そんなのイタイって
用語解説:電脳天使えれくとろんあーく
グローバルAi上でのVAの大規模トラブルを起こしたAi財団が、イメージ回復のため作成したプロモーション映像。TV及びネットで特番として公開され、高評を博した。
レギュラー放送ではなく、いつ放送されるか分からない‥と言うスリルがウケた、とも言われている。
勿論、採算度外視ゆえの高い映像クオリティがそのバックボーンに成ったのも間違い無いだろう。
主人公はVAユニットの“えれくとろんあーく”が務める。
続編の特番も制作されている。
涼花は正面広場目指し、公園内を走った。
中央のステージに多くの人が集まっているとは言え、人混みの中で、重い着ぐるみを着て走るので、速度は出ない。
「熊2号、熊4号、正面広場に向かって!」
近くの熊人形2体にも指示を飛ばす。
本来、Ai人形の操作に音声は必要ない。
だが、声を出すことで明日香達にも状況が伝わる。
ピンクのリボンの熊2号、水色のリボンの熊4号は、トタトタとそこそこの早歩きで歩き出す。
まだ、気付かれる訳にはいかないので、速度は控え目だ。
一方、中央のステージでは、明日香が観客に呼びかけていた。
「この後、奥の広場で握手&サイン会をします〜」
おおっ、と色めき立つ観客。
正面入り口と反対の方向に観客を誘導して、万が一の被害を防ぐ作戦だ。
ただ、そうする事で明日香達はすぐには現場に向かえない。
“涼花、お願いっ!”
インカムに明日香からの返信が届いた。
「簡単に言ってくれるわね‥」
着ぐるみの中で汗だくになりながら、涼花は1人ごちた。
ようやく正面広場に涼花が到着した時、ターゲットの二人は出口を出ようとしていた。
外に出してしまったら、人混みに紛れて見失う。
「熊2号、入り口を塞いで!」
指示を受けた熊2号が出入ゲートの前に立ちはだかり、出入口りを封鎖する。
「おい、通れないぞ、どうした?」
「熊さんだーーっ!」
その姿に大人は文句言い、子供達は熊に触ろうと集まる。
その、混乱し戸惑う人達の間を掻い潜り、涼花は被害者に接近した。
正面に立ち、両耳のインナーイヤーヘッドフォンを奪おうとする。
“ザクッ”
「‥いっっっ!」
鈍い、布地を切り裂く音と共に、涼花は腹に激痛を受け、転倒した。
‥刺された。
理解出来るのに1秒掛かったろうか。
反射的に押さえた手の間からじわじわと血が滲む。
激しい痛みに身体が勝手に硬直して、立ち上がることも出来ない。
見ると、隣にヘッドフォンをつけ、刃物を持った女性が居た。
ブレインハッキングされたのは1人では無かった。
『キャーー』
近くの女性が悲鳴を上げた。
「おい、刃物持ってるぞ」
「あ、危ないっ」
周りの人は刃物を持った女性から一斉に逃げ出そうとする。
被害者はふらふらともう一人を連れ、正門を出ようとしていた。
「く、熊2号、その人を取り押さえて。熊4号はそっちの人をっ!」
涼花は必死に叫びながら激痛に耐え、意識を保とうとする。
気を失えば、熊たちは動作停止する。
「明日香、早く来てよ‥」
朦朧とする意識を繋ぎ止めながら、涼花は明日香が来るのを待った。
周囲の人は何が起こったのか理解できず、立ち尽くしていた。
遠くで救急車のサイレンが聞こえて来た。
通報した人が居たようだ。
「す、涼花っ!」
数分後、明日香が倒れた涼花の元に駆けつけた。
素早く着ぐるみから涼花を抱き上げ、上着で応急止血をする。
「も、もう、明日香‥遅いよ‥」
涼花の顔は血の気が無く、握った手も冷たい。失血性ショックを起こしかけていた。
「ごめんっ‥ 涼花っ!」
明日香はそのまま涼花を抱き上げると、通用口に止まった救急車まで凄まじい速度で走り出す。
明日香の胸元に抱き抱えられ、涼花は心地よい温かさを感じて‥それっきり、何も分からなくなった。
物語が大幅に動き出します。
涼花はどうなるのでしょうか。(作者にも分からない)




