第二話 「ダエーワ七柱」
2話です。よろしくお願いします。
部屋には大きい円卓が置かれ、周りに異質な雰囲気を放つ七つの椅子がそれを囲む。
1人せわしく動いている女がいた。身長が高く、褐色の肌にメイドのような服装をしている。
???「手伝いますよ、ジャヒーさん。」
ジャヒー「ありがとうございます。アースリィ様。」
どこか理知的な印象を抱くような黒髪の青年、アースリィが声をかける。
アースリィ「えーと…この中にコーヒーが飲めない方はいらっしゃいましたっけ?」
???「…俺だ。」
五と書かれた椅子に座っている男が不機嫌そうに睨みつけ答える。
アースリィ「そうそうシヴァさんでした。ジャヒーさん、あの見た目に反して甘党なギャップ萌え君にあまーいミルクティーを。」
シヴァ「てめェ…アースリィ!!」
アースリィ「はははっすみません。久しぶりにお顔を見かけたのでついついからかってしまいたくなりました。」
シヴァと呼ばれた薄緑の髪の男は、今にも席を飛び出すような形相でアースリィを睨みつけている。
ネルウァ「全く…君たちのコントもそろそろ見飽きたな。そうは思わないか、キリエ嬢。」
二番の椅子に腰掛けた、メガネをかけスーツを着た高身長の男がそう呟く。2つ隣の席、四の席に上品に腰掛ける女に声をかけたようだ。女の背後には巨大な狼のような青紫色の獣が丸くなっている。
キリエ「あら、そう?可愛いじゃない。貴方もこの二人くらい可愛い気があった方がいいわよ。ネル君。」
小柄ながらも大人びた雰囲気の女、キリエがそう答えた。
ネルウァ「ふん、可愛げ…庇護欲や憐憫の情を誘うのは良質な思考の妨げになる。理解しかねるな。」
二と書かれた椅子に綺麗な姿勢で座る男、ネルウァが冷たく言い放つ。
その時、部屋の扉が開き、2つの影が入ってきた。1人はまだ若い青年で、もう1人は青年より若干身長の低い少女である。2人に共通する特徴として、手足が黒く変色している。
クスィロス「すみません、遅れました。」
フォティア「こらクスィロス!申し訳ありません、でしょ!」
クスィロス「はいはい、フォティア姉さん。」
フォティア「はいは1回!」
ネルウァ「君たちもいい加減時間を…」
ネルウァが呆れてそう言いかけた時、それを遮るように1番の椅子に座っている男が口を開いた。
アンリ「全員揃ったな。ジャヒー、始めるぞ。」
ジャヒーと呼ばれる女は七柱の秘書のような役割を持つらしい。
ジャヒー「はい。今日の議題は…アル・ヴェーダのヴェンディダート加入による計画の早期決行について話したいと思います。」
シヴァ「アル・ヴェーダ…。興味はあるが…俺ァ潰すだけだ…!あの秩序野郎をなァ!」
キリエ「私としては話し合いで手を打ちたいのだけれど…もう無理なフェーズまで来ちゃってるらしいわね。」
アースリィ「この後に及んで話し合いなんて僕が許しませんよ。キリエさん。オルドを殺して、ミラの仇は僕が討ちます。」
アースリィが拳を強く握る。
フォティア「あんたまだ引きずってんの?もう何年も前の事らしいじゃない。」
クスィロス「姉さんの言う通りだよ、アースリィさん。」
勝気な姉弟がアースリィを煽る。
アースリィ「…あ?君たちは何も失っていない新入りだからそう言えるんだろうけどね…!」
理知的な面影はどこにもなく、怒りを露わにするアースリィ。アースリィの怒りと共に、辺りにバチバチと電気が走る。
シヴァ「…まァ落ち着けよ…アースリィ。俺達でぶつかったって何も状況は変わりゃしねェんだ。」
キリエ「あら、珍しいわね。シヴァ君がアー君をなだめる役回りなんて。」
その時、
「!?」
一の席に座る男が一気に圧を放つと周囲が静まり返った。
アンリ「くだらん争いはいい。話を進めるぞ。」
あまりの圧に周囲が息を飲む。
アースリィ「――計画では、まず抑えるのは第6隊…でしたよね。」
アースリィが平静を取り戻して言う。
ネルウァ「そうだ。テレイオス・ホルダートを残しておくと後々厄介なことになる。」
フォティア「テレイオス…私の直轄ね。」
ネルウァ「フォティア、クスィロス。まずはお前たちに拠点を用意し、ヴェンディダート第6隊とぶつかるよう手配する。そこでやつらを迎え撃て。」
ネルウァが姉弟に言う。弟の方が眉をぴくりと動かす。
クスィロス「僕も…ということはアムルタートも討つのか?」
ネルウァ「そうだ。6、7隊を同時に潰す。」
シヴァ「ははっ!新入りたちにとっちゃ大仕事だなァ!せいぜい頑張れよ。」
シヴァが笑う。
ジャヒー「次の議題に移ります。ラグナ・レウクトラについてですが…。」
♢
――次の日。おれはヴェンディダートの拠点であるジッグラトの一室で目が覚めた。
眠い…昨日はオフルさんの部屋を出たあと流されるままに自分の部屋に案内されたけど…たしかベッドが2つあったよな?まさかもう1人…
アル「うわっ!」
重い瞼を開けると知らない顔が目の前にあった。
ティルス「…おはよう。僕はティルス。ティルス・マクスウェル。君と同室だ。よろしく。」
ティルス…身の丈はほとんどおれと一緒。おそらく同年代だろう。綺麗な白髪をしている。
それにしても…挨拶するにもタイミングってもんがあんだろ。同室なら昨日の夜の時点で誰か伝えてくれ!
アル「よ、よろしく。」
ティルス「僕らは今日、イアンって人に呼ばれてるんだ。さ、早く準備しちゃって。」
イアンさん…?知らない名前だ。
…それにおれは今起きたばかりだ!とにかくペースの掴めない男だ…天然ってやつか。
おれは重い体を持ち上げて準備を始める。
戸の前でティルスが催促するようにこちらを見ている。
アル「ああ。今行くよ。」
いざ準備を始めると、自分が置かれた特殊な環境に実感が湧いてくる。今日からヴェンディダートでの生活が始まるんだ…!
景気よく出迎える朝日を前に、おれはやる気に満ちていた。
次回、第三話「天秤と慈雨」




