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占い師様の婚約者 ~嫁取りの占いは、幸せのはじまりでした~  作者: 朝姫 夢


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21.もっと笑顔を -マニエス視点-

 『嫁取りの占い』を、肯定的に考えているわけじゃない。

 ただ僕の本心は、この家に身一つで来てくれた彼女には、伝えておくべきだと思ったんだ。


 だから、二人でアフタヌーンティーをしませんかと誘って。

 せっかくのいい天気だから、テラスに準備をさせて。


 スコターディ男爵家が、とても貧しい家柄だということは知っていた。

 正確に言えば、我が家に絶大な信頼を寄せてくださっている王家のご好意で派遣された、調査隊の報告を受けたから、だけれど。

 ただそれにしたって、彼女は細すぎる気がしていた。体はもちろんだけど、食もかなり細くて。


「夕食に響いてしまうといけないので、少量のクッキーとマカロンを用意させました」


 だからあえて略式にして、本当に少量の菓子だけをと思った僕の言葉に。ミルティア嬢は、少しだけ不思議そうな顔をしていた。

 その理由が分かったのは、そのすぐ後のことで。


「このクッキーもマカロンも、母上から助言をいただいたものなのですが。甘いものは、お好きですか?」


 女性とこうして二人きりで向き合って会話することどころか、女性の好みすら何も知らなかった僕は、母上を頼るしかなかった。

 ただそれはすぐにでも知られてしまうことだと思ったので、隠さずにあえて伝えてみたら。

 返ってきた言葉たちは、予想とは全く違った方向で、僕に衝撃を与えた。


「どう、でしょうか?」

「……というと?」

「その……お恥ずかしながら、スコターディ男爵家はとても裕福とは言い難い家柄で。甘いものなど、口にしたことがなかったので」


 そこでようやく、気付いたんだ。もしかしたら彼女は、クッキーもマカロンも知らないんじゃないか、と。

 直接彼女からその言葉を聞けたわけではないけれど、その可能性は非常に高い。

 むしろ彼女から言われなければ、僕はずっと気が付かないままだったかもしれないと思うと……。情けなくて恥ずかしくて、仕方ない。


(貴族として十分な暮らしすらできない家だったのなら、知らなくてもおかしくはないのに)


 僕はそのことにすら、気が回っていなかったらしい。

 女性と二人きりだから緊張していた、なんて。そんなこと、言い訳にもならない。

 そしてそうなると、この二種類が手でつまんで食べていいことも知らないかもしれない。

 ミルティア嬢にこれ以上余計な気を遣わせないためにも、先に明言(めいげん)しておいたほうがきっといい。たとえそれが、スマートな方法じゃなかったとしても。


「こちらのクッキーもマカロンも、基本的にはこうしてつまんで食べていただいて大丈夫ですよ」


 クッキーを一つ手に取って、かじりつく。

 こうして先に、実践してみせてから。


「さぁ、どうぞ」


 彼女に菓子を勧めてみる。

 気に入ってくれるといいなと、淡い期待を抱きながら。


 そうして、彼女が僕と同じようにクッキーを一つ手に取って。

 その小さな口へと運んで、咀嚼(そしゃく)を繰り返すこと数回。


「……おいしい」


 呟きと共に零された笑顔に、僕は自分で思っていた以上に安堵(あんど)した。


「よかったです」


 それは僕の心からの言葉だったし、もっとたくさん食べて欲しいと思ったのも事実。

 そもそも今回の菓子は全て、ミルティア嬢のために用意させたもの。少しでも気に入ってくれたのなら、嬉しい。


 と、同時に。

 僕は今日の本来の目的を果たすために、幸せそうな彼女を眺めることを一旦やめて、紅茶を一口含んでから。


「ところで、今日こうしてミルティア嬢をお誘いしたのには、理由がありまして」


 本題を、切り出した。

 『嫁取りの占い』に対する僕の本心と、彼女への謝罪を告げるために。


 正直、憎まれていても仕方がないと思っていた。少なくとも、血のつながった家族と何の前触れもなく引き離した事実は、その原因が僕であることは、紛れもない真実だから。

 どんなに罵倒(ばとう)されても、どんなに悲しみの涙を流されても。変えられない現実だからこそ、僕は許されることはないのだと思っていた。

 僕がもし逆の立場だったら、きっと相手を恨んでいただろうとすら考えたことがある。


 それなのに。


「私にとって占いの結果は、大変ありがたいものでしたから」


 彼女の口から出てきたのは、全く別の。許しを()う必要すらない、言葉だった。


「本心ですから。私も含めスコターディ男爵家では、占いの結果をとても喜んでいましたし」


 でもだからこそ、この時の僕は気付けなかった。

 その言葉に含まれている、本当の意味を。ミルティア嬢が実家である男爵家で、どんな立場に置かれていたのか。どんな場所で、生活してきていたのか。

 何一つ、気付くことができなかったんだ。


 ただ、一つだけ。


「どうですか?」

「とっても美味しいです!」


 ベリーのジャムが挟まったマカロンを口にして、幸せそうに笑うその姿に。僕の心は、思っていた以上に満たされて。

 純粋に、もっと笑顔を見たいと。そう、思った。



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