45.お出かけ再び
「行こうか、ミルティア」
「はい!」
前回の街歩きの時と、全く同じ見た目と服装のマニエス様と私は。これまた前回同様、お屋敷から馬車に乗って街へと向かいました。
そう! 今日は待ちに待ったお出かけの日!
お出かけ再び、なのです!
「以前と同じ設定で、大丈夫かな?」
「もちろんです、お兄様」
「ふふ。頼もしいね」
マニエス様と私は、他国の商人の子供たち。お父様の商売について来ただけの私たちは、ただ街中を物珍しく散策していても怪しまれることはない。
という、設定なのです。
「前回約束していた通り、今日は座って食べられるところを予約しておいたからね」
「予約、できるのですか?」
今の私たちは、商人の子供たち。どんな名義で予約をしているのかと、不思議に思った私に。
「ソフォクレス伯爵家が贔屓にしている、他国の商人という設定だからね。我が家の名前で予約しても、怪しまれることはないよ」
「まぁ。そうだったのですね」
なるほど。つまりそういう設定で、ソフォクレス伯爵家名義での予約をしていらっしゃるということ。
万が一どなたかが怪しんで、ソフォクレス伯爵家に確認しても。それならば、全く問題ありません。
よく考えられていて、すごいです。
「昔からそういう理由で、同じ見た目でよく街に遊びに出かけていたからね。実際に気に入った店とは、我が家の名前で取り引きをしているんだ」
「つまり、商人というも全くの嘘ではないのですね」
「内容としてはね」
だから以前の街歩きの際に、店主のおじ様たちはマニエス様を商人だと思い込んでいらしたんですね。
私はてっきり、見た目で判断されていらしたのだとばかり思っていました。
「まぁ、他国の商人が商売するのには、それなりに色々とコネが必要だからね。貴族との繋がりがあるとなれば、疑われることもないし」
そもそも、その貴族のご子息の紹介や推薦なのですから。疑って確認したところで、否定をされるはずがありませんし。
本当に、よく考えられた方法です。
「とはいえ絵画とかにはあんまり興味はないから、取り引きの範囲はとても狭くなるんだけどね」
「それでも、十分すぎるのではありませんか?」
街中に店舗を構えていたら、ある日突然貴族の御用達に、なんて。それだけで有名になることでしょうし。
何より、箔が付くでしょうから。それだけでも、大きすぎる恩恵になるのではないかと思うのです。
「貴族の中には、もっと大々的に取り引きをする家もあるそうだから。我が家は調度品も装飾品も、あまり買い替えたりしないからね。どちらかというと、取り引き自体は少ないほうみたいだよ」
「そう、なのですか?」
「僕も正直、あまり他の家のことは知らないからね。そう言われたところで、よく分からないよね」
マニエス様の言葉に、私は素直に頷きました。
むしろ、調度品や装飾品の購入なんて高価すぎて。スコターディ男爵家にいた頃には、それこそ考えられなかったことですから。
それを頻繁にしていらっしゃるお家柄なんて、どこまで豪華で資産が豊かなのか。全く、想像もつきません。
「まぁでも、今回の目的は取り引きじゃないから。でしょう?」
片目をつぶって、お茶目に笑うマニエス様に。私もつられて、思わず笑みを浮かべてしまって。
「そうですね」
今日の目的は、前回とは別の場所に行くこと。そして、甘いものを食べること。
街歩きからの帰り道で、マニエス様はそうお約束してくださいましたから。外でも、幸せの味を体験させてくださると。




