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93.魔界開拓

追記しますが、おそらく明日。前回分の投稿が今日になってしまったことはお詫びいたします。

一旦眠ります。


9/24

追記終わり

「魔界が東側で大きくなっていての。西側の冒険者達がこぞってそちらへ流れていっとる。ウチらとは比べものにならん報酬が出るから仕方ないんじゃが、どうにもおかしい」


「何がおかしいんだ?」


「募集依頼がずっと出たまま、1年は経っとる。帰ってきた冒険者達に特段変わった様子は無かったんじゃが、最近、東のギルドに移籍する奴が増えての。A級以上はどんどん移籍しとる」


「それは普通じゃないか?金がなきゃ生活できないんだから、東に行きたがる気持ちも分かるぞ」


「分かっとる。ワシが言っとるのは、長らく魔界開拓の募集をかけ続けて未だに終わっとらん事じゃ。いくら何でも長すぎる。今のところ魔界は落ち着いとるし、開拓はそこまで難しく無いはずじゃろ?」


「まあ、1年は長いな。東にある魔界の規模は?」


「マルブリーツェ西の大魔界の半分くらいじゃ」


「俺の宿がある魔界と同じくらいか。猛者がうじゃうじゃいるのなら1月で終わるな。何か裏があると思うか?」


「東がきな臭いからお前達が動いとるんじゃないのか?」


 老獪かつ大胆なおばあちゃんの知恵はなかなかな当たるもので、ニヤリとバードンに問い掛ける。


「まあ、そうだ。他にも理由はあるけど東を警戒して今のうちに手を打とうって事で動いてる」


「具体的には何をする気じゃ?今更、金がどうこうと言うんじゃなかろうな」


「……まず、確約が欲しい。味方に」


「なる。ほんで?」


「早っ。少しは考えろよ」


「ワシがぶち殺したボンボンはヨレキのアホ貴族じゃぞ?何で墓穴を掘るような真似をするんじゃ。東を潰してくれれば、ワシも羽を伸ばせるっちゅうのに」


「ヨレキ?どこだそれ」


「ラサパロスの東じゃ。ちっこい州じゃから覚えんでええぞ」


「東か、なるほど」


 こちらに与する動機は十分にある。東を助ければ、自らの大罪を再び法律の下に晒す危険がある。しかし、逆を言えば東を助け過去の罪を消してもらうと考えることもできる。

 8年近くの空白があっては、良くも悪くも昔のようにはいかない。このまま信用していいものかと悩むバードン。


「ほんだら、契約でもするか?死印もついてやる。どうじゃ?」


 難しい顔のバードンを見兼ねて、リネスティ・モートンは声を掛けた。契約をすると言うことは相手に信用していないと伝わってもおかしくない。だからと言ってすぐさま信じられるほど時の流れは遅くない。

 そんなことで悩んでいるのだろうと、簡単に見透かしたモートンは右手を机の上に広げた。


「いいのか?」


「せんでええのか?」


「すまん」


 信用していない訳ではない。しかし、ここまでしないと話せないほど、今回の件はリスクが大きいのだ。過去の事件が誰の仕業か未だに判然としないが、ぼんやりと見える場所は東の方角。発案がリンだっただけで、バードンにとっても重要な計画で成功させたい。ここで東に泡を吹かせれば、隠れた悪党が顔を出すかもしれないと、とても薄く淡い期待を抱いているのだ。

 申し訳無いと思いつつ、バードンが己の右手を近づけ、埃を払うかのような動作をすると、リネスティ・モートンの右手がぱっくりと裂け赤い血が溢れてくる。


『切』


 左手が己の右手を傷つけた事を確認すると、モートンに倣い手を広げて置いた。


『ここでの会話は全て秘密にする。ここでの会話に関する今後の行動と付随する会話、書面の内容は全て秘密にする。ここでの会話に協力し目的達成の為に力を尽くす。これは、違えれば死か服従を与える契約である。同意するか?』


『同意する』


『バードン・オンツキー』


『リネスティ・モートン』


 2人は手のひらを傾け、机の上に血溜まりを移した。濃い魔力を含む鮮血はジワリと崩れ重なり合う。すると、互いの血液がそれぞれの名前を形作りフワリと空中へ浮き上がる。それぞれに契約した相手の名前を確認させると、ゆっくりと向きを変え、グサリと心臓のあたりへ消えていった。


「ほれ、これで心置きなく話せるじゃろ」


 無傷の左手がバードンの手の上を通り過ぎると、流れ出ていた血液がピタリと止まりスゥーッと傷口が閉じていく。自らの右手も容易く治すと、今度は残った血の跡を消すために水玉を空中に作り出し、右手をその中にそっと沈めた。水玉の一部が朱に染まると、糸が切れたかの様に机へと落下したと思えば、飛び散ったのは白煙。僅かな冷気を残してその煙もどこかへと消えていった。


「さすがだな」


「褒めたってなにも出ないぞ?」


「ふっ。それじゃあまずはこうなった経緯からだな」


 商業を抑えられ、東の手先だと思われる民会がカリーニングで市民を扇動し、他大陸のヴォルガ・エル・ヘルデモン大帝国からは工作員が入り込み暗躍している事を伝えたバードン。そして、今回の目的であるマルブリ―ツェ勃興までの道筋を伝えた。


