エピソードEX 涼花シスターズの日常
用語解説:涼花シスターズ
元々はAi財団がテスト予定だった極限運用のAi人形を改変して涼花の容姿にしたもの。
5体のAi人形はそれぞれ別々の開発チームによる競作で、各自異なったコンセプトで作られている。
体表面の皮膚は高機能ポリマーで作られ、スフィアのバイオマテリアル開発の知見をフィードバックした限りなく人間の皮膚に近い質感と耐熱、耐電流、耐刃性を併せ持つ。また、破損時にも補修材のバッチを貼ることで自己修復する機能も持っている。
後に各シスターズの区別のために各Ai人形のコンセプトを表す漢字のヘアマーカーが取り付けられた。(1号:光、2号:雷、3号:音、4号:熱、5号:羽)
神崎涼花は苦戦していた。
あと数日後に迫った期末試験、出題範囲の半分も勉強が終わっていなかった。
先日の事件により1週間の欠席をしたため、殆ど何も出来ていない。
ここ数日、何とか挽回しつつあるものの、絶対的に時間が足らない。
この試験を落とすと留年確定だ。
さすがにそれは避けたい。
「もうこうなったら‥アレしか無いわ」
涼花は意を決して、電話をかけた。
翌日、涼花の姿はAi財団のエントランスホールに有った。
昨日連絡した蒼井さんと会うためだ。
予定時間を3分ほど遅れて、蒼井さんは現れた。
「すみません、前のミーティングが延びてしまって‥」
「いえ、こちらこそ無理なお願いをすみません」
久しぶりに見る蒼井さんはやっぱり美形だった。
一時期よりも仕事に余裕あるのか、はつらつとしている。
「ご提案の内容はシスターズの運用試験としてとても興味ある内容です。ぜひご協力させて下さい」
「ありがとうございます。で、あの娘達は?」
「地下のミーティングルームに集合しています。涼花さんの事、待ってますよ」
涼花は蒼井さんと共に地下のミーティングルームに向かった。
蒼井さんと涼花が入室した時、涼花シスターズ達は思い思いの姿勢で待機していた。
頬杖をつく2号、腕組みの4号、机に突っ伏している3号‥。
涼花は思わず嘆息した。
「全員、ダレまくってるじゃない」
その声に涼花シスターズ達は一斉に反応する。
「あ、オリジナルじゃん!」
「ハロハロ〜」
「元気してたー?」
「こっちは暇でさぁ」
「たまには代わってよぉ」
一斉に話しかける。
「もう、一斉に言われても分からないわよっ!」
涼花が言うと、皆大人しくなった。
容姿はそっくりだが、少し年下の妹でも相手しているようだ。
「ちょっと非常事態なの。あんた達に協力して貰うわよ」
「おっ、また犯罪組織壊滅?」
「災害救出とかかな?」
「いや、人探しとか?」
「買い物でも手伝う?」
「何でもするよ〜」
またまた一斉に騒ぐ涼花シスターズ達。
「ふん、勝手な事言えるのも今のうちよ」
涼花はカバンを取り出し、中の物を机にぶち撒けた。
「「「「うええっ!」」」」
それを見た涼花シスターズ達は全員、驚きと苦虫を噛み潰した様な表情になった。
机の上に出されたのは、各学科のテキストとノートだった。
「試験科目は5科目、あんた達は5人。1人一科目づつ担当してもらうわよ」
「酷いじゃない」
「いや、自信ないんだけど」
「何で私達が?」
「それって意味ある?」
「自分でやるべきだよね?」
それぞれ文句を言い出す涼花シスターズ達。
涼花はその姿が余りに自分そっくりで閉口する。
が、涼花には奥の手が有った。
「ちゃんと勉強したらデラックスパフェ奢るわ!」
「「「「「マジで?」」」」」
全員が声を揃えた。
本来、Ai人形には味覚は無い。
だが、涼花と感覚共有をしながら食べれば、“美味しい”と言う感覚は感じるのだ。
これは退屈を持て余している涼花シスターズに取って、またとないご褒美だった。
一斉に勉強を始める涼花シスターズ達。
それを確認して、涼花はヘッドギアを装着した。
そう、涼花は感覚共有を逆手に取って、涼花シスターズ達の勉強内容を一度に同時に取り込もうと企んでいるのだ。
いわば、“Ai5倍速勉強法”。
これは一度に5台ものAi人形を同時に意識共有できる、涼花だけの唯一無二の荒業だ。
ヘッドギアを付けた涼花の意識に、5体の勉強内容が流れ込んでくる。
「うん、イケる、これなら期末はバッチリねっ!」
涼花は内心ガッツポーズを決めていた。
そして試験当日。
涼花はフラフラになりながら試験に臨んでいた。
学習内容が5倍なら、その脳疲労も5倍になる。
勿論そんなリスクは承知で挑戦した涼花だったが‥。
「ね、眠い‥駄目よ、涼花。ここで寝たら‥今までの‥く‥ろ‥」
“バタン‥”
机に突っ伏して寝てしまう涼花。
結果、残念ながら試験は全科目0点と成ってしまうのだった。
オマケ話を考えついたので〜




