涼花の逆襲
用語解説:マイクロビームジェネレータ
新開発された常温超伝導素材により冷却機構が不要になり、大幅な小型化が可能になったビームジェネレータ。
東京湾に面した薄暗いビルの一室。
十人余りの男達に少女が二人で対峙していた。
普通なら少女達が劣勢と考えるだろう。
しかし、立ち上がった涼花は不敵につぶやいた。
「これからがお楽しみの時間ね」
舌を出し、ペロリと唇を舐める。
「おい、動くなっ!」
男が涼花を取り押さえようと手を伸ばす。
一瞬、涼花は燐光を放った。
“バチンッ”
「うわっ?」
男は伸ばした手に強い衝撃と痺れを感じ、慌てて引っ込める。
「な、なんだコイツ。静電気か?」
「汚い手で触らないでよ」
毅然とした態度で言い放つ涼花。
先程までの弱々しい態度が嘘の様だ。
「くそっ」
男は両手を広げ、涼花に掴みかかった。
“ズガガーーーンッ”
激しい轟音。
涼花を中心に電撃の柱が天井近くまで立ち昇る。
「あがっっ」
悲鳴をあげながら男ははじけ飛んだ。
のたうつ様に全身を震わせるが、既に意識は無い。
男の全身は黒くすすけて煙が上っている。
涼花が放った強力な電撃による全身火傷だ。
「だから言ったのに」
涼花は、呆れた様に言った。
「お、おまえ何‥」
先程まで絡んでいたホストの男が震えながら指差す。
「あんたはっ‥」
吐き捨てる様なその言葉と同時に、涼花の姿が消える。
「え?」
戸惑うホスト。
その一瞬で数メートルの距離を詰め、涼花は目前に立っていた。
「‥絶対に許さないっ!」
言葉と同時に神速のボディーブローがホストのみぞおちにねじ込まれる。
ベキベキと肋骨のへし折れる音が聞こえ、ホストは数メートル吹き飛ぶと、倒れてのたうちまわった。
涼花はゆっくりとホストの元に進み、やすやすと片手で釣り上げる。
小柄な涼花にはありえない腕力だった。
ホストは何とか逃れようともがくが、涼花はびくりともしない。
「お、お前人間じゃ‥」
怯えた表情で涼花を見る。
「あなたに言われる筋合いは無いわね」
にっこりと微笑んで涼花は言った。
涼花はもう一方の手をホストの胸にあてて尋ねた。
「一体、誰にこんなこと頼まれたのよ」
「そ、それは言え‥」
“バシンッ”
ホストの胸にあてた涼花の手が一瞬光り、電撃を加えた。
「ぐはっ」
のたうつホスト。
心臓が電撃で麻痺し、心停止する。
ホストは苦しさに胸をかきむしるが、それでどうにかなるわけではない。
心臓が動いていないのだ。
「言わないと、そのまま死ぬわよ」
涼花は冷徹に告げた。
「い、いう。助け‥」
ホストは言葉にならない声で訴える。
涼花はホストの胸にあてた腕に弱く規則的な電流を流す。
その規則的な刺激によりホストの心臓が鼓動を再開した。
「がはっ」
激しく呼吸を繰り返すホスト。
「誰なの?」
感情の無い言葉で再び問う。
「りゅ、リュウセイ交易の原田って奴だ」
「女の子を輸出したって言うのも?」
「そ、それは‥」
今度は言い淀むホストの左腕を掴むと、涼花は電撃を加えた。
「ぐぁっ、う腕ぇ」
激痛に悲鳴をあげるホスト。
激しい電撃を受けたその腕はもはや動かない。
「腕ならもう一本あるけど?」
残虐な微笑みを浮かべる涼花。
「わ、わかった。そうだ、原田と組んで‥」
「あのヘッドフォンはどこで手に入れたの? あなたたちが作れるようなものじゃないでしょ?」
「そ、それも、原田が向こうの客から‥」
「そう‥ありがと」
“バチッ”
涼花の放った短い電撃でホストは昏倒した。
部屋の奥で涼花が暴れ始めたのと同時に、入口のもう1人の涼花も行動を開始した。
男の手を振りほどくと後ろ手の手錠を豪快に引きちぎった。
「うわっ?」
驚いた周囲の男が声を漏らす。
そこへ涼花の豪快な回し蹴り。
男二人は蹴り飛ばされて柱に激突、そのまま倒れる。
「くそっ、偽物かっ?」
後から来た男達は荒事に慣れてるらしい。
この事態も素早く認識して、懐から拳銃を取り出し涼花を撃つ。
“パンパンパン”
だが涼花は避ける素振りもなく進む。 まるで拳銃など見えていない様だ。
何発かが命中し、鈍い火花をあげた。
「もうっ! 制服に穴空いちゃうじゃないっ!」
言いうと、涼花は男達に向かって突進する。
弾が命中した部分からは銀色のフレームが見えていた。
「ば、化物かっ?」
「失礼ねっ!あんた達には言われたくないわよっ」
そのままタックルで3人を吹き飛ばす。
残った1人はそれを見て逃げ出した。
「ちょっ、卑怯者っ!」
言いながら涼花はブラウスの裾をまくった。
スカートとの隙間から脂肪の薄い、スラリとした腹部が覗く。
“キュキィーーー”
涼花のへその部分から赤い光条が走る。
その光は天井の梁を焼き切り、崩れた大量のコンクリートが男に降り注いだ。
「うわーーっ」
男はコンクリートの破片に埋められ、身動きすら出来なくなった。
僅か数分で男達は全員沈黙した。
部屋の奥に居たピンクリボンの涼花が、入り口近くの水色リボンの涼花に話しかける。
「あーあ、制服ぼろぼろじゃん。ちょっとは避けるとかしようよ、4号」
「2号みたいに身軽じゃないからさ。ビームジェネレータとかつけてるんだし」
「あー、ね。でもおヘソからビームってさ〜」
「私も目からビームのがカッコいいと思うけどぉ。でもパワーケーブルで首が動かなくなるって」
「んー、そっかー、残念」
「今度から私、ヘソ出しファッションにしようかな? でも‥冬寒そ」
和気あいあいと話す2人。
容姿も言葉遣いもそっくりな2人が話し合っているのはちょっと不思議な景色だ。
「あ、皆も片付いたみたい」
どこも見ずに2号涼花が言った。
確かにその時、都内各所でも涼花たちによって犯人は次々と捕らえられていた。
「後は警察に任せて、帰ろ」
2人は仲良く手を取り合って部屋から出て行った。
遂に涼花の逆襲です。
お楽しみ頂ければ幸いです。
感想とかもぜひぜひ聞きたいです




