表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志こばなし集  作者: 100少々
1/1

2022年度〜2023年1月号

三国志をベースにしたなんでもありの会話劇によるこばなしや現パロのまとめです!

恋愛シミュレーションネタもあるよ!

[三国時代編]

 

[()]


スケベチビ|曹操(そうそう)やイジワル曹丕(そうひ)の建てた国。

物分かりは良いのにどうにもスケベだったり、イジワルすぎるのに詰めが甘すぎる主君によるこばなし。


鮑信(ほうしん)董卓(とうたく)の専横は予見できたが、これほど酷いことになるとは…」

于禁(うきん)「だから我らが義兵を集め、討伐軍を結成したのではないですか」

鮑「そうだな」

于「郷里の者を二万以上集められるとはさすがは鮑信殿です」

鮑「ありがたいことだ」

于「…」

鮑「どうした?」

于「軍規の緩みが気になります」


鮑「他軍か?」

于「あれはまさか酒樽ではありますまいな?」

鮑「…」

于「義兵を挙げこれから戦に臨む我々が、よもや酒を飲む暇があるとでも?」

鮑「于禁」

于「はっ」

鮑「ここに集まっている将をよく見ておけ」

于「…」

鮑「この場は集まった将の分水嶺だからな」

于「御意」

鮑「私も心しよう」


鮑「おや、あれは」

曹操(そうそう)「…」

鮑「曹操殿!お久しゅう!」

曹「これは、鮑信殿!」

鮑「お互い洛陽から命からがら逃げることになりましたな」

曹「そしてお互い別れの挨拶などする隙すらありませんでした」

鮑「生きてまたお目にかかれて嬉しいです、曹操殿」

曹「私もだ、鮑信殿」


于(良い軍だ…)


鮑信…曹操殿はどれだけの兵を?

曹操…家財を散財し、同志に助けられてようやく五千さ…

于禁…兵数は少なくても周りの軍より軍規がしっかりしてると思った。


曹操「流民による大規模屯田とな」

棗祗(そうし)「是非とも早急にご検討いただきたく」

韓浩(かんこう)「我らで素案を作成いたしました」

曹「読んでおく」

棗「僭越ではございますが、もう一言申し上げてよろしいでしょうか」

曹「うむ」

棗「殿は大規模屯田を検討できる地がどうなっているかご存知ですか?」

曹「…」


曹「飢民が溢れ、酷い有様になっているのか?」

棗「確かにそのような地域もございますが…」

韓「我らと見回りに来ていただけませぬでしょうか」

曹「分かった」


曹「…荒れた大地になったものよ」

棗「あちらを」


曹洪(そうこう)「オーレ!」

牛「!!」

食客A「!」


韓「官牛で遊んでいます」

操「子廉(しれん)…」


A「あれは殿ですぜ、お頭」

洪「殿!我らの闘牛を応援しに来られたのですか?」

操「お前の牛ならまだしも、官の牛で何をしているのだ、子廉」

洪「どうせ使わないなら良いではありませぬか」

操「必ず使う時が来る。官牛での遊びは断固禁ずる」

洪「…つまらねえの」

曹「子廉」

洪「…承知しました」


曹操…ああいうところはあるが、ここ一番で命を張れる男だ。許してやってくれ。

棗祗…劣勢時の城の守りや農政に定評のある期待の若手。

韓浩…農政に理解もあるが、彼の本領は夏侯惇がよく知っている。

曹洪…(あざな)を子廉。結局自分の牛で闘牛の見せ物を始めて大儲けしたらしい。


曹操「張遼(ちょうりょう)

張遼「はっ」

曹「関羽(かんう)のことだ」

張「はい」

曹「執務用の髭袋を贈ったのだが、あまり喜ばれなかったのだ」

張「…」

曹「なぜだと思う?」

張「先日関羽と銭湯に行った時に…」

曹「聞こう」

張「私が身体を洗い終え、湯船に浸かり終わって出る時にも、まだ髭を手入れしておりました」


曹「さすが美髭公(びぜんこう)

張「髪を洗うシャンプーやコンディショナーとは格が違う代物でした」

曹「それほどとは」

張「おそらく関羽は執務の際、周囲に髭を誇りたいのではないかと愚考します」

曹「美髭を隠す品を贈るとは不覚であったわ!」

張「…」

曹「では関羽が美髭で困っている事を聞き出してくれ」


張「殿、関羽の件でご報告が」

曹「うむ」

張「就寝時のおやすみ用の髭袋が無くて困っていると」

曹「でかした!」

張「劉備(りゅうび)の元に職人がおり、直々に発注している途中で…」

曹「ほう」

張「寝る時は髭が乱れて形崩れするのが大変だそうです」

曹「無理もない」

曹洪「女の夜の下着選びみたいな話ですな」


曹操…都の仕立職人を総動員してプロジェクトチームを作った。

張遼…徐晃(じょこう)と関羽と一緒に行ったらしい。

曹洪…スケベでケチなのに、主君の命を本気で救う漢気がある。


曹操「なんとか関羽を配下にできぬだろうか」

張遼「殿、関羽の件でご報告が」

曹「おう」

張「先日徐晃殿と三人で飲んでいたのですが」

曹(なぜ私を誘ってくれぬのだろう)

張「酔った関羽が約束を守ってもらえなかった、と不満を言っておりました」

曹「約束?」

張「内容までは聞けませんでしたが」


曹「関羽と約束…」

張「ご記憶されてないのですか?」

曹洪「殿!後宮にまた新しい女を入れましたな!」

操「執務中だ、子廉」

洪「関羽が恨めしそうな顔してましたぜ」

操「なぜ関羽が?」

洪「内緒の話ですが、新しい女に惚れてたらしくて」

操「!」

張「殿。詳細のご説明を要求します」

操「…」


操「杜氏(とし)という女でな」

張「…」

操「呂布(りょふ)の配下に秦宜禄(しんぎろく)という者がいて」

張「…」

操「その者の…」

張「その者の?」

操「…妻だ」

張「…」

操「関羽とも徐州(じょしゅう)で交流があったらしい」

張「…」

操「杜氏を是非妻にと言われ、約束したのだが」

張「…」

操「私のツボにハマり側室にした」

張「…」


曹操…これ、私がいけないのか?

張遼…人妻好きが極まりすぎて絶句。

曹洪…関羽の評価を上げる大チャンスだってのに、どうしてそういうとこだけ自分の下半身に正直になっちゃうんです?


卞氏(べんし)「あなた」

曹操「待て!」

卞「あなたは関羽殿との約束を破るだけならいざ知らず、また下半身に思考を奪われ新たな側室を迎えたそうですね」

曹「これには訳が」

卞「ありません」

夏侯惇(かこうとん)「張遼が心底軽蔑していたぞ」

曹「寝室ならまだしも後宮まで入ってくるな!」

卞「夏侯惇殿は良いのです」


卞「あなたが世継を残すため、側室を増やすことは重々承知しております」

夏「だが、己が下半身に操られ、関羽との約束を破り信を違えるようでは家臣はついて来ぬぞ?」

曹「お前は私のなんなのだ、元譲(げんじょう)!」

卞「我ら奥を担う者たち全員が公認するあなたの母です」

夏「うむ」

曹「こんなお袋嫌だ!」


卞「本題に入ります」

夏「孟徳(もうとく)に罰を与えねばならん」

曹「!」

卞「あなたを腐刑に処します」

曹「私を!?」

卞「偉大なお爺様とお揃いになれるから良いではありませぬか」

夏「関羽や張遼からの信を取り戻すためだ」

曹「他の刑にしてくれ!」

卞「しません」

曹「話せば分かる!」

卞「問答無用!」


曹操…字は孟徳。ギリギリのギリギリのところで、ひと月の間後宮の女の子全員の下僕になる罰で許してもらえた。

卞氏…今後のため司馬遷が執筆した初めての腐刑を熟読し始めた。

夏侯惇…字を元譲。曹操の私室や寝室どころか、男子禁制の後宮まで入ることができるほど奥方たちの信頼が厚い。


曹操「良いではないか、杜氏」

杜氏「まだ、心の準備が…」

曹「私の準備は万端だ」

杜「…まあ」

曹「良い声で鳴かせて…」

夏侯惇「孟徳」

曹「!?」

杜「!?」

夏「また昼間から情事とは…」

曹「入るならノックをしろと何度言えば!」

杜(そういう問題なの?)

夏「したぞ。返事をしない孟徳が悪い」


曹「いい加減デリカシーというものを…」

夏「そんなことより、滞った執務の決裁を早くしに来い。荀彧(じゅんいく)殿が怒っていたぞ」

曹「ああ…」

杜「あの…」

曹「おお、どうした」

杜「後宮ですのに、この殿方は…」

曹「ああ。ベットメイキングに来た空気も読めず間も悪い出入りの清掃業者だ」

夏「孟徳!」


夏「お初にお目にかかる。夏侯惇。字を元譲と申す」

杜「…なぜ殿方であられる夏侯惇様が、後宮に?」

夏「殿の正室であられる卞氏様と後宮におられる奥方様たち皆から公認されている、殿の母です」

杜「それは、身体は殿方なのに心は女子という意味で言われたのですか?」

夏「違います!」

曹「www」


曹操…ざまあみろ、元譲。

夏侯惇…卞氏様に言いつけられたいか!

杜氏…後宮の先輩に不意の夏侯惇対策について質問しに行った。


徐庶(じょしょ)「…劉備殿が赤壁(せきへき)で大勝利とはな」

程昱(ていいく)「徐庶」

徐「程昱殿」

程「丞相と荀彧殿がお呼びだ」

徐「私を?」

程「何やら尋ねたいことがあるそうだ」

徐「…承知しました」

程「そこまで畏まらなくてよい雰囲気ではあったぞ」

徐(どういうことだ?)

程「私もよく分からないが、とりあえず来てくれ」


徐「ただいま参りました」

曹操「おう、徐庶」

荀彧「よく来てくれた」

荀攸(じゅんゆう)「まだ真偽のほどは分かりませぬぞ」

鍾繇(しょうよう)「…」

徐「…重鎮の方々が私にご用事があるのですか?」

曹「私はよく知らぬのだが」

彧「我らが穎川(えいせん)の生まれなのは知っているな」

徐「!」

攸「かつて、穎川伝説の侠客(きょうかく)がいてな」


鍾「もしやその侠客は」

徐「…」

曹「穎川の生まれだな、徐庶」

徐「…単家(たんか)ですが」

彧「無礼を承知で言うが、着物をはだけてくれないか」

徐「…何卒ご寛恕を」

曹「徐庶」

徐「…」

曹「才があるならば出自も前科も問わぬ」

徐「…承知しました」

彧「…」

徐「…」

攸「この傷!」

鍾「伝説だ!」


徐庶…一躍穎川グループの大スターにされてしまった…


曹操…徐庶の武勇伝に大喜び。

荀彧…士大夫の家柄だから許されなかったけど、実はすっごいカッコいいと思ってた。

荀攸…郭嘉に会わせたかったですな!

鍾繇…私は磔にされている徐庶殿を見てました!

程昱…徐庶の母も女侠ですな。


劉曄(りゅうよう)「…」

王朗(おうろう)「おや?」

劉「…」

王「劉曄殿、何か紙を落とされましたぞ」

劉「!?」

王「はい、こちらで…」

劉「!!」

王「!?」

劉「…失敬」

王「…なにかマズいことが」

劉「見ました?」

王「…劉曄殿?」

劉「見たか見ていないかの二択の答えしか聞いておりません」

王「…見てませんよ?」


劉「ならば良いです」

王「…」

劉「決してこの件については」

王「秘匿いたします!」

劉「…」

王「…」

劉「失敬」

王「…」

華歆(かきん)「…王朗殿」

王「華歆殿!」

華「何事でした?」

王「落とし物を届けただけですが」

華「丞相へのご報告を」

王「私が告げ口した事になりますから止めてくだされ!」


劉「やれやれ、私としたことが」


劉「子敬(しけい)からの手紙は久しぶりだ」


劉「符牒の表は、と」

魯粛(ろしゅく)「劉備に荊州(けいしゅう)を貸すように言ったのは俺だ」

劉「なんとまあ」

魯「だがこの件については裏があってな…」

劉「ほう…」

魯「…以上だ、子揚(しよう)。返事を心待ちにしているぜ」

劉「…相変わらずやばい奴だな」


劉曄…字を子揚。魯粛の悪友だった過去がある。荊州の件を聞いて、曹操が筆を落としたことを教えてあげた。

王朗…劉曄殿の殺気はとても受け止められん…

華歆…我らよりやんごとなき血筋の方ですが、よっぽど血生臭いですな。


魯粛…字を子敬。魯粛の一族が劉曄一族の出入り業者だった。歳も近くて仲良しだったらしい。


曹操「()の小僧と韓遂(かんすい)が蜂起したか…」

許褚(きょちょ)「…」

曹「此度の戦は厳しいものになるであろうな」

許「…」

曹「私も死地に立つかもしれん。護衛を頼むぞ、虎痴(こち)

許「…それが今回は行けないのです、殿」

曹「お前が何を言っている、虎痴!?」

許「…詳しくは奥方様に」

曹「お前も一緒に来い、虎痴!」


曹「虎痴を戦に伴えないとはどういうことだ、卞!」

卞「許褚殿は後宮の警護をしていただきます」

曹「そんなの代わりになる奴などいくらでもいるだろう!」

卞「あなたは、許褚殿の無料サポート期間が終了したのにお気づきになられていなかったのですか?」

曹「虎痴はセキュリティソフトではない!」


卞「セキュリティには変わりないでしょう?」

曹「俸禄は有料サポートの対象にならんというのか!」

卞「!」

許「それなら戦に行けますね」

卞「待ちなさい」

曹「茶番には付き合わんぞ!」

卞「食べれもしない俸禄と美味しいお肉なら…」

許「お肉がいいです」

卞「見なさい」

曹「禄で肉を買え!」


曹操…今回の戦は虎痴がいないと死にかねんのだぞ!

卞氏…後宮の下着泥棒を取り押さえないといけないのです!

許褚…あだ名を虎痴。いつもボヤっとしているが、護衛ではめちゃくちゃ強いため。難しい言葉は分かりません…


曹操「とにかく虎痴は連れて行く!」

卞氏「たしかにあなたは許褚殿サポートの対象かもしれませんが」

曹「対象外でたまるか!」

卞「あなたが護らんとする漢の国の保証期間は既に終了されているのでは?」

曹「…処刑されるぞ、卞」

卞「あなただってなんだかんだ見切りをつけられているでしょう?」


曹「おい」

卞「漢という国を窓のOSとするならば、高祖(こうそ)劉邦(りゅうほう)が興した国はさながらXP」

曹「時代錯誤も甚だしい」

卞「簒奪した王莽(おうもう)の新はVista」

曹「一理ある」

卞「そして光武帝(こうぶてい)が再度起こされた漢が七以降のOSとなるのです」

曹「ふむ」

卞「しかし今やこの国はセキュリティ対策すらままなりませぬ」


曹「だから私が輔弼(ほひつ)の臣にならんと帝を補佐しているのだが…」

卞「とにかく、あなたが漢に属する臣ならば、許褚殿のサポート対象外です!」

曹「おい!」

卞「典韋(てんい)殿のご子息の典満(てんまん)で妥協されては?」

曹「当てつけか!」

許褚「…俺は結局どうすれば?」

夏侯惇「くじで決めるぞ」

曹「なぜいる!」


曹操…なんとか当たりくじを引いてホッと一息。

卞氏…結局下着泥棒は曹洪の食客だった。

許褚…どうして後宮から出てきたんですか、夏侯惇殿?

夏侯惇…奥方たちの侍女にベットメイキングを教えていたのだ。


典満…曹操生涯一番のやらかしで戦死させてしまった護衛の典韋の息子。とんだとバッチリ。


十一

曹操「賈詡(かく)よ」

賈詡「はい」

曹「最近王粲(おうさん)の葬儀があったな」

賈「存じております」

曹「子桓(しかん)が取り仕切っていたのだが」

賈「はい」

曹「王粲は…」

賈「ええ」

曹「…」

賈「丞相?」

曹「驢馬の…」

賈「驢馬?」

曹「驢馬の鳴き声が好きだったのを知っているか?」

賈「それは存じませんでした」


賈「それがなにか?」

曹「にわかに信じられなかったのだがな、賈詡」

賈「ええ」

曹「私も弔問に行ったら」

賈「…」

曹「前の者たちが、一声奇声をあげて弔問していたのだ」

賈「それは?」

曹「私も分からなかった」

賈「…」

曹「久しぶりに程昱と会ったが」

賈「はい」

曹「程昱もやっていた」


賈「…」

曹「それで私の番になったのだがな」

賈「…」

曹「取り仕切っていた子桓が、真顔で言うのだ」

賈「…」

曹「王粲は驢馬(ろば)の鳴き声が好きでしたので、驢馬の鳴き声で送ろうと」

賈「…やったのですか?」

曹「…やらされた」

賈「…」

曹「お前が子脩(ししゅう)ではなく子桓を」

賈「丞相。そこまでです」


曹操…あいつ騎射上手かったもんな。

賈詡…そういう問題ではなく。


王粲(おうさん)…曹丕の友達で建安七子の一角を担う文学者。超人的な記憶力の持ち主。葬式にて驢馬の鳴き声で送ってもらうのは本意だったのだろうか。 

曹丕(そうひ)…字を子桓。曹操の後継者。斜め上でこれはやらないだろうという発想に定評がある。

曹昂(そうこう)…字を子脩。曹操生涯一番のやらかしで馬を譲った結果、討ち取られてしまった悲運の嫡男。しかもその作戦を立てたのが賈詡だったという… 

 

十二

夏侯惇「孫権(そんけん)から妙なものが届いた?」

曹操「象という生き物だ」

夏侯淵(かこうえん)「デカいな」

曹「士燮からの貢物だという」

淵「遠路遥々と、よく運んできましたな」

曹「厳畯(げんしゅん)という学者を乗せてみたら落ちたらしい」

淵「そんなことさせてるんですか、あの小僧は」

惇「学者をなんだと思っているのだ」


曹操…曰く動物から巧みに落ちる学者だという。

夏侯惇…なぜ乗せるのだ?

夏侯淵…受け身が得意なんですかね。


厳畯…珍しい動物が献上されたら真っ先に彼が乗せられるお約束。


十三

楽進(がくしん)「おい、張遼(ちょうりょう)

張遼「なんだ」

楽「お前は随分と合肥(がっぴ)で大暴れしたじゃないか」

李典(りてん)「どうされた、楽進殿?」

楽「お前が大暴れできたのは、俺が守りを固めていたからだろう?」

張「その件については、戦後すぐに感謝を申し上げたはずだが」

楽「はっきり言う!」

張「…」

楽「羨ましすぎる!」


李「…それは?」

楽「遼来遼来(りょうらいりょうらい)と高らかに叫びながら呉軍に突撃し、泣く子も黙ると恐れられるお前が羨ましいのだ、張遼!」

李「あれは丞相の指示による配置ではないですか」

楽「それはそうだが!」

張「…楽進の言うことも分からなくはない」

楽「だろう?」

張「だが、あれだけの戦場は二度とない」


温恢(おんかい)「あんな戦は二度と御免ですよ」

楽「そうかもしれんが、軍人としては機会損失も甚だしいのだぞ!」

李「じゃあ我らで楽進殿をプロデュースすれば良いのですか?」

楽「分かってくれたか、李典!」

張「楽進五(たのしんご)というネタをするのはどうだ」

楽「張遼」

李「そういうの好きなんですか?」

張「…」


張遼…魏が誇るバグ将軍。近寄りがたいが意外な隙を露呈してしまった模様。

楽進…短躯でも、突撃力や爆発力に定評あり。元気いっぱい!

