48.任命
グレイクが部屋から騎士たちによって連れ出された後のこと。
「セリン君、モルカとは最近どうなんだい?」
「どうって……仲の良い友達ですけど……」
「そうか。たまには娘を気にかけて欲しいな。セリン君ほどの勇気のある戦士になら、娘を託してもいいと思っている」
「た、託すって⁉」
僕は思わず顔を背けてしまった。
モルカ様は王国を代表する王女で、街を歩けば誰もが振り返るほどの美女だ。
そんな王女が、僕なんかと結婚するなんて不釣り合いにもほどがある。
モルカ様を見ると、顔を赤くしてそっぽを向いていた。
ああ……そこまで僕と結婚するのが嫌なのかな……。
実際にわかっていても、こう否定されると辛いものだね……。
「それからセリン君、君にお願いしたいことがあるんだ」
「お願いですか?」
エルクセルクさんはそう言うと、深々と頭を下げる。
「セリン君、今日から君を新しい勇者に任命したい」
「ぼ、僕ですか⁉」
僕が腰を抜かして驚いていると、モルカ様は「セリン様なら当然ですわ」と後押しする。
勇者パーティを追放された僕のどこが当然なのだろうか……。
「グレイクを勇者の職務から追放した今、勇者が不在となれば、国民は大いに不安を感じるに違いない。それに、スキル『勇者』は1000年に1度しか現れないと言われているスキルでね……グレイクに替わる人材も出てくることは難しいだろう。そこで、セリン君には勇者として魔王軍の討伐をお願いしたいんだ。もちろん、冒険者生活の傍らで構わないよ」
「ですが……僕なんかが勇者だと国民も不安に感じるのでは……」
「グレイクは勇者としての資質が明らかに欠けていた男だ。だけど、セリン君はどうだい? パーティ内で酷い迫害を受けながらも、必死に魔王を討伐しようと努力していたことを私は知っている。だから私は君に勇者をお願いしたいんだ。頼む、この通りだ」
エルクセルクさんは土下座してそう言った。
僕は涙を流していた。
こんなに優しい人が勇者パーティ時代の僕を見ていてくれていたなんて、感動するな……。
僕の頑張りなんて誰も見てくれていないと思っていたから、報われるようで涙が止まらないよ……。
「勇者パーティが連戦連敗のなか、国民たちは魔物に怯えて暮らしている聞きましたの。その不安をかき消すには、巷で英雄と崇められているセリンさんしかいませんわ!」
「モルカの言う通り、君は誰よりも勇者に値する器を持っている男だと思う。勇者として、皆を魔王軍から守ってほしい」
皆を守るか……。
僕の頭にはルシナやティナ、モルカ様やギルドメンバー皆の顔が浮かんでいた。
「わかりました……。僕が勇者として魔王討伐の命を引き受けます!」
そうして、僕はグレイクに代わり、新たな勇者に任命されたのだった。
これからは勇者として、僕が皆を守るんだ!
「面白い!」
「続きが早く読みたい!」
と思いましたら
下記の☆☆☆☆☆から作品の応援をよろしくお願いいたします!
面白かったら☆5つ、つまらなければ☆1つなど、正直な感想で大丈夫です!
また、ブックマークもいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。