16.襲われた王女
ルシナとギルドへ戻る途中。
僕たちはしばらく馬車に揺られていると、外から悲鳴が聞こえた。
降りて確認すると、転倒している馬車が1台。
そして、王国騎士団の騎士たちが傷だらけで倒れていた。
「皆さん、何があったんですか⁉︎」
「あ、あの馬車に姫様が……」
転倒した馬車を確認すると中はもぬけの空。
なるほど、王国の姫様が襲われたのか。
僕は馬車に落ちていたピンクのハンカチを拾うと、騎士さんに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「すまない少年……私は、グランドル王国騎士団兵長のベルクだ。実は姫様の護衛中に山賊に襲われてな……。おかげで姫様は連れ去られてしまい、私たちは身動きがとれないほどの大怪我を受けてしまった」
「その姫様って……」
「王国第一王女のモルカ様だ」
「モルカ様⁉」
モルカ様は、勇者パーティ時代に雑用係だった僕と、唯一友達になってくれた優しい姫様だ。
国王の誕生会に呼ばれたが、平民出身だった僕は貴族たちの会話に馴染めず、1人ぼっちだった。
そんな僕に、「楽しめていますか?」と優しく声をかけてくれたのがモルカ様だった。
それ以来、モルカ様は僕が王都の城を訪れる度に必ず挨拶してくれた。
勇者パーティの恥として顔が広まり、友達がいなかった哀れな僕にとって、モルカ様のは太陽のような存在だったんだ。
救ってくれた恩もあるし、早く助けないとね!
「ベルクさん、ちょっと待っていてくださいね!」
「え? 君たちは危ないからここを離れなさい……あれ!? 少年が消えただと?」
僕はスキル『敏捷』を使うと、風のような速さでジミ村へと走る。
そして、ジミ村で倒壊した家の修理をしていたコボルト長のググルを捕まえると、急いでベルクさんの元へと戻った。
「い⁉ 一体、何してくれてんだセリンさん!? 速すぎて顔がもげると思ったぜ……」
「頼みたいことがあってさ、ググルは鼻がいいよね?」
「ああ、ワシたちスキルに恵まれないコボルトにとって、鼻は唯一使える武器だからな!」
「この姫様のハンカチを匂って、持ち主の居場所を突き止めて欲しいんだ」
すると、ググルは嫌そうな顔で言った。
「ああ? なぜワシが無料でそんなことをしなくてはならんのですか? ワシはただでさえ、ジミ村の壊した箇所を修復しなきゃならないんですよ? いくらワシより強いセリンさんの頼みでも、そんな暇に付き合う時間はありませんよ」
「そうか……困ったな……。モルカ様は王国1番の美女だから、助けた後はググルにも紹介してあげようと思ったんだけどな……」
「やってやろうじゃねえかぁああああ! セリンの兄貴!」
そう叫び、すっきりとした顔立ちになったググルは、姫様のハンカチを嗅ぐと走っていった。
安い挑発に乗るなんて……。
ググル……なんてちょろい奴なんだ……、
すると、周りから声が上がる。
「すげえ……あの、冒険者……俺たち王国騎士団が何度攻めても歯が立たなかったコボルト領のググルを従えているぞ!」
「そうか。あれが王国内を賑わせている最強新米冒険者と名高いセリンさんか! まあ、セリンさんならコボルトを引き連れていても驚きはないな!」
などと、話している騎士たち。
なんだか、どんどん僕の噂が大きくなっているみたいだな……。
僕は騎士たちに賞賛されつつ、ググルの後を追うのだった。
「面白い!」
「続きが早く読みたい!」
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