98.蒼玉と月長石の翼
修整しました。(シレッと……)
転移した先は、3区外れのごみ溜だった。魔界と生活可能区域を隔てる更地が、いつの間にかごみ溜となり、いつの間にか人が住むようになった。まともな家を持てない、もしくは住むことで危険のある者たちが集まっている場所である。
「スゲー、この魔石高いんだろ?」
ツンツン頭の男の子が、リネスティー・モートンの持つ魔石に興味を示した。
形は一般的な魔石と変わらないが、特筆すべきは透明度と大きさ。濁りのないクリアな石は、日光に当てると紫色の光を地面に写す。そして野球ボール大の大きさの魔石なのだから、当然高い。
「そりゃー高いっちゅうレベルじゃないのぉ」
「いくらなんだよ〜、教えてくれよ〜」
「コラ!敬語使いなさい敬語を。すみません」
「構わんよ。にしても、随分とまあ」
この辺りに来たことがなければ、誰もその変化に気が付かないだろう。魔界の恐ろしさだけを知っていて、その実、見たことがない人間というのは非常に多い。リネスティはたまに様子を見に来るから知っている。魔界の一部が禿げ上がったようで、地面を覆う草ごと消え失せており、見上げるほど高かった木々はその辺りにゴロゴロと転がっている。
後ろを振り返って見ると、遠くの方に街が見える。アールガウ3区だ。そこにどれ程の被害があったのか定かではないが、この更地が緩衝地帯として作られた意味はあったようだ。
残念ながら、この3区外れにあったボロ小屋は潰れてしまっている。被害を免れた小屋もあったようだが、ここを片付けるのはだいぶ後のことになるだろう。
そもそもここは居住用に作られた地域ではないのだから。
「さて、急がんとヤバそうじゃな」
小屋の中には人がいるだろうか。いたとしても助けている暇はない。この原因を突き止めなければ、魔物や動物の暴走を生み被害が広がってしまうからだ。
ひとまず目指すはほのぼの郷。何があったか話を聞いてからでないと、取っ掛かりがつかめない。
何度も魔界前には来ている。たまに魔界に入ることもある。しかしほのぼの郷は見たことがなかった。ダンジョン攻略をしたいと思う人間は見えないようになっているらしく……
「ほっ、あったわ。ひょ〜意外とちんまいの〜」
ギルドと大きさは変わらないように感じる。両開き扉は随分と立派で、それ以外は割と普通。ダンジョンだからもっと奇天烈なのかと思っていたが、趣は石造りで三角屋根に一本の煙突。言うなれば大きめの古民家だろう。
「おーい!客じゃー!開けんかーー!」
ドンドンと扉を叩き反応を待つが、うんともすんとも言わない。もう一度同じことをしてみるが、やはり反応はない。
「休みっちゅうわけでもないじゃろうに」
魔力を完全に封じていたモートンは、中の様子を探るため感知魔法を発動した。生物が映れば居留守、でなければ死んだか、ここが空き家かのどちらかだろう。魔界に家を建てるバカはこの世に一人しかいないので、空き家の線はほとんど考慮に入れていない。
魔法エリアを広げるが玄関のある階には誰もいない。2階、もしくは地下にいるのかと思案して、上下に魔法を伸ばした瞬間の出来事だった。
魔法に一人、いや一匹の魔物と思われる者が引っ掛かったのだ。それは扉越しにこちらを見ている。魔法で探られていると知りながら出てきたのだ。
「聞こえるかー?話がしたいんじゃがー」
魔法は切らさず声をかけてみる。
「キミはだーれ?ボクのお家に魔法を掛けたでしょー」
随分と若い声だ。シルエットも子供ぐらいの大きさだから、感知魔法にわざと引っ掛かった魔物と声の主は同じだと分かる。
「ワシは、リネスティ・モートン。ここの店主バードンの知り合いなんじゃが入れてくれんかのぉ」
「ふーん、怪しーなー。この魔法気持ち悪いからやめてよー。そしたらアーリマ君のお嫁さんに聞いてあげるー」