李典…冷静で公平だから頼りになるナイスガイ。ノリも悪くないかもしれない。

温恢…クセの強すぎる三人を宥めすかして統治した苦労人。でもコイツも負けてない。


十四

曹操「合肥の戦の模様を聞いたか、元譲」

夏侯惇「張遼の働きが尋常ではなかったそうだな」

曹「呉では泣く子も黙ると恐れられているそうだ」

夏「さすがだ」

曹「…そうではない」

夏「どういうことだ?」

曹「あんなに恐ろしい戦果を残した張遼が来るのだぞ?」

夏「…」

曹「もっと泣くだろ、普通」


曹「そこで私や臣下の子供たちを卞に集めてもらった」

夏「幼子とは可愛らしいものだ」

曹「しかしな、元譲」

夏「…何を企んでいる」

曹「呉の立場から見た合肥の戦の紙芝居を行い…」

夏「…」

曹「おもむろに張遼を登場させようと思う」

夏「幼子になんてことをするのだ!」

曹「もう始めているぞ」


卞「遼来遼来!」

子A「怖い!」

B「もうやめて!」


夏「既にほとんどの子供が泣いているではないか」

曹「張遼突撃!」

夏「孟徳!」


張遼「!」

C「!!」

D「助けて!」

E「お母さん!お父さん!」

張「…」

卞「張遼殿、一度退いてください」


夏「阿鼻叫喚ではないか」

曹「大惨事だな」


曹操…卞氏に叱られるは、張遼に凄い目で見られるはで散々。

夏侯惇…魏の良心。曹操ですら叱る時には毅然と叱る。


卞氏…子供達の心のケアでてんてこ舞い。

張遼…すごく落ち込んで合肥に帰った。


十五

張郃(ちょうこう)「夏侯淵殿はどこか知らないか?」

郭淮(かくわい)「実は私も探しているのですよ、張郃殿」

張「また鹿角(ろっかく)の修繕のような兵のやる仕事をしているのではなかろうな…」

郭「それはそれで兵に親しまれるので、私は良いと思うのですが」

張「それは断じて違うぞ、郭淮」

郭「…」

張「将と兵が対等ではいけない」


張「袁紹(えんしょう)軍にいた時、私はそれを痛感した」

郭「…」

張「官渡(かんと)の戦の顛末は、知っているな?」

郭「無論です」

張「要の兵糧庫を守る淳于瓊(じゅんうけい)がそうだった」

郭「…」

張「平時と戦時の区別をつけず、良く言えば兵と親しみ、悪く言えば兵と馴れ合っていた」

郭「…」

張「その結果が、官渡の戦の結果だ」


張「兵と馴れ合っていいのはせいぜい十人隊長までだ、郭淮」

郭「…」

張「それ以上の兵を率いる者が兵と馴れ合うなど言語道断」

郭「…」

張「そもそもの役割が違う」

郭「…」

張「役割が違うということは、命の重みすら違うということだ」

郭「!」

張「魏の未来を担う将となるならば心せよ、郭淮」


張郃…結局兵と一緒に落とし穴を掘ってた夏侯淵に呆れ顔。

郭淮…以後心します。張郃殿。


十六

曹丕「司馬懿(しばい)、あれをやれ」

司馬懿「仕事中なのですが」

曹「朕の命に背くか」

司「…」

曹「早く」

司【狼顧(ろうこ)(そう)

曹「そのまま仕事だ」

司【なぜです?】

曹「退屈なのだ」

司【果物でも食べればいいじゃないですか】

曹「退屈しのぎでやるには惜しい」

司【私は果物にも劣ると?】

曹「何を今更」


曹丕…その状態で梨でも食うか?

司馬懿…食道ひねってるので絶対食べません。


十七

曹丕「…」

司馬懿「どうされました、陛下?」

曹「孫権に贈ったアレあるだろ?」

司「直筆シルク典論(てんろん)ですか?」

曹「違う!」

司「痛っ!おはじき飛ばすな!」

曹「おじぎねずみのアレだよ」

司「ああ、ジャンパー」

曹「くれてやったのが惜しくなってな」

司「はあ」

曹「取り戻せんか?」

司「…」


司「おじぎねずみ毛皮100%ジャンパーでしたっけ」

曹「いつもなら100匹のところ200匹分の毛皮を使った特注品だ」

司「200%じゃないですか」

曹「それだけでも普段の倍費用がかかるが、さらに手を加えた」

司「それは?」

曹「このワンポイントを見ろ」

司「?」

曹「夷陵(いりょう)の戦の火を連想した」

司「…」


曹「それに逃げ惑う蜀軍の兵の顔を背中に散りばめたのだ」

司「…なんのために?」

曹「孫権のためだが?」

司「…それを取り戻したいので?」

曹「そう言ってる」

呉質(ごしつ)「陛下!このジャンパーいかさねえっすか?」

曹「呉質!?それをどこで?」

呉「…メルカリで売ってたんっすけど」

曹「…」

司「www」


曹丕…忌々しいからもう一度着払いで下賜してくれる!

司馬懿…それにしてもセンスないなぁ…

呉質…曹丕の腰ぎんちゃく。どうやら美的センスが通じ合うようだ。


十八

曹丕「先日の呉との戦は酷いものであった」

司馬懿「…」

曹「それを受けてか、孫権からビデオレターが届いた」

陳羣(ちんぐん)「はあ」

曹「これより放映会をするが」

呉質「…」

曹「今より笑う事を禁ずる」

曹真(そうしん)「…それは?」

丕「笑ったら処断だ」

曹休(そうきゅう)「陛下?」

丕「始める」

司(どういうことだ?)


徐盛(じょせい)「イェーイ!曹丕!観てるか!」


丕「…」

司(あのジャンパーは!)

(おじぎねずみのやつだ…)

呉「wwwww」

丕「呉質、処断」

呉「陛下!?」

真(これは大変だ)

休(笑うに笑えん)


徐「お前が殿に送ったクソダサジャンパー!俺が殿からプレゼントされたぜ!ウケる!」


丕「…」

司(すごい殺気が)


孫権「大喜利の優勝賞品は直筆シルク典論だ!」

一同「いらねぇ〜」

孫「謎かけから!」

虞翻(ぐほん)「!」

孫「虞翻!」

虞「張昭(ちょうしょう)じじいのこれからとかけまして、使い終わった鳥の肋ととく」

孫「そのこころは?」

虞「あとは捨てるだけ」

孫「(こく)!虞翻に座布団2枚だ!」

張昭「殿!」

虞「やるかじじい!」


曹丕…虞翻の不謹慎ネタで笑いかけた。

司馬懿…呉の連中は我らを煽るために全力を出しているのか?

陳羣…張昭のさすがな回答に唸ってしまった。

曹真…笑いをごまかす咳払いがひときわデカい。

曹休…周魴(しゅうほう)のハゲいじりネタで笑ってしまい処罰された。

呉質…かなり手痛い処罰を食らって帰ってきた。


孫権…張昭には直筆シルクに加えて紙の典論をやろう!

徐盛…クソださおじぎねずみジャンパーを盛大にお焚き上げして大笑いした。

虞翻…張昭のみならず、孫権も煽るネタで座布団無しどころじゃない大目玉。

張昭…典論大喜利で優勝。さすがの語彙と知識だが、典論はいらない。

谷利(こくり)…座布団運び。


十九

曹丕「火浣布(かかんふ)?」

司馬懿「なんでも、火を纏っても燃え尽きない布があるそうで」

曹「くだらん。火の性質は対象を容赦なく焼き尽くすものではないか」

司「そうですな」

曹「朕の典論に、火浣布がいかにありえんかを記しておこう」

司「偽城の火攻め対策で使われてたとしたら?」

曹「貴様を燃やすぞ」


曹「万が一、そのような素材があったとしたら…」

司「ありえないって言ったくせに」

曹「後世の者に建築資材として有効活用することを勧めてやろう」

司「それは?」

曹「火をつけても燃えない宮殿や、建物を建てられるではないか」

司「なるほど」

曹「熱も逃しにくそうだから、耐熱性もありそうだ」


司「寒さに強い宮殿を建てられるということですな」

曹「そうだ」

司「最も、そもそもありえない物質と」

曹「念のため、これは典論のあとがきに加えておこう」

司「…」


曹叡(そうえい)「典論を拝読し、朕は心を打たれた」

司「…」

叡「今後新たに建てる宮殿には、献上された火浣布をふんだんに使うからな!」


曹丕…自身の著作で火浣布を全力でディスったが、死後に献上されてしまうという赤っ恥。

司馬懿…本当に献上された時はありし日の曹丕を思い出して笑いを堪えるのが大変だった。

曹叡…肺の病を訴える人夫が急増しているらしいが知ったことではないな。



初代の孫堅(そんけん)パパに、二代目の孫策(そんさく)兄貴に三代目孫権がフロンティアを切り開いて興した国。

飲み会や悪ふざけには戦以上に命がけで全力に臨むのが国是だとか。


孫堅「どうしようもない上役と同僚しかいないな」

程普(ていふ)「お気持ちは痛いほど分かりますが」

韓当(かんとう)「我慢のしどころですぞ、孫堅様」

孫「そう簡単に言ってくれるがな、お前たち」


董卓「この張温(ちょうおん)の的に矢を当てた者に褒美をやるぞ!」

李傕(りかく)「俺が!」


陶謙(とうけん)「クソ使えねえ張温なんざ、話にならねえ…」


張温「孫堅。次の戦の策だが」

孫「張温殿。策の前にお話が」

張「…董卓と陶謙のことか?」

孫「陶謙はまだしも、董卓は我らですら目に余ります!」

張「…」

孫「今のうちに軍紀違反で処断してしまいましょう!」

張「それはできぬ…」

孫「でなければ、あなたが死ぬ事になりかねません!」

張「…」


張「そんな大袈裟なことが…」

孫「起こります」

張「…」

孫「それがこの乱の源なのです、張温殿」

張「…話は聞いた」

孫「…」


李儒(りじゅ)「董卓様、ご報告が」

董卓「孫堅か?」

李「然り」

董「あいつはいくら忠義面していようとも、根っこは俺と同類だ」

李「…」

董「今後も孫堅だけは用心しておけ」


孫堅…もはや今の身分では身の安全すらままならぬな。

程普…北で出会った孫堅の同志。乗馬の名手。

韓当…程普の腐れ縁。気が回る。


董卓…辺境の傑物。ヤバい。

李儒…董卓の側近。こいつもエグい。

李傕…部下その1。アホ。


陶謙…指揮はできても協調性皆無。


張温…事なかれ主義な所が命取り。


孫策「春節孫呉红包(ほんばお)ドラフト!」

孫権「…」

孫尚香(そんしょうこう)「…」

呂蒙(りょもう)「…」

朱然(しゅぜん)「…」

凌統(りょうとう)「…」

太史慈(たいしじ)「…」

策「てめえは渡す側だろうが、子義(しぎ)!」

太「早く始めてください、ご主君」

策「しょうがねえ野郎だな、全く…」

尚(本当にもらうつもりなの、兄上?)

権(それが太史慈だ)

策「红包係入場!」


周瑜(しゅうゆ)「…」

張昭(ちょうしょう)「…」

張紘(ちょうこう)「…」

呂範(りょはん)「…」

朱治(しゅち)「…」

策「そして俺だ」

権「…」

策「俺たちが包んだ红包の金額を予想し、誰のものが欲しいか指名してくれ!」

尚「…」

策「競合した場合は抽選だ!」

凌「…」

策「一位指名入札開始!」

権「…」

尚「…」

蒙「…」

凌「…」

然「…」

太「…」


策「公開!」

権「兄上」

尚「兄上」

蒙「周瑜殿」

凌「周瑜殿」

然「義父上」

太「ご主君」

策「俺が仲謀(ちゅうぼう)と尚香と子義」

権「遠慮しろ、太史慈!」

太「情け無用」

策「公瑾(こうきん)が呂蒙と凌統」

蒙「…」

凌「…」

策「朱然は朱治を単独指名だな」

然「ありがたく頂戴します」

治「うむ」

策「抽選会だ!」


策「まずは俺の红包抽選だ!」

太「では私から」

権「待て!」

尚「それは無いでしょ!」

太「先んずれば人を制します」

策「…次は尚香」

尚「もう…」

策「仲謀」

権「残り物か」

策「見てよし!」

太「よし!」

尚「え〜」

権「嘘だろ」

策「マジでお前かよ!」

太「ご主君!」

策「手をしまえ!」


策「公瑾のクジは凌統が引いたな!」

周「おめでとう」

凌「ありがたき幸せ」

蒙「…」

策「あとは張昭と張紘に呂範だ!」

昭・紘・範「…」

策「ハズレ指名開始!」

権・尚・蒙「…」

策「公開!」

権「張紘」

尚「呂範様」

蒙「張紘殿」

権「なに!?」

策「尚香が呂範を単独指名だ!」

尚「やった!」


範「おめでとう、お姫様」

尚「ありがとう!」

権「…」

策「何をニヤニヤしている、仲謀?」

権「尚香が知らないのが愉快でして」

尚「どういうこと?」

策「じゃあ張紘の抽選を始めるぞ!」

権「どうして張紘を選んだ、呂蒙?」

蒙「…なんとなく」

策「人気ねえんだな、張昭」

昭「…不本意ながら」


策「くじ引きだ!」

権「私が先に引いていいか、呂蒙?」

蒙「それはもちろん」

尚「残り物には福があるとも言うわよね、おじ様?」

範「そうですな、姫様」

権「外野は黙れ!」

蒙「俺はどっちでもいいですから…」

権「先に引く!」

蒙「では残りを」

策「見てよし!」

権「!?」

蒙「当たりです!」


策「張紘の红包を貰ったのは呂蒙!」

紘「大切に使いなさい」

蒙「ありがとうございます」

策「最後の張昭は仲謀!」

昭「はい、どうぞ」

権「ありがとよ」

昭「無礼な!」

策「それじゃ、みんなもらった所で一斉に红包を開いて中身を確かめるぞ!」

権「あ〜あ…」

尚「おじ様の红包だから…」


策「せーの!」

権「…やっぱり」

尚「え〜!?」

然「予想通り」

凌「やった!」

蒙「!!」

太「ありがたき幸せ!」

策「俺はそこそこ入れたけどよ…」

太「孫呉に命を捧げます!」

策「仲謀!」

権「雀の涙の寄せ集めでした」

昭「何を言われます!」

策「尚香の悲鳴は?」

尚「おじ様!少なすぎるわ!」

範「姫様にも身の丈があるのですよ」

権「呂範はケチだからな!」


策「朱然は?」

然「安定の義父上でした」

策「凌統!」

凌「いっぱい入ってました!」

策「固まってる呂蒙!」

蒙「…こんなに沢山入ってました」

尚「え〜!?」

太「俺に預けろ、呂蒙!」

策「自重しろ、子義!」

権「張紘が狙い目だったのは読んでいたのにな…」

尚「くじを外しちゃ世話ないわね!」


孫策…周瑜と同じくらい入れた。まさか太史慈が取るとは…

周瑜…字を公瑾。凌統ら若手軍人の憧れ。

呂範…リッチなおじ様だが、意外にシビア。二番目に少ない。

張昭…案の定一番少ない。良かれと思って少なくするから嫌がられる。

張紘…春節だから大奮発。一番多かった。

朱治…一番手堅く無難な額を入れた。


孫権…字を仲謀。張紘のくじで欲を見せすぎたのが裏目に。

孫尚香…しばらく呂範と口を聞かなかった。

朱然…弓を新調した。

凌統…仲間と豪華なご飯を食べに行くのに使った。

呂蒙…あまりの金額にお母さんから強盗したんじゃないかと心配された。

太史慈…孫策より歳上のおっさんが厚かましく参加。太々しい。


孫権「今年の陸積(りくせき)選手権子どもの部優勝は、諸葛瑾(しょかつきん)の倅か」

諸葛瑾「お恥ずかしい」

陸積「…」

孫「今年から大人の部を導入した」

諸「蜜柑(みかん)ではなく西瓜(すいか)なんですね」

陸「武官の力自慢なら他でやってください!」

孫「西瓜とはいえ隠すのがルールだぞ?」

陸「私はそういう意図でやったんじゃない!」


諸「まずは甘寧(かんねい)です」

孫「一番乗りだ」

諸「…うまく隠せませんね」

孫「西瓜はデカすぎたか」

陸「だから!」

諸「落としました!」

孫「甘寧!その西瓜を落としてどうするつもりだったのだ!」

甘寧「故郷のお袋に、持ち帰りたくてよ…」

孫「三点!」

陸「…」

諸「落としたら演技審査なんですよ」


諸「凌統です」

孫「甘寧に負けじと漲っているな」

諸「…順調ですな」

孫「凌統。帰る時にはお辞儀をせよ」

凌統「!」

諸「こぼした!」

孫「凌統!その西瓜を落としてどうするつもりだったのだ!」

凌「…亡くなった父上に、届けたかったのです」

孫「満点!」

諸「見事な演技力です!」

陸「…」


孫権…次は果物のレパートリーを増やしてみようか。

諸葛瑾…息子の諸葛恪(しょかつかく)ではなく諸葛融(しょかつゆう)の方が優勝するとは思わずビックリ。

陸績…袁術(えんじゅつ)前でのみかんネタは鉄板中の鉄板である。


甘寧…初手のスイカで欲張りすぎて不細工な演技になってしまった。

凌統…つつがない演技で甘寧を圧倒していい気分。


裴松之(はいしょうし)

陸積選手権大人の部とは


進め方

①選手は西瓜を一つ以上手に取り審判から見えない様に隠す

②審判が「お辞儀をせよ」と言ったら選手はお辞儀をし、西瓜をこぼす

③審判が「その西瓜をどうするつもりだったのだ!」と言ったら選手は気の利いた一言を言って競技終了。審判は採点をする


ルール

・西瓜の数は多ければ多いほど加点される。しかし、抱えた西瓜はキチンと審判から隠さなければならない

・審判の「お辞儀をせよ」は隠す基準を満たさない限り言われない

・隠す前に落としてしまったら、その時点で審判によって③の段階に進むため、②の加点を得ることはできない


採点

・西瓜を隠した数(多いほど加点)

・隠し方のスムーズさ(スムーズなほど加点。拙いと減点)

・お辞儀の姿勢(美しいと加点)

・西瓜の落とし方の美しさ(わざとらしいと減点)

・最後の一言の語彙力と演技力(最重要要素)


以上をもってされるものとする。


孫権「おい、子布(しふ)

張昭「なんですか」

孫「最近また一日中虎狩りしてたんだけどよ」

張「辞めろと言ってるでしょう!」

孫「お前の末っ子からも上奏されてな」

張「休から?」

孫「あまりに見事な文だからよ」

張「…」

孫「お前に読ませようと思って持ってきた」

張「私をどうしたいのですか?」


孫権…これは名文だぞ。

張昭…字を子布。ならばいい加減に辞めなされ!


