17話 命とは
高田健志はしばらく無言で思考を張り巡らせていた。すると、ダーク高田健志は起き上がって
「ギギギ……何だ? 攻撃しなイのか。ならばこちらから行かせテもらうぞ!」
再び襲いかかってきた。高田健志は超速のパンチを見切り、掴む。
ダーク高田健志の機械の顔が、不機嫌そうな顔にガチャガチャと変化する。
「ふん、カウンターもしなイのか? 自我が戻って腑抜けになったか!?」
ダーク高田健志のラッシュが炸裂する。だが、スーパー高田健志となった彼には一切当たらない。
(ダーク高田健志はロボット……だとしたら、一体誰に、何の目的で作られたんだ……?)
「考えている余裕ガあるのかッッ!」
油断し、ダーク高田健志の肘打ちが顔面に入る。
高田健志は金色の髪を揺らし、地に落ちる。だがすぐに立ち上がり、次の攻撃に備える。
「全くノ余裕か、心底ムカつくぜ……ならバこれならどうだぁーーーーっ!!」
ダーク高田健志は、邪悪な神の気を最大限溜めて、両手を上に掲げる。ロンドンの夜空に、巨大な気の玉が出現した。
「『喰図・高田言』ッッ!」
邪悪な球体が、高田健志に向かって放たれる。
高田健志は葛藤していた。
今の高田健志ならば、ダーク高田健志をうち負かし、消滅させることなら、造作もなくできるだろう。
──だが、ダーク高田健志はただのロボットだ。
邪悪な心を持っているとはいえ、それは作られたもの。高田健志と戦うように仕向けられたものだ。ならば、ダーク高田健志に罪はあるのか?
高田健志に、じっくり考える時間はなかった。
「クソォオオオオッッッッ!!!」
高田健志は特大の気功波で以って返した。邪悪な気はどんどん打ち消されて、押し返される。
そして、ついに気の玉は消え去る。
高田健志の気功波は、ダーク高田健志の全身を包み、貫いた。
「うッ、ぐわぁあああぁああアアアアアァアアァァアッッ!!!!」
ダーク高田健志は、スーパー高田健志の圧倒的な神の気に敗れ去った。
敗北したダーク高田健志は、吹き飛ばされ、どこかの花畑の上に墜落した。
戦いが終わり、朝日が差し込み、花の一つ一つが照り輝く。
「負ケた、か……」
ダーク高田健志は、負けた悔しさを存分に味わっていた。その感情に疑問を抱く。それと同時に、不思議な清々しさも味わっていた。その感情にも疑問を抱く。
「俺ハ、ロボットのはずなのニ……なぜこんな感情を抱ク……?」
「お前はもう、一つの命だからだ。」
花畑に高田健志が現れる。戦闘が終わり、金髪から黒髪に戻っている。憐れみを含んだ目で、ダーク高田健志を見下ろした。
「イノチ……? 俺はロボットだぞ。そんなもノあるカ。」
「俺の神の気の影響だ。戦いの最中、お前は本物の神の気に触れる中で『感情』を得たんだ。お前は立派な命……立派な人間だ。」
「そンナわけ……」
ダーク高田健志が続けて言葉を発しようとしたが、なぜか言葉が詰まって出なかった。そしてダーク高田健志は、自分の異変に気がついた。
「……ナんだこれハ。目から、ナニかが……」
「それは、涙だ。」
身体にオイルしか流れていないはずのダーク高田健志。それなのに、目から透き通るような雫が溢れていた。雫は鉄の表面をつたい、花弁に落ちる。
「なあ、最後に教えてくれ、ダーク高田健志。お前を作ったのは一体誰なんだ。何のために作られた。」
「……スまない。それハ言エないプログラムなんダ。……そレニ、俺に聞かナクても、誰かハ、もう分カルだろう?」
高田健志はしゃがみ込み、ダーク高田健志の頭をさする。
「ダーク高田健志、お前はたくさん殺しすぎた。助けることはできない。……だからせめて。」
ダーク高田健志の全身が、温かい光に包まれる。
「おォ、こんナ……。俺ニ『温モリ』トいうデータはないハズなのニ……。温かイ。」
「あぁ……せめて、新しい命に変えてやる。」
ダーク高田健志の身体が、みるみる消えてゆく。安らかに、光に包まれ消えていく。彼は最期に、高田健志に言葉を贈った。
「アリガトウ。」
彼の身体が光とともに消える。高田健志が手をどけると、そこには新たな命が芽生えていた。立派な青い双葉だ。生まれ変わったダーク高田健志は、澄み切った朝日をいっぱいに浴びた。