「おお、アーリマの奥さんといったら、えーと確かミリス、じゃろ?」
「――わぁお。もしかしてほんとーに知り合い?ちょっと待ってて。魔法止めてねー」
突然魔法から消えた魔物。上下に広げて捜索しても良かったが、今のところ穏便に進んでいる。今すぐに魔法を消すことはしないが、一旦はミリスを連れてくるまで待っていよう。
暫くすると、魔法に2つのシルエットが浮かんだ。1つは先程の魔物、そして2つ目はおそらく女性、人間だろう。
「ミリス・ジャンクトです。もう一度お名前を伺っても?」
「リネスティ・モートンじゃ。冒険者ギルドでギルドマスターをしとる」
「えっ!あ、ああそうですか」
「大丈夫じゃ。バードンとは最近会っとるし、アーリマからはさっき連絡があった。どうやら緊急らしいのう」
先程の動揺は、バードンが生きていると、言ってはならないという謎の掟の呪縛だろう。あのボケは、自分だけ開放されおってと、ミリスに少し同情した。そしてアーリマから緊急の知らせがあったと伝え、反応を見る。魔物と生活している時点で警戒度は高まる。そしてここは魔界、見えない状況下では言葉と魔法によって情報を引き出すしかない。
「アーリマが!?え、えっと、え?どうしたら……」
「ワシは、ここで何が起きたんか聞きたいだけじゃ。このまま話してくれてもええが、顔ぐらい見せちゃくれんかのぉ」
「いい?ジョン君、どっち?」
「さ~ね~。とりあえずバードン君ぐらい強い人だねー。まあ負けないけど」
「じゃあ、えーと、アーリマの何か秘密とか知ってますか?いやそれは知らないか。例えば思い出話とかは?すみません、安全のために本当に知り合いか確かめたいんです」
「全然構わんよ。秘密っちゅうか面白い話を知っとるぞ。アントン・グリーンヒルの金玉を蹴り上げたんじゃろ?」
「あっ、ホントに知り合いだ。開けて」
「はーい」
ギィィと重たい扉が開くと、そこにいたのは金髪の女性と火を纏った妖精だった。いや、妖精のような魔物だ。中へ入るや否や金髪の女性ミリスは何度も頭を下げる。
「申し訳ありませんでした!」
「んにゃ、ええって。それよりもちょっといいかのぉ」
ミリス、彼女が何かしらの魔法に当てられていた場合、これは誘い込まれたということになる。つまり罠。まずは彼女がどちら側なのかはっきりさせる必要があった。
ミリスに向けて手を翳して様子を見る。魔物が警戒するかと思ったが、どうやらシルビアの仲間に興味があるようだ。
「なんじゃ、このまま殺してもええんか?」
「んー?だって殺さないでしょー?顔を見たら分かるよー」
ひとまず魔物は警戒しなくていいだろう。次はミリスの体を感知魔法の応用で調べていく。心臓の動き、血液中、筋肉の強張り、そして魔法の形跡。不安から脈が早くなっているが魔法の形跡などはない。つまり味方、魔物に操られているわけではなく、自分の意志で魔物といる者。
「すまんのぅ、試すような真似をして」
「いえ、それよりもアーリマは……」
「大丈夫じゃ。ピルドを送ったからのぉ。そういえばアーリマと同郷だったのぉ、ピルドは知っとるか?」
「はい、幼馴染です。ピルドがいるなら大丈夫、ですよね」
「じゃな。ほんで?」
「はい、それが……」
魔界に行ったバードンが連絡を寄越した。その内容は鳥人間がサイクロプスに襲われているというもの。
サイクロプスに怯えた魔物や動物がスタンピードを起こす可能性を考慮して警告したのだろうとアーリマが言っていたな。その通りじゃろう。
であれば、この魔界の有様は別の要因、つまりバードンでも予測できなかった原因があるのだ。
現にスタンピードは起きていない。あるのは不自然に消え去った木々だけ。
「ものすごい風が吹いて、生えていた木や岩が飛ばされてきたんです。ゴブリンちゃんとアーリマが障壁で防いだので乗り切れましたが、バードンさんからはそれ以降連絡がなくて」
