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占い師様の婚約者 ~嫁取りの占いは、幸せのはじまりでした~  作者: 朝姫 夢


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28.私のために?

「マニエス様。私は……」

「ん?」


 優しい金の瞳が、侮蔑(ぶべつ)の色に染まってしまったとしても。たとえ二度と、私をその瞳に映してくださらなくなったとしても。

 それでもきっと、真実をお伝えすべきなのでしょう。

 身勝手なこの胸の痛みに、気付かないフリをして。


「何もできない、役立たずなのです」

「…………なんの、話?」


 マニエス様が戸惑っていらっしゃることには、気付いていました。

 けれど今ここで止めてしまっては、二度と言えなくなるような気がして。


「以前お話しした通り、スコターディ男爵家はとても裕福とは言えない状態でした」


 だから私は、あえてその状態のマニエス様を見ないフリをして。


「一人目が女の子だった男爵家は、跡継ぎになれる男の子だけを希望していました」


 ただ真実だけを、口にし続けます。


「それなのに生まれてきてしまったのは、跡継ぎになれない女の子。その日、スコターディ男爵家は絶望に打ちひしがれました」


 三人も子供を育てる財力は、当然ありません。それどころか、女の子二人に平等にお金をかける余裕すらありませんでした。

 だからこそ、すでに教育に力を入れていたヴァネッサお姉様を優先的に育てて、将来の男爵家のために良いお相手を探すことにして。

 跡継ぎを諦める代わりに、そちらに財力を全て注ぎ込むと両親は決定したのです。

 男に生まれてこなかった役立たずの私は、お姉様のお古をいただきながら。家の役に立てるようになるその日まで、自室から出ないようにと固く禁じられて。


「だからこそ、マニエス様の『嫁取りの占い』の結果に、私もスコターディ男爵家も救われたのです」


 あまりの貧しさに驚いていらっしゃるのか、開いた口が(ふさ)がらない状態のマニエス様。

 けれど、これが事実なのです。


「ただ、私のような役立たずではなく。ちゃんとした教育を受けたヴァネッサお姉様のほうが、伯爵家に嫁ぐのに相応しいのではないかと、日に日に思うことが増えてきまして」


 最初は、男爵家の跡継ぎ問題のためにお姉様が残るのは当然だと、そう思っていたのですが。

 今はむしろ、スコターディ男爵家ではできないであろう贅沢を、私のような役立たずが享受(きょうじゅ)してしまっていいのかと。

 そう考えるようになってきたのです。


「『嫁取りの占い』では、誰を嫁がせるのか明言されていなかったと聞きました。ですから、いっそのことマニエス様に選んでいただこうかと思いまし――」

「君を選ぶに決まってるだろう!!」


 思いまして。と言い切るよりも先に、立ち上がって私の言葉に被せられた言葉は。


「むしろなんだそれは! ふざけているのか!? 何が役立たずだ!!」


 今までのマニエス様とは違う、激情(げきじょう)に身を任せたお姿で発せられて。


「男に生まれなかったから役立たず!? 世の令嬢を馬鹿にしているのか!? 自室から出ることを禁じる!? 娘に変わりはないだろう!!」


 けれどその様子を、恐ろしいと思わなかったのは。


「君はどうしてそんなに冷静でいられる!? もっと怒っていいだろう! 悲しんでいいだろう! 当然のように受け入れる必要なんてないじゃないか!!」


 まるで、私の代わりに怒りを表してくださっているように見えたから、なのでしょう。

 いえ、むしろ。


(私のために?)


 こんなにも、強い感情を示してくださっている? マニエス様が?

 つい一年ほど前までは、赤の他人だった私のために?


「君がどう思っているのかは知らない。だがよく分かった。『嫁取りの占い』で君が我が家に来たことは、結果的に正解だった」


 信じられない思いで見つめながら、なぜか泣きたくなるくらい心の中があたたかくなっていた私の目の前で。

 少し落ち着いたのか、座り直したマニエス様が、一気に紅茶を(あお)って。


「…………っ……!」


 何かに気付いたように、ハッとこちらを見たかと思えば。


「す、すまないっ、そのっ……。あ、いや、すみませんっ……ちょっと、興奮しすぎてっ……」


 今度は真っ赤な顔をして、恥ずかしそうに下を向いてしまわれたのです。



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