張昭「殿が虎狩りをやめん」

諸葛瑾「いつものことです」

張「そのうち命を落としかねないぞ」

諸「それは否定できませんな」

張「だから虞翻(ぐほん)と共に諫言すべく、我らで組織した」

諸「それは?」

張「虎穴の会だ」

諸「はあ」

張「虎穴に入らずんば虎子を得ずからとった」

諸「煽ってません?」


張昭…虞翻と次回の虎狩りで対策を取るつもりだ。

諸葛瑾…そういえば弟から面白い兵器が届きまして…


張昭「なんとしても殿に虎狩りをやめさせるぞ」

虞翻「お互いしつこいですな」

張「今回は諸葛瑾の秘策がある」

虞「驢馬の?」

張「奴の弟から虎を模した兵器が送られたという」

虞「それは」

張「なかなか見事な兵器だそうだ」

虞「それは楽しみですな」

張「なにがだ?」

虞「殿とどちらが勝つか」


孫権「!」

虎「!!」


張「またあんな至近距離で…」

虞「しかし、車の中から射るチキンプレイではありませぬか」

張「生身でやらぬだけ成長されたのだ」

虞「…」

張「そろそろ出番だ」

虞「例の兵器を?」

張「虎戦車(とらせんしゃ)!出陣!」

虞「あなたが殺すのでは?」


虎戦車「!!」

孫「なんだあれは!?」


孫「射ろ!」


張「弓など効かぬぞ」

虞「…」


孫「谷利!」

谷利「!」

虎「!!」

谷「!?」


張「谷利ごとき返り討ちよ」

虞「殺しなさんな」


孫「周泰(しゅうたい)!」

周泰「!」


張「奥の手がある」

虞「…」


虎「!!」

周「!?」

孫「火を噴いた!」


張「見たか虞翻」

虞「殿の車に引火してますよ?」


張昭…歳のせいで逃げ遅れて孫権に逆大目玉。

虞翻…さすがの健脚で見事に逃げ切った。


孫権…車が大炎上して九死に一生だが、スリルは過去一だった。

谷利…虎戦車に撥ねられた。

周泰…虎戦車の火炎で火に包まれた。


張昭「我らが呉にも、文才に秀でた者の人材登用は焦眉の急です」

孫権「…」

張「古の名君であろうと人。誤ることも大いにあることでしょう」

孫「…」

張「したがって私は、呉の地で文才に秀でた人材を求めました」

孫「…」

張「題材は、主君の野放図な狩猟への諫言です」

孫「その題材の意図は?」


孫「これは見事な…」

張「呉にも人材はいるのですね」

孫「お前の末っ子の上奏を読むと、さすがに考えざるをえない」

張「張休の上奏ですか?」

孫「執務を投げ出してまで、夕方まで狩猟をするのは慎もう」

張「大賞ですな」

孫「表彰に値するぞ」

張「感慨深いですな」

孫「やめるわけではないぞ?」


孫権…往生際が悪すぎるぞ、子布。

張昭…私も辞めさせることをあきらめませんからな。


第一回孫呉ほっぺぷにぷに選手権ハイライト


○周瑜 VS 程普(ていふ)

勝つつもり満々だった程普だが相手が悪すぎた。しかし頑なに負けを認めない潔悪さを露呈し、深夜の飲み屋で韓当(かんとう)を相手に愚痴り続けているところを目撃された


△張昭 VS 張紘(ちょうこう)

お互いに見どころのないしわしわほっぺだった


潘璋(はんしょう) VS 呂蒙○

審査員の女官が触ることを拒絶する事態に激怒し、セクハラ三昧しようとしたところで退場。交州(こうしゅう)への配流が即時決定。

呂蒙は思わぬ不戦勝。


△甘寧 VS 凌統△

よもやの遺恨試合に会場が凍りついた中、案の定双方武器を手に取り剣舞を始める事態になり痛み分け。


孫権「周瑜!次の冬に着る着物ができたぞ!」

周瑜「ありがたく賜ります」

孫「やはり周瑜には赤が似合うな」

周「しかし今まで沢山の衣類を私に下賜されましたが、他の者がどう思うか…」

孫「私と周瑜の仲ではないか!」

周「それに、いつもあつらえたかのようにぴったりな大きさで驚いています」


周「やれやれ」

小喬(しょうきょう)「またお着物を賜ったのですか?」

周「ありがたいことではあるのだが…」

小「もう我が家の棚もいっぱいですよ」

周「部屋を増やしたいところだが、呂範や賀斉ほど贅沢な家に住むつもりもないからな」

小「お断りするわけにもいきませんものね」

周「…またぴったりな大きさだ」


魯粛(ろしゅく)「また周瑜殿に衣類を下賜されたので?」

孫「おう」

魯「一体どこから仕入れているのです?」

孫「国家機密だ」

魯「阿蒙(あもう)にはあげないんですか?」

孫「あいつはダサい所がいい」

魯「…殿、紙が落ちましたぞ」

孫「それは!」

魯「…?」

孫「…」

魯「周瑜殿の採寸表…」

孫「誰にも言うなよ」


周瑜…もうクローゼットに入りきらないな。

小喬…なんとか上手に処分する道を探しておきます。


孫権…周泰や(こく)の寸法もばっちりだ。

魯粛…のってないやつもチラホラいますね。


孫権「第一回孫呉パンパンほっぺ選手権!」

諸葛瑾「出場者は?」

孫「呉軍で一番大きく口を開ける呂蒙!」

呂蒙「!」

孫「ほっぺの収容量は無限大闞沢(かんたく)!」

闞沢「!」

孫「太鼓腹の秘訣は口にあり潘璋!」

潘璋「!」

孫「ちなみに陸績はみかんをほっぺに隠したんだっけ?」

陸績「隠してません!」


孫「各々の器量にあったものをほっぺに詰め、収容量や膨張率を競う」

諸「ひまわりの種や豆、みかんもありますな」

陸「…」

孫「始め!」


呂「!」

闞「…」

潘「!!」


諸「潘璋の勢いがすごいですね」

孫「大食い大会ではないぞ!」

陸「咀嚼は反則では?」


潘「!?」


孫「喉に詰めやがった」


呂「!!!」


孫「みかんいったぞ、陸績!」

陸「よく三つも入りますね」


闞「…」


諸「闞沢殿は淡々とひまわりの種を口に入れ続けてます」

孫「奴の本領はここからだ」

陸「それは?」


闞「…」


孫「二刻経ってもまだ入れ続けられる」

陸「見事なほっぺです…」

諸「さすがは闞沢殿」


闞「…」


孫権…闞沢の優勝だ!

諸葛瑾…親友の優勝が誇らしい。

陸績…こっそり試したら、みかん一個も入らなかった。


呂蒙…準優勝。闞沢に全部持ってかれて悔しい。

闞沢…結局四刻ほっぺに詰め続けていた。

潘璋…途中から誰にも相手にされなくなってしょんぼり。


十一

大喬(だいきょう)「孫権様とのご結納、誠におめでとうございます」

小喬「本当に綺麗ね、練師(れんし)!」

歩練師(ほれんし)「…恐縮です」

小「新婚さんのお作法は私たちに任せて!」

大「分からないことがあったら、なんでも聞いて大丈夫よ」

歩「御礼申し上げます」

?「義姉上!」

大「あの足音は」

小「いつも元気ね」

歩「?」


孫尚香「兄上のお嫁さんが来るのって本当ですか!」

大「ご挨拶なさい」

小「あなたの義姉さんになるんだから」

孫「妹の孫尚香です!よろしくね!」

大「こら」

歩「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

孫「私も色々教えてあげるから!」

小「あなたの教えることっていったら」

歩「なんです?」


孫「もちろん武術!」

大「義姉様にそんなことを…」

孫「義姉様たちは、兄上の酒癖はご存知ですよね?」

小「ああ…」

孫「酔いの勢いに任せて何かあったら、嫌でしょ?」

歩「…本当に?」

孫「だから私が教えてあげるの!」

大「許可します、尚香」

孫「任せて!」

小「習っておきなさい」

歩「…」


大喬…孫策のお嫁さん。凛とした美しさの持ち主。言うときは言うタイプ。

小喬…周瑜のお嫁さん。華やかな美しさの持ち主。元気よく周瑜を支える。

孫尚香…まずは護身術レベルのサブミッションを教えたら、みるみる会得してびっくり。

歩練師…新婚さん。武術なんて初めてですけど、面白いですね。


十二

孫尚香「早速使うことになったの!?」

歩練師「あまりにお酒の匂いがキツイのに、夜伽(よとぎ)をお願いされたので、つい…」

小喬「習ってて大正解だったわね」

大喬「孫策様はそんなことなかったのに…」

孫「安心して、義姉様。私がもっと強い侍女を紹介するから!」

歩「はい!」

小「ずいぶん乗り気なのね」


孫権「…」

歩騭(ほしつ)「どうされました?」

孫「練師のことだ」

騭「娘がなにか?」

孫「お前の身内が武術を仕込んだのか?」

騭「は?」

孫「あんなに強いなんて聞いてないぞ」

騭「武術、ですか?」

孫「お前が知らないわけ…」

騭「それが、私も初耳です」

孫「なんだと!?」

騭「あの優しい練師が…?」


孫「練練〜」

練「またお酒を過ごして!」

孫「やるぞ、練練」

練「お断りします」

孫「つれないぞ〜」

練(私だって、まっすぐお願いされたら…)

孫「練練〜」

練「お覚悟!」

孫「!?」

練「妹君に習った技!四の字固めです!」

孫「尚香の奴!」

練「観念なさい」

孫「参った!」

練「…ほどけない」


歩練師…孫尚香の武術の師匠が才能を認めるレベルで上達。

孫尚香…本当に兄上ときたら…

大喬…重臣の嫁になった女の子の幸せをいつも願っている。

小喬…周瑜の隠し事を色々知ってる。


孫権…後宮に絶叫が鳴り響くも女性人気はイマイチなのでお察し。

歩騭…こっそり練師に理由を聞いて納得した。


十三

周瑜「右」

魯粛「…」

周瑜「左」

呂蒙「…」

孫権「お手本のようなウインクだ」

魯「私も殿に告げ口するときはよくやりますな」

孫「そうだな」

呂「…」

周「呂蒙?」

魯「案の定できないか?」

呂「いえ、そういうわけでは」

孫「なぜ口が半開きになるのだ」

呂「右目を閉じようとしているのです」


周「利き目じゃない方から閉じてみろ」

呂「利き目?」

魯「考えるな、阿蒙」

孫「箸を持つ手はどっちだ?」

呂「…えっと」

周「椀を持つ手まで再現しなくていい」

呂「左を閉じればいいのですか?」

魯「俺たちに聞くな」

呂「…」

孫「だからどうして口が半開きになるのだ!」

呂「目が閉じなくて」


周「両目をつぶれ、呂蒙」

呂「はい」

周「右目だけ開けろ」

呂「…」

孫「…」

呂「…」

魯「口じゃない!」

周「左目だけ開けよ!」

呂「えっと…」

孫「茶碗を持つ手だ!」

呂「え?」

魯「いちいち食事の構えをとるな!」

呂「…」

孫「なぜ口元がひくひくするのだ!」

呂「え?」

周「やれやれ」


孫権…呂蒙の顔芸で大笑い。

周瑜…ウインクから流し目まで自由自在。

魯粛…彼もなかなかすましたウインクをしてくる。

呂蒙…安定のぶきっちょ。


十四

孫権「案の定呂蒙はウインクができなかったな」

魯粛「三日後にできるようになってたらいいですな」

孫「士別れて三日なれば、即ち更にウインクして相待すべし」

魯「上手い!」

張昭「なにを盛り上がっているので?」

孫「呂蒙がウインクができなくてな」

虞翻「はあ」

孫「口が半開きになるのだ」


張「ウインク…」

魯「いや、あんたはできてもできなくてもどうでもいい」

孫「老眼で顔を顰めてるようにしか見えんからな」

張「…」

虞「殿はできるのですか?」

孫「私?」

虞「試されてないので?」

魯「それはフェアじゃないですな」

孫「私が出来ぬわけないだろう」

虞「では右から」

孫「!」


虞「頬に力が入りすぎでは?」

孫「閉じていればいい」

虞「では左」

孫「…」

虞「両目をつぶっているように見えます」

孫「いや、開いてる」

魯「目の力を分散させて!」

孫「…」

虞「口周りが賑やかですな」

魯(さっき見たぞこの顔)

孫「…」

虞「碧眼児(へきがんじ)様がそれでは示しが」

孫「三日待ってくれ」


孫権…片方できるようになって、これ見よがしに見せつけるのがウザい。

魯粛…似た者同士だ。

張昭…必死で練習してるところを張休に見られた。

虞翻…ウインクよりアカンベェの方が得意。


1五

甘寧「www」

蒋欽(しょうきん)「www」

周瑜「何を遊んでいる?」

甘「周瑜もやってみろよ!」

蒋「刮目(かつもく)して相対ゲームです」

周「それは?」

甘「右と言ったら右目を閉じて、左と言ったら左目を閉じる」

蒋「刮目!と言ったら刮目して良い顔をするのです」

周「面白そうだ」

甘「さすが美周郎だぜ」

蒋「相対す!」


蒋「右!」

周「!」

蒋「左!」

周「!」

甘「美男の暴力だ」

蒋「刮目!」

周「!!」

甘「眩しい!」

蒋「イケメンに吹き飛ばされる!」

周「…あつらえたように」

甘「カモだな」

蒋「おい、呂蒙!」

呂「なんだ?」

周「刮目せよ!」

呂「!!」

甘「www」

蒋「なんていい顔をしやがるんだ!」


周「右で右目を、左で左目を閉じ、刮目で良い顔をするのだ」

呂「善処します」

周「右!」

呂「…」

甘「www」

蒋「口じゃない!」

周「左!」

呂「…」

甘「www」

蒋「片目を開け!」

周「刮目!」

呂「!!」

甘「wwwww」

蒋「無駄にいい顔しやがるぜ」

周「右!」

呂「…」

周「刮目!」

呂「!!」


周瑜…顔だけじゃなく声もいいイケメンの暴力。

呂蒙…笑われるのが釈然としない。

甘寧…彼もウインクは下手くそ。笑った凌統と大喧嘩。

蒋欽…無難にできた。無難すぎてあまり面白くないのが悩み。


十六

魯粛「身体を洗う施設とは」

周瑜「たまにはゆっくり湯に浸かるのも悪くない」

魯「阿蒙。手拭いを忘れて湯船にくるな」

呂蒙「失敬!」

周「殿はまだか?」

魯「ご主君?」

孫権「…」

周「早く湯に浸かりましょう」

魯「裸の付き合いも乙なもんですよ」

孫「…」

魯「…何故布で全身を隠すのです?」


孫「…周瑜も魯粛も呂蒙まで、いい身体をしているのだな」

周「殿?」

魯「私はまだしも、二人は軍人ですから」

呂「遅参しました」

周「少し太ったな、呂蒙」

呂「…それが、以前に比べて運動量が激減したものでして」

魯「無駄な筋肉より今後の知恵だ」

孫「布を纏って湯船に入っては駄目なのか?」


魯「それはマナー違反ですよ」

周「男同士恥ずかしいことはないでしょう」

孫「…周瑜はそうだろうが」

魯「潔く入りましょう」

孫「…笑うなよ」

周「?」

孫「…」

周・魯「!?」

呂「ええ!?」

魯「馬鹿!」

孫「…油断していた」

周「まだお若いのに、そのお腹はちょっと…」

孫「言わないでくれ…」


孫権…日頃の不摂生が祟りに祟ってこの始末。

周瑜…さすがの細マッチョ。

魯粛…顔に似合わずマッチョ。

呂蒙…ゴリぽちゃマッチョ。


十七

魯粛「殿のダイエット企画を進行することとなりました」

孫権「嫌だ!」

魯「運動担当、程普殿」

程普「容赦しませんぞ」

魯「献立担当、闞沢殿、歩騭殿」

闞沢・歩騭「よろしくお願いします」

魯「禁酒管理担当、顧雍(こよう)殿」

顧雍「…」

魯「計量担当、張昭殿、張紘殿、虞翻殿」

孫「無駄に多くないか」


虞翻「無駄なのは殿の贅肉です」

張昭「いつも酒は控えろと口を酸っぱく言っているでしょうが」

張紘「孫策様は立派な体躯でしたぞ」

孫「もうウンザリしてきた」

顧「観念してください」

魯「この日までに減量できなかったら…」

孫「なんだ」

魯「虞翻殿の(えき)講座と張昭殿の小言一日分です!」

孫「」


孫「程普の調練がこれほど厳しいとは」

闞「食事をお持ちしました」

孫「待ってたぞ!」

歩「こちらです」

孫「…」

闞「お召し上がりください」

孫「…これは?」

闞「ひまわりの種を炒ったものです」

孫「これは」

歩「野草のおひたしですが?」

孫「今飢饉なのか?」

闞「今年の米も豊作ですよ?」


孫権…一日目にして腹の虫が鳴り止まない。

魯粛…周瑜と企画メンバー編成を担当。


程普…呉の鬼軍曹。

闞沢…原価ゼロ銭の献立作りに自信あり。

歩騭…食べられる野草選びの達人。

顧雍…彼の目を盗んで酒を飲むことは不可能。

張昭…小言を言い放題。

張紘…苦言を呈し放題。

虞翻…ディスり放題。


十八

程普「今日の調練は助っ人をお呼びしております」

孫権「誰だ」

程「妹君とその侍女たちです」

孫尚香「私たちで兄上を叩きのめしていいのね!」

程「それは如何様にも」

権「なんだと!」

程「十人連続で立合い、一本取り続ければ終了です」

権「なんだ造作もない」

尚「言ったわね!」

程「始め!」


権「これで三人!」

程「四人目用意!」

侍女A「参ります」

権「暑くなってきたから上を脱ぐぞ」

程「どうぞ」

権「!」

A「うわっ…」

B「嘘でしょ…」

C「あの腹は無いですよね、姫様」

尚「最低ね」

権「!?」

程「始め!」

権「待て!」

A「!」

権「!?」

程「一本!」

権「精神攻撃は無しだろ!」


尚「私にたどり着く前に負けるなんて」

程「一人目からやり直しです」

権「嘘だろ!」

程「一人目用意!」

権「くそっ!」


権「覚悟しろ尚香」

尚「ぶよぶよ兄上なんかに負けるわけない」

権「ぶよぶよとか言うな」

A「でもあのお腹は無いわよね」

権「黙れ!」

尚「隙あり!」

権「!」

程「一本!」


孫権…人生で一番カロリーを消費した日になった。

程普…実は孫権のお腹の惨状を見て笑いを堪えていた。

孫尚香…武芸自慢の妹。最後はお情けで負けてあげた。

侍女A…周瑜ファン

侍女B…呂範ファン

侍女C…魯粛ファン


十九

孫権「腹の虫が鳴り止まないというのに…」

闞沢「本日のお夕食をお持ちいたしました」

孫(今日もこいつらの原価ゼロ銭飯を食わんといかんのか)

歩騭「今日のお夕飯は腕によりをかけました」

孫「それは?」

歩「練師が殿の頑張りを応援したいと申しておりましたからな」

孫「本当か!」

闞「こちらです」


歩「我らと練師の自信作です」

闞「どうぞお召し上がりください」

孫「…」

歩「殿?」

孫「…どこに腕によりをかけたのかを聞かせてくれないか?」

歩「野草の炒め物は殿のため、練師が頑張りました」

孫「それは?」

闞「殿が油がほしいと言われたので、胡麻と菜種の油を丹念に絞られて…」

孫「…」


孫権…体重こそ減りつつあるかもしれないが、諸々のストレスが半端ない。

闞沢…季節の野草の吸い物やデザートの瓜もありますよ!

歩騭…練師も料理が上手くなりました。

歩練師…孫権の嫁。孫権のダイエットを応援する一心で頑張っている姿は微笑ましい。


二十

魯粛「ご主君!ご機嫌麗しゅう!」

孫権「貴様にはこの顔が麗しく見えるのか?」

魯「まあまあ」

孫「もう限界だ、魯粛」

魯「分かりました」

孫「やっと終わりか!?」

魯「それは無い」

孫「…」

魯「しかし、ご主君にチートデーを設けるチャンスをお与えしましょう!」

孫「普通に設けないのかよ」


魯「この館に隠されている四海の美味や美酒を誰にも見つからずに持ち帰れたら、それらを心ゆくまで飲み食いして結構です」

孫「ほう」

魯「つまみ食いが発覚したり、屋敷の者に見つかった時点で終了です」

孫「屋敷を守る者は?」

魯「それは行ってからのお楽しみ」

孫「私は楽しくもなんともない!」


孫「迂闊に動けん」

?「…」

孫「あいつは…」

顧雍「…」

孫「顧雍が館の主か」

顧「…」

孫「…あれは私の秘蔵の美酒!」

顧「…」

孫「顧雍もチョロいな」

顧「…」

孫「さて、まずはこの甕を」

顧「殿」

孫「!?」

顧「お返しください」

孫「顧雍が二人!?」

顧「あれは徐盛のハリボテです」

孫「」


孫権…せめて香りだけでも嗅がせてくれ!

