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神崎涼花の逆襲 〜えれくとろんあーく2〜  作者: てんまる99


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涼花の寄り道

用語解説:超超低電圧Aiロジック回路

人間の神経電圧と同じ10μボルトで動作するAi回路。

それにより、神経との直接接続が実現した。

また、超超低電圧のため、電源回路を使わずに血液中のナトリウムイオン電位差で駆動され、大幅な小型化を実現している。

まるで極寒の地にいるようだった。

手足が凍え、刺すように痛い。

目を開こうにも体の自由が利かず、何も出来ない。


『涼花‥涼花』

遠くから名前を呼ばれた気がした。

首すら動かず、何とか体を捻って振り向こうとする。


“ズッキーーーン”


「いたーーーーっ」

頭の先から足まで突き抜ける様な痛みが走り、涼花は目を開いた。


白い天井を見あげていた。

埋め込まれたLEDライトがやけに眩しい。

「あ、目を覚ました」

真っ赤な目をした明日香がこちらを覗き込んでいた。

瞼も擦れて赤くなっている。


「ここは‥」

「病院だよ。涼花、刺されたの覚えてる?」

そう言えば、そうだった。

あの時の光景を思い出す。

「覚えてる。あの人達は?」

「大丈夫、ちゃんと保護されて治療受けてる。涼花が頑張ったおかげだよ」

「良かった‥。あれからどれくらい経った‥の?」

「3日経ってる。涼花、ずっと意識が戻らなくて‥」

明日香はそう言ってまた涙を拭いた。

涼花は体を起こそうとしたが、まだ医療テープで固定されていて動け無かった。


「あんた、どうせそこにずっと居たんでしょ」

「うん‥当然だよ。私の責任だし」

「もう、学校も行かないで何やってんの。それにアンタのせいじゃない」

「で、でも」

「悪いのは犯人。勘違いしちゃ駄目だかんね」


そこに意識の回復をモニターしていたのか、蒼井さんが入室して来た。


「涼花さん、具合はいかがでしょうか?」

「まぁ、好調では無いけど‥そこそこ」

「脇腹の刺傷はまだ完全に塞がっては居ないので、無理はしないで下さい」

「ん、わかった」

脇腹は疼痛がし、まだ体がだるく発熱しているようだ。


「明日香さん、涼花さん‥今回の件で被害者は全員保護されました」

「うん」

「しかし、依然として犯人は捕まっておらず、特に涼花さんは再び狙われる危険が有ります」

「はぁ‥面倒よね、全く」

涼花は嘆息する。

あの日以来、ろくなことがない。


「ですので、お二人は当面、自宅待機して‥」

「嫌よ」

「「えっ」」

涼花はピシャリと言った。

予想外の言葉に二人は戸惑う。


「何でこっちがビクビク怯えて暮らさなきゃ成らないのよ。 それに家だって襲われるかも知れないでしょ」

「それは‥警察がパトロールを‥」

「蒼井さんだって、そんなの無駄だって分かってるわよね?」

あれだけの事をした相手だ。

警察のパトロールを気にするとは思えない。


「い、いや、しかし」

「もっと積極的に行きましょ」

「涼花ちゃん、危険なことは‥」

明日香も諌めようとする。

涼花の事が心配なのだ。

「そうでもないわよ。少なくとも私は」

「え、どういう事?」

「私の作戦はね‥」

涼花は考えたアイディアを2人に説明した。


涼花は夏鈴に酷いことをした奴を見逃す気なんて無かった。

逃げ隠れするなんて、柄じゃない。

「くくくっ、見てなさいよ犯人‥逆襲してやるんだから」

まるで映画の悪役みたいな顔で涼花は呟いた。



数日後、涼花は包帯を巻いた姿で登校していた。痛みが有るのか、時折足取りが重くなる。


「涼花ちゃん、大丈夫?」

「荷物持とうか?」

「大丈夫、ありがと」

途中で友人が声を掛けたが、遠慮した。

また何かあった時に巻き込んではまずいから。

涼花は少しゆっくりと通学路を歩いた。


登校し、教室に入ると、なんだか日常に帰ってきた、と言う実感が湧いた。

「うーん、やっぱりこうでなきゃ」

軽く背伸びをする。

「涼花、怪我したんだって?」

「渋谷でチンピラとやりあったって、本当?」

「え、組の事務所を潰したって聞いたよ」

クラスメートが興味津々で聞いてくる。

VA部の活動停止事件以来、すっかり話題の人に成っていた。

「んなわけない‥どこから出た話よそれ」

「え、皆いってるよ〜」

「その噂、尾ひれどころか手足まで付いているわよ」

呆れつつも、これがいつもの学校生活だなと思った。

今までより新鮮な気持ちで授業を受ける涼花だった。


授業が終わり、放課後。

涼花は怪我のためVA部の活動はせずに、学校を出た。

最寄り駅まで向かう途中の公園でベンチに座り、スマホを眺める。

先日の事件はもうニュースには載っていない。

「はあぁ、世の中こんな物よね‥」

溜息をつき、今度は繁華街へと向かう。

帰宅する気分に成らないのか、涼花はあからさまに道草をしていた。


今度はゲームセンターに立ち寄り、クレーンゲームの景品を眺める。

「とりあえず、コイツ、かな」

ぬいぐるみの入った台で何度か挑戦するものの、結局収穫無し。

諦めて店を出て大通りを歩いた。


「お嬢さん、少し寄って行かない?」

スーツ姿の客引きが声を掛ける。

「怪我人の未成年に声かけるとか、ないわー」

「そんな事言わないで、さ‥」

涼花が無視して客引きの脇を通り過ぎようとした時。


“パチッパチッ”


何かが爆ぜる様な音がした。

「しまっ‥」

言いかけてぐったりと脱力する涼花。

「お嬢さん、大丈夫?」

客引きはまるで介抱するような素振りで、停車していたワゴン車に涼花を連れ込む。

そのまま軽いスキール音を残してワゴンは走り去った。


「簡単じゃねぇか。最初っからこうすれば良かったんだ」

ワゴン車の中で客引きの男はうそぶいた。


相変わらず不幸続きの涼花ですが‥さて、ここから逆転が有るのか?(有るよね?)

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