26.敗走(グレイク視点)
「な、なぜセリンなのですか……あいつは勇者パーティ時代、何もできないグズで散々俺たちの足を引っ張ったカス野郎ですよ! それに、あの無能は祝福の儀でレアスキルを持っていると嘘をついてパーティに加入してきたんです! モルカ様はそんな奴の肩を持つのですか?」
すると、モルカ様はため息をついて言った。
「貴方はセリン様が勇者パーティ時代に何もしてないとお思いのようですが、パーティの資金管理に魔王領攻略前の効果的な偵察、夜営時はパーティメンバーが休憩できるように1人で監視する等、セリン様は計り知れない功績を挙げたと思いますが」
「そんな力、魔物を狩ることにはまったく役に立たないじゃないですか!」
「では、どうして貴方たちは最近、魔王領の攻略に失敗しているのですか? そういえば、先日執事から聞きましたわ。パーティメンバーの女魔術師の浪費癖が凄まじいそうですね。倹約家のセリン様がいた時は、資金繰りの心配なんて起きませんでしたのに」
「そ、それは……」
バカ王女の指摘は当たっていた。
この頃、高級品に目がないエナの浪費癖のせいで、俺たちのパーティは赤字状態なのだ。
まったく、どいつもこいつも俺の足を引っ張りやがる!
「セリン様は、貴方たちが毎日のように飲み歩いて資金繰りが上手くいかなくなった際、自分の貯金を切り崩していたんですよ? そんなパーティメンバー想いのセリンさんを追放するなんて、恩知らずにも程がありますわ!」
「たかが王女の分際で生意気だな! セリンが貯金を切り崩していた? 役に立たねえ雑魚なんだから当たり前じゃねえか! おいモルカ……お前、あまり調子こいてると痛い目に遭うぜ? 次、また俺様に無礼な発言をしたらその美しい顔をグチャグチャに斬り刻んで殺してやるからな! ブハハ! それが嫌なら出資金もこれまで通り支払うことだな!」
俺は怒鳴るように言った。
しかし、モルカ様は一切表情を変えず、俺を睨みつけている。
本気で殺されてえようだな?
その時だった。
「グレイク殿、私の娘に向かってまさか……殺すなどと脅しているんじゃないだろうね?」
そ、その声は……。
深みのある低い声。
グランドル国国王、先代勇者エルクセルクが俺の背後に立っていた。
いつの間に背後に立たれたんだ⁉︎
エルクセルクは30年前にスキル『勇者』を与えられて以来、魔王軍と1人で渡り合ってきた化け物だ……。
今は年老いて、俺に魔王討伐の命を任せているが、未だその腕は健在。
俺はガクブル身体が震えていた。
なぜなら、エルクセルクの身体からうっすらと殺気が伝わってくるからだ。
「さあ、グレイク殿、娘に文句があるなら私を通して貰おうか」
「す、すみませんでした国王様ぁあああああああああああ!」
俺は急いで大広間から出ると、城から逃げる。
クソ! 俺がこんな無様な思いをしたのも全てセリンのせいだ。
あの雑魚野郎……俺をどれだけイラつかせたら気が済むんだ!
殺してやる!
あのクズがいる限り、俺の生活に平和は訪れねえんだ!
セリンを殺せば……全て解決するに違いねえ!
俺は道端のゴミ箱を蹴り飛ばすと、セリンを殺す覚悟を決めるのだった。
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