顧雍…なりません。

魯粛…ノリがいい時と塩対応の時の温度差が激しい。風邪ひきそうになるほど。

徐盛…大道具担当。クオリティに定評あり。


二十一

孫権「一番憂鬱な時間だ」

張昭「早く乗りなされ」

孫「分かってる」

張紘「それではお着物を」

孫「…」

虞翻「うわっ」

孫「虞翻」

虞「頑固な脂肪ですなあ。誰に似たのやら」

孫「それは教えてほしいな。優秀なる我が脂肪たちよ」

昭「我らが張子房(ちょうしぼう)とは、そんな」

虞「嫌味を言われてるんですが?」


紘「体重は減少傾向ですが、体脂肪の落ちが芳しくないですな」

孫「脂肪ではなく、心身に大切なものをみるみる損なっているからな」

昭「それは由々しい…」

孫「この腹をなんとかしたい気持ちは私が一番持っているだろう」

紘「…」

孫「だが、あまりにも我慢を強いらされすぎているのではないか?」


虞「この程度の試練を我慢できねば、呉を統治するなぞ夢のまた夢ですぞ」

孫「お前は主君への嫌味な言動を我慢しろ」

紘「最終計量の日まで残り少なくなりましたからなあ」

昭「あの狂児が次に何を考えてくることやら」

孫「まだ何かやらされるのか?」

虞「脂肪を燃やすために腹に蝋燭を」

孫「虞翻」


孫権…空腹やらストレスやらでだいぶ怒りの導火線が短くなっている。

張昭…孫権のためを思っているようだが、どうも的外れ感が否めない。

張紘…健康に痩せないと意味がないのではと思ってくれる、数少ない良識派。

虞翻…主君の怒りを察知すると自慢の健脚ですぐに逃げ出す。


22

朱然「今日は弓術で身体を絞りましょう」

孫権「弓を絞るばかりで身体が絞れるなら苦労はせんがな」

朱「またそんな減らず口を」

孫「まったく、小言ばかりの張昭爺の家に火矢でもぶち込んでやろうか」

朱(いつかやりそうだな、この殿)

孫「せっかくだから騎射をしないか、義封(ぎほう)

朱「承知しました!」


孫「あれだけ狩りに出て、馬に乗っているはずなのに、ガンとして落ちない脂肪が憎くてたまらん」

朱「まあまあ」

孫「しかし揃いの白馬に乗るのも久しぶりではないか?」

朱「まったくですな!」

孫「そういえばお前、惚れてた尚香の侍女はどうなった?」

朱「蒸し返さないでください!」

孫「おや?」


孫尚香「ぶよぶよ兄上が白馬に乗ってるわ!」

侍女A「白馬の王子は周瑜様ですよね」

B「呂範様よ!」

C「魯粛様です!」

権「囀るな!」

朱「!」

D「朱然殿?」

朱「ご機嫌よう!」

権「!」

朱「…」

権「お前は誰のファンだ?」

D「私ですか?」

朱(殿!)

D「…孫策様です」

朱「」

孫「そうか…」


孫権…ダイエット企画が終わったら、やけ酒に付き合う約束をした。

朱然…字を義封。小柄な身体がもっと小柄に見えた。


孫尚香…結婚なんて考えたことないわ。

侍女A…周瑜の笑顔でご飯三杯。

侍女B…呂範の歩いた後の残り香でご飯三杯。

侍女C…魯粛の声を聞いただけでご飯三杯。

侍女D…孫策の立ち姿は忘れない。


二十三

闞沢「今宵の食事は我らが死力を尽くしました」

孫権「はあ…」

歩騭「華佗(かだ)殿の薬草図鑑を片手に、脂肪を燃焼させる野草をこれでもかと取って参りました」

闞「殿のお腹もこれでみるみるお凹みになるに違いありません!」

歩練師「召し上がれ!」

孫「…用法と容量を守って摂取する野草ではないか?」


孫「苦い!渋い!」

練「旦那様!頑張って!」

孫「腕を空けた途端に次の野草を盛らないでくれ!」

歩「私の故郷ではそうして食べるのですよ」

闞「お口に合いませんか?」

孫「蓼食う虫みたいな食生活してたんだな、お前たち」

練「よく噛んで召し上がって」

孫「苦くて渋くて妙に辛い!」

練「まあ」


孫「!!」

練「旦那様?」

孫「…厠だ」

練「まあ、お行儀が悪い」

孫「言ってる場合ではない!」

歩「殿!」

闞「お待ちくだされ!」


孫「厠!」


孫「!!!」


孫「…韓当」


孫「韓当!!」

韓当「殿?」

孫「韓当…」

韓「…何事です?」

孫「…呼んでみたかっただけだ」

韓「公覆(こうふく)ですかい?」


孫権…その日は尻から出し切るまで韓当を厠に付き添わせた。

闞沢…腹を下す理由が分からずむしゃむしゃ。

歩騭…久しぶりの故郷の味に舌鼓を打ちつつばりばり。

歩練師…ほんわか優しくお上品な奥様。彼女も余裕で野草をパクパク。

韓当…呉軍では厠で困ったことがあったら、彼の名を呼ぶと助けに来てくれるジンクスがある。きっかけは黄蓋(こうがい)(公覆)。


二十四

魯粛「ご主君ダイエット企画最終計量!」

程普「我らの働きがどれほど殿のためになれたか」

闞沢「そのせいで、ひまわり畑が更地になってしまいましたが」

歩騭「瓜畑にするにも広すぎます」

顧雍「…」

虞翻「ハムスターならまだ可愛げがあるのですが」

張昭「グラフの推移はどうだ、子綱(しこう)殿」

張紘「順調ならばクリアですが…」


孫尚香「ぶよぶよ兄上のお腹はどうなったかしらね」

侍女A「周瑜様のスマートなお腹は無理ですよ」

B「呂範様のシックスパックも」

C「魯粛様だって立派じゃない?」

D「孫策様は完璧でした」


魯「ご主君入場!」

孫権「…」


尚「なにあの派手なバスローブ」

A「拳闘士の公開計量みたいですね」


魯「ご主君!お願いします!」

権「!」


尚「あ〜」

A「痩せたといえば痩せましたけど」

B「言うほどでもない」

C「カッコつけてバスローブ脱いだわりにはね」

D「なにあのトランクス」


権「!」

魯「乗りました!」

権「!?」

魯「100gオーバーだ!」


尚「とんだ茶番ね」

A「水くらい抜きなさいよ」


魯粛…必死で盛り上げたけど落胆は否めない。

程普…感情が迷子に。

闞沢…ひまわりの種も食べすぎたら…

歩騭…練師もガッカリしてた。

顧雍…珍しく酒を呷った。

虞翻…ディスる気にもなれない。

張昭…なんとも締まりませんな。

張紘…字を子綱。100g絞るまでサウナに閉じ込めましょう。


孫尚香…私たちはああならないようにしないとね。

侍女A…周瑜様の苦笑いも素敵。

侍女B…尚香のあしらいを見て呂範ファンに。

侍女C…魯粛様も残念そう。

侍女D…所詮孫策様には敵いませんね。


孫権…死ぬ気でダイエットしたのに、結局誰からも何も言われなかった。


二十五

孫権「あの呂蒙が子敬の後任になるとはな」

呂蒙「謹んでお引き受けいたします」

孫「あの時お前と蒋欽に学問を勧めていて本当に良かった」

呂「今の私があるのは殿のおかげです」

孫「あれだけの学問を積んだのだ。書物を集めるのも苦労しただろう」

呂「はい」

孫「書物にかかった金銭は私が払うぞ」


呂「書物の借金はございません」

孫「そうなのか?」

呂「ただ、恥ずかしながら別件で借金がございます…」

孫「別件?」

呂「…言うのも恥ずかしいのですが」

孫「風向きが変わってきたな、子衡(しこう)

呂範「ええ」

蒙「私が殿に初めて引き立てられた時のことを覚えてらっしゃいますか?」

孫「…ええと」


蒙「落第兵をご検閲された時に」

孫「お前らだけ赤備えだった!」

蒙「その時の赤備えの衣類と脚絆(きゃはん)の借金が…」

孫「お前あれ、借金して揃えてたのか!?」

蒙「仕立て屋にツケで頼みました」

孫「子衡が卒倒している…」

範「私に頼めば、あんなクソダサ赤備えなんて用意させなかったのに…」

蒙「…」


孫権…急な発注な上に量も揃えて赤く塗る手間もかけることになったから、手数料が嵩みに嵩んで未だに払っているだと!?

呂蒙…三十六回の支払いと賞与が出たらその分も返済に充てております。

呂範…字を子衡。三十六回払いの分割手数料を計算しただけで本気で頭を抱えた。


二十六

孫権「いつみても賀斉(がせい)の軍は派手だな、子衡」

呂範「派手にする意図は分かりますが、限度はあります」

孫「お前の着物は派手ではないのか?」

呂「あくまでも私個人で、自分の禄の範囲内でのことですから」

孫「たしかにそれなら他人が文句を言うことではないか」

呂「賀斉の派手は理解できかねます」


賀斉「ご機嫌よう!ご主君!」

孫「これまたピカピカの鎧だな、賀斉」

賀「我が一族お抱えの職人集団が技の粋を尽くしました!」

呂「この鎧一つ作るだけで、一体兵何名分の装備が用意できるやら」

賀「俺の派手が理解できぬとは、派手者の呂範殿のご発言とは思えませぬな」

呂「君の派手は浪費だよ」


賀「我が一族が相応の賃金を払っているのだから良いでしょう」

呂「限りある物資や職人を君の軍だけで独占されては困るんだ」

賀「悔しければ金を出せば…」

呂「君は呂蒙の赤備えを覚えていないか?」

賀「赤い彗星軍!」

孫(そんな名前が)

呂「あれ、借金してまで揃えたらしいぞ」

賀「嘘でしょ!?」


孫権…あの時は可愛げがあると思って引き立てたんだが、よもや同僚の伝説になっていたとは…

呂範…一月もしないうちに、呂蒙配下の兵の半分以上の塗装がボロボロになってて見るに堪えなかった思い出。

賀斉…あんな赤備え着させられるくらいなら自裁します。マジで。


[蜀]


乱世の風来坊劉備と愉快でしぶとすぎる仲間たちの流浪の行方は。

このこばなしは、蜀科(しょくか)制定編から始まりました。


徐庶「水鏡(すいきょう)先生はどこか知らないか?」

孔明(こうめい)「今日はまだお会いしていません」

徐「書物を借りに来たんだがな」

孔「勝手に借りる訳にもいきませんね」

龐統(ほうとう)「お〜い、二人とも」

徐「士元(しげん)?」

龐「先生がお呼びだよ〜」

徐「先生はどちらに?」

龐「…まあ、とりあえずついてきておくんな」

徐「?」


徐「どこまで行くつもりだ?」

龐「行けば分かるよ」

孔「立派な桑の木が…」

徐「こんなに大きな木があったなんて」

龐「先生〜」

司馬徽(しばき)「おお、徐庶に諸葛亮(しょかつりょう)。よいぞよいぞ」

徐「あんな高いところに!」

司「見晴らしがよいぞよいぞ」

孔「もしや降りれなくなってませんか?」

司「…降ろしてほしいぞほしいぞ」


龐「行きはよいぞよいぞ帰りは怖いぞってね」

徐「俺が登るか?」

孔「降ろす者が増えるだけです」

司「よくないぞよくないぞ」

孔「私が」

龐「どうすんだい?」

孔「暫しお待ちを」


徐「まだかな」

孔「遅参しました」

龐「なんだ!?」

孔「雲梯(うんてい)です」

黄月英(こうげつえい)「私が指揮します」

司「よいぞよいぞ」


孔明…姓名を諸葛亮。嫁との共同作業で救護が捗ったのなんの。

徐庶…見事な指揮と技術だ。

龐統…字を士元。降りれなくなった猫ならまだしも先生だからねえ。

黄月英…孔明の嫁さん。図面とアイデアに定評あり。

司馬徽…孔明ズの先生。高い木にむやみやたらと登りたがるが、それはバカと紙一重なのではないか。


龐統「また先生が木登り始めちまったよ」

徐庶「それでまた降りられなくなったのか?」

龐「ご明察」

孔明「やれやれ」


司馬徽「皆の者。よいぞよいぞ」

徐「この間の倍高いじゃないか!」

司「諸葛亮。雲梯を」

孔「無理です、先生」

司「なぜぞなぜぞ?」

孔「これは届きません」

龐「嫁さん連れてきな」


黄月英「私にお任せを」

司「よいぞよいぞ」

龐「そのでっかい布団みたいなのは?」

黄「これで先生の落下の衝撃を吸収できます」

孔「さすが月英」

徐「するとつまり先生が」

黄「飛び降りてください、先生!」

司「…怖いぞ怖いぞ」

孔「布団をもっと用意しますか?」

司「違うぞ違うぞ」

黄「もう」


龐「肚据えなさいよ、先生!」

徐「もう木登りは禁止ですからね!」

司「嫌ぞ嫌ぞ」

孔「とりあえず地面に衝突しない範囲に敷き詰めました」

黄「早く!」

司「嫌ぞ嫌ぞ」

孔「元直」

徐「!!」

司「!?」

龐「木をぶん殴りやがった…」

司「!?」

徐「…」

孔「月英」

黄「反発力が強すぎましたわ…」


孔明…もっと薄くしますか?

黄月英…それだと衝撃に耐えられないかもしれません。

徐庶…さすがのパンチ力。

龐統…アホくさくて居眠りを始めた。

司馬徽…叩き落とされたはよいものの、結局跳ね返って元の木阿弥。


龐統「劉表(りゅうひょう)の旦那から手紙がきたよ〜」

徐庶「劉表殿から?」

孔明「士官の誘いならお断りです」

龐「それがねえ」

徐「?」

龐「先生が旦那の所に遊び行っただろう?」

徐「ああ」

龐「でっかい城の屋根に登っちまって」

孔「…降りられなくなったと」

龐「ご明察」

徐「孔明。月英殿を」

孔「はい」


龐「襄陽(じょうよう)から新野(しんや)まで交代で兵隊さんが走ってきてくれたようだが」

徐「既にかなりの日数がかかっているな」

孔「飢えも渇きも限界ではないでしょうか」

龐「そんな死に方ごめんだよ」

徐「俺たちが旅してる間に亡くなってしまうぞ!」

黄月英「任せてください」

龐「あんたがどうにかできるのかい?」


黄「まだ試作ではありますが、緊急時なので」

孔「あれですか」

徐「あれ?」

黄「虎車(とらぐるま)!」

龐「なんだいありゃ!?」

徐「どうやって勝手に動いてるんだ?」

黄「禁則事項です」

孔「歩いて行くより十倍早く着けます」

龐「そりゃすごいね」

黄「飛ばしていきますよ、皆さん!」

徐「どうなることやら」


孔明…思ったより遅いですね。

黄月英…四人乗っていますから、やむなしです。

龐統…歩いて行くより早けりゃなんでもいいさ。

徐庶…シートベルトを締めておけよ、士元。


黄月英「着きました」

龐統「まさか土に車が埋もれて動けなくなっちまうとはね」

孔明「反省して次に活かしましょう」

徐庶「次があるのか?」

伊籍(いせき)「水鏡門下の皆さん!」

孔「先生のご様子は?」

伊「まだ辛うじて大丈夫かと思われますが…」

徐「急ごう!」

龐「どれくらいの高さの屋根なんだい?」


伊「あちらの屋根に…」

徐「…嘘だろ?」

龐「前世は間抜けな猫だね、きっと」

孔「雲梯の用意はございますよね?」

伊「…それが」

黄「無いのですか?」

伊「劉表様が戦を暫し休止するにあたって、悉く解体してしまい…」

龐「あてが外れたにもほどがあるよ」

徐「これで助ける方法があるのか?」


蔡瑁(さいぼう)「やっと来たか!」

蒯越(かいえつ)「殿も心配されているが」

孔「雲梯も無くては手の施しようがありません」

蔡「わざわざ師を見捨てに来たのか!」

龐「あたしらが間に合っただけ良かったと思いなさいよ」

徐「今から雲梯を組み立てるか?」

黄「…緊急事態ですので」

孔「まさかあれを…」

龐「今度は?」


孔明…危険は承知の上ですか?

黄月英…しかしこれしか方法はございません。

龐統…なんだいその小瓶は。

徐庶…先生がどうやって登ったか分かりますか?

伊籍…劉表様が目を離した隙に、屋根に登っていらしたと…

蔡瑁…迷惑な隠者だな!

蒯越…攻城兵器を全て解体する必要はないと申し上げたのに…


黄月英「この薬を使います」

龐統「それは?」

黄「身体の細胞をやたらデカくして巨大化する薬です」

徐庶「もう何でもありなんだな」

龐「飲んで平気なのかい?」

黄「…おそらく」

徐「嫌な間があったな」

孔明「そう言わず」

蔡瑁「さっさと知恵を出さんか!」

蒯越「あまり怒りなさんな、蔡瑁殿」


黄「巨大化する薬を飲んでいただける勇気ある殿方はおりませんか?」

龐「あっしがやるよ」

徐「いや、俺がやる」

孔「私がやります」

蒯「いやいや(それがし)が」

蔡「ならば私が」

一同「どうぞどうぞ」

蔡「!?」

黄「細胞をデカくする薬ですので、蔡瑁様ほどの適任者はおりません」

蔡「嵌めたな貴様ら!」


龐「旦那の良いとこ見てみたい」

徐「一気!一気!」

蔡「黙れ学生ども!」

蒯「いいから飲まんか!」

蔡「!?」

黄「皆さん退避してください!巨大化が始まります!」

龐「先に言っとくれ!」

蔡「!?」

孔「大成功ですね…」

黄「治験すらしていなかったというのに…」

龐「聞かなかったことにするよ」


孔明…水鏡先生はご無事ですか?

黄月英…辛うじて息はございます。

龐統…水と(あつもの)を持ってきておくれ。

徐庶…俺が持ってくる。

司馬徽…良…い…ぞ…良…い…ぞ…


蒯越…劉表の側近。意外にノリが良かった。

蔡瑁…巨大化して屋根から水鏡先生を助けてくれた、けど…


孔明「水鏡先生の救出には成功しましたが、新たな問題が浮上してしまいました」

龐統「参ったね」

黄月英「身体をデカくすることばかり考えていた私が愚かでした…」

徐庶「水鏡先生を助けるためだ、仕方ないさ」

蒯越「そうは言うがなあ、お主たち…」

蔡瑁「私の身体を元の大きさに戻せないだと!」


劉表「何事だ!」

伊籍「蔡瑁殿!?」

劉「どうしてそんなに大きくなってしまったのだ?」

蔡「何故でしょうか」

孔「真面目に頑張ったから、ではないですね」

蔡「やっとる場合か!」

劉「城が崩れる!」

伊「水鏡先生を助けるために巨大化させたと…」

黄「緊急時でしたので」

劉「なんということだ」


黄「私たちでなんとかする方法を見つけます」

蒯「よろしく頼む」

劉「私も華佗を呼べないか、使者を立てよう」

伊「私が参ります」

孔「それでは今日はこの辺で」

蒯「そうですな」

龐「やれやれ」

蔡「貴様らまさか解散するつもりか!」

黄「しょうがないじゃないですか」

劉「暫しの辛抱だ、蔡瑁」


孔明…車もないので旅の支度をして帰りましょう。

黄月英…近所の薬草でなんとかなるかしら。

龐統…飯とか糞とかどうすんだろうね、元直(げんちょく)

徐庶…字を元直。俺たちが考えることじゃないさ。


劉表…城の外で待機してくれ。

蒯越…城壁を壊すなよ!

伊籍…大急ぎで華佗の元へ。

蔡瑁…城の外で野晒しにされてる。


龐統「まさか新野から蔡瑁の不細工が見えるくらいデカくなっちまうなんてねえ」

孔明「デカくなる上限は分かりますか、月英?」

黄月英「全くの未知数です」

徐庶「本当に飲まなくてよかったな、俺たち」

伊籍「皆さん!」

徐「伊籍殿」

伊「華佗先生が、襄陽に着到されました」

孔「行きましょうか」


伊「あの乗り物は一体?」

黄「虎ジープといいます」

孔「前回の反省を活かせましたね」

龐「乗り心地は最悪だったよ」

徐「…吐きそうだ」

劉表「おう、着いたか」

華佗「…」

蒯越「治せますか、華佗先生?」

華「身体が大きくなったというから、何かの腫瘍かと思っていたが…」

劉「治せぬのか?」


華「治す治さぬ以前に私の専門外だ!」

劉「なんだと!」

華「私は医者であってマッドサイエンティストではない!」

蒯「確かに」

華「そもそもどうやってデカくしたというのだ!」

黄「細胞をやたらデカくする薬を作ったのは私ですが」

華「貴様が元凶のマッドサイエンティストか!」

黄「失礼な!」


孔明…妻をマッドサイエンティスト呼ばわりされてムッとした。

黄月英…この調合リストを見て同じことを言えますか?

華佗…人に飲ませていい薬草が一つもない!

劉表…役に立たんな。

龐統…飯と糞はどうしてる?

