怪しいホテル?
用語解説:道玄坂裏
渋谷駅近くの道玄坂と文化村に挟まれた一角は再開発が進んでおらず、雑然としたビルが並ぶ歓楽街となっている。
飲食店やラブホテル、風俗店、クラブ等が乱立し、風紀は悪い。特に夜間は女性の一人歩きは危険。
翌日の放課後、涼花は朋友学園の校門前で明日香達を待っていた。
下校する生徒や部活で校庭を移動する部員などでこの時間は結構騒がしい。
約束の時間の3分ほど前にタクシーが到着した。
「お待たせっ!」
明日香が手を振った。
「お邪魔しま~す」
「ここが涼花の学校?」
他の面々も降車してきた。
途端に野次馬の生徒たちが集まり始めた。
「え、あの娘達って‥」
「嘘、昨日TVに出てたよね?」
「サインとか‥駄目かな??」
皆、様子を伺いながらも集まってくる。
そして校舎の玄関口に着く頃には周囲が人で埋まっていた。
“これ、来校を隠しておく意味あったのかな?”
涼花は思った。
玄関口で渡辺先生と別れ、明日香達とVA部室に向う。
部室の入り口の施錠は既に解除されている。
中に入り、明かりとコンソールの電源を入れると、スフィアは持参したヘッドギアを端末に接続した。
「それで何か分かるの?」
涼花の認識ではヘッドギアはVAのレコーディングに使う道具だ。
「スフィアは、ちょっと特別、だからね」
明日香がウィンクをする。
その途端、目前のモニターにはアクセス履歴や、様々なデーターの使用率が目にも止まらない速度で展開されてゆく。
“すご‥”
見ると、スフィアはコンソールを操作していない。
「え、え? ヘッドギアだけで‥操作してる? 」
「うん、まぁ‥スフィア、だからね」
明日香はちょっと説明に困った様子だ。
「謎‥すぎるんだけど」
しばらくすると画面の操作が止まる。
「有りました。ここです」
画面に映るいくつかの折れ線グラフが特定のタイミングでピークを示している。
「このタイミングで内部ストレージへのアクセスが急に増えてます。時間は一昨日の午後10時過ぎ。誰も部室には居ない筈です」
普段と打って変わってスフィアはハキハキと話す。
今度は画面に明かりの落ちた部室の画像が映る。
「その時の防犯カメラの映像です」
「え?本物?」
涼花は驚いた。
「校内防犯カメラサーバーの断片化した過去の映像データーをサルベージしました。‥本物ですよ?」
ごく普通の事の様にスフィアは言った。
「あ、ここに何か付いてる」
七尾かすみが画面に映る端末を指差す。
「拡大します」
モニターに映る画面が示した場所を中心に拡大される。補正処理が行われて、拡大で荒れた画像が見る見る解像してゆく。
「これは‥?」
「メモリースティックに似せた、ハッキングツールですね。これでウイルスを仕込んだのでしょう」
「え、それじゃやっぱり部員の誰かが?」
涼花は動揺した。声が震える。
「今ここにツールは無いよね。つまり‥」
「この後回収した?」
「カメラの時間を進めます‥」
画面に映る室内の様子がどんどん早送りされ、窓から朝日が差す。
時間的にはそろそろ登校時間のはずだ。
と、扉を開け入ってきた女生徒が映る。
キョロキョロと周囲を見回し、例のハッキングツールを抜いてポケットに収めた。
ワイシャツにミニスカート。
カメラの位置的に顔は写っていないが、日焼けして小麦色の肌が見える。
「この人は部員、ですか?」
スフィアが訊ねる。
「ち、違うけど‥そんなはずない。何かの間違い‥」
涼花には信じられなかった。
その生徒は‥間違いなく夏鈴だった。
「だって夏鈴は保健室までお見舞いに来てくれたし‥こないだも一緒に遊んで‥」
声が震える。
学園で一番の親友だと思っていた。
その夏鈴が??
あまりのショックに勝手に涙が滲む。
「落ち着いて、まだこの人が犯人と決まった訳では無いから」
明日香が涼花の肩に手を置き、言った。
「え、でも‥」
「何か事情が有るのかも知れないし、誰かに頼まれたのかも‥」
「わ、私、夏鈴を探してきますっ!」
涼花は部室から飛び出した。
しかし、学校内をいくら探しても夏鈴は居なかった。
スマホでコールしても反応が無い。
「お願い、夏鈴、出て‥」
涼花は祈るように待ち続けた。
何十回コールしただろうか。
5分ほど経った頃、遂に夏鈴が出た。
“ごめん、ごめん、今ちょっと‥”
「夏鈴、今どこ?」
“あー、その‥”
何故かおっとりと話す夏鈴。
「会いたい、今すぐ! お願い!」
“え、ど、どうしたの? まぁ‥良いよ‥ここ、来てくれる?”
夏鈴は現在位置を送ってきた。
そこは‥。
「え、ここ?」
送られた所在地に涼花は焦る。
そこは道玄坂裏のホテルだった‥。
まだ話の行く先がちゃんと決まってませんね‥。
ここは涼花の頑張り次第でしょうか。
とりあえず、前作の「えれくとろんあーく」もよろしくです〜