「随分と楽観的じゃな。あれができればこれができればっちゅうて、皮算用ばかりじゃないかの?」


「あいつなら何が何でもやり遂げる。そういうやつだ。でも今回ばかりは少しだけ不安があるから、モッちゃんにも手伝って欲しい」


「契約じゃから手伝うさ。でも具体的に何をすればいいんじゃ?出来る事っちゅうたら魔界開拓に力を貸すぐらいじゃろ」


「え、それはいいのか?てっきり魔界開拓に人を出さない主義かと思ったけど、違うんだな」


「違うわ!州から依頼は出とるが、あんな少ない金で危険な場所に人を出すと思われたら、ウチの格が下がる。援軍も無く自州だけで開拓したって自慢したいなら、騎士を出すかもっと金を出すかしてもらわにゃ、ウチの者の命が安く買われるようで嫌だっただけじゃ」


「……一つだけいいか?悪いが金は出ないぞ」


「は!?タダで働けってか?アホか!出来るわけないじゃろ!」


「あれ、待てよ。リンから手伝ってくれって言われたんだよな?その時、金の事はなんか言ってたか?」


「いや言われとらん。魔界開拓に人は出せるかと聞かれただけじゃ。そういう理由だと知っていたなら金の話に移れたっちゅうのに、言質を取れんかったわ」


 悔しそうな表情のギルドマスターを尻目に考え込む。金が無いと打ち明けていたリンだったが、ここへ来た冒険者達に無償で働かせている訳ではないはずだ。そもそも、冒険者達がタダで命を懸けようと動くはずがない。

 リネスティ・モートン契約したが、それはリンが事前に話を通していたのだから、それなりの準備をしてのことだろうとのバードンの想像に過ぎない。

 一人で暴走したかもしれないと思い、バードンは慌てて魔石を取り出した。


「ちょっとリンに聞いてみる」


 魔石を机に置くと、ピキピキと正八面体に変わりだし、暫しの静寂が流れる。


「はい!」


 いきなり機嫌の悪いリンの声が、部屋中に響いた。


「ういっす。ちょっと質問がある」


「……なんだ」


「マルブリーツェの冒険者達に魔界開拓を手伝ってもらえそうなんだが、金はあるか?」


「ついさっき、断られたって連絡があったんだが?」


 レンセンが話していた、開拓組の冒険者がリンに伝えたのだろう。それをバードンは否定する。


「少し前だろ?たった今、協力を取り付けたんだ。金さえ払うなら力を貸すってギルドマスターから言質も取ってる」


「ちっ、モタモタしやがってあのババア。ついさっき冒険者用の金を別件に回したところだ。だから即金は厳しい」


「後払いならイケるか?」


「それなら大丈夫だ。いくら要求してるんだ?あの銭ゲバは」


 ババアやら銭ゲバやら言われて、黙っていられるモートンではない。堪らず二人の会話に割り込む。


「150じゃ。素材は採取した者の自由。値下げは無し」


「……おいバードン。今までの会話聞かれてたのか?」


「大丈夫、大丈夫。俺と契約したからここでの会話は漏れない」


 すると魔石は静まり、部屋も同じく静まる。リンが頭の中でそろばんを弾いているのだ。そして、彼女の思う適正額を伝えた。


「1人100で任務中の飯代は出す。素材は好きにすればいい。ただし、即金は無理だから、代わりに怪我した場合の治療代はこっちで出す。それでどうだ」


「飯代も治療代も後払いかの?」


「後だ、まとめて払う。治療に関してはこっちに腕のいい医者がいるからそいつをタダで貸してやる」


「期間は?開拓成功までっちゅうのは流石に無理じゃのう」


「バードン、お前の予想ではどのくらいで終わる?」


「んー」


 ハズレボンビーは魔界の一部を開拓した。その期間は2週間。大きさで言えば、今回お目当ての魔界の5/1ほどである。それを考えると5倍の10週間、2ヶ月と少しは必要になる。


「早くて3ヶ月弱ぐらいだと思う」


「は!?待て待て。それは間違いないか?マルブリーツェの魔界だぞ?」


「うん、だから、あ、マルブリーツェだけか」


 マルブリーツェ州アールガウ市3区にある魔界は、隣州ボボルにある魔界の一部である。それを全て開拓するならばバードンの言うとおりの日数が必要になるが、今回はその一部だけ。


「間違えた。大きさ的に俺達が開拓したのとほぼ同じだから強いパーティーがいれば2週間以内で終わる。ランクと人数を教えてくれ」


「S級1人がいるパーティーと全員A級のパーティーとゴミ掃除の2パーティーの合計19人だ」


「それならもっと早く、いや終わらない、な。アイツらがいたらもっと長引く可能性がある。忘れてた」


 バードンはアイツらの存在を失念していた。魔界に君臨し異世界人じみた強さを持つ魔物の存在を。


「アイツら?魔人の事を言ってるのか?」


「そうだ。えっ?あ、うん。えっと、もし根城を変えていなければ、最低でも7人はいる、ってのは知ってるよな」


「それも含めてメンバーを厳選した。大人数で行っても死ぬやつは死ぬからな。本人達にも魔人との戦闘経験があるか確認はした」


「そうか。魔人がいるんだよな」


 エイミを貪り食っていたあの魔物の姿が蘇ってくる。年月をかけて記憶の底に沈めたあの姿が。ダンジョン攻略も魔物の討伐も諦めたのは自分ひとりでは無理だと気づいたからだ。もちろん、ユーリを一人残して行く事もできないからという理由もある。だが、状況は変わった。マルブリーツェ卿の言を信じればユーリが外に出ても追われる心配はない。そして今、魔界開拓を行う者達がいるのだ。