徐庶…教えてください。

伊籍…食事は兵糧庫、排泄は河で…

蒯越…なんか慣れてきた。


華佗「私ではどうしようもない」

黄月英「ならば私の開発した細胞を無闇に小さくする薬を使います」

孔明「やむなしですね」

華「違法薬物としか思えんが、見なかったことにしてやる」

黄「医術に使いませんか?」

華「使わん!」

蒯越「まあまあ」

徐庶「それで、誰が蔡瑁に渡しにいく?」

龐統「…」


黄「この中で私の薬をやたらデカい蔡瑁殿に渡す勇気のある殿方はおりませんか?」

孔「元直。脇に穴が」

徐「その手にはかからんぞ、孔明」

華「劉表様、脇腹のあたりに虫がおりませぬか?」

劉表「なに!」

黄「荊州刺史様自らが渡されるとは!」

劉「謀ったな、華佗!」

華「失礼。見間違えでした」


黄「一本しかありませんので、くれぐれも落として割らぬように」

劉「なぜ予備がないのだ!」

蔡瑁「…薬」

龐「小顔になったんじゃないかい」

蒯「痩せたな、蔡瑁殿」

徐「身体がやたらデカいのを無視するな」

劉「蔡瑁!」

蔡「薬」

劉「手がデカい!」

蔡「!?」

黄「自分で瓶を割ったら世話ないわ」


孔明…そういえば、身体を小さくする前に、蔡瑁を曹操軍に突撃させたらよかったのでは?

龐統…そういうのは小さくする前に言いなよ、孔明。

徐庶…確かに戦で使うのはありだったな。

黄月英…華佗殿に調合リストを没収されてしまいました…


劉表…荊州の兵糧の備蓄と衛生面で大ダメージ。

蒯越…萎んでよかったな、蔡瑁殿。

蔡瑁…指を舐めたらなんかちょうど良く縮めたらしい。よかったね。


華佗…麻沸散(まふつさん)の調合リストと同じくらい厳重に管理し始めた。


黄月英発明品

虎車…何を原動力に動かしているのかは秘中の秘だが、歩くより速く移動することができる乗り物。車輪が悪路に対応できず埋もれてしまったのが誤算だった。

虎ジープ…車輪を悪路に取られたことを反省し、馬力を上げ悪路も対応できる車輪にしたが、乗り心地は最悪で酔わない者はいない。


巨大化薬…人体の細胞をやたらデカくすることで巨大化することができる薬。華佗曰く、人体に使ったら大惨事になる薬草しか使ってなかったという。

小人化薬…人体の細胞を無闇に小さくすることで小人化することができる薬。孔明の住居近隣にはこんな物騒な薬草しか生えてないのだろうか…


徐庶「あとは書物屋を巡って…」

ならず者A「!」

徐「…失礼」

A「待ちな、書生さんよ」

徐「…」

B「兄いに肩ぶつけて言うことはねえのか?」

徐「失礼、とお詫びしましたが」

A「それだけで詫びのつもりか?」

B「兄いに失礼じゃねえの?」

徐「…」

A「這いつくばれ」

B「早くしろ!」

徐「おい」


A「…なんだよ!」

徐「汚い手で俺に触るな」

B「野郎!」

徐「しばき倒すぞ?」

司馬徽「おう、徐庶!よいぞよいぞ」

徐「…」

A「逃げろ!」

B「なんだあの爺?」

徐「また懲りずに木登りを…」

司「高いぞ高いぞ」

徐「この高さなら降りられますよね」

司「徐庶?」

徐「失礼します」

司「徐庶!」


徐「孔明の雲梯を使うほどでもありません」

司「怖いぞ怖いぞ」

徐「じゃあどうして登るのです?」

司「ノリぞノリぞ」

徐「揺らしますよ」

司「待てぞ待てぞ」

徐「蜂蜜水でも塗れば降りてこれますか?」

司「甲虫ではないぞないぞ」

徐「じゃあ木を殴りますので…」

司「やめぞ!やめぞ!」

徐「!」


徐庶…撃剣の使い手ながら、拳も強い。

司馬徽…日に日に弟子からの扱いが悪化している事にようやく気づいて危機感をもった。


A…あの爺は何者だ?

B…何してくるか分からねえ爺でしたぜ。


徐庶「先生、いい加減にしてください」

司馬徽「…」

龐統「あたしらの迷惑だけでもごめんなのに、住んでるみんなにも迷惑かけてるんだよ?」

司「…」

孔明「雲梯を運ぶ大変な労力や住民の皆さんの多大なご協力が必要なのは、ご存じですよね」

司「…」

黄月英「今日という今日は厳しくしますからね」


徐「このひと月は、この首輪をかけて生活されてください」

龐「私は懲りもしないでまた木に登って降りられなくなり孔明の雲梯を緊急出動させました、とね」

孔「外すことは先生だとしても断固許しません」

黄「私たちの怒りをキチンとご理解いただかないと、今後私たちが被害を被りますゆえ」

司「…」


司「…」

ならず者A「おい、あの爺!」

B「あの時の!」

A「何を首にぶら下げてんだ?」

B「字は読めねえっす」

徐「先生に用か?」

A「てめえは!」

B「先生!?」

徐「俺の先生だ」

A「…どうしてあんたの先生にあんな酷いことするんだい?」

B「先生ってそんな雑に扱っていいお人なのか?」

徐「!?」


徐庶…思いもよらぬ者から真っ向から論破されて動揺が隠せない。

孔明…学問の師であったことなど、すっかり忘れていましたね。

龐統…そういえば最近学問サボってたねえ、あたしら。

黄月英…それはそれとして、ひと月は首にかけてもらいますからね。

司馬徽…木登り禁止令を破りに破ってこの始末。


A…学問の世界って怖えんだな。

B…俺らも字が読めないなりに真っ当な生き方探しましょうぜ。


十一

孫尚香「初めてあんたの所に来たけど、強そうな男が一人もいないわね!」

劉備「…おまえそれ雲長(うんちょう)益徳(えきとく)に言えるのか?」

孫「万夫不当の豪傑は男に含めないの!」

劉「じゃあ子龍(しりゅう)黄忠(こうちゅう)魏延(ぎえん)はどうだ?」

孫「バリバリ戦で戦ってる武官もなし!」

劉「…随分身勝手なお嬢さんなんだな、おめえは」


孫「私に敵う男はここにはいないの?」

劉「じゃあ俺は?」

孫「あなた強いの?」

劉「伊達にこの乱世をしぶとく生き延びてねえぞ?」

孫「しぶとく生き延びるだけなら兄上の部屋のゴキブリでもできるわ」

劉「…不本意な結納なのは分かってるつもりだが、随分な物言いじゃねえか、お嬢さん」

孫「!?」


劉「俺はお転婆は嫌いじゃねえが、口の利き方だけはもうちょい気にした方がいいぜ?」

孫「」

劉「なんか言うことはねえかな、お嬢さん」

孫「…言いすぎました。ごめんなさい」

劉「よし」

孫「…」

劉「簡雍(かんよう)。後は任せた」

簡雍「あいよ」

孫「…」

簡「俺は簡雍。よろしくな、嬢ちゃん!」

孫「…」


劉備…滅多なことでは怒らないけど、怒らせたらヤバいタイプ。

簡雍…元気なお嬢さんなんだな!


孫尚香…乱世を生き延びた男の底力を見せつけられた。


十二

簡雍「この先がお嬢ちゃんの部屋だ」

孫尚香「…」

簡「ここから先は男は行けねえから女官に聞いてくれな」

孫「…」

簡「どうした嬢ちゃん。大将に怒られたの気にしてんのか?」

孫「…あんなに怒るなんて」

簡「そりゃ嬢ちゃん、あれは大将じゃなくても怒るってばよ」

孫「冗談も分からないの?」


簡「嬢ちゃんはそのつもりでも、大将はそうは思えねえさ」

孫「どうして?」

簡「まだ大将と会ったばかりだろ?」

孫「ええ」

簡「会ったばかりの奴にゴキブリ呼ばわりされて、いい気持ちになれるかい嬢ちゃん?」

孫「…」

簡「まあキチンと謝ったんだ。これから気をつけりゃ大丈夫さ」

孫「本当?」


簡「それが俺らの大将だ」

孫「…気をつけるわ」

簡「…ここからは絶対内緒の話だがよ、嬢ちゃん」

孫「なに?」

簡「嬢ちゃんが大将をゴキブリ呼ばわりした時な」

孫「…」

簡「笑うの我慢するの大変だったんだぜ?」

孫「え?」

簡「大将とは長いこと一緒だけど、言い得て妙にもほどがあるっての!」


簡雍…今までの劉備がいかにしぶとく乱世を生き延びたかを、尾ひれをつけながら話してあげた。

孫尚香…劉備のところにきて始めて笑うことができた。


十三

簡雍「よう、ゴキブリ大将!」

劉備「てめえ!」

簡「堪忍、堪忍」

劉「相変わらずしょうがねえ野郎だな」

簡「今笑っていいか?」

劉「ぶち殺されてえならな」

簡「やれやれ」

劉「…それで?」

簡「根っこはいい子だ。それは保証する」

劉「なるほど」

簡「あと笑うと可愛いぜ。中々な」

劉「ほう」


劉「やっぱお前に任せて正解だったぜ、憲和(けんか)

簡「そうか?」

劉「曹操や孫権の所にゃ、まずいねえ男だよお前は」

簡「そんなもんかね」

劉「…とんだお転婆を押しつけられちまったな」

簡「そう言うなって、大将」

劉「ガキをこさえるわけにもいかねえだろ」

簡「大将の跡継ぎだもんな〜」

劉「ああ」


簡「上手くやっても面倒だし、下手をこくわけにもいかねえってか?」

劉「そういうこった」

簡「嬢ちゃんも可哀想だな」

劉「同情はするが、それで俺らが死ぬわけにもいかねえだろ?」

簡「まあな」

劉「俺も程々にしとくよ」

簡「で、俺は?」

劉「今の感じでいい。細え所は全部任せる」

簡「あいよ」


劉備…不幸にする気はねえが、舐められるわけにはもっといかねえんでな。

簡雍…字を憲和。大将に告げ口してるようで悪いけど、仕方ねえよな…


十四

孫尚香「少しはここの暮らしにも慣れてきたかな」

侍女A「!!」

B「どうしたの?」

趙雲(ちょううん)「これは奥方様。おはようございます」

孫「はい。おはようございます」

A「…」

趙「調練があるのでこれにて」

孫「はい。お気をつけて」

A「」

B「立ちながら気絶してるわ」

孫「活入れて」

C「!!」

A「!?」


B「あなた周瑜様じゃなかったの?」

A「新しい所に来たんだから、私たちも推しを新しくしてもいいんじゃない?」

C「一理あるわね!」

孫「たくましいこと」

B「!!」

C「!!」

馬良(ばりょう)「物資の調達は…」

糜竺(びじく)「私にお任せを」

B「…」

C「…」

馬「奥方様!」

糜「我ら執務中にて失礼…」

B「」

C「」


A「!!」

D「!!」

B「!?」

C「!?」

孫「全く」

A「どっちがどっち?」

B「私は白眉(はくび)様!」

C「私は糜竺様!」

D「傾向はあるのね」

簡雍「やあ、嬢ちゃん!」

孫「簡雍さん!おはようございます!」

簡「元気だな!」

D「」

簡「そこの侍女さんは?」

孫「お願い」

A「!!」

D「!?」

簡「なんだ!?」


孫尚香…活法だけど、知らないの?

簡雍…女の子同士がいきなりどつきあったらビックリするって。


A…呉では周瑜。荊州では趙雲。イケメン武人好き。

B…呉では呂範。荊州では馬良。洒落た男が好き。

C…呉では魯粛。荊州では糜竺。剛気な商人が好き。

D…呉では孫策。荊州ではなんと簡雍。何事だ?


趙雲…劉備軍のイケメン枠。強さと安定感に定評あり。

馬良…劉備軍のお洒落枠。白眉がトレードマークといっても本人的には生まれつき眉毛がちょろっと白いだけなんだけど。

糜竺…劉備軍の剛気商人枠。劉備に家族と家財をことごとく傾けてプッシュした時は、劉備が一番びっくりしたとか。


十五

孫尚香「弓の練習は欠かさずやらないとね…」

趙雲「おや?」

孫「趙雲殿!おはようございます!」

趙「はい。おはようございます」

孫「…」

趙「弓の稽古をされていらしたのですか?」

孫「…はい」

趙「一度私の前で射ていただいてもよろしいですか?」

孫「はい…」

趙「…」

孫「!」

趙「ほう」


孫「…」

趙「素晴らしい弓術ですな」

孫「…本当に?」

趙「少なくとも我らの兵とは比べものになりますまい」

孫「ありがとうございます…」

趙「僭越ながらよろしいですかな?」

孫「どうぞ」

趙「我が軍一の弓の名手に習いたくはございませんか?」

孫「本当!」

趙「喜んでお引き受けいたします」


黄忠「殿の奥方が弓の名手とな?」

糜竺「私も気になりまして」

趙「見せてやりなさい」

孫「…はい」

黄「…」

糜「…」

孫「!」

黄「見事!」

糜「やりますな…」

趙「黄忠殿が弓を誉めるなど初めてでは?」

黄「…そうかもしれん」

孫「本当ですか?」

黄「鍛えがいがある…」

糜「ほどほどに!」


孫尚香…本気で弓に打ち込んでてよかったな…

趙雲…実に筋がいいですな。

黄忠…奥方様次第だが、教えるならとことん教えるぞ。

糜竺…弟よりよっぽどやる気も実力も感じられました。


十六

孫尚香「ただいま!」

侍女A「姫様!お帰りなさいませ」

B「最近お帰りが遅くないですか?」

孫「稽古してるからね」

C「その手!」

孫「久しぶりよ、ここまで手をマメだらけにするの」

D「姫様にそんな稽古をさせるのですか!?」

孫「弓の稽古をしたらマメはできるでしょう?」

A「…」

孫「寝るわね」


黄忠「…」

孫「!」

黄「止め!」

孫「ありがとうございました」

黄「掌を見せてみろ」

孫「はい…」

黄「…」

孫「…」

黄「良いところにマメができているな」

孫「それは?」

黄「弓の名手が作るマメということだ」

孫「本当なの!」

黄「そうとも」

孫「ありがとう!お爺ちゃん!」

黄「…なに?」


孫「…失礼しました。つい、嬉しくなって」

黄「怒っているのではないぞ」

孫「…」

黄「びっくりしただけさ」

孫「それは?」

黄「嫁も息子も死んでいてな」

孫「そんな…」

黄「孫なんてできんと思っていた」

孫「…」

黄「お爺ちゃん」

孫「…」

黄「これからそう呼んでくれるか?」

孫「いいの!?」


孫尚香…簡雍と同じくらい黄忠にもなつき始めた。

黄忠…思わぬ孫娘の登場に、顔のにやけが止まらない。


A…趙雲の部下とコネを作り始めた。

B…馬良の同僚に媚を売り始めた。

C…糜竺のお店の常連になった。

D…簡雍と世間話をするだけで幸せ。


十七

劉備「よう、お嬢さん!」

孫尚香「旦那様!本日はお日柄もよく…」

劉「そんな固えご挨拶はいいっての」

孫「…ですが」

劉「やっぱり俺は怖えかな?」

孫「…」

劉「すまねえ。そんなつもりで言った気じゃなかったんだが…」

孫「…」

劉「最近随分と元気そうだって聞いてるぜ?」

孫「え?」


劉「黄忠の爺さんがやけにお嬢さんのことで嬉しそうでよ」

孫「お爺ちゃんのおかげで、すごく弓が上達したんです!」

劉「お前、黄忠をお爺ちゃんって呼んでるのか?」

孫「…そう呼んでくれって言われたので」

劉「しょうがねえ爺さんだな」

孫「なにか…」

劉「爺さんを落としやがったな、お嬢さん」


孫「私いけないことを…」

劉「そんなわけねえって」

孫「…」

劉「お前がきっちり爺さんの弓の稽古に励んで、きっちり爺さんに認めてもらえた、ってだけの話さ」

孫「はあ…」

劉「少なくとも、その辺のお嬢さんにゃできることじゃねえな」

孫「…」

劉「自分を誇りに思いなよ、尚香ちゃん」

孫「!」


劉備…出会い方や身分が違ったなら、もっと可愛がれたかもしれねえな…

孫尚香…不意に名前で呼ばれて思わずときめいてしまった。


十八

孫尚香「お爺ちゃんは百歩離れたところからでも百発百中ってできる?」

黄忠「若い頃はできたぞ」

孫「今は?」

黄「そうだのう。技は衰えたとは思わぬが、目だけは若い頃のようにいかぬでな」

孫「そうなんだ」

黄「…久しぶりにやってみるか」

孫「やってくれるの!」

黄「奥方様の百歩でいこうか」


孫「思ったよりずっと遠いわ」

黄「あの柳の葉が見えるか?」

孫「…ぼんやりとだけど」

黄「弓の名手は目が命だぞ、忘れるな」

孫「はい!」

黄「百本とはいかぬが、十本でどうかな」

孫「できそう?」

黄「…見ておれ」

孫(すごい気迫)

黄「いくぞ…」

孫「…」

黄「!」

孫(当たった!)

黄「!!」


黄「やれやれ」

孫「本当に百発百中じゃない、お爺ちゃん!」

黄「十発十中だがな」

孫「私じゃとても届かないわ…」

黄「伊達にこの軍一の弓の名手をやっとらんぞ!」

孫「…」

黄「どうされた?」

孫「なんだか私がすごくちっぽけに思えてきたわ…」

黄「わしに話してみるか?」

孫「お願いします」


孫尚香…自分の身の丈を思い知らされて、結構なショックを受けていた。

黄忠…存外素直な奥方様ではないか。


十九

侍女B「参りました!」

孫尚香「…もうあなたたちじゃ物足りなくなっちゃった」

C(最近の姫様、ものすごく強くなってない?)

D(国にいた時とは段違いよね)

孫「弓はお爺ちゃんがいるけど、体術や剣術も師匠がほしくなったかも」

A「姫様がそんな修行など必要」

孫「あるわ」

A「…」

孫「下がってて」


孫「お爺ちゃん!」

黄忠「おう、奥方様」

孫「お願いがあるんだけど」

黄「なにかな?」

孫「体術や剣術の師匠ってどなたかいらっしゃらない?」

黄「ほう」

孫「侍女が相手じゃ物足りなくなっちゃって」

黄「趙雲なら知っとるかもしれんな。わしが聞いといてやろう」

孫「ありがとう、お爺ちゃん!」


黄「奥方様、師匠を連れてきたぞ」

陳到(ちんとう)「…」

孫「よろしくお願いします!」

陳「稽古をするのは構いませぬが、一つ聞かせてください」

孫「どうぞ」

陳「奥方様は、どれほどの稽古をお望みですか?」

孫「本気のやつ!」

陳「本気…」

孫「本気でする稽古がすごく楽しいから!」

陳「承知しました」


孫尚香…久しぶりの打ち身の痛みがかえって心地よかった。

黄忠…見どころのある奥方様だろう?

