第一章 “ナツキ”と謎の夢
ピーポーピーポー
救急車の音が鳴り響いている。
???「...い...ましてよ...なないで...」
女の子の声が聞こえる...
???「...がい...おねが...から...」
周りの音が大きくて上手く聞き取れない...
???「お願いだから...目を覚ましてよ......“ナツキ”...」
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とある夏の日...
なつき「ハッ!?」
飛び起きるように目が覚めた。セミの鳴き声が辺り一面に聞こえる。
なつき「...夢?それにしてはすごくはっきりしていたような...不思議な夢...」
最近、よく同じ夢を見る。私が事故に遭った夢を。私と同じ名前を呼ぶ女性の夢を。
母「なつき~、朝だよ~!!起きてる~?」
母の大きな声が家中に響き渡った。
なつき「あ、うん!!起きてるよ~!!今準備して降りるね~!!」
時計を見るとすでに時刻は6時半を指していた。
なつき「いつもなら6時には起きれるのに...おかしいなぁ...」
そう思いながらも、いつも通り準備をしてリビングへと向かった。
―7時 リビングにて―
母「なつきおはよう~。今日は30分寝坊するなんて、珍しいね。」
なつき「あはは...なんか疲れちゃってたのかな...」
母「疲れてるときは早めに寝ないと~。昨日、夜更かししてたんでしょ?」
なつき「ま、まあね。」
最近何度もあの夢を見るようになってから、またあの夢を見るんじゃないか。
そう思うと、なかなか寝付けずにいた。
母「高校生になったし、夜更かししてもいいけど、体調には気を付けるのよ~。それとも...彼氏でも出来た?」
なつき「そ、そそ、そんなわけッ///」
母「フフッ、冗談よ~。早くご飯食べて学校に行きなさ~い。」
なつき「もぉ~...」
母のひかりはいつも騒がしいくらい元気だ。私が起きる6時前には遅くとも起きている。昔はもっと大人しかったと父から聞いているが、本当にそうだったのか疑いたくなる。そして、からかうのが好きな一面がある。
なつき「じゃあ、学校行ってきま~す。」
ひかり「いってらっしゃい~!弁当忘れずにね~!」
なつき「は~い。」
朝の挨拶を交わし、玄関を出た。
颯真「小野、おはよう。」
玄関を出てすぐ、声が聞こえた。
なつき「あ、中川。おはよ~。」
中川颯真、私の隣に住む幼馴染だ。家族ぐるみで仲が良く、颯真とは小学校から高校まで同じ学校に通っている。私と違い成績優秀、文武両道。中学の時、女子の中で一番彼氏にしたいランキングなるものでは3年連続で1位と、全てにおいて完璧超人みたいなやつだ。
颯真「小野、今日は珍しく遅かったな。」
なつき「今日珍しく寝坊しちゃったんだよね~。高校入ってから初めてかも。」
颯真「いつも迎えに来るから少し心配したけど、この様子なら大丈夫そうだな。」
なつき「へぇ~、心配してくれてたんだ。」
颯真「っ///な、なんだよ...」
なつき「ふふっ。ありがと。」
颯真「なんか一本取られた気分だなぁ(ボソッ」
なつき「ん?何か言った?」
颯真「別に~。」
私たちの間には、少し距離ができた。仲の良さは変わらないが、中学に入って少し疎遠になり、お互い苗字で呼ぶようになってしまっていた。
颯真「にしても、ほんとここから学校まで歩いて10分かからないって楽だよなぁ。」
なつき「お母さんが「私の母校、超オススメだよ!!」って勧めてくるから、選んだだけなんだけどね。結果的に近いし楽しいからよかったけど。」
高校に入って、私たちは母の母校である高ノ宮高校に進学した。昨年まで中高一貫校だった高ノ宮高校は、現校長と教育委員会が中等部を高ノ宮中学校、高等部を高ノ宮高等学校の2つに分け、高校受験者の受け入れを強化した。そのため、私たちの年から高ノ宮高校の受験がしやすくなり、母からの勧めもあり結果的に私も高ノ宮に進学することに決めたのだった。
なつき「話変わるんだけどさ、最近ずっと同じ変な夢を見るんだよね。」
颯真「へぇ。どんな夢?」
なつき「なんか、救急車のピーポーって音が辺り一面に鳴り響いてて、女の人がずっと私に声を掛ける夢。」
颯真「どんな夢だよ。怖いな。」
なつき「うん...寝る前にまた同じ夢を見たらどうしよう...ってなって、そう考えると怖くてあんまり眠れないんだよね...」