「その風にやられた可能性があるっちゅうことじゃな。鳥の亜人が襲われているっちゅーのは、誰からの情報じゃ?」
「鳥の亜人の子供です。遠くから逃げてきて、たまたまバードンさんを見つけて助けを求めたそうです」
「その子に会えるかの?」
「ええ、構いませんが、その、言葉がかなり特殊で……」
「それなら得意な者が後ろにおるから大丈夫じゃろ」
「――じゃあ、呼んできますね」
広いエントランスホールは見事だと感心した。色調は穏やかで、間接照明と石の反射で温かい明るさを保っている。受付はシックな黒、ミリスの服はスリーピースのスーツと、清潔感と高級感がどことなく漂っている。それだけに、バードンがここにいるとバランスが崩れる、そんな気がした。ていうか、絶対に表に出たら不味いだろと本気で思っていた。
受付の奥からミリスと一緒に出てきたのは、小さな子供。性別はよく分からない。髪は綺麗な青色の羽毛で鳥人間と言う割には翼がない。
「この子です。名前はミィちゃんです」
どことなく表情に影がある。怯えというより不安。ここが馴染みのない場所だからなのか、仲間への心配か、それとも人間に思うところがあるのか。
とにかく声を掛けてみる。
「ミィや、ワシはリネスティ・モートン。モッちゃんと呼んだらええ、友達になってくれるか?ん?」
差し出された手を冴えない顔で掴んでくれた。どうやら人間に対する不安ではないようだ。
「お母さん、お父さんはどこにおるんじゃ?」
「お母さんたち、目を、食べる」
今にも泣き出しそうな顔で、彼女は答えてくれた。確かに事前知識無しでは、この言葉を解読するのに時間を食っただろう。
「仲間がいるんか?ん?目玉は何匹おったんじゃ?お前さんたちはどうやって戦うんじゃ?」
突然、ブルブルと首を振って泣き出してしまった。一体何が悪かったのか、もう一度聞いてみるか。時間がないからな。
そう思い、頭を撫でてやろうと手を伸ばすとシルビアが声をかけてきた。
「私が話しましょう」
「ん?いや別に」
「仲間が居ない上に大人に囲まれているんですよ?不安に決まってます。それにギルマスの圧が恐いんですよ」
「はっ?んんん、時間もないからのぉ、早めに頼めるか?」
「任せてください」
手を引っ込め、ため息をつく。不安の正体は分かったが、圧が恐いと言われたのは心外だった。かなり優しく、対子供用に切り替えたつもりだったのに、泣かれてしまい、部下にはどやされて、蚊帳の外である。
そこまで言うなら実力を見てやろうと、ひん曲がった根性で様子を眺める。
シルビアは頭を撫でてやり、執拗に「恐かったねー」と連呼して、懐柔する作戦のようだ。これでもギルドマスター、顔に泥を塗られた気分だがまあいいだろう。
すると亜人の子供は頷きながらシルビアの胸に顔を埋めた。
酷い屈辱だった。ギルドマスター歴40年の女怪と呼ばれた自分が、まさか子供に怯えられ、部下に辱められるとは夢にも思わない。
深いシワをより深くして、見たくない現実を見るかのように薄目で演劇を眺める。
「見て、この子はまだ12歳なの。ちょっとお姉さんかなー。みんな自己紹介して」
「私はミレーナ、12歳だよ。ミィちゃん、私の妹と同じくらいかなー?」
「俺はスコット15歳だ。そんなに泣くなよ、あの婆ちゃん優しいんだぜ?」
「僕、ピーター。12歳。よろしくね」
「私はミーシャよ。14歳だけど、すぐに15歳になるわ」
子供をだしに使うとは、なかなかやり手だな。ミィちゃんも赤い目で、お兄ちゃんお姉ちゃん達を見ているじゃないか。分かった、シルビアが子供の扱いに慣れている事は分かった。人には得手不得手があるから、まあいいだろう。さあて、ワシの求める情報を引き出すことはできるかな?