 ここに参加出来るだろうかとぼんやりと考えるバードンだったが、リンがその考えに釘を刺す。


「お前は行くなよ。ブランクが大きすぎる」


「わ、分かってるわ!そうだな、あと2パーティーは実力のあるメンツを揃えて行けば、安全に開拓出来るはずだ。ただ急げば急ぐほど、ミスが増えて負傷者が出るから1月あったほうがいい」


「おいおい、誰がそいつらの安全を考えろといったんだ。確実に任務が達成される人数と期間を言えばいい」


「ああ、それは」


 ちらりとギルドマスターであるリネスティ・モートンに視線を送る。彼女も冒険者という稼業のボスであるから、こうして使い捨てにされる実情は分かっている。しかし、こうも平然と言われると気分は良くない、だろうと思ったが意外と平然としている。


「ほれ、ワシを見とらんで言わんか」


「俺達のパーティーを基準にすると、一回の戦闘で2人は相手にできるから、魔人が7人いるとして最低4パーティー必要だ。そして、魔界の魔物対策に最低4パーティーいれば、それぞれが相手をする時に邪魔が入らずに済む。魔人を殺して、魔界の掃除が完了するのは、1週間以内だ」


「お前のパーティーが基準か。私には分からん。ランクで見ればお前達より劣る。その場合はどうなんだ」


「人を増やせばいいってもんじゃないからな。とにかく実績がある奴らがいればいい。例えば、A級の魔物を討伐したことがあるとか」


「それなら、今行ってる奴らは問題無い。そっちから合計4パーティーお前が見繕え。金はさっきの通り。ババアそれでどうだ」


「構わん。じゃが、1つだけ提案がある。州に金を出すよう掛け合うっちゅうのはどうじゃ?お前んとこはカツカツなんじゃろ?」


「それなら、今話し合いをしてる。ったく、貴族ってのは仕事が遅えんだ、これが」


「州からの依頼額が上がればその分お前の支払いを減らしてもええぞ。ただ、治療やら飯やらは外せんからの」


「ほお。いいのか?てめぇらの取り分が減るぞ?」


「お前と違って、銭にガメつい訳じゃないからの」


「よし、成立だな。バードン、明後日までに見繕え。開拓開始は3日後だ」


「分かった」


 ゴロンと転がる魔石。バードンとしては、この計画が成功する確信があった。リンが今まで挫折したところを見たことがないからだ。しかし、心配な要素はある。それは自分だ。


「ほんだら、今から会うか?早い方がええじゃろ」


「ああ、今日来てるのか?」


「いや、呼び出す。幸いにも、マルブリーツェ冒険者ギルドからは誰一人として東側に移籍した者はおらんから、楽しみにしておれ」


「分かった」


 リネスティ・モートンは徐ろに立ち上がり、壁に掛かった魔物の足形の前まで行くと、手を伸ばすが僅かに届かない。


「ちょっくら手伝え」


 バードンはモートンの隣に行き、その足形をめくる。しかし、そこにあるのはただの壁。


「これを剥がすのか?」


「違う、見とれ」


 モートンは杖を持ち上げると、ある言葉を唱え壁を軽く2回叩いた。


『アントン・グリーンヒルの金玉』


 コンコン。すると部屋に掛かった遮音魔法が消え、ねっとりと絡みつく感知魔法も消え去った。もちろん、バードンは魔法を解いていない。


「趣味の悪い合言葉だな」


「ヒヒヒヒ。誰も思いつかんじゃろ。よし、これで冒険者が集まるはずじゃ。下に行くぞ」


 モートンに続いて扉の外に出ると、辺りは真っ暗。窓からは一切光が入らず、歩くのもやっと。


「そうか、ワシの部屋以外は既製品か」


 そう呟くと立ち止まり、ボウっとした優しい灯りが手のひらから現れ、足元を照らしてくれた。灯りが先導し目の前を階段を降りていくと、何やら女性の声が聞こえてくる。


「だーかーら!緊急時用の仕様だって、モートンさんが言ってたでしょ!」


「はあ!?そんなん知らんわ!」


「とにかく、C級以下は地下に行ってください!」


「嫌だね、俺は帰る。ちつ、魔法が使えんからそれ借りるぞ」


 一階に着くとランタンを持った男が玄関に向かいドアノブをガチャガチャと動かしている最中だった。それを見て、受付から女性が飛び出し暗闇の中を早足で男の元へ向かう。


「ちょっと!出入り口には近づかない!これもモートンさんが」


「だから知らねぇって!そんなルール初めて聞いたわ」


 素材の買い取り待ち、依頼受付待ち、依頼完了報告、様々な冒険者が様々な理由で受付前に待っていたのだろう。その最中の暗転。ギルド入口の正面、両脇にある受付の間にある階段から灯りを灯してやってくれば、誰だってそちらを見る。