颯真「確かに、何度も同じ夢を見てたら不安になるし、何か現実でも何か起こるんじゃないかってちょっと錯覚するよな。俺もそう考えたら少し怖くなってきたわ。...今日寝坊したのって、その夢が原因か?」
なつき「うん、そう。」
同じ夢を何度も見続けることに恐怖を感じているのは事実だ。私が寝付けない理由もそこに原因がある。でもそれ以上に怖いのは、その夢がやけに現実味を帯びていて、頭の中からこびりついて離れないことだ。まるで、夢で見たものが、実際に起こったことの様に。
颯真「まあ、帰りにまた相談のってやるよ。もう学校につくし、また後でな。」
なつき「あ、颯...」
そう言うと、颯真は走って行ってしまった。
なつき「私は今相談に乗ってほしかったんだけどな...(ボソッ」
そう思いながら、教室へと少し早足気味に向かった。
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―教室 交通安全指導中―
先生「はい。皆さんに2学期までの宿題としてやっておいてほしいことがあります。過去に起こった事故のニュースを1つ調べてきてもらい、どのような事故だったか、なぜ事故が起こってしまったのか、それを短くてよいのでレポートでまとめてきてください。」
クラスメイトA「え~、面倒くさそう...」
クラスメイトB「やりたくね~」
クラス中に課題に対する不満の声が響き渡る。
先生「はいはい、静かに。そう言うと思ったので、ある程度過去の事故の種類を集めたプリントを作っておきました。これ見てくれれば一からやる必要はないので、ちゃんとやってくるように。」
なつき「ははは...準備いいなぁ...」
そんなことを考えているうちに、今日の授業がすべて終わり、下校時間になった。
なつき「宿題かぁ...過去の事故の事例がたくさん並んでるけど、正直面倒くさいなぁ...」
颯真「俺は面白いと思うけどな~。」
なつき「!?」
声がした方を振り返ると、颯真が私の持ったプリントをのぞき込むような形で立っていた。
なつき「いつからそこにいたの!」
颯真「宿題かぁ...のあたりから?」
なつき「最初からじゃん!」
颯真「まぁまぁ、朝の仕返しってことで。」
なつき「くぅ...」
やられた。朝帰る約束をしていたのを完全に忘れていた。
颯真「で、小野は宿題どんな事故を調べるつもりなんだ?もう決めてるのか?」
なつき「まったく決めてないなぁ。これから図書館に寄って色々調べてみようかなって思ってる。」
颯真「お、いいねそれ。一緒に調べようぜ。」
なつき「嫌だ。」
颯真「え~なんでぇ...」
なつき「じゃあさっきの、謝って。」
颯真「大変申し訳ありませんでした。」
なつき「よろしい。」
そんなやり取りをしながら、私たちは図書館へと向かった。
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―図書館―
なつき「へぇ~、調べてみると意外とたくさん事故って起きてるんだね。」
颯真「な。1日に平均1600件近くも交通事故も起きてるらしいぜ。」
なつき「そんなに起きてるんだ...思ったより交通事故って私たちの身近にあるんだなぁ」
そうして、先生がまとめた事故の資料について一つずつ調べていく。
なつき「○○市△△祭りで群衆事故発生、78名死亡...◆◆市□□で自動車と児童が衝突、5歳児童死亡」
颯真「俺たちが知らないだけで、交通事故って本当にいたるところで起こっているんだな...俺たちがニュースで見ている大きな事故や事件って、ほんの一部だったんだなって」
なつき「うん。正直調べる前まではあんまり興味がわかなかったけど、私たちはたまたま事故に遭ってないだけで、本当に運がいいんだなって。」
颯真「もちろん俺たち自身が気を付ければ、事故が起こる確率はぐっと下がるけど、それでも0じゃない。」
そんなことを考えながら調べていくと、一つ気になる新聞記事を見つけた。
なつき「ねぇ、中川。この記事なんだけど...」
颯真「...○月○日(土)■■市◇◇町で発生、軽自動車と大型トラックが衝突。軽自動車に乗っていた20歳女性軽傷、運転していた20歳男性死亡。今年でちょうど15年前の事件だな。この事故がどうかしたのか.?」
なつき「これ、カップル、だよね...」
颯真「...そうだな。原因は...相手のトラックの飲酒運転か。」
