5話 高田健志、インドへ
「なな湖さん、私には分かるんです。この方は本物なんです。纏っているオーラが違う。」
「分かったって! 今からそれを確かめに村に行くんだろうが!」
村に向かう途中、おじ太郎となな湖は、今足を引きずって運んでいる高田健志について語っていた。おじ太郎はなな湖に信じてもらおうと力説している。対してなな湖は、そんなおじ太郎に辟易していた。
できる限り高田健志に負担がないようにかつ、急いで運んだため、村へはかなり早く着いた。テント群が立ち並ぶ、ちっぽけな村だ。
そこで、高田健志は目を覚ました。
「ん、んん……着いたのか。」
高田健志はすぐに二人から離れ、自分の足で歩き出した。
「おい、安静にしてないと……!」
「もう治ったよ。ほら」
高田健志はローブを少しまくり、二人に腹を見せた。なんの跡も残っていない。普通なら何かしらの傷跡ぐらいは残っていそうなものだが、高田健志の治癒力の前では大したことはない。
「ば、バケモンだ……」
「おいおい、失礼だろ?」
高田健志はにへらと笑いながら言う。そうして、彼らは村へと入った。
おじ太郎のテントに行くと、そこには少しの衣服と、『高田健志教』と書かれたいくつかの経典が置いてあった。そして積まれた経典の裏側に、一つのカセットテープが置いてあった。
「なな湖さん、テレビ貸してくれますか?」
「ん、あぁ」
今度は三人でなな湖のテントに向かう。
なな湖はおじ太郎の言う通り、テレビを持っていた。といっても、アンテナもないので砂嵐しか流れない。
「これは、高田健志様の偽物……仮に『ダーク高田健志』とでも呼びましょうか。……が初めて襲来したときの映像です。なな湖さん、点けてください。」
「ったく……電池も少ないんだからさっさとしてくれよ。」
こんなオンボロのテレビを残しておいて何に使うのか、と高田健志は思ったが、口には出さずにそのビデオを見る。
ビデオは、とある旅番組だった。三人の芸人と、一人のアイドルが、山道を歩いている。何やら面白い会話をしているようだが、音質が悪く聞き取れない。
人気のない、険しい山道に、四人がいる。そしてその背後に、一瞬だけ何かが映り込んだ。
「ッ!」
高田健志はその一瞬で分かった。コイツがダーク高田健志であると。
刹那、四人のタレントは虐殺された。
カメラ外からも血が飛んでいる。おそらく、その場にいたものは全員、一瞬で殺されたのだろう。
カメラがゴト、という鈍い音とともに、一度地面に落ちる。そしてすぐに視点が上がり、ダーク高田健志と思しき人物を写した。
そして、本物の高田健志とは対照的に、黒いローブを纏ったダーク高田健志はカメラの中央に立って両手を広げ、宣言した。
「我の名は高田健志、世界の神なり。今から世界を零に戻す。」
──そこで、映像は止まっていた。
「それから、あの大災害が始まったんです。」
高田健志の中に、ふつふつと煮えるような怒りが込み上げてきた。
「こんなことをするやつは……神として許すわけにはいかない……!」
高田健志の怒りの横顔を見て、なな湖は再び困惑した。
この男が本当に自分の先輩を殺したのか、疑問を抱き始めている。
「……なあ、高田健志。」
なな湖は、勇気を振り絞って聞くことにした。高田健志の本質を知るために。
「お前は、その、偽物とやらを見つけてどうするつもりなんだ?」
高田健志は、なな湖の憎しみ、そして疑問を含んだような顔を見る。高田健志の中の答えは一つだ。
「成敗する。俺の民をこんな目に合わせたやつを、必ずっ……!」
なな湖の心には、まだ疑問が少しが残る。
だが、高田健志の眼差しは、疑いようもなく真実を語っていた。神たる所以だろうか? 彼が神だから、なな湖は完全に疑うことができないのか?
完全に信じることはできない。だが、それでもこの男に任せてもいいと思った。
「……分かった。アンタに任せる。」
高田健志は微笑んだ。
*
「ダーク高田健志は、今中国を滅ぼしていると思われます。そろそろインド辺りに来るはずです。」
おじ太郎は、高田健志の肩に掴まる。
「……本当に来るのか? ここからは、過酷な戦場だぞ。」
「いえ、私の役目は、高田健志様の勇姿を見届けること。そして、伝説を記録することです。私は走ってでもついていきますよ。」
おじ太郎は、高田健志についてくると言って聞かなかった。あくまで教祖としての役割を果たすつもりだ。
「じゃ、行くぞ。よく掴まってろよ?」
「はい!」
高田健志とおじ太郎の周りに、不思議な空気が漂う。高田健志は飛び立つ前に、見届けるなな湖を見た。
「……。」
なな湖は不安そうだ。
「ありがとう、なな湖。君が信じてくれたおかげで助かった。」
高田健志は笑顔で、飛翔した。
向かうはインド。高田健志は胸に決意の光を灯し、神の気を高めた。