 玄関前で揉めていた男女もそれに気づいたようで、一階に居た者の視線が真っ直ぐにモートンとバードンに向けられる。


「モートンさん!皆言うこと聞かないんです」


「……やれやれ」


 モートンは冒険者達に視線を返すと、大きく息を吸い、背筋を何とか伸ばした。


「C級以下は地下に行くんじゃ!B級以上は武器を持って待機!今からギルド員が全員集まるから黙ってるんじゃ!煩くしたら大恥かかせてやるからの!」


 シーンと静まり返るギルド内。


 すると、途端に各々が動き出した。冒険者達だけじゃなく、階段横の受付員達もランタンを複数個ずつ持ち慌てて受付から飛び出してくる。


「ち、地下ってどうやって行くんだ!」


「今開けます!ここです!灯りを持ってゆっくり進んで!」


 ギルドの入り口から見て右側の受付台に鍵を差し込み思い切りひねる受付員。すると、受付台が上昇し天井にピタリとくっついた。その下には床ではなく空洞が出来ており階段も備わっていて、そこへと人がなだれ込んでいく。


「なあ、これは一体何をしてるんだ?」


「一人一人呼び出すのが面倒じゃから、緊急時用の招集命令を出した。それも、魔界から魔物が溢れてきたとか騎士団がガサ入れに来た時にしか使わんやつじゃ」


「は?それ、大丈夫なのか?」


「訓練も兼ねとるからええじゃろ」


 徐々に冒険者達が地下に避難していくと、受付前にはガランとした空間ができた。するとタイミングよく空中からポツポツと現れ始めた複数のパーティー達。その中には先程までモートンの執務室にいたレンセンの姿もある。


「ババア!どうしたんだ!」


「全員が集まるまではその場で待っとれ」


 静かに集まり始めたパーティーは数を増やし、計12パーティーでギルドの受付は埋め尽くされた。レンセン率いる【碧斂へきれん集団】がその大半を占めている。


「やだー。クサーイ。レンセーン、ちゃんと風呂に入るようにパーティーメンバーに言ってよー」


 エルフの女性が鼻をつまみ大きな声で嫌味を言うと、その隣では大男が肩に斧を担ぎ、ガハハと笑う。


「ベネット!耳長の香水がキツくてかなわん。ドラゴンの糞で体を洗うように言っといてくれ!」


 バードンはニヤけていた。懐かしいこの雰囲気。そして、目視できるのは2人のエルフ。亜人が仲間になれるような時代に変わっても、この雰囲気は変わらないのだなと彼らのやり取りを微笑ましく見ていたのだ。

 すると横腹にババアの肘鉄をくらい、顔を引き締める。これから、彼らの実力を見て、魔界開拓メンバーを選ぶのだから。


「よーし。お前ら!黙れ!」


 ギルドマスターの一声で、ざわめくギルド内は静まった。

 すると突然巨大な光の玉が空中を漂い始めた。巨大だが決して明るすぎない、間接照明ほどの優しい輝度の太陽は、フワリフワリと漂うと、分裂し始め天井に辺りを巡回する。全員の顔が見える程度に明るい、見事な間接照明ができたのだ。


「ほえー!嫌ミスっ。ゴホンッ。あー、間違えました、ごめんなさい!」


 ザワザワと聞こえてくる冒険者達の声をまとめると、何故彼だけ魔法が使えているのか不思議だと言いたいようだ。そんな声も耳に入らないのか、慌てふためくメガネを掛けた冒険者っぽくない男の子が魔法を消そうと両手を掲げた。

 分裂した光の玉が今度は一つに集まり出すと、モートンはそれを制止する。


「いい!そのままにするんじゃ。皆よく聞け!」


 光の玉が分裂し、再び天井を巡回し始めるとモートンは宣言した。


「今回、魔界開拓依頼を受ける事にした。それに際して、選抜を行う!」


 歓声が上がりそうな場面だが、意外と冷静に聞き込む冒険者達。 


「ほんで、今回選抜するのは、依頼を出したホロトコっちゅう者の代理人が行う。ほれ、挨拶」


 またもや肘鉄を横腹に食らったバードンは、冒険者達の顔を一通り眺め自己紹介を始めた。


「バードン・オンツキー36歳子持ち。魔界の端っこでほのぼの郷という宿屋をやってる。一応、元S級冒険者だ。よろしく」


 堂々とした面持ちのバードンとは対象的に、冒険者達はどこか興味なさそうな顔をしている。S級の格が下がったのかと首を傾げると、トンガリ帽子を被った、いかにも魔女といった風貌の女性が手を上げた。


