お散歩あるある
妹が風邪を引いた。
一人で居るのは寂しいからと、リビングのソファーでマスクをして布団を被り寝転んでいる。
どうやら昨日1時間ほど雨の中外を歩いていたらしい。最近寒くなってきたから、それは風邪を引くだろう。
「雨が降ってたのに歩いて外に出るなんて珍しいな」
何となく気になった事を聞いてみると、意外な答えが帰ってきた。
「散歩だから、歩かないと意味ないでしょ」
運動嫌いの妹が散歩?!
いつもめんどくさいからと近所のコンビニに行くだけでも車を出せと言っていたのに、どういう風の吹き回しか。
「何で急に散歩なんて始めたんだ?」
「運動不足解消かな?」
なんだか歯切れの悪い返事が返ってきた。
俺は訝しみながら会話を掘り下げる。
「運動不足解消ねぇ。でも雨の日にまですることないだろ」
「四日目だったの」
「え?」
「だから、散歩始めて昨日で四日目だったの!三日で止めたら三日坊主になっちゃうでしょ」
そんな理由で雨の中散歩に行ったのか。
よくある話ではあるけれど、無理して四日目を乗り越えたとしても言葉の意味を考えると、その後も継続しなければ結局三日坊主になるんだが。
半ば呆れながら妹の話を聞いていると、意味深な言葉が飛び出した。
「それに、あと一カ月しかないから」
「一カ月後に何かあるのか?」
「推しのイベントがあるの!その日までに少しでも痩せたくて……」
なるほど、こっちが本当の理由か。
最初からそう言えばいいものを、運動不足だからとか健康の為だとか別の理由をつけたがるのは何故だろう。
「だったら雨の日の散歩は止めとけ。風邪が長引いたらイベントに行けなくなるぞ」
「うっ、確かに」
「今は大人しく休んで、しっかり風邪を治せ」
不服そうな顔をした妹の頭を軽く撫でると、下から不穏な呟きが聞こえてきた。
「雨の日はレインコートを着ればいいよね。あと折りたたみ傘と」
妹は一転して楽しそうにスマホの画面を開くと、お目当ての物を探し始めた。
三日後、妹の風邪は治ったが、散歩を再開した気配はない。
妹宛に届いた荷物は未開封のまま、例のイベント当日を迎えた。
「ねぇ、お兄ちゃん。イベント会場まで車で送ってくれる?」
「はぁ、しょーがないな」
お願い事をする時だけ”お兄ちゃん”呼びするのは、ずるいと思う。