なつき「女性の方、かわいそう...これからだったはずなのに...」
颯真「調べれば調べるほど、交通事故は誰も幸せにならないってよくわかるな。読んでるだけで胸が締め付けられる感じがする...」
なつき「うん...」
私たちも、事故に遭う確率は0じゃない。今日朝学校に来るときにも、今日の帰路の途中で事故に遭う可能性もある。
なつき「当たり前って、こんな簡単に壊れちゃうんだ...」
颯真「そうだな...」
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―帰宅中―
私たちは図書館を出て家までの帰路を辿っていた。
なつき「今日はありがとね、中川。」
颯真「いやいや、思ったよりもいい勉強になったよ。それで、結局あの15年前の事故を調べるのか?」
なつき「うん、本当はもっと見てから決めるつもりだったんだけど、この事故がすごく気になったから調べたくなっちゃった。」
颯真「そっか。おれも同じ宿題が出ると思うし、同じ事故について調べてみようかな。」
なつき「なら、明日から一緒に調べる?私は夏休みたくさん遊びたいし、早めに宿題終わらせたいから。」
颯真「確かにおれも早く終わらせたいし、やるか。結構調べるのに時間かかりそうだしな。」
そんな話をしながら歩いていると、近くにクレープ屋さんを見かけた。
なつき「あ、このクレープ屋!ここ一回行ってみたかったんだよね!」
颯真「っていっても、今から晩飯じゃねぇか。今食べると太るぞ~。」
なつき「スイーツは別腹なんでだいじょーぶ!早く行こ!」
そう言って青信号になった歩道を渡る...その瞬間だった...
颯真「っ!なつき、危ない!!」
なつき「えっ...」ドォー―――ン
一瞬何が起こったのか分からなかった。だが、颯真の声が聞こえた瞬間、後ろを振り向く前に、私の身体は宙に舞っていた。宙に舞った私の身体は放物線を描くような形で地面に叩きつけられた。
どうやら私は、信号無視をした軽自動車にはねられたらしい。“そう認識した瞬間”
なつき「ッ!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。身体に今まで感じたことがないほどの激痛が走る。足も手も動かない。何も聞こえない。痛みで声が出せない。身体中が悲鳴を挙げている。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
...痛みにずっと耐えていると、だんだんと声が聞こえてきた。
颯真「...き、......つき、なつき!!!」
なつき「そ...ま...」
颯真「なつき!?大丈夫か!!今救急車呼んだから...もう少し耐えるんだ!!頑張れ!」
何分経っていたのだろう。痛みで気が付かなかったが、颯真は私のすぐそばで私に呼びかけていた。救急車もすでに到着しているようだ...
なつき「そ...うま...ご...め...」
颯真「っ!駄目だ、なつき!!目を覚ませ!!なつき!!!」
段々と意識が遠のいていく...私、死ぬのかな...怖い...怖いよ......
颯真「お願いだ...目を覚ましてくれ...死ぬな...」
???「...お願い...目を覚ましてよ...死なないで...」
颯真...?これは...夢の...
颯真「お願い...お願いだから...」
???「お願い...お願いだから...」
...違う...これは...
颯真「お願いだから...目を覚ましてくれ......なつき...」
???「お願いだから...目を覚ましてよ......“ナツキ”...」
これは私の......
その瞬間、私は意識を失った。
後書き
第一章は物語のカギとなる「夢」について触れる場面が多かったと思います。
実は約4年ぶりにお話を書きましたが、やっぱ小説は書くのも読むのも楽しいですね。前作は話を作っている最中に脱線しまくってしまって未完のまま終わってしまったので、今作はしっかり完結させたいですね~。
「夕刻」と「暁暗」もとい過去作についてはこの作品を書き終わり次第、構成をしなおしたバージョンで出していきたいと思います(-ω-)/
補足:なつきの成績事情
本人は颯真は私と比べて成績優秀と語っていますが、別に同じ高校に行ける時点でなつきも成績は低くありません。何なら設定では高ノ宮高校内でTOP30ぐらいに入れるぐらいの成績はあります。