陳到…趙雲と並ぶ将軍。体術も剣術もなんでもござれ。


A…趙雲の部下から要注意人物としてマークされている。

B…馬良の同僚から距離を置かれ始めたらしい。

C…糜竺の店でツケを作りまくってヤバい。

D…簡雍との世間話が楽しい。


二十

黄忠「武術の稽古はどうだ?」

陳到「弱音一つ吐かず、みるみる上達されてます」

黄「さすがだのう!」

陳「あんな女性は滅多におりますまい」

簡雍「よう、お二人さん!」

黄「おう、簡雍」

簡「大将からの伝言があってな」

陳「それは?」

簡「…ちょいと言いにくいことなんだが」

黄「…」

陳「…」


簡「ほどほどにしておいてくれ、とな」

黄「!」

陳「!」

簡「…近々おっ始めるつもりらしい」

黄「例の件か」

陳「たしかに、我らもいつまでもここで安住できるとは思えませぬからな」

簡「俺も嬢ちゃんに思い入れが無えと言うと嘘になっちまう」

黄「…」

陳「…」

簡「だが、こればっかりはな…」


黄「我らのなす戦は、あくまで殿のための戦だからのう」

陳「それが孫呉の不利益になろうとも、それこそが殿の家臣の責務だ」

簡「…なんかすまねえな」

黄「よくぞ伝えてくれた、簡雍」

陳「我ら全て承知した、とお伝えいただけるか?」

簡「合点だ」

黄「…」

陳「…」

黄「…これが乱世なのかのう」


黄忠…せめて、我らの分を守りながらできる事をしてやろうな。

陳到…そうしましょう。

簡雍…根っこはいい子なのは分かってたけど、こんな誰もが認める頑張り屋さんだったなんてな。


二十一

劉備「尚香ちゃんが世話になってる」

黄忠「…」

陳到「…」

簡雍「大将。俺も混ぜてくれ」

劉「お前らを怒るつもりはねえ。楽にしろ」

簡「…」

劉「率直な評価を教えてくれないか」

黄「天賦とまではいきませぬが、才はございます」

陳「我らの稽古で一度たりとも弱音を吐かれたことはございません」


劉「そんなにか…」

簡「俺もいいか、大将?」

劉「おう」

簡「根っこはいい子だって言ったの覚えてるか?」

劉「当たり前だ」

簡「おまけに根っこからの頑張り屋さんだよ」

劉「…」

簡「稽古を見てたら、みんなが応援したくなっちまうくらいな」

劉「なるほど…」

簡「それでどうすんだよ、大将?」


劉「先に謝っておくが、水を差すこと言うぜ」

黄「…」

劉「俺らが生き残るにゃ、権坊との約束を破らなくちゃならねえ」

陳「…」

劉「益州を、俺らだけでぶん取る」

簡「…」

劉「権坊を混ぜるわけにはいかねえんだな、こいつが」

黄「我らの領土とするために…」

劉「割り込まれちゃ困るってこった」


劉備…乱世ってのはめんどくせえんだな。

黄忠…今のうちに孫尚香にできることを全てやろうと思いなおした。

陳到…手加減はかえって失礼だったかもしれないと思い直した。

簡雍…俺ももうちょっと嬢ちゃんと話してみるぜ、大将。


二十二

劉備「おう、集まったな」

簡雍「んじゃ、大将頼んだぜ」

劉「雲長がいねえのが残念だが、仕方ねえ」

張飛「久しぶりに会いてえな」

劉「中華を駆けずり回ってただけの俺に。よくもまあ死なずに着いてきた、酔狂な野郎ども!」

趙雲「…」

陳到「…」

糜竺「…」

孫乾(そんけん)「…」

劉「礼を言うぜ。乾杯!」


簡「孔明はいいのかよ、大将?」

劉「誘ったが、あいつが気使いやがった」

張「確かにあの頃はいなかったからな」

趙「しかし本当に蜀を取れるなんて」

陳「あの頃には考えもしませんでしたな」

糜「私の見る目が確かだってことですよ!」

劉「てめえはとんだ博打うちだよ、子仲」

糜「商人ですよ?」


孫「私たちは殿と一緒ですが、離れた仲間もいますね」

劉「ああ」

簡「誰がいてほしかった?」

劉「田豫(でんよ)陳登(ちんとう)陳羣(ちんぐん)だな」

趙「田豫ですか…」

劉「あいつは伸びたぜ」

糜「陳登殿と陳羣殿…」

劉「あいつらは守る土地があったから仕方ねえが、惜しいな」

張「次は雲長兄も一緒だ!」

劉「無論だ!」


劉備…天下を駆けずり回って手に入れた益州の主になった宴にて。

簡雍…幹事。飯と酒の調達なら任せろ!

張飛…字を益徳。久しぶりに酔い潰れて趙雲と大相撲。

趙雲…たまには羽目を外そうと杯が進んだ。

陳到…趙雲と並ぶ軍人。縁の下で大活躍。

糜竺…劉備に家財を大枚はたいた大商人。

孫乾…縁の下の外交官。


田豫…老母の孝行のためお別れせざるを得なかった逸材。公孫瓚(こうそんさん)配下で暗黒下積み時代を生き延びた。

陳登…癖は強いが戦も政治もなんでもできた逸材。刺身はやめとけ。

陳羣…文治の才に溢れた逸材。息子も軍人として突出するのはずるい。


二十三

法正(ほうせい)劉巴(りゅうは)殿の()、なんか腹立ちますね」

劉巴「どういう意味ですか?」

法「言葉通りの意味ですが?」

劉「…それは子どものいたずら書きですかな、法正殿?」

法「私の案文だが?」

劉「それはそれは。人の文字とは思えませんでしたので」

法「…」

劉「…」

李厳(りげん)「私の字は」

法「引っ込んでろ」


法正…本当いけ好かねえな。

劉巴…こっちのセリフです。

李厳…しょんぼ李厳。


二十四

劉巴「帰るには早すぎませぬか、法正殿」

法「生憎ですが、殿にお呼ばれされてましてな」

劉「まだ本日分の仕事が済んでいませんよ」

法「私は蜀科以外の仕事も抱えているのですよ、あなたと違って」

劉「それはそれは」

法「…」

劉「…」

法「失敬」

李厳「定時ですのでこれにて」

劉「黙りなさい」


法正…仕事が終わったらさっさと帰るのが人でしょうて。

劉巴…舌打ちと貧乏ゆすりが止まらない。

李厳…しょんぼ李厳。


二十五

劉巴「貴殿はこんな杜撰なザルの目を法律だと言い張るのですか?」

李厳「…」

劉「見てください、法正殿」

法正「そこまで言わなくてもいいのでは、劉巴殿?」

劉「なるほど。内通した者と寝返った者同士で通じ合うものがある、ということですな」

法「…」

李「…」

劉「私には全く分かりませんね」


法正…くだらねえ忠なんざクソくらえですよ。

劉巴…裏切り者通し仲良しで結構ですな。

李厳…しょんぼ李厳。


二十六

伊籍「李厳殿は武にも精通されているそうですね」

李厳「いかにも」

伊「文武両道ですな」

劉巴「武器を振り回せても、その刃が旧主に向けられるのなら世話はありません」

法正「貴殿も殿を避けてまで益州にお見えになられたのに、殿が入蜀されたのですから世話はありませんな」

劉「誰のせいで…」


法正…もしかして、私らのせいだったのですか?

劉巴…言うまでもないでしょう。

李厳…文武両道のはずなのに、どこか鈍くて間が悪い。

伊籍…法正と劉巴のギスギスにオロオロ。


二十七

法正「あ〜あの野郎どうやって殺してやろうかな〜」

伊籍「…法正殿」

法「なにか?」

伊「いえ、その」

法「用がないのなら話しかけないでいただきたい」

伊「…失礼しました」

法「…」

伊「…」

法「斬首じゃぬるいんだよな〜」

伊「…」

法「刑法に火あぶりってありましたっけ?」

伊「ないです」


法正…ちょっと怖かった。

伊籍…言うときは言う男。


二十八

孔明「殿、蜀科の編纂を担当する者についてお話が」

劉備「…」

孔「伊籍は必要です」

劉「…」

孔「劉巴と李厳はまだ分かります」

劉「…」

孔「なぜ法正が?」

劉「言いたいことはよく分かる」

孔「…」

劉「あの野郎、今まで亡くなった方の罪滅ぼしとか言いながら立候補しやがった」

孔「どの口が」


劉備…まああの野郎に法作りさせることで、やり放題させねえようにできるだろ?

孔明…今までがさせすぎだったんですけどね…


二十九

法正「伊籍殿にお尋ねしたいのだが」

伊籍「どうされました?」

法「炮烙(ほうらく)醢尸(ししびしお)だったらどちらが好きですか?」

伊「それは…」

孔明「なるほど。(いん)紂王(ちゅうおう)の故事に倣い、巴蜀(はしょく)の民に蜀科の啓蒙をされるのですな、さすがは法正殿」

伊「そういう事でしたか!」

法「…チッ!」

伊(ものすごい舌打ちを…)


孔明…法正のえぐい相談には一切乗らない。

法正…過去一番えぐい刑罰をずっと考えている。

伊籍…どうしてこの人はこんなに血なまぐさいんだろう。


三十

法正「ちょっといいか、伊籍殿」

伊籍「はい?」

法「罪人の首を固定し、頭上から刃物を垂直に落下させて首を落とす新しい処刑法を思いついたのだがどうだろう?」

伊「…」

法「…しまった」

伊「?」

法「私としたことが、この処刑法では罪人が苦しまず楽に死ねる点を考慮していなかった」

伊「…」


法正…この処刑法は画期的だろうな。

伊籍…死罪が簡単にできすぎて、冤罪死や死刑囚が激増しそうですけどね。


三十一

法正「♪〜」

伊籍「何かいいことがあったのですか、法正殿?」

法「無いが?」

伊「…失礼。機嫌が良さそうに見えましたので」

法「機嫌は良いですよ、伊籍殿」

伊「それは?」

法「昨日処断に関する要点をまとめ終えましてな」

伊「…」

法「念願の拷問に関する作業を始められるのですよ」

伊「…」


法正…初めての拷問というマニュアルもできてましてな。

伊籍…肝を蹴り続けると良いのですか…


32

劉巴「貴殿は正気ですか、法正殿」

法正「いたって」

劉「ならばどうして棒打ちの刑に活用する棒の素材を鉄に限ると規定するのですかな?」

法「私が蜀科の制定および刑罰の運用にあたり、鉄の意志を持っているからですよ」

劉「よく分かりました」

法「話が早いですな」

劉「貴殿の面の皮の素材がね」


法正…鉄面孔目(てつめんこうもく)と呼んでください。

劉巴…恣意的な運用しかしてないでしょうが。


三十三

法正「これはなんですか?」

孔明「元戎(げんじゅう)という、新しい弩の試作品です」

法「何が新しいのです?」

孔「短い矢ならば、一度に十の矢を発射できるようにしたいのですよ」

法「すばらしい試みですな、孔明殿!」

孔「光栄です」

法「私も試みたい事があるので一つ貸して」

孔「駄目です」

法「チッ!」


孔明…誰の命も取らず、傷つけないことを約束できますか?

法正…できないので結構です。


三十四

簡雍「ZZZ」

劉巴「伊籍殿」

伊籍「はい」

劉「この酒の臭気と騒音を発する家畜を始末してください」

伊「…分かりました」

簡「ZZZ」

伊「簡雍殿」

簡「ZZZ」

伊「簡雍殿、起きてください」

簡「危ない!」

伊「!?」

簡「おう、伊籍殿」

伊「…」

簡「劉巴殿が桟道(さんどう)から落ちる夢を見た」

劉「なぜ?」


劉巴…最古参だからって大きな顔と態度を…

伊籍…今まで生き残ってるだけですごいですよ、この人。

簡雍…益州は飯と酒が美味いな!


三十五

孔明「提案書を拝見しました」

法正「…」

孔「成都(せいと)の医術の発展のため、新しい薬の治験を試みる取組が必要不可欠なのはおっしゃる通りです」

法「…」

孔「治験の実施のため、成都の死刑囚二十名の引渡しを要求するとのこと」

法「…」

孔「成都の死刑囚は現在三人しかいないのですか」

法「チッ!」


孔明…残りの十七名はどこから?

法正…失礼。流刑囚をうっかり混ぜておりました。


三十六

法正「死刑囚とはいえ、人として生まれたのならばその尊厳は守られる必要があると思うのですよ、劉巴殿」

劉巴「…続けてください」

法「したがって私は、死刑囚を楽に死なせるための薬の開発を提案します」

劉「その薬の開発のために、何人殺すつもりですか?」

法「だからあなたが大嫌いなんですよ」


法正…殺すのではありません。結果的に死ぬかもしれないだけです。

劉巴…ならばあなたが真っ先にその薬を飲みなさい。


三十七

法正「孔明殿の友人の徐庶という方を殿が懐かしんでおられました」

孔明「彼は母上が捕らわれてしまったので、孝を尽くすために去られたのですよ」

法「ご母堂のためですか」

孔「ええ」

法「私は両親のことなど心底どうでもいいですがね」

孔「…」

劉巴「貴殿の字はどういう意味ですかな、孝直殿?」


孔明…法正殿だったら親兄弟とか関係ないでしょうね…

法正…どういう意味ですか?

劉巴…私が彼の代わりに曹操様に仕えたかった。


三十八

李厳「失礼、遅参した」

劉巴「どうせ遅参するなら、土と汗に塗れた身体をよく洗ってから遅参するべきでは、李厳殿?」

李「軍務ゆえ…」

劉「それは分かっています。身体を清潔にされてからで良いのでは、と言っているのですよ」

李「遅参する訳にもいかぬゆえ…」

劉「すでに遅参してるでしょう!」


劉巴…なんでこんなに鈍臭いんですか?

李厳…それが私もよく分からず…


三十九

法正「孔明殿は攻城兵器の開発もされているとか」

孔明「ええ」

法「私もちょうど投石器の試しをしてみたいと思っておりました」

孔「それは」

法「最近飛ばすのにちょうどいい大きな岩を見つけたので、ぜひ試させていただきたく」

馬謖「孔明様。岩に縛り付けられた男が助けを呼んでいるとの報告が」


孔明…岩に縛り付けられた男と交代しませんか、法正殿?

法正…失礼。攻城戦よりも野戦や山岳戦の検討が先でしたな。

馬謖…ほんとにヤバいなこの人。


四十

伊籍「李厳殿」

李厳「どうされた?」

伊「益州の食事はどうしてあそこまで辛いのですか?」

李「そうか?」

伊「…辛くないのですか、李厳殿?」

李「そう思ったことなどほとんどないが」

伊「辛さに強いのですね」

法正「あんたは食事のたびに山椒全抜きでお願いしてるからだろう、李厳殿」

李「?」


法正…こいつは分からん男だ。

伊籍…最近胃もたれがすごくて食が進まず…

李厳…山椒は痺れるではないのか?


四十一

法正「私は逆さ吊りにするなら、絶対に右足を縛り上げた方がいいと思うのだ、伊籍殿」

伊籍「はあ…」

劉巴「そんな義士がいましたな」

伊「劉巴殿」

劉「自身を逆さ吊りにしてまで主君を諌めようとした義士が」

法「なんでそんなことしたんですかね」

劉「…」

法「頭に血でも上ってたんでしょうか」


法正…頭に血がすべて上らない限り、そんな真似はしませんよ。

劉巴…王累(おうるい)殿も無念だったでしょうな。

伊籍…色々あったんだなぁ、私たちが入る前から…


四十二

伊籍「法正殿に怖いものなどないのでしょうね」

法正「私にだって怖いものはありますよ、伊籍殿」

伊「それは?」

法「冤罪で囚われの身になること」

伊「…」

法「やってもいない罪の自白を強要されること」

伊「…」

法「拷問されるのも怖いですな、恥ずかしながら」

伊「どの口が言うのですか?」


法正…この口だが?

伊籍…減らず口はやめなさい。


四十三

法正「劉巴殿の物言いが目に余るので、いたずらして懲らしめようと思う」

伊籍「貴殿も大概ですよ」

法「もし万が一」

伊「?」

法「このいたずらで驚きのあまり劉巴殿が命を落とすことになったとしても」

伊「法正殿?」

法「それは私の知ったことではありませんな、伊籍殿」

伊「今すぐやめなさい」


!!


伊「!?」

法「やめる前に仕掛けが作動してしまったー引っかかった者が悪いー」

伊(腹立つな)

法「一体誰が仕掛けに引っかかったのだー」

趙雲「おや、伊籍殿に法正殿」

伊「趙雲殿!」

趙「突然天井から剣が降ってきましてな」

法「驚かれましたか?」

趙「いえ、全然」

伊「全身肝ですか?」


法正…さすがわが軍きっての武官ですな!

伊籍…張飛殿でしたらあなた死んでましたよ?


趙雲…この程度の罠、避けるなど造作もありません。


四十四

孔明「兵糧輸送に関する法を作りますよ、李厳殿」

李厳「承知した」

孔「李厳殿は兵糧輸送が期日に間に合わぬ場合の罰として、どれくらいが適切だと思われますか?」

李「責任者を叱責し、再発防止に務めさせればよろしいかと」

孔「…法正殿なら?」

法正「責任者を死罪」

孔「採用」

李(おや!)


孔明…なんでこんなに考えがぬるいのでしょう…

法正…死罪が当然だぞ、李厳殿。

李厳…厳しすぎるなぁ。


四十五

張飛「てめえ調練に遅れやがったな」

兵「ご寛恕を」

張「鞭打ち二十回だ!」

兵「何卒ご寛恕を!」

張「ならねえ!」

法正「張飛殿!」

張「ああん?」

法「…やはり」

張「文句あんのか法正?」

法「あります」

張「いい度胸だ!」

法「こんなくたびれた鞭では良い音が鳴りませぬぞ!」

張「…おう」


法正…この鞭を使いなされ。

張飛…これじゃ三発持たず死んじまうから、やめとくぜ…


四十六

劉巴「この国にまともな者は一人もおりませんな」

伊籍「まあまあ…」

劉「貴殿も分かっているはずでは?」

伊「それは…」


簡雍「ZZZ」

法正「獄卒の地位向上のため、斬首や拷問の腕前を競う大会を開催するのはどうだろう!」

彭羕(ほうよう)「相変わらず狂ってんな、法正」

孔明「今すぐ出ていきなさい」


孔明…彭羕だけは生理的に無理。

法正…獄卒選手権をやらないか、劉巴殿。

劉巴…ではあなたが被験者になりなさい。

伊籍…このストレスフルな空気でよく寝れるなぁ…


簡雍…もう食えねえっての…ZZZ…

彭羕…狂ったやつらの中でもひときわ狂ってると言われがちな評判にイライラしてる。


四十七

劉備「これが蜀科の素案か?」

孔明「はい」

劉「どれどれ…」

孔「…」

劉「…」

孔「…」

劉「孔明よ」

孔「はい」

劉「実に良くできている」

孔「恐れ入ります」

劉「だが気になることが一つある」

孔「…」

劉「刑罰と拷問に関する法の竹簡の量は?」

孔「馬謖(ばしょく)らがあと五往復するほどに」

劉「…」


劉備…これ全部読まねえとダメか?

孔明…これでもずいぶん没にしたんですよ。


四八

法正「おや、竹簡がもう無い」

劉巴「貴殿は近隣の竹林を悉く更地にするおつもりですか?」

法「別に賢人がいるわけでもないから構わないでしょう」

劉「悪趣味でおぞましい法や刑罰を記録されるために伐採される竹のことを考えたことはないのですか?」

法「ある訳ない」

劉「聞いた私が愚かでした」


法正…竹の気持ちを考えるくらいなら、もっと人の気持ちを考えられたらいかがです?

劉巴…来世は竹になりたい…


四九

孔明「今日もあなたは誠実ですね、董和(とうわ)

董和「はい」

孔「…」

董「…」

孔「…」

董「そろそろお時間では?」

孔「…」

董「お気持ちは、痛いほどお察ししているのですが」

孔「…」

董「孔明殿をして、そこまで行きたくない蜀科の仕事場とはなんなのですか?」

孔「董和は行ってはなりません」


孔明…もう少し駄々をこねさせてください…

董和…私が混ざってたらとっくに心労で死んでたのかな…


五十

劉巴「…」

簡雍「いや、参った参った」

伊籍「どうされました、簡雍殿?」

簡「大将と張飛の野郎と昼間っから飲んでたんだけどよ」

劉「いいご身分ですな」

簡「違いねえ」

劉「…」

簡「ここは寝心地がいいから、酔い覚ましに来た」

伊「ここがですか?」

劉「我らが何をしているかご存知ないので?」


劉巴…桟道から叩き落してやりましょうか。

伊籍…簡雍殿の神経の太さを見習いたいな。


簡雍…んじゃおやすみ。


五十一

法正「黄忠殿」

黄忠「どうされた?」

法「貴殿は我が軍一の弓の達人との評を聞きましてな」

黄「いかにも」

法「ぜひ射てほしい的があるのですよ」

黄「造作もない」

法「あの戸板の赤い部分を射られますかな?」

黄「容易い!」

法「お見事!」


法「戸板の裏には…」

男「…」

法「運が良かったか」


法正…大当たりです、黄忠殿!

黄忠…まだまだ現役だ!


男…九死に一生で解放された。


五十二

法正「探しましたぞ馬超殿!」

馬超「…貴殿は?」

法「法正と申す。同郷の英雄に会いに参りました」

馬「そんな、私如きが英雄など」

法「何をおっしゃる」

馬「一族がほぼ全員都にいるにも関わらず謀反した私が?」

法「…」

馬「妻子を棄て劉備様に降ったこの私が?」

法(話しかけるんじゃなかった)


法正…同郷でもあまり仲良くしたくないな。

馬超…今まで暴走しまくって落ち伸びてきたので、すっかり大人しくなってしまった。


五十三

法正「馬超殿!」

馬超「法正殿…」

法「同郷の誼でお願いしたいことがあり参りました」

馬「それは?」

法「私の友の鍛冶屋が良い剣を打ちましてな」

馬「ほう」

法「罪人を斬って棄て、斬れ味を試したいそうなのですよ」

馬「法正殿」

法「…」

馬「その剣と罪人はどちらですかな?」

(やるのかよ)


法正…うわあ…すげえ斬れ味…

馬超…久しぶりに血を見れてスッキリしました。


五十四

法正「なぜ私が商いに関する法まで携わらなくてはならないのですかな?」

劉巴「血生臭い頭を綺麗にしろと、殿からの伝言では?」

法「誰が血生臭いと?」

劉「貴殿ほど血生臭い男はここにいませんよ」

法「言葉の刃で他人を切り刻む者が言えますかね、劉巴殿」

李厳「いかん鼻血が」

劉「失せなさい」


法正…不正をしたものは皆死罪とする、でいいでしょう。

劉巴…益州をディストピアにされたいので?

