとかけらでもいいので。
「いえいえ、一応部員ですしね」
三藤先生は少し苦笑する。俺は部員としてほとんど活動していない。一応持ち回りの水やり等があるのだが、俺だけその担当を常に外れている。少し申し訳ない気持ちがないわけではない。だが、所詮雪奈に強引にいれさせられただけなのだ。
「晃君、あと少しで終わりますので頑張りましょうか」
「はい」
そして、俺と三藤先生は部室へと戻る。その最中、三藤先生から突拍子もない発言が飛んでくる。
「この後、雪奈さんとデートですか?」
「はい?」
あまりの意味不明の荒唐無稽な発言に大いに驚く。そして、そんな発言が三藤先生から飛んできたのにも驚く。
「おや違うのですか?」
「違いますよ、ただの幼馴染です。ほんとにただの」
「そうなんですか?」
俺はほんといきなり何言ってるんだと思う。
「そうです、てかいきなりなんですか?そんな質問を」
「いえ、晃君と二人だけで話すのはあまりないので、つい気になったことをと思いまして」
俺は今日だけで三藤先生に何度驚くことになるのかと思う。思っていたイメージが少し崩れていく。
「まあそうですけど、それでその話題にはびっくりしました。てか。俺と雪奈がそんな関係に見えていたんですか?」
「ええ、とても仲が良いので」
三藤先生はそう思っているだなんてまじかと思う。正直部活の時は、俺は雪奈にただただこき使われているだけだ。どこを見たらそう思うのか?と思ってしまう。
「雪奈、俺に当たり強いの見てますよね」
「ええ、でもまああれくらいよく見てきましたよ」
三藤先生はにっこりと笑って言う。
「三藤先生ってもしかして、そういうの好きなんですか?なんつうすかカップル見るの?俺たちは違いますけど」
「ええ大好きです。特に学生同士のカップル見るのが好きでして、それで教員になったんですよ」
三藤先生は冗談交じりのように言っているが、どこかまじじゃないかと思ってしまう。そんな雰囲気を感じる。何か幻滅するような気持ちを感じてしまう。
「まあ私のことはいいんです。晃君は雪奈さんのことどう思ってるんですか?」
「どう?って、ほんとただの幼馴染ですよ、迷惑な、ええほんと迷惑な」
三藤先生の質問にちゃんと返しておく。別に返さなくてもいいのだが、なんか答えとかないとめんどくさそうだ。
「大体、雪奈も俺のことはただの幼馴染でしか見てませんよ。便利なね」
そう、雪奈は俺の便利な人手要因にしか思っていないはずだ。適当にどこでも使える便利な相手。気を使う必要もない相手。高校まで偶然一緒だったが。大学生、社会人になれば縁はほとんどなくなるはずだ。お互いにそう思っている。
「雪奈さんはそうでもないと思いますが。だっていつも一緒ですよね」
「一緒になること多いだけですよ」
「そうですかねぇ。雪奈さんはあなたを信頼していて、あなたに好意があると思うんですけど」
三藤先生の発言に「そんなわけないですよ」と返した瞬間、ポケットのスマホから着信がなる。「すいません」と言って、俺はスマホを取り出す。相手は雪奈であった。「雪奈からですね」と言って、俺は電話に出る。
『終わった。早く戻ってきて』
俺が何か言おうとすると、それだけで雪奈は電話を切った。俺は三藤先生に視線を向ける。俺はこんな態度の奴ですよと目で伝える。三藤先生はにっこりと笑っただけであった。
三藤先生と俺は部室へと戻る。部室はきれいになっていた。
「三藤先生、ごみ捨てありがとうございます」
「いえいえ、晃君が頑張ってくれていましたし楽でしたよ」
雪奈は俺とちらっと視線を向ける。「やればできるじゃん」と謎の上から目線の言葉が飛んでくる。俺は何も言わずに心の中でちっと舌打ちをするのであった。
「それではみなさん、お疲れ様でした」
三藤先生はそういうと、いつの間にか部室に置いてあった、飲み物とお菓子を部員全員に配る。俺は遠慮がちに受け取る。
「では、みなさん気をつけて。また明日、さようなら」
「「さようなら」」
挨拶をかわし、俺は部室を出る。そのとき三藤先生から視線を感じたので一瞬目を合わせる。三藤先生はただいつものような微笑みをするだけであった。
そのあと、一人でそそくさと校門をでると、後ろから声をかけられる。振り向くと雪奈がいた。
「帰るの早い」
「さっさと帰りたいんだよ」
俺が返すと、雪奈は手をだして何か渡せと言いたげな雰囲気を出す。俺がなんだ?と思っていると、雪奈ははあとため息をつく。
「軍手返して、言わなきゃわからないの」
「わりい忘れてた」
俺は言い方きついなと思いながら、軍手を渡す。「ありがとな」と感謝の言葉を告げて。正直別に今じゃなくてもよくねと思いながら。雪奈はさっと軍手をバッグにしまう。
「じゃ帰るわよ」
「いいのかみんなと話さなくて」
「どっかの馬鹿のせいでここまで来たの、今更戻るのは大変だからいい。別に話したいことは話したし」
突然の罵倒に俺は少しいらっとしながらも、「悪うございました」と返しておく。その時、ちらっと三藤先生との話を思い出した。雪奈に関しての話。だが、すぐに首を振る。雪奈は怪訝そうな目を向ける。
「寒いからさっさと帰ろうぜ」
「そうね。ほんと寒いわね。雪積もらないみたいでいいけど」
「昔は雪積もらないと泣いてたのにな」
次の瞬間、脇腹に衝撃が来る。俺は突然の痛みにぐっと声をあげる。
「いきなりなにすんだてめえ」
「ごめん、ストレッチしたら当たっちゃった」
「あきらかにわざとだろうが」
俺は声を張り上げる。雪奈は「うるさいんだけど」と迷惑そうに言う。
「こっちはなぐられてんだよ」
「殴ってないでしょ別に誰も」
「お前だよ、お前」
そのあと、しばし、俺たちは歩きながら、口論をするのであった。しばらくして落ち着いたが。
「じゃお互い悪いってことで」
「不服だがそうしてやるよ。雪奈」
俺はため息をつく。全くほんとに面倒な奴だと思いながら。
「なあお前大学は?」
「いきなりなに」
「さっさと別れてえと思ってな、てめえと」
雪奈は少しして「そういうことね」と小声で言う。何か傷ついたような雰囲気を感じた気もするが気のせいだろう。
「まだ決めてない、あんたは?」
「俺もだよ、まあでもお前とは遠いところかな」
「あっそ、勝手にすれば。どうせ会うことになるのにね」
「そうじゃないことを祈るぜ」
俺がそう返すと、しばしの沈黙がその場を支配する。その時、俺は三藤先生の言葉を思い出していた。「調子狂うな」と俺はつぶやく。
「雪奈、とりあえずあと一年ちょっとはお前に付き合ってやるよ」
「いきなりなによそれ」
「お前のためだよ。寂しがりやなおまえのた
また脇腹に衝撃が走る。俺は痛みに耐えながら、雪奈に向かって「何すんだてめえ」と言い放つ。雪奈は素知らぬ顔をしていた。まるで自分は関係ないとでも言いたげに。
そして、しばらくして、俺と雪奈はお互いに言い合いを続けるのであった。俺はそれにどこか心地よさを感じるのであった・・・