と、すっかり演劇の虜になっているギルドマスター。
「ほら君は?こっちおいで」
「えっ!?ボク?」
「うん、いくつかな?教えて?」
「う、うん」
「えっ、魔物ですよ?」
先程までとは違って狼狽えている火の魔物。そこに割って入ったのはミリスだった。魔物ですよ?という言葉で火の魔物の顔がピクリと動いたが、何を思っているのかは読み取れない。
ミリスの反応は至って自然だ。魔物は人間を襲う。いくら人の形をしていて、表情があっても、人間を食らうのだ。亜人とは全く別の生き物。
「大丈夫ですよ。ね~?ほらおいで。ミィちゃんもお友達になりたいよね?」
完全なる誘導尋問だが、相手は子供。赤子の手をひねるとはまさにこのことで、ミィは首を縦に振った。
「ね~?こっちへおいで」
年齢は人を判断する基準にならないと偽善者は言う。この光景を見て、果たして言えるのだろうか。シルビアがしわしわの老婆だったら、子どもたちはこうも笑顔になるだろうか。いやなるはずがない。
おとぎ話の悪い魔法使いだと認識して、総攻撃をかけてくるに違いない。
火の魔物は、甘く香ばしいクッキーの匂いに誘われるように、フラフラとシルビアの元へと進み出た。
「お名前は?」
「ジョン、ジョン・ダン」
「ジョン君て言うんだー。いくつかなー?」
「いくつなんだろー。考えたこともないや」
「皆と同じくらいだと思うよ?ミィちゃん、お友達たくさんできたね。もう泣かないで」
くっ、こんな三文芝居でもワシは涙を流すというのか。間違いない歳のせいだ。幸せな雰囲気に飲まれたわけでは決してない!
「髪の毛綺麗だね。触ってもいい?」
「うん、いいよ」
「ジョン、その火って本物?触ったら火傷するのか?」
「しないよー、ボクが調整すればねー」
興味が尽きない子どもたちは、女同士男同士、それぞれ語り合い触れ合う。輝かしい光景である。だが、ここに来た目的は子供の情操教育のためでも、涙を流すためでもないのだ。
「うう、ゲホッ。ゴホンッ!」
軽く咳払いをするつもりだったが、涙のせいかめちゃくちゃ痰が絡んでしまった。そして、想定以上に大きい音を出してしまったものだから、子どもたちの視線が一気に集まってしまう。
「あれ、ギルマス泣いてねーか?」
「ホントだー、感動したの?」
「うっ、うるさい!目から水を出す魔法じゃ!」
子供に向ける笑みを携え、シルビアもこちらを眺めている。完敗だった。さっさと保育所でも作ればいいのに、金なら出すよ。と思っていると、シルビアは何やら目で合図を送っている。ミレーナちゃん、ミーシャちゃんと笑い合うミィちゃんへイケというのだ。
無邪気な笑顔を壊してしまわないだろうか、また泣かせてしまわないだろうか。リネスティ・モートン(75)勇気が出ず一歩が踏み出せなかった。
すると、側ににじり寄ってきたのはミリスだった。
「あの、大変申し訳ないんですが、早くしてくれますか?人命が掛かってますので」
笑顔の中で、ピクピク痙攣する頬がすべてを物語っていた。
「いつまでやっとんねん!」
リネスティ・モートン(75)は目が覚めた。感情移入しすぎて、自分が何者なのか忘れていたのだ。そう、マルブリーツェ州冒険者ギルドマスターであるということを。
「ミィや、さっきはすまんかったのう。ほいでな、質問してもいいか?」
「うん」
「目玉の魔物は何匹おったか覚えとるか?」
ミィは人差し指を立ててみせた。
「うんうん、1匹じゃな。ありがとう。そんじゃあ仲間は何人ぐらいおるか分かるかの?ちょっと難しいか?」
「いっぱい」
「うんうん、いっぱいじゃな。すごいなーミィちゃんは。そんじゃあ最後にもう1ついいかのぉ?」
「うん」
「君たちの種族の名前、分かるかのぉ?ワシはヒトもしくは人間、君は?」
「ハルピュイア」
「――ハルピュイア、か。なるほどのぉ。うん、ミィやありがとう」
お礼を言うとミィは手を差し伸べて、握手を求めた。嬉しい提案に、顔を緩ませ手を握る。
ハルピュイアとはティケンドパバン山脈に近い村々でのみ確認された、かつての魔物である。実際には亜人であると断定されており、学術的にもそこに疑いはない。