「なんじゃ」


「バードン・オンツキーって、何とかって変な名前のパーティーのリーダーでしょ?確か死んだんじゃなかった?」


「ここにいるじゃろ」


 今度は、先程のエルフが笑みを浮かべながら声を上げた。


「S級はいくらだったのかなー?パーティーでは荷物持ちでもしてたのかなー?足引っ張って追い出されちゃったのかなー?」


 見た目は若いが、エルフは長命。流石に年の功があり嫌味もスラスラと出てくる。

 だが、こんなのは昔にさんざん体験してきた。やはり懐かしいなと、笑みを浮かべながら頷くだけのバードンに、彼女は少しだけ顔を歪めるが、すぐに微笑を貼り付けた。


「お前達の評価は分かったが、クライアントの代理じゃからな。気を悪くするような事を言わん方がええぞ」


 すると冒険者達の後方で緑色の特徴的な手が見え隠れし始めた。


「誰じゃ、前に出てきて話してみ」


 人垣を掻き分けやって来たのは、ボロ布を被ったゴブリン。先頭まで来るとボロ布の下からバードンをじっと眺めだした。バードンはそのゴブリンを見ながら、どこか出会ったような気がしていたが、全く思い出せない。


「市場でトマトを買いに来てくれましたよね」


 市場?最近行ったのは、ハズレボンビーのメンバーとリンが来たあの時だ。そういえば、ティケンドパバントマトが全く見つからず、最後の最後にやっと買えたのだ。


「ああ、三区市場でトマトを、あーー!思い出した!トマト!トマトだよな!」


 そう、トマトを売ったのは他でもない目の前のゴブリン。


「え、ええ。トマトです、かね。覚えてますか?」


「もちろん!へえー。冒険者やってるのか。凄いねー頑張ってね」


「あ、はい」


 バードンは子供に話すように優しく語りかけるが、勘違いをしている。彼女は25歳の立派な大人で、種族としてこの身長が限界なのだ。今まで出会ってきたゴブリン達に同じような対応をしていたバードンは、自分が密かに嫌われていることを知らない。


 仲間もいて楽しくやれてるんだなと、時代の流れを感じていたら、何処からかヤジが聞こえてくる。


「臭えな。魔物の匂いがする」


 誰の耳にも届く声。しかし咎める者はいない。


「すみません、下がります」


 当然彼女の耳にも届いたであろう言葉に、言葉を返す事はなく、自然と空いた隙間を通っていく。しかし、最後尾にたどり着く前に何者かの革靴が彼女の足を踏みつけた。ベタンと顔面から転げた彼女を周囲の冒険者はクスクスと笑う。同じ亜人のエルフまでもが笑っていたのだ。


 バードンはその光景をただじっと見る。冒険者ならば仲間がいるはず。その仲間が助けるのだろうと思っていたからだ。


 しかし、助けに来ず誰も声を上げず、ついに彼女は立ち上がり、足を引きずりながら最後尾に消えていった。


 全くおかしな光景に、自分が冒険者をしていた時代に戻ったのかと錯覚してしまうバードン。当時、もし同じことが起きれば、パーティーメンバー全員でタコ殴りにして土下座までさせた。そうしてやっと、誰もが手を出すことは無くなったあの時代とは違うのだろうと思っていたが、どうやら違うらしいと、未だに聞こえる差別の声と嘲笑で確信した。


「バードン、なにか言うことはあるかの?」


 リネスティ・モートンは微笑を浮かべながらバードンへ問う。


「アンタは何も言わないのか?」


「よっぽどの事がなければ手は出さん。お前達の時と同じじゃ」


 彼女は差別を肯定している訳ではない。ただの喧嘩ならば自分で解決しろと言いたいのであって、それが命に関わるのなら動くことも吝かではない。そして、自らの手で環境を変えられないのならば、冒険者を辞めればいい、とも言っているのだ。


「それでー?何すればいいのかなー?おーじさん」


 エルフは顔立ちが整っていて、あらゆる種族が見惚れる程の美形が多い。彼女も例に漏れずそうで、微笑みかけてくる。


「もう殆ど決まってる。まず、君」


 指さしたのはメガネのおどおどした青年。先程、光の玉を発現させた人物だ。


「へっ!?ボ、ボクですか?」


「どうやって魔法を使ったか教えてくれ」


「え、えーとまず、このギルド内は魔法が使えないように何かしらの魔法が施されています。なので普通の魔法は使えません。でも、地上では浮遊魔力を消す事は難しく、またここは密閉空間でもない事を考えると、支配権基準が準用できます。つまり、支配権基準第4の法則によってここにある浮遊魔力の支配権を奪えば魔法が使えるようになります」


 魔法好きのバードンがいつもなら喜ぶような回答を披露した青年。バードンは頷き次の質問をする。


「君の仲間が魔法を使うにはどうする?このままだと、君しか魔法を使えないだろ?」


「支配権は今ボクにありますが、魔法を消せば支配権はフラットになります。それではダメでしょう、か?」


「ダメだ。仲間だけが使えるようにしてくれ」


「……仲間にも第4法則の通りにしてもらえば、いやそれじゃダメだ。えーと」


 この問いは深く魔法を理解していなければ意外と難しい。魔法とは浮遊魔力という周囲に漂う魔力によって発現する。ただし、比較的限られた領域内だと魔力の奪い合いが起きてしまう。それが支配権である。支配権を獲得する際のポイントは4つあるのだが、今回は第4法則。これは、生活に密着する魔法に関しては誰からでも支配権を奪えるというもの。だが、これを繰り返せば、ずっと誰かが支配権を独占してしまうことになり、バードンの言う仲間達が魔法を使える状況にはならない。