李厳…しょんぼ李厳


五十五

法正「痩せましたな、伊籍殿」

伊籍「…ええ、最近食が進まず」

法「それだけには見えません」

伊「それは?」

法「心労や疲れも見えます」

伊「…そうなんですよ」

法「伊籍殿を困らせる不届者がいるのではないですか?」

伊「…」

法「もしそんな輩がいるなら私が厳罰に処して」

伊「もういいです」


法正…たまに怖いな、伊籍殿。

伊籍…食欲も睡眠欲も満たせず久しい…


五十六

法正「これは私刑ではありません。私はただ、獄卒の腕力を確かめる良い方法を模索していただけなのです。私刑ではないです。仮にこれが私刑だとしても、私刑という名の力比べです。お気に召さないのなら他の方法も考えますから、私に言いがかりをつけるのはやめていただきたい、劉巴殿」

劉巴「…」


法正…ちなみにこの獄卒は鉄臂膊と呼ばれるほどの鉄腕で…

劉巴…ではあなたの首で試してください。


五十七

劉備「おい、孔明」

孔明「どうされました?」

劉「五虎将ってのを作っただろ?」

孔「関羽、張飛、馬超(ばちょう)、黄忠、趙雲の五人でしたね」

劉「曹操の野郎の下にも五人いるらしい」

孔「張遼、徐晃、于禁、楽進、張郃とか」

劉「それで蜀科作ってるお前らも五人組じゃねえか」

孔「…」

劉「なんかやれよ」


孔「…私たちで?」

劉「仲良いじゃねえか」

孔「そう見えます?」

劉「すると五虎将みてえな名前を俺がつけてやらねえとな」

孔「いいです」

劉「蜀科だけに、ショクカーてのはいいんじゃねえか?」

孔「五虎将に秒殺されそうな名前ですな」

劉「よし。以後お前ら五人はショクカーだな」

孔「嫌です」


劉「なぜだ。ショクカー筆頭大将臥龍(がりょう)

孔「もう臥龍じゃありません」

劉「目覚めたってか?」

孔「我らは五竜将です」

劉「…言ってみろ」

孔「毒癌竜(どくがんりゅう)法正」

劉「…」

孔「狂竜(きょうりゅう)劉巴」

劉「…」

孔「事故竜(じこりゅう)李厳」

劉「…」

孔「清竜(せいりゅう)伊籍」

劉「…」

孔「そして超一竜諸葛亮」

劉「寝言は寝て吐け」


劉備…お前もけっこうな自信家だよな。

孔明…でなきゃあなたについて行きませんよ。


五八

劉備「第一回。五虎将対ショクカー対抗戦を行う」

簡雍「こいつらを何で競わせるんだ、大将?」

劉「戦わせる」

簡「殴り合いじゃショクカーの連中に勝ち目ねえじゃねえか」

劉「確かに運動じゃ勝ち目ねえな」

簡「かといって知恵の勝負じゃ五虎将に勝ち目がねえぞ?」

劉「…参った。考えてなかった」


簡「計るものさしが全然違えからな」

劉「てめえもなんか考えやがれ、簡雍」

簡「大酒大食い勝負!」

劉「お前がやりてえだけだろ」

簡「百日宴勝負!」

劉「それだ!」

簡「正気かよ大将?」

劉「違う。宴会芸で勝負させるんだ」

簡「なるほど」

劉「さすがに雲長は呼べねえから魏延を代わりに…」


孔明「という殿からの命が」

劉巴「我らの惨状をご存知ないので?」

伊籍「最近眠いのに眠れなくて…」

李厳「やつれたな、伊籍殿」

法正「宴会芸か…」

孔「なにかできるのですか?」

法「ブサチビ張松のモノマネとか」

孔「他には?」

法「逃げ出してとっ捕まった許靖(きょせい)爺とか」

劉「不謹慎すぎます!」


張飛「宴会芸だと?」

趙雲「殿からそのように」

黄忠「蜀科の五人組と勝負とな」

魏延「関羽殿の代わりは私が」

張「ネタはねえか?」

趙「皆の名場面を再現するのは?」

黄「良いな!」

張「長板の仁王立ちか!」

趙「私は単騎駆け」

馬超「曹操に敗れた所が名場面?」

張「…俺が編集してやるから」


劉備…すげえ完成度だったな。

簡雍…大酒呑んでたらふく食べていい気分。


孔明…水鏡先生の顔真似でウケた。

法正…許靖の命乞いの真似が大うけ。

劉巴…新しい銭を使った手品がすごかった。

李厳…お腹を棘だらけにする前衛的な芸ですべった。

伊籍…蔡瑁らへの毒舌ネタで優勝。


張飛…長坂の名場面の熱演で沸かせた。

趙雲…単騎駆けのカッコよさはピカ一。

黄忠…見事な弓術を披露。

馬超…剣を抜くだけで会場の空気が一気に冷める殺気。

魏延…楊儀(ようぎ)の悪口ネタが伊籍とかぶってすべったのを恨んでいる。


五九

劉備「五虎将の面々と蜀科の面々に来てもらったのは他でもねえ」

張飛「…」

孔明「…」

劉「益州の民。ひいては子供たちには、俺らに親しみを持ってもらわなきゃならん」

趙雲「…」

法正「…」

劉「そこで五虎将をヒーロー役。蜀科をショクカーの悪役にしてショーをやろうと思うが、意見はあるか?」


法「殿」

劉「法正」

法「確かに五虎将の面々は一騎当千の強者揃いでヒーロー役は似合うことでしょう」

黄忠「…」

馬超「…」

法「しかし、益州で新たな法を制定し施行する我々を悪役とするのには異議があります」

劉巴「…」

李厳「…」

伊籍「…」

劉「それは一理あるな」

魏延「代理が申し上げる」


劉「雲長代理、魏延」

魏「武の我らと知の蜀科の面々が共通の敵に対して団結する物語はいかがでしょうか?」

劉「なるほど」

孔「軍紀を乱す者や法を犯す者を我らで共に成敗するのですな」

劉「それでいくぞ」

趙「殿」

劉「子龍」

趙「それらの敵の配役は誰がやるのですか?」

劉「…名簿持ってこい」


劉備…少なくとも彭羕と廖立(りゅうりつ)は敵役でいくぞ。

張飛…燕人の名乗りで大盛り上がり。

趙雲…単騎駆けでご婦人をメロメロにした。

黄忠…弓の技で圧倒。

馬超…殺気が凄すぎて会場をカチンカチンにした。

魏延…関羽の代理。立回りで敵戦闘員役の楊儀を強めに殴った。


孔明…からくり兵器を持ち出して客を沸かせた。

法正…卑怯な立回りで笑いを誘った。

劉巴…正論で論破して敵役のメンタルをズダズダにした。

李厳…肝心なところで台詞を噛んだ。

伊籍…ファンサービスが一番手厚い癒し枠。


六十

劉備「禁酒令出すぞ」

簡雍「マジかよ大将」

劉「酒造りの道具持ってる奴もアウトだからな」

簡「…おい大将」

劉「なんだよ」

簡「あのアベック逮捕しろよ」

劉「嫉妬か?」

簡「あいつらしたたかするから逮捕しろっての」

劉「は?」

簡「したたかの道具を下半身に持ってんじゃねえか!」

劉「www」


劉備…おまえそのネタ歴史に残っても知らねえからな。

簡雍…その方が俺らしいって。


六十一

関羽「…」

関平「どうされました、父上?」

羽「上庸に赴任した孟達が挨拶に来てな」

平「あの」

羽「益州で兄者に仕える者にろくな男がいないと憂いていたのだ」

平「それは?」

羽「揃って不品行を嫌われ冷遇された者たちだ」

平「ええ」

羽「劉璋の判断は間違っていないのでは?」

平「確かに…」


関羽…劉封(りゅうほう)殿も大変だ…

関平…苦労人長男。彼も父と配下の板挟みでけっこう大変。


六十二

魏延「楊儀…」

楊儀「…」

費禕(ひい)「まあまあ魏延殿」

魏「費禕か」

費「とりあえず、剣は下ろしましょう」

魏「…チッ」

楊「すぐに剣で私を脅す蛮族め!」

魏「俺が剣を下ろした瞬間、強気になる貴様が一番気に食わんのだかな」

楊「なんのことだ!」

費(そこに無自覚なところは本当にすごいと思う…)


費「それで、今日は何を言い争っていたのです?」

魏「大切なことだ」

楊「言い争いで負けそうになったら、こいつは剣を突きつけたのだ!」

費「次の北伐の進軍経路とか?」

魏「茸と筍を模した菓子があるだろう」

費「…はあ」

魏「それで意見が対立したのだ」

楊「こいつの舌は狂っているぞ、費禕」


費「どちらがどちらなのです?」

魏「俺は茸」

楊「私は茸」

費「…対立していないではないですか」

楊「この蛮族は茸の軸部分が一番美味いとほざくのでな」

魏「チョコなんぞで覆われた部分を一番好む貴様は女子供だ」

費「…」

楊「どう思う、費禕?」

費「…私は筍が好きなのですが」

魏・楊「!?」


魏延…蜀一番の将軍。それは誰もが認めるところだけど、いかんせん頑固すぎるところが大きな欠点。

楊儀…兵站や軍編成などの仕事は抜群だが、蜀文官嫌な奴ランキング殿堂入りを果たしている。

費禕…尋常じゃない仕事量でも必ず定時までに終わらせて帰って遊びに行く自由人。


六3

蒋琬(しょうえん)「丞相!」

孔明「…あの怒鳴り声と金切り声は」

蒋「いつもの二人です」

孔「費禕はいないのですか?」

蒋「定時で帰ろうとしたところを来敏(らいびん)殿に捕まっていました」

孔「そちらも面倒そうですね」

蒋「丞相を煩わせるのも心が痛むのですが…」

孔「構いません、蒋琬」

蒋「それでは参りましょう」


魏延「楊儀…」

楊儀「…」

蒋「剣を下ろしてくだされ、魏延殿!」

魏「蒋琬と…」

孔「全くあなたたちは…」

魏「丞相!」

楊「さっさと剣を下ろせ!」

魏「チッ!」

楊「剣で脅さないと議論もできぬのか!」

魏「貴様は丞相らがいないと口も聞けぬではないか」

楊「馬鹿を言うな蛮族め!」

孔「…」


蒋「何事でしたか?」

魏「丞相が考案した饅頭があるだろう」

孔「村祭りの供物ですね」

魏「祭りの最後に河へ流すことになっているが」

蒋「ええ」

魏「この饅頭の顔を見てくだされ」

楊「自意識過剰だ!」

孔「私には魏延に似ているように見えます」

楊「丞相!?」

魏「この饅頭を踏んでおりました」


孔明…今回は楊儀に罰を与えた。

蒋琬…それは悪趣味すぎますよ、楊儀殿…

魏延…楊儀がお説教されてる所を肴に部下と酒盛りを始めた。

楊儀…悔しくて涙が止まらないが、自業自得だってんだよ。


費禕…めんどくさくて仕方ない。

来敏…面倒に手足が生えた学者。無駄に長生きなのも実にめんどくさい。


六四

魏延「楊儀…」

楊儀「…」


蒋琬「丞相!またあの二人が」

孔明「静かに」

蒋「なぜです、一刻も早く喧嘩を止めないと…」

孔「魏延も殺すところまではやりません」

蒋「それはまあ…」

孔「楊儀の胆力を試す良い機会です」

蒋「…」

孔「一刻後に仲裁に行きますよ」

蒋「意外に意地悪ですね、丞相」


魏「…」

楊「…」


蒋「膠着してますね」

孔「楊儀の顔に少しづつ余裕が見えてきました」


魏「…」

楊「…」


蒋「二人の部下も、彼らをほったらかして自分の職務に戻りました」

孔「良いことです」

蒋「魏延殿も剣を突きつける腕が疲れてませんか?」

孔「しかし、自分で下ろしたら魏延の負けです」


魏「…」

楊「どうした魏延」

魏「!」

楊「!?」


蒋「楊儀が勝負を焦りましたな」

孔「また膠着です」

蒋「丞相、あれは?」


費禕「…」


孔「費禕も高みの見物ですか」

蒋「私も今後そうします」


魏「…」

楊「…」


蒋「なんだか、仲裁するのも馬鹿らしくなりましたね」

孔「我らも帰りましょう」


孔明…今後は費禕に押しつける形をとります。

蒋琬…けっこう腹黒いところありますからな、費禕は。

費禕…二人の喧嘩は仲裁するより高みの見物する方が倍楽しい。


魏延…たまたま通りかかった馬岱が仲裁してくれてことなきを得た。

楊儀…これで勝ったと思うなよ、魏延!


六五

趙雲「見事な腕前だ、姜維(きょうい)

姜維「恐れ入ります、趙雲殿」

趙「お前のことを丞相が話していたのを聞いたのだが…」

姜「はい」

趙「お前は御母堂から届いた帰郷の手紙を断ってまで、我が軍にいる所存なのか?」

姜「言うまでもありません!趙雲殿」

趙「…」

姜「お気に触られましたか?」

趙「違う」


趙「私もこの国にいて長い」

姜「はい」

趙「今までかけがえのない友が二人、御母堂の孝行のために別れざるを得なかったことを思い出してな」

姜「…」

趙「私はお前と二人のどちらが正しいかなど、断じるつもりは全くない」

姜「…」

趙「だとしても、もし二人がいたならば、と思ったことはあるのだ」


姜「どのようなお二人ですか?」

趙「…」

姜「…」

趙「一人は騎馬の指揮に長け、烏丸(うがん)とも上手くやることができた友」

姜「…」

趙「もう一人は侠でありながら、学問と軍学に長けた面白い友だった」

姜「…」

趙「私はお前が我が軍にいる理由も知る気はない」

姜「…」

趙「だが後悔だけは禁ずるぞ」


趙雲…田豫にも徐庶にも生涯会えることはないだろうな。

姜維…今までと違う趙雲の気迫を感じていた。


[群雄たち]


三国以外の面々だって、やりたい放題やっているのだ。

その結果の大乱世なんだけどな。


張譲(ちょうじょう)「陛下。我ら十常侍(じゅうじょうじ)。心より春節のお祝いを申し上げまする…」

霊帝(れいてい)「うむ」

張「この祝いの席にて、陛下とお妃様を楽しませるべく、我らで余興をご用意いたしました」

霊「ほう」

張「ご披露させて頂いても、よろしいですかな?」

何太后(かだいごう)「許可します、張譲」

張「しからば…」

何進(かしん)(なんだ?)


蹇碩(けんせき)「おいら妹が美人なだけのお肉屋さんだべ〜」

趙忠(ちょうちゅう)「お肉屋さん!豚肉たくさんくださいな!」

進「!?」

太「w」

蹇「どの部分がほしいだべ〜」

趙「赤身を十斤くださいな!脂は少しも混ざっちゃだめよ!」

蹇「めんどくさいけどやるべ〜」

趙「あんたの全身から出てるのは肉汁?」

蹇「汗だべ〜」


趙「まだ?」

蹇「も少し待つべ〜」

趙「あんたの鈍った包丁とかけて大将軍の知恵ととくわ」

蹇「そのこころは?」

趙「キレ悪いったらありゃしない」

蹇「意味分からんべ〜」

進「…」

蹇「やっと終わったべ〜」

趙「じゃあ次は脂身十斤くださいな。赤身は少しも混ざっちゃだめよ」

蹇「面倒だべ〜」


張譲…稽古中は悪趣味な笑いが止まらなかった。

霊帝…爆笑しっぱなし。

何太后…笑うに笑えないネタだったけど、クスクス笑いっぱなし。

何進…顔の青筋がパンパンになってた。


趙忠…お母さん役。怒って襲いかかった蹇碩を三発殴ってぶち殺した。

蹇碩…愚鈍な肉屋役。他意は無い。断じて。


張譲「続きまして」

霊帝「なんだ!」

張「国一番の武術師範にはたいそう美人な奥方様がおられました」

袁紹(えんしょう)「…」

張「その奥方様を狙うは、主君の権勢に諂う佞臣の色魔な倅でござった」

霊「けしからんな」

曹操(どの口が言う)

張「倅は奥方様を奪わんと、花嫁泥棒の計画を練るのです」

袁・曹「!?」


何苗(かびょう)「チビ!お前は知恵だけは回るから、花嫁泥棒の策を考えな!」

蹇碩「へえ!青瓢箪様!」

袁「…」

曹「…」

蹇「整いやした!」

何「言うてみい」

蹇「お馬で突っ込んで泥棒ってのはどうでっしゃろ?」

何「…」

蹇「いかがでしょ」

何「採用だ、チビ!」

蹇「ありがとでさ」

何「早速行くぞ!」


趙忠「私は可憐な新婚様♪〜」

蹇「突撃でさ!」

何「俺の嫁になれ!」

趙「お助け〜」

何「!」

蹇「青瓢箪様!」

何「痛え…足挫いちまった」

趙「お助け〜」

蹇「早く逃げねえと!」

趙「お助け〜」

蹇「花嫁泥棒はここでっせ!」

何「チビ、てめえ!」

蹇「逃げろ!」

趙「お助け〜」

袁・曹「…」


張譲…異国の講談師からネタを仕入れたという。

霊帝…武術師範と奥方の悲恋に涙を流した。

何苗…青瓢箪役。何進の義理の弟だが宦官とズブズブ。

蹇碩…チビ役。叔父を撲殺された恨みを晴らした。

趙忠…奥方役。女役の達人。


袁紹…いったいどうしてこの話を知っているのだ!

曹操…開き直って余興を楽しんでいた。


張譲「宴もたけなわではございますが、最後の演目でござる」

霊帝「残念だ」

張「ある国の王の末裔は、それはそれは雅で優雅で上品な伊達者でござった」


何進「…」


張「その者の叔父は、それはそれは見事なお庭を拵えていたのでございまするが、佞臣の親族がその庭を奪い取ってしまったのでござる」


蹇碩「叔父上の庭を返しなされ!」

何苗「嫌なこった!」

蹇「たかが校尉の分際で、豪華な馬車に乗るだけの能無しが!」


袁紹(公路のことだな)

曹操(うむ)

袁術(えんじゅつ)(!?)


趙忠「てめえらは帝に媚び、民を苦しめて食う飯が美味えってのか!」

苗「たらふく食えるぜ」


曹(本音が出たな)

紹(いっそ清々しい)


苗「悔しけりゃこの首奪ってみなよ」

趙「野郎…」

蹇「…」

苗「てめえの叔父は虱だらけの布団みてえに叩いてやったぜ?」

蹇「…」

苗「いい音で叩かれてたな!」


紹(実際は?)

