34.私だけの
「わぁ……！」
その日、お義母様と一緒に久しぶりに仕立て屋の皆様をお迎えした応接室には、たくさんのドレスや靴たちが並んでいて。
「こちら、完成品をお持ちいたしました」
「ありがとう。報酬は後ほど、家令に持ってこさせるわ」
そんなお義母様たちの会話も耳に入ってこないほど、色とりどりの素敵な服たちにばかり気を取られていて。
「全て同じサイズですので、念のため一着試しに着ていただけますか？ 違和感などあれば、すぐにこの場で手直しが可能ですので」
「そうね。ミルティアさん」
「は、はいっ！」
いきなり名前を呼ばれて驚いてしまった私は、今から何が始まるのかも分からないまま。
「え、え？」
素早く着ていた服を脱がされて、別の空色のワンピースを着せられて。
今までと同じように腰で調整が可能なその服は、けれど今までのリボンとは全く違う、服と同じ色の。穴の開いた、幅広の布を使われていました。
「男性用のベルトを見て思いついた、新しいデザインになります。お嬢様、どこかきつい部分や緩い部分などございませんか？」
「え？ あ、いえ。全く問題ないです」
内側に使われている生地と、外側に使われている生地が違うようで。しかもスカートの下半分は、布の色すら違っているのですから。驚きです。
白い生地が使われている裾を、そっと持ち上げてみたのですが。肌に感じるサラサラとした質感とは、全く違う手触りでした。
けれど実際少し動いてみても、きついところはもちろんのこと。ヴァネッサお姉様のドレスの時のように、肩がずれてしまいそうになるほど緩いところすらありませんでした。
「ミルティアさん。これは全て、貴女の体に合わせて作られた、貴女だけの服たちよ」
「私だけの……」
それは、初めての感覚でした。
こんなにも体にピッタリな服を着たことは、これまで一度もなかった私にとって。自分のために作られた服を身に着けるという、初めての体験。
（これが、私だけのワンピース）
あちらが、私だけのドレスで。
ここに並べられている靴たちも、全て私だけのもの。
「とても……とても、着心地がよくて……。とても、嬉しいですっ……」
動いても、体にピッタリとくっついてくる感覚。
肩からずり落ちてしまうかもしれないと、そんなことを考える必要もなく。
裾を踏んでしまうかもしれないと、気を付ける必要もなく。
「今までお召しになっていたワンピースも、同じサイズで作り直したものをお持ちいたしましたので」
「まぁ。さすが才女と言われるだけあって、気が利くのね」
「お褒めにあずかり光栄です」
伯爵家に来た翌日から着ていたワンピースも、今まで私が男爵家で着ていた服たちに比べれば、ずっと着心地もよくて体に合っていたのですが。
これは、それ以上です。
「大切に、着させていただきます」
一着一着、汚さないように破かないように。
大切に大切に着ていこうと、そう決意した私に。
「あら。毎年新しく作っていく予定なのよ？ 体形が変わった時にも、測り直して仕立て直しよ？」
「え!?」
そう言い放ったお義母様の言葉は、二重の意味で衝撃でした。
（こんなにもたくさんの服を、毎年ですか!?）
しかも体形が変わったら、その時にも測り直し。
ということは……。
（あんな大変なことを、毎回!?）
そう考えて、少しだけ気が遠くなりかけた私に。
お義母様も仕立て屋の皆様も、どこか優しい目でこちらを見ていた気がするのですが……。
あれは、微笑ましいものを見る目だったのか。それとも、頑張りなさいという無言の励ましだったのか。
一体、どちらの意味を含んだものだったのでしょうか？
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