「君は今浮遊魔力を支配する権利を持っている。そして俺は持っていない。『光球』これで支配する権利を持ったわけだ。では、今誰がこの場の魔力を支配してる?」


「それは、オンツキーさんでは?ボクからオンツキーさんにたった今変わったと思います」


「いや、正解は誰でもない。支配権とは支配する権利であって支配している訳ではないんだ。俺と君は今すぐ魔法を使える。そして俺たち以外は生活魔法以外の魔法を今すぐ使えない。単純に魔力達が自分を向いている状態が支配権を持っているという意味なんだ。それで、もう一度聞く。仲間だけに魔法を使わせるにはどうしたらいい?」


「……」


「ちょっと難しいか。意外と普通だが魔法を掛ければいい。そうすれば浮遊魔力が対象に集まり作用する。その時点で浮遊魔力が対象に向くから支配権持っている状態になるんだ」


「それだと、戦闘時に魔法を相手に掛けるのは、敵に塩を送るようなものだということになりますよね」


「そうだな。だから、一撃で決められないなら、魔法は味方に使うか補助に使ったほうがいい。君はサポートがメインだろ?」


「え、はい。なぜ分かったんですか?」


「なんとなく、話し方とか?ガツガツ仕掛けるタイプではないだろうなと思っただけ。君は合格。彼の仲間は手を上げてくれ」


 メガネの青年の左右に並ぶ男達が手を上げた。総勢6名のパーティーらしい。


「構成はまあ悪くない。君は剣をメインにしてる?」


「はい」


 これまた気弱そうな青年。彼らのパーティーはどこか覇気がないのが気になるバードン。


「強い?俺に勝てる?」


「え、それは、分かりません。S級とは戦ったことが無いので」


「じゃあ、この中ならどう?何人倒せそう?」


「……半分はイケると思います」


 周りからはざわめきが起こり、中には今すぐ殺ってやると、いきり立つ声も混じっている。


「B級かな?予想だけど」


「は、はい。何故分かったんですか?」


「はっきり言うと弱そうだから。知識もあって、魔物とも戦えるとしても、人とも戦わなきゃいけないのが冒険者だ。そんな、なよなよしてちゃ舐められて足元見られるぞ。そうなると評判が上がらないからランクも上がらない。俺の時もいたんだよ」


「そう、ですか」


「とりあえず合格。1ヶ月で1人100。食事代と治療費は無料。3日後だけど、イケるか?」


「はい!やります!お願いします!」


「オッケーよろしく!」


 バードンが口車に乗せたわけではない。本心を語っただけである。そして、見事に彼らの悩みを言い当て実力を見抜いた。彼らは周りに足蹴にされても地道に正道を行くタイプ。実力は申し分ないと判断したのだ。見る者が、本当に元S級の凄腕かもしれないと信じ始めるのも無理はない。現に、合格を言い渡された彼らはバードンに目を輝かせているのだから。


「それでだ。異世界人はいるか?」


 冒険者達を見渡すが手を挙げる者はいない。流石に野良の異世界人はいないようだ。


「それなら、魔力量に自信がある奴は?」


 すると、数名が手を挙げた。


「じゃあ、前に出てきて。よし。そして、そこの君、手伝って欲しい」


 指差したのはいけ好かないエルフではない、ややいけ好かない方のエルフ。彼女は何をさせられるのか不安そうにしながらも前へ出てくる。


「君達は自分の出来る最強の障壁を張ってほしい。そして君はそれを全力で殴ってくれ」


「全力ですか?」


「全力。じゃないと意味がないから」


「分かりました」


「じゃあ、君から始めてくれ」


 1枚壁のような障壁が張られ、エルフがそれを殴りつけるといとも容易く砕けた。


「どんどんいこう」


 それを繰り返していくと、残ったのは2人だけ。バードンは死んでいるのではと言った、とんがり帽子の女性と、トマトを売ってくれたゴブリンだった。


「まだやれる?」


「はあ、はあ。まあ、なんとか」


「次は10回連続で殴ってくれ。そして君達は防ぎ続けて。じゃあよろしく」


 とんがり帽子の女性は分厚い障壁を張り身構えた。そこへ強烈なパンチがヒットするがびくともせず2発目、3発目と繰り出されていく。徐々に拳のスピードが上がっていき、7発目にはピキリとヒビが入った。とんがり帽子の女性は目を見開き障壁に魔力を集め出すが連撃は止まらない。ピキリ、ビキリ。最後の一撃がヒビの中心部へ叩き込まれると、障壁全体にバキリと大きなヒビが伸びたが何とか攻撃を防ぐことに成功した。


「お見事。最後に椅子作ってみて」


「はあ?嘘でしょ」


「いや、本当に」


『……物体造成、イス』


 ピンポン玉程の白い球体が空中から現れ、床で1回跳ねると、2回目はべチャリと床にへばりつき、ゆっくりと消えていった。それと同時にとんがり帽子の女性はへたり込み、ゼエゼエと息切れを起こしていた。