曹(殴りがいはあった)


蹇「母旋風」

趙「旦那?」

蹇「彼らを皆殺しにしてやりなさい!」

趙「是非もねえ!」

苗「!?」


張譲…やたら弁が立つのが小賢しい監督。

霊帝…佞臣を皆殺しにする大立ち回りに大興奮。

蹇碩…雅な男役。叔父の恨みは忘れない。

趙忠…母旋風役で二丁斧で大暴れ。荒くれ役もいけた。

何苗…佞臣役。どこぞの大将軍が大嫌い。


何進…絶対に許さんぞ、宦官ども…

袁紹…我らで必ずあやつらを根絶やしにしてやりましょう。

曹操…意外に楽しかった。

袁術…全くの無自覚でびっくりしていた。


臧洪(ぞうこう)張超(ちょうちょう)様」

張超「ああ」

臧「董卓を討つために集った面々が、心を一つにする誓約の言葉すら書けずにみっともないなすり付けあいをしまくった挙句、私になすりつけて無理やり書かせましたが」

張「…なんと言ってよいやら」

臧「闘う姿勢すらろくに示さず、酒浸りの毎日とはどういうことですか?」


張「…」

臧「集った諸侯の正気を疑います」

張「…これは私の憶測だがな、臧洪」

臧「…」

張「集うことが目的で、董卓と戦をすることを目的に集った諸侯ではない、ということではないかな」

臧「全く意味が分かりません」

張「これだけの兵を洛陽近隣に集められた董卓の立場で考えてみるのだ、臧洪」


臧「確かに、心穏やかではいられないでしょうな」

張「それが兄上たちの狙いなのではないかな」

臧「張超様の話された意味は分かりますが、私には全く理解できませんけどもね」

張「…そう言うな」

臧「最初からこんな体たらくになるなら、そもそも雁首揃えて決起する意味などないではありませんか!」


張超…反董卓に集った張邈の弟。蝶々が好き。

臧洪…張超に才を認められた恩を生涯かけて返そうと思っている張超推しガチ勢過激派。


袁紹「…」

逢紀(ほうき)「それにしてもしぶといですな」

袁「逢紀よ」

逢「はっ」

袁「我が軍はこの国で最も優れた将や策士を数多く登用し、起用しているな」

逢「はい」

袁「かたや公孫瓚は優れた人材をあえて冷遇し、能無しを重用していると聞く」

逢「…はい」

袁「なぜ我が軍が、速やかに滅ぼせんのだ?」


逢「…申し上げます」

袁「…」

逢「あれだけの城壁に加え兵糧を十年分も蓄えられたら、強引な戦になるのもやむなしかと」

袁「それは分かっている」

逢「はい…」

袁「だが、城壁を防衛する兵には将が、兵糧の運搬や管理にも人材が不可欠だろう」

逢「ええ…」

袁「能無しに要の仕事ができるのか?」


公孫瓚「乾杯!」

関靖(かんせい)「今日も酒が美味いですなあ」

公「田豫(でんよ)!つまみ持ってこい!」

田豫「…只今」

関「殿の顔見て察しろってんだ!」

田「…申し訳ございません」

公「攻めあぐねてる青瓢箪の軍を肴に飲む酒は最高だ!」

関「違いないですね!」


兵「田豫殿。兵糧が腐り始めています!」

田「…」


袁紹…ウンザリするほど公孫瓚の相手をする事になるのをまだ知らない。

逢紀…幕僚会議で頭を捻りに捻っているが、マジで公孫瓚軍の粘れる理由が分からない。


公孫瓚…美声イケメンで戦は異様に強いが、ろくでなしを重用する謎采配。

関靖…腰巾着。すごくウザい。

田豫…劉備を懐かしむ暗黒下積み時代。


呂布「最近身体が鈍って仕方ない…」

陳宮(ちんきゅう)「戦をご所望ですかな?」

呂「…さすがにこの俺でも兵糧調達で難儀しているのに戦をする度胸は無い」

陳「左様でございますか」

高順(こうじゅん)「無為な戦を殿にけしかけるのはやめていただきたい、陳宮殿」

陳「無為。無為と申しましたか、陥陣営(かんじんえい)殿」

高「申しました」


陳「戦が無為ならば、この世の戦は全て無為ではございませぬか?」

高「あなたの考えはなぜそこまで極端なのです?」

陳「戦の本質は、生きるか死ぬかしかございません。その両極端の世で我らは生きているのですから、むしろ当然なことなのでは?」

高「…だとしても、限度はあります!」

呂「よせ…」


陳「戦を始めたければ、どうか私にご所望を」

高「陳宮殿!」

陳「曹操に地獄を見せてやりましょうな、呂布様」

呂「その時が来たらな」

陳「失礼…」

呂「…」

高「殿。陳宮殿の考えでは…」

呂「高順」

高「…」

呂「今は戦をする気はない」

高「…」

呂「だが、俺も曹操に地獄を見せつけたいのだ」


呂布…今は牙と爪を研いでおく時だ、高順。

陳宮…曹操を裏切って呂布にプッシュしたイカれ軍師。

高順…安定感あふれる軍人。必ず敵の陣営を陥すので陥陣営の異名を持つ。


臧覇(ぞうは)「…」

孫観(そんかん)「どうした、奴寇(どこう)

臧「呂布からの命令だ」

呉敦(ごとん)「なんだ?」

臧「曹操と戦するから兵隊連れてこいとさ」

孫「は〜!?」

臧「てめえのその赤ちゃんみてえな声はなんとかならねえのか、嬰子(えいじ)!」

孫「しょうがねえだろ、嬰子なんだから」

呉「厄介だな…」

臧「全くだ、黯奴(あんど)

昌豨(しょうき)「…」


臧「昌豨はどう思う?」

昌「…俺たちの今後の分かれ目になるのは間違いないだろう」

孫「そうだな、昌豨」

呉「昌豨は呂布に兵を出すか出さないか、どちらがいいと思う?」

昌「…俺は曹操が嫌いだから、兵を出す」

臧「なるほど」

孫「奴寇は?」

臧「どっちもしたくねえのが本音だ、嬰子」

昌「…」


呉「だが日和見はできん」

臧「黯奴の言う通りだ」

孫「困ったなあ、昌豨」

昌「…」

孫「昌豨?」

昌「あえて水をさすが」

臧「どうした、昌豨」

昌「俺のあだ名は?」

呉「なんの話だ、昌豨?」

昌「奴寇!」

臧「なんだ」

昌「嬰子!」

孫「おう」

昌「黯奴!」

呉「ああ」

昌「俺は?」

臧「昌豨」


臧覇…泰山のならず者の頭目。あだ名は奴寇。頭目が一番下働きするのが掟。

孫観…あだ名は嬰子。叫び声だったり、敵を挑発する時の声や言葉が赤ちゃん言葉になるから。

呉敦…あだ名は黯奴。やたら肌が黒いから。

昌豨…あだ名は特になし。ヘソを曲げると死ぬほど厄介な気性の持ち主。


袁術「蜂蜜が無いぞ」

紀霊(きれい)「すぐに取らせる勅を出します」

袁「なる早でな」

紀「雷薄(らいはく)陳蘭(ちんらん)!」

雷薄「はい」

陳蘭「なんでしょう」

紀「蜂蜜をなる早で取って参れ!」

雷「もう無いんですか?」

陳「熊だってもっと我慢できますぜ?」

紀「帝の勅命だぞ、貴様ら!」

雷「はいはい」

陳「やれやれ」


雷「つってもよ〜」

陳「養蜂家の楊奉(ようほう)が裏切りやがったからな」

雷「参ったぜ」

陳「ガキの使いじゃ帰れん」

雷「勅命だもんな」

陳「おや?」

劉勲(りょうくん)「おう」

雷「劉勲殿!」

陳「蜂の寝ぐらとか知りませんかね?」

劉「また帝のご所望か?」

雷「へえ」

劉「民から雀蜂と熊蜂が近隣にいると聞いたぞ」


雷「雀と熊の蜂?」

劉「よく知らんが民はそう呼ぶな」

陳「熊蜂なんてどんだけ恐ろしい蜂だよ」

雷「そんなの雀一択じゃねえか」

劉「雀蜂はあちらの方にいるらしいぞ」

雷「どうも、劉勲殿!」

陳「クソめんどくせえ勅なんざすぐ終わらせます!」

劉「おう!」


袁「それで?」

紀「瀕死の重体です」


袁術…瀕死の重体だろうが蜂蜜は取りにいけるだろう?

紀霊…蘇生次第すぐに行かせますので。

雷薄…見るに耐えない顔に。

陳蘭…戦に出る時より本気で死を覚悟した。

劉勲…蜜が取れれば蜂ならなんでもいいよな。


[現パロ]


現代に転生した三国志の面々はどこへ飛んでいくのか。

本格始動は来月からです!


[孫呉高校編]

孫呉の面々が赴任している高校では何が起きるのか…


周瑜「学祭の見廻り分担について決めるぞ」

魯粛「オンラインってのは便利なもんだな、陸遜先生」

陸遜「ええ」

魯「…あんたの背景が妙に殺風景なのはそういう背景素材かい?」

陸「いいえ」

周「そろそろ定刻だが」

魯「まあ、案の定と言うべきか」

陸「時間に遅れるのは許せません」

魯「まあまあ」


呂蒙「…」

魯「相変わらず汚ない部屋だな」

陸「遅刻ですよ、呂蒙先生」

呂「………!」

魯「口の動きだけ元気そうだが」

周「ミュートになってるぞ」

呂「!」

陸「早く始めてください」

呂「失礼しました!」

周「予め用意しておけ」

呂「申し訳…!」

陸「何事です?」

呂「積んだ本が崩れて…」


周「カメラを合わせなさい」

魯「あれは左伝か?」

陸「いい加減にイライラしてきました」

呂「…失礼。誠に申し訳ない」

?「阿蒙〜ちょっと〜」

魯「あの声は」

呂「母上!会議なので!」

母「夕飯は肉か魚かどっちなのさ〜」

周「丸聞こえだ」

魯「私は肉がいいですぞ、お母さん!」

陸「静かに!」


周瑜…音楽担当。さっさと始めるぞ。

魯粛…政経担当。元気だなあ、阿蒙のお袋。

呂蒙…歴史担当。お母さんがフレームインしまくって恥ずかしい。

陸遜…国語担当。終始ピリピリしていた。


呂蒙母…暴れん坊阿蒙を御しきった母ちゃん。デリカシーを期待してはいけない。


[恋愛シミュレーション編]


恋愛シミュレーションゲーム風三国志の世界で、あなたは武将たちと愛をはぐぐめるでしょうか。


[呉]


「今日は楽しかったね」

「そうだな」

文台さんは、どこか遠くを見るような目をしている。

「今日お別れしたら、またしばらく会えなくなるから会えて良かった」

「え…」

初耳だった。

「どうして?」

「兄弟を助けに行く」

「どこに行っちゃうの?」

少し黙っていた文台さんが言った。

「紛争地域さ」



直接的な友人がいる訳ではなくても、座右の銘が四海兄弟の孫堅は、自分の命を顧みることなく紛争地域に飛び込んでいってしまいます。

死ぬつもりはないけれど、自分の命を軽んじがちな孫堅の心情を理解できない主人公。

あなたは孫堅と共に生きることはできるでしょうか。


黄蓋の初対面イベントは、居酒屋のトイレで酔い潰れながら韓当を呼んでいる場面から始まります。

ガサツで豪快すぎる所が敬遠されがちなので、部下にトイレに置いて行かれてしまった黄蓋を介抱する主人公。

恩にきた黄蓋は、困ったことがあったらいつでも俺の名を呼べ、と伝えて別れます。


火事に巻き込まれた主人公を助ける強制イベントが分岐点となっています。

ここで黄蓋の名前を呼ぶ選択肢しか出ない場合、黄蓋が助けに来てくれるのですが、主人公救出後に再び建物に飛び込んでしまいます。

しかし黄蓋の名前も呼べない選択肢が出ると、颯爽と現れた黄蓋が主人公を守り抜いてくれます。


後者のルートがベストエンドルートで、エンディングでは迷子を助けようと試みるも怖がられてしまい困っている黄蓋を主人公が助けに行きます。

無事に迷子を両親に届けた後、黄蓋が嬉しそうに「心であなたの名前を呼んだとしても、あなたは俺のところに来てくれるのだな」と笑い、ベストエンドです。


「程公!」

久しぶりに程普さんに逢えるのが嬉しくて、準備に気合が入ってしまった私。

そうしたら、また遅刻してしまうところ、本当になんとかならないかなぁ。

「遅い」

時間に厳しい程普さんだ。

また叱られると思ったら、様子がちょっと違うような。

「程公?」

「今日はあなたに酔わされそうだ」



厳格だけど皆に優しいから、誰からも程公と慕われている程普。

そんな程普は、なぜか主人公にだけは当たりがちょっと強い。

そんな主人公に、程普をよく知る韓当が「あいつにも理由があるから嫌わないでやってくれないか」とお願いされます。

あなたは程普の抱える理由を知ることができるでしょうか。


「やれやれ」

今日はなんだか、朱治さんのため息が多い気がする。

いつも飄々と仕事を終わらせて、くたびれたそぶりも見せない朱治さんが。

「何かあったんですか?」

「あったといえば、あったかな」

顔こそ笑っているように見えるけど、私には朱治さんが困っているように見えた。


【どうしますか】

①「そういうこともありますよね」

②「毎日お疲れ様です」

③「お話聞きますよ?」



①「そういうこともありますよね」

「ああ。生きていればそういうことの連続だ」

そう言った朱治さんは、軽く伸びをして言った。

「少し表を散歩してくる。連絡が来たら後で折り返しするって伝えておいてくれるかな」

「分かりました」

外に出ていく朱治さんの背中は、心なし小さく見えた。


【朱治の好感度が下がった!】


②「毎日お疲れ様です」

「ああ。君も毎日お疲れ様」

そう言った朱治さんは、焼菓子を手渡してくれた。

「いかがかな?」

「いいんですか?」

「今この場で食べるならあげよう」

「いただきます!」

こんなに美味しそうなお菓子を私が食べない訳がない!

「君も共犯だぞ」

朱治さんがニヤリと笑った。


【朱治の好感度が上がった!】


③「お話聞きますよ?」

私がそう言うと、朱治さんは意外そうな顔をした。

「君が?」

「朱治さんのため息って、聞いたことがないから心配で」

「そんなにしていたかな?」

「私が気づくくらいですから」

そう言ったら朱治さんは、少し笑った。

「気づいてくれたのは、君が初めてだよ。ありがとう」


【朱治の好感度がぐーんと上がった】


「な〜に一人で黄昏てるの?」

いると気づかなければ素通りしてしまうような影の中に、伯符がいた。

「よう」

なんだかいつもと違う。

「元気ない?」

「そういうわけじゃねえんだ」

伯符って、一人でこんな切ない目をするんだっけ?

「またな」

去っていく伯符の背中を、見送ることしかできなかった。



普段は明るく元気な孫策ですが、時折見せる寂しそうな表情や、突然行方をくらまして独りになる傾向に心配を隠せない主人公。

孫策の親友の周瑜ですら、その真意を知りませんでした。

あなたは孫策の心を溶かして、彼と共に未来を歩むことはできるでしょうか。


歌が好きだ。

唄うことほど好きなことは、この世にないほど。

今日も一人で唄っていたら、誰かが振り向いた。

構わず唄っていたけど、その人が私の所にやって来る。

驚くような美青年だ。

「上手いじゃないか」

なにを言ったらいいか、分からない。

「半音外してたけどな」

彼は悪戯っぽく笑っていた。


呂範の初対面イベントは、主人公が勇気を出して飛び込んだ高級ブティックでのチョイスをからかわれる所から始まります。

突然声をかけられたことに驚く主人公を尻目に、呂範は予算の範囲内で最上のコーデをしてくれました。

コーデのお礼にお茶の相手をおねだりされる所から、交流がスタートします。


主人公の恩人が冤罪で囚われの身になってしまったことを呂範に話すイベントが強制イベントです。

好感度が低いと主人公に何も言わずにいなくなった呂範が風の噂で死んだことを聞くことになりますが、好感度が高いと呂範秘蔵の連絡先を託され、彼の仲間と共に呂範と恩人救出作戦を遂行し成功します。


救出した呂範を献身的に介抱した主人公に対して、住所だけを記されたメモを渡されます。

そこは限られた人しか入ることを許されない高級レストランで、最上級の衣装に身を包んだ呂範が主人公をエスコートします。

初めて会った時に選んでもらったドレスを纏った主人公に「似合うじゃないか」と一言。


「張紘さんって本当に穏やかですよね」

「それは?」

「だって張昭さんなんて、いつもガミガミしてるじゃないですか」

「…ここだけの話ですがね」

張紘さんがニヤッとする。

「ニ張って言われますが、実はそんなに仲良くないんですよ」

「そうなんですか!」

「ガミガミ言うのは好きじゃないんでね」


「なぜ俺に、構う?」

「どういうこと?」

無口な周泰さんが、少し間を置いて言った。

「俺は、話すのが上手くない」

「それが?」

「顔の傷も、嫌ではないのか?」

「全然?」

周泰さんが俯いて、顔を上げない。

「どうしたの?」

「あまり、そういう事を、言われたことはない」

もしかして照れてる?


彼は幼馴染の呂蒙くん。

中学校の時に私が転校するまで、お隣さんだった。

小学校の時の呂蒙くんは、私より背がちっちゃかったけど、元気な暴れん坊で、よく友達と喧嘩しては、先生に叱られてる所を見ていた時は心配だったな。

呂蒙くんのお母さんに頼まれて、一緒にお勉強をしたこともあったっけ。


久しぶりに再開した呂蒙に勉強を教えてもらうことになった主人公。

主人公たっての希望で、呂蒙の家で勉強会をすることになり、大張り切り。

久しぶりに会った呂蒙のお母さんからの歓迎も受けて、彼の部屋で勉強会。

家では眼鏡をかける呂蒙に驚く主人公。

子供の頃の昔話に花が咲くのであった。


「子明くん、家では眼鏡なの?」

「目が悪くなってな」

「学校ではかけないの?」

「恥ずかしくて…」

ボソッと話す子明くんに、私は思わず笑ってしまった。

「なんだよ」

「暴れん坊の蒙ちゃんが、眼鏡だもんね!」

「うるさい」

だけど、久しぶりに会えた蒙ちゃんは、なんだかかっこよくなっていた。


「あ〜あ」

「どうした?」

「私があの蒙ちゃんに、お勉強教えてもらうようになるなんてな〜って」

「うるさい」

「どうしてそんなに勉強できるようになったの?」

「勉強したからだ」

私は思わず吹き出してしまった。

「なにがおかしいんだよ」

「だって、いかにも蒙ちゃんって感じの答えだったから」


十一

陸績くんの様子がおかしい。

落ち着いてて優しい彼が、どこかうわの空で、懐ばかりを気にしてる。

「陸績くん」

思わず私は聞いてしまった。

「私に何を隠しているの?」

少し驚いた陸績くんは、目を閉じて懐から橙色の箱を取り出した。

「これをあなたにお渡ししたかったんです」

これは、指輪の箱?


十二

久しぶりに行けるのが嬉しくて、へたくそな鼻唄が止まらない。

今日はどんな髪型にしてもらえるんだろう。

「やあ。いらっしゃい」

出迎えた周魴さんの髪型を見て、思わず立ちすくむ私。

「どうしたんですか!?」

「ああ、髪?こういうのもいいだろ?」

私が憧れる長髪の周魴さんが、坊主になっていた。


[群雄たち]


豪快で気前がいいから、いつも友達に囲まれている朱儁さん。

そんな朱儁さんに恩返しがしたかった私は、手作りのお菓子をプレゼントした。

「人からプレゼントをもらうのは、こんなに嬉しいことなんだな」

照れたようにはにかむ朱儁さん。

「これからは、公偉って呼んでくれ」

私、今、ときめいてる。


「皇甫嵩さん!まだですか!」

仕事の連絡が一日来ないから、つい声が厳しくなってしまう。

「面目ない。どの件でしたっけ?」

「穀物の仕入先の件です!」

パンと手を打った皇甫嵩さんが、申し訳なさそうに言った。

「今から五分で終わらせる!」

それで本当に五分で終わらせるからすごいんだけどさ!


「どうしよう…」

盧植さんの家まで届け物を頼まれたのに、道に迷ってしまった。

スマホの充電も切れて、八方塞がりの四面楚歌だ。

愚や愚や、私はどうしたらいいんだろう…

「どうしたんですか?」

「盧植先生、ですか?」

私よりちょっと背が高い耳の大きな男の子が、声をかけてくれた。

「…盧植さんって知ってますか?」


その辺の男の子が知ってるわけないのに、聞いてしまう自分が情けない。

「知ってるの!?」

「僕の先生ですけど…」

「声も身体も大きくて立派な人だよね!」

男の子がちょっと笑った。

「今のお姉さんの声の方が大きいですよ」

知っている人に会えると思わなかった。

反省反省…


「お礼をするから、盧植さんのお家まで案内してもらえるかな?」

「いいですよ」

思わず全身で喜んでしまう。

また男の子に笑われた。

「元気ですね」

「君も一人ぼっちになった時、助けてくれる人と出会えたら分かるよ」

「…そうかもな」

ボソッと言った男の子の顔が、妙に頼もしく見えた気がした。

Twitterで連載中です!

三国志こばなし集 (https://twitter.com/omikanboy3594)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