しかし、彼女達がここマルブリーツェにいることは問題だった。寒冷な地域を好むと言われるハルピュイアと温暖な地域を好むと言われるハーピーは別種の亜人であり、そして仲が悪い。
不幸中の幸いだが、ワカチナでは亜人差別が未だに残っているので、亜人の殆どは亜人が作った町カリーニング州に集まっている。だからここにいてもらうか退去してもらえれば問題はない。
最大の懸念はそもそも話を聞いてくれるかどうかなのだ。
そしてもう1つ大きな謎が残る。サイクロプスとハルピュイア、住まう場所はそれぞれ違いなおかつマルブリーツェ州には縁もないはず。何故ここに集ったのか。そして何故争っているのか。
「1つお願いをしてもいいかのぉ?」
「うん」
「翼を見せてはくれんかのぉ。とても綺麗だと聞いておる。長く生きとるが、見たことはないもんでな」
「翼?うん」
ミィが腕を水平にすると、羽毛が広がり、分厚く力強い翼が生えた。翼上部は蒼玉を砕いて散りばめたような輝きと透き通る青。翼下部は月長石を羽毛一つ一つに宿したような艶と目がとろけるほどの白。エルフに次いで美形の亜人と名高いハルピュイアである。顔の美醜ではないのだ。いち個体として尊さを感じてしまうほど荘厳で煌めいている。
「ありがとう」
「モッちゃん、悲しい?」
「いんや、悲しくないぞ?大丈夫じゃ」
モートンは立ち上がると、火の魔物ジョンと子供達を眺める。
こうして分かり合えればどれ程楽だろうか。子供になれば、種族の対立など起きようはずもないというのに。
ミリスたちへ任せろと伝えると、ほのぼの郷をあとにする。子どもたちが約束した「また会おう」は果たされるのだろうか。
歩く度に足元に何かが絡みつくように感じる。それがミィの手のように思えてならない。
私がどこに行き何をするのか知っていて、必死に抵抗するかのようで、気分は最悪だった。
魔界の中へと向かう道中、動作補助も使わずただただ呆然と歩いていた。どうやら思考の海で溺れていたらしく、シルビアの声で我に返った。
「ギルマス!急がなくていいんですか?」
「……」
急がなければならない、それは分かっている。バードンの救出と、サイクロプスを始末する。急がなければ、バードンが死んでしまう、いやアーリマやあのゴブリンまでも死んでしまう可能性があるのだ。やや悲観的ではあるが。
そしてさらに悲観的にこの状況を分析すると、ハルピュイアが何を目的にしているのか不明な今、バードン達は2つの種族のターゲットだと考えたほうがいいだろう。
だからピルドを向わせた。アイツがいれば助かる可能性は高い。
ワシらが急いですべきこと。それは……
「ギルマス?」
遂に立ち止まってしまったワシをシルビアは心配そうに見つめる。子どもたちも、不安そうにしている。
「お前たちは帰れ。用は済んだ」
「えっ!?バードンさんたちの救出は?」
「ピルドがいるから問題ないじゃろ。ワシも向かうから、なおさらお前たちはいらん」
邪魔だと言われれば、子どもたちのようにムキになる、そう、それが自然な感情なのだ。
「何かあるんですか?」
「いんや、何もない。帰れ」
「でも」
「帰れ!ランクの件は何とかしておくでの」
「……」
黙り込んでしまったシルビアを置いて、先へ進む。この頃はだいぶ冷え込んできた。ここへ来た時よりも影が少しだけ伸びている。
バードンのことならピルドたちに任せればいい。
だがハルピュイアの相手は、ワシがせねばならんだろう。人間の、いやヒトの享楽のために狩り尽くされたとされていた亜人が生きているというのだ。
それも「いっぱい」な。話だけでまとまれば、なんといいことか。だが、ミィのようにそれを許してくれるのだろうか。
「まったく、長生きっちゅうのは一長一短じゃのう」
『飛べ』
地面を蹴り上げると、翼が生えたかのように空中へ浮き上がり、前傾すると空を切り裂くように風を破っていく。
アーリマ、ゴブリン、そしてピルドは、ピクリともしないサイクロプスを尻目に、奇妙な箱に包まれたバードンを囲んでいるところだった。
降下しようとした時、映り込んだ目の前の光景に思わず目を伏せた。
空よりも美しいハルピュイアの群れが空を埋め尽くしていたからだ。