「オッケー、お疲れ様。下がっていいよ」


 そう言われても、魔力が切れてしまい体の力が抜けてしまった女性は立てない。見かねた仲間達が、彼女を支え後ろへと下がっていく。


「全く同じ事出来そうかな?」


 ゴブリンに問い掛けるバードン。その目は子供を優しく見るあの目である。


「はい。大丈夫です」


「よし、頑張って」


「いや、私には聞かないのかよ」


 息があがっているエルフの女性は、ゴブリンの前で構えた。1枚の障壁が張られると先程よりも痛烈なパンチを繰り出してゆく。しかし、とんがり帽子の女性とは違い、弾力のある障壁は同心円状に波紋を作り力をうまく逃してヒビすら入らない。5発、6発、殴り続けていくと障壁の波はどんどんと大きくなり最後の一発で障壁の四方がパリンとかけてしまった。しかし、パンチは通らず、見事に攻撃を防ぎきったのだ。


「はい、次は机を作って」


『物体造成、机』


 野球ボール大の白い球は床で1回跳ねると空中でグニョリと形を変え、飾り気のない机がそこにできた。


「おおー。お見事。魔力に余裕はある?」


「はい。はあはあ、何とか」


 流石に疲れの色と足の痛みは隠せないようだが、へたり込むほどではないようだ。バードンはこのゴブリンの才能に舌を巻くが、その結果は意外なものだった。


「君の才能は凄いけど、今回はごめん。戻っていいよ」


「えっ!?」


 当然ゴブリンは驚いたが、周りの冒険者達はさも当たり前だろうといった表情をしている。それに気づいたバードンは、呆れ返りため息をついた。


「あのな、この子がゴブリンだからじゃないぞ。仲間がクソだから今回はダメなんだ。さっき足を踏まれて怪我をしてるのに誰も助けなかった。魔界に行ってみろ。絶対にこの子を見捨てるだろ」


「当たり前じゃない。なーんでゴブリンなんか助けるのよ。見てよ、どう見たって魔物でしょ?寧ろ討伐したほうが良いんじゃないの?」


 嫌味がうまい方のエルフが、笑顔を忘れ怖い顔で言い返す。


「お前のパーティーなのか?」


「そうよー?優しいでしょ?三区にいたから引き取ってあげたのー」


「ふーん。目的は?」


「可愛そうだから引き取ってやったのよ」


「そういうのはいいから、目的は何だって」


 お互いに肌が合わないのは、知っていた。そして、ゴブリンの事についても全く思想が違う2人の雰囲気は悪くなっていく。


「だーかーらー、可愛そうだから引き取ったのー。露店じゃー苦しいだろうから稼がせてやってるのよー。耳遠いのかなー?」


「慈善家気取りなら、もっと上手くやれよ。仲間なんだからあそこは助けなきゃ、演技がブレブレだぞ」


「おじさーん。あのさ、昔の仲間と重ねてるのか知らないけどさー、どうせアンタの仲間もコイツみたいに鈍臭いやつなんでしょ?そういうのが好きなら勝手にしたらいいけどさ、私達に押し付けないでくれる?」


「……お前なあ、はあ。もういいや。とりあえずお前らのパーティーは選ばない。帰っていいぞ。あ、君は話があるから残ってね」


 若き日なら確実に土下座コースだったが、バードンも年を取ったのか、激怒のピークは過ぎ去り呆れへと変わっていた。


「ちっ。ねえ、おじさん。それなら勝負しない?私が勝ったら選ぶ。負けたら帰るわ」


「嫌だね。時間のムダ。はい次!あ、レンセン君!君達は合格!約束したからな」


「はあ!?なんでアイツらが良くてウチらはダメなのよ。アイツら最近A級に上がったばっかの雑魚じゃないの!ちょっと聞いてんの!」


 バードンは取り合わず、良さげな人を見繕っていく。魔力量は選抜済み。次は単純な戦闘能力かと考えていると視界の端にいた嫌味なエルフが消えた。


 バヂーーーーン!!


「あーーー、面倒くさいなーお前は」


 1枚の分厚い障壁がバードンの横顔だけを守るように出現し、それを嫌味なエルフが殴ったのだ。思い切り殴ったはずの障壁はヒビすら入らず、寧ろエルフの拳から血が流れていた。

 エルフの近距離攻撃は全ての種族の中でダントツに強い。そしてその力を扱えるように体も頑丈に出来ているのだが、ただの一発でエルフが傷ついてしまったという事実は、冒険者達を黙らせた。


「さっさと帰れよ。マジでしつこい。これ以上やるなら土下座するまで許さねぇぞ」


 ただの太ったおっさんが、不意をついたエルフの一撃を微動だにせず防げるはずがない。さすがに、ここにいる冒険者達はバードンが元S級である事を認めざるを得なかった。


「ほれ、止めんかアホんだら。ワシにひん剥かれたいんか?ん?」


 見かねたモートンが割って入るが、嫌味なエルフの気は収まらない。


「調子乗ってんじゃないわよ。アンタが元S級だとしても、本気でやれば」


「殺せるってか?殺ってみろよ」


「言ったわね」


 嫌味なエルフがポケットに手を突っ込み何かを取り出そうとしたその時、レンセンとメガネの魔法オタクが飛び出し、2人の間に入った。


「ったく、いい加減にしろよ!」


「ガンフさん何してるんですか!まさか本気で」


 2人の反応を見る限り、嫌味エルフことガンフはどうやら本気で殺そうとしていたらしい。だが、バードンはさして気にもとめていない。


「終わりか?なら帰れ。本当に邪魔だ」


「……」


 初めて会ったときの余裕はもう無く、頬をピクつかせ、あからさまな苛立ちを露わにしていた。少しの間バードンを睨みつけると、ポケットから手を出し、間に入ってきた2人へひらひらと手を見せる。


