こんな所で何を‥?
用語解説:オートマタ
いわゆるアンドロイド、ロボット。
中でもある程度の判断能力を持ち、自律的な行動が可能なものの総称。
通常はバイオロイドとは区別して一般的な機械部品で構成された物を指す。
涼花は明日香達と共に夏鈴の送ってきたホテルに向った。
まだ夕刻だが、渋谷の歓楽街は賑やかにライトが瞬き始めていた。
既に女生徒だけで道玄坂裏を訊ねるのは不安がある時刻だ。
実際、何度か通りに立つホストが声を掛けようと近付いて来た。
が、明日香の姿を見るとそそくさと去っていった。
明日香の存在感に気圧されたらしい。
「夏鈴、どうしてこんなところに‥」
涼花は不安げに周囲を見渡した。
送られてきた位置は特に路地奥の雑然とした一角だ。
スマホの地図で場所を確認する。
「ここ?」
涼花は目前のビルを改めて見る。
確かにホテルだが‥。
「本当にここ?」
明日香が訊ねる。
目前のビルは明かりが点いていない。
既に廃業して廃墟となったホテルだ。
「夏鈴?! どこ?」
涼花が声をかける。
と、明かりの消えた玄関口からふらり、と夏鈴が現れた。
「あ、涼花‥」
夏鈴は呆然とした様子で答えた。
「夏鈴、こんな所で何してるの?」
「え、それは‥えへへ、お兄ちゃんと‥」
「こんな所に?? 中にいるの?」
「え、やだな、そこに居るじゃない」
夏鈴は目前の空間を指差す。
「どこ?」
見回す涼花。
夏鈴の差す先には誰も居ない。
一同は顔を見合わせる。
夏鈴の様子が明らかにおかしい。
その時、2人のやり取りを聞いていたスフィアが夏鈴の耳元を指差し叫んだ。
「ブレインハッキング!」
瞬間、明日香が動いた。
一瞬で身を翻す様に夏鈴の後に回ると、両耳のヘッドフォンを取り上げる。
“キーーン”
明らかに音楽では無い、不快な音が辺りに響く。
明日香はそのままヘッドフォンを力一杯、地面に叩きつける。ヘッドフォンはバラバラに壊れ、不快な音は消えた。
「か、夏鈴? 大丈夫?」
涼花が声を掛けるが、返事は無い。
夏鈴は目を開き、虚空を見つめている。
「夏鈴!」
再び涼花が呼ぶ。
「あーーあっ」
夏鈴は一瞬叫ぶと、糸が切れたよう崩れ落ちた。
それを明日香は素早く抱きとめる。
「は、早く病院‥」
かすみがスマホを取り出し、連絡を取ろうとする。
と、その皆の周りを5人の人影が取り囲んだ。
「な、なによ、あんた達っ?」
涼花が声を掛けるが、返答はない。
思わず、近付いて来た1人を突き飛ばす。
“ガタンッ”
硬い金属の手触り。
僅かに響くアクチュエーターの音。
「に、人間じゃない?」
「オートマタですっ、お姉さま」
スフィアが言うと同時に、一体が腕を広げ、飛び掛かってきた。
剥き出しの腕は金属光沢を放っていた。
その、涼花の目前に迫るオートマタを眩い光が一瞬で両断する。
切られたオートマタは一瞬火花を上げて動かなくなった。
「それなら、遠慮要らない、よね?」
両手にレーザーブレードを構えた明日香がそこにいた。
「あ、明日香ちゃん? それ??」
かすみが、驚いて指差す。
「一応、財団謹製の工業用超小型プラズマカッター。後は任せて」
「了解。行こっ!」
阿吽の呼吸でかすみは周囲に声を掛け、涼花が夏鈴を引きずり、スフィアが後に続く。
一斉にオートマタ達が明日香に飛び掛かった。
舞うようにしなやかな動きでそれをかわす明日香。
滑らかで無駄のない動きは、それでいて驚くほど速い。
まるで明日香だけが時間の進み方が違う世界に居る様だ。
ふわりと振った両手のブレードが瞬き2体のオートマタが両断され、吹き飛んだ。
次に足元に飛び込んできた一体は、ジャンプし空中で半回転捻りながら着地と同時に袈裟斬りにされた。
後から襲いかかった最期の一体は振り向きざまの回転斬りで上下に二分されてそのまま倒れ落ちた。
オートマタは両断され、吹き飛ぶ度に火花を散らす。それは薄暗い路地に光の花が散っている様な景色だった。
僅か数十秒のうちにオートマタは壊滅していた。
「はい、終わり」
ブレードを収めた明日香は疲れた様子もなく、笑顔で戻ってきた。
「あ、明日香って‥何者なの?」
あまりの見事なその姿に、涼花は震える声でかすみに訊ねた。
「普通の女子高生だけど‥たまに正義の味方もやってるよ」
「ふ、普通って?」
涼花の中の“普通が”大きく揺らいでいた。
明日香無双回ですね。
この辺りは前作の番外編のネタも拾って見ました。
お話もようやく全容が見えて来ます。