「良かったわね。魔界開拓頑張ってー」


 そう言い残すと、彼女は人垣にぶつかりながら玄関の方へと向かっていった。しかし、ガチャガチャという音はするが扉が開かないようで、再びバードンのところへと戻ってくる。


「モートンさん?開かないんだけど」


「ヒヒヒヒ。大恥じゃな。緊急時は開かんといったはずじゃ。下に行っとれ」


 頬をピクピクさせながら、彼女とその仲間数名は地下へと消えていった。


「さて」


「いや、さてじゃねえ。ありがとうは?ほれ」


 レンセンは来い来いとジェスチャーで迫る。


「……ありがとう。自分でも対処できたけど、ありがとう」


「アンタ、意外と子供だな」


 そう言い残すとレンセンは自分のパーティーの元へ帰っていった。その内心は、憧れの冒険者の実力を生で見られた感動で飛び上がりそうだったが、どうにか堪えているという、表情とはちぐはぐなものだった。そして、バードンへの評価がまた少しだけあの頃へと近づいた。


 メガネの魔法オタクは一礼するとそそくさと戻り、殴り屋のエルフもしれっと戻っていった。そして残ったのはゴブリン。パーティーに置いていかれ、1人だけポツリと佇んでいた。


「名前は?」


「ゴブリンです」


「いやじゃなくて名前は?」


「ゴブリンです」


「え?」


「え?」


 この子の名前はゴブリン。種族ゴブリンの名前ゴブリンである。生まれてすぐに両親は殺され、売られた先はマルブリーツェ。しかし、運が良かったのかどうなのか、主はお揃いの服を着た異世界人に殺されてしまい、ゴブリンは1人彷徨うこととなった。だが、主の露天を引き継ぎ何とか生計を立て今に至るので、このゴブリンの名前はゴブリンなのだ。


「え、マジでゴブリン?」


「はい。ゴブリンです」


「あ、そう、なんだ。よろしくゴブリン。ところで、ウチで働かないか?冒険者を続けるなら働きながら俺が色々教えるからさ」


「よろしくお願いします」


「早っ!もっと警戒しろよ。変なおじさんだったらどうすんだ」


「市場いる時にも何もしませんでしたし、今も私を助けてくれました。変なおじさんでは無いと信じています」


「お、おん。とりあえず、後でウチの宿行こうな。モッちゃん、この子引き取るから」


「あいよ」


 というわけで、1人従業員が増えたほのぼの郷。それはめでたいのだが、肝心の選抜が終わっていない。後1パーティーの対魔人部隊とお掃除部隊が必要なのだ。


「後は腕っぷしかな。とんがり帽子の子のパーティーは手をあげて」


 数名が手を挙げ、そのうちの1人に注目する。


「オッケー。君の前衛っぽいな、役職は格闘家ファイター?」


 一振りの剣を佩くその姿を意にも介さず、拳で戦う格闘家ファイターだと見抜くバードン。


「は、はい。なんで分かったんですか?」


「拳がデカいから。それと剣の長さがあってないから。剣はもうちょい短めがいいぞ」


「はい!ありがとうございます」


 元S級だと完全に信用したのか、有り難いお言葉に自然と頭も下がる。


 バードンは数名の中からもう一人体のデカい斧を担いだ男に注目する。


「よし、君!彼のパーティーメンバーは手をあげて」


 手が挙がるが、バードンは難しい顔をする。


「うーん。前衛ばかりか。まだB級?」


「そうだ」


「分かった。じゃあ、2人とも!俺と勝負しよう。勝ったら合格」


 魔法には知識が必要である。攻撃の威力や防御の硬さは確かに重要であるが、高い知識よりはその価値が劣る。今回見つけた、最も優秀な魔法使いはメガネの魔法オタク。彼は、意図的に魔法を封じられた状況に冷静に対応し、尚且つ成功した。これこそ、未知の状況でも活きる魔法である。

 ゴブリンととんがり帽子はその知識がなかった。その代わりに多量の魔力を持ち、間違った魔法を選択しても代わりとしていくらでも魔法を行使できる。つまり、数打つことで正解に辿り着ける可能性がある為、この中では次席に優秀なのだ。とんがり帽子に関しては、かなりの魔力を使用する創造魔法を使えなかったが、あのエルフの攻撃を防ぎ切った無駄の多い障壁を少し改善すれば、魔力を残すことができただろう。

 そういった基準で魔法使いを選んだバードンが今度は戦闘能力に長けた人物を選ぶのだが、こちらには知識を求めない。どれだけ強いかという単純な自力があればいいのだ。彼らの仕事は敵に立ち向かい、打ち倒す以外に何もないのだから。


「単純でいいな。よし分かった」


 斧持ちの男は長い髭を撫で頷く。


「どっちからやりますか?」


「じゃあ、君から。本気で来てくれ。魔法は無し」


「えっ!?無しですか?」


「うん。魔力切れを想定して魔法は無し。いいか?」


「分かりました」


 拳をバチンと叩きバードンの前へ赴くと、軽いステップで軽く2発空打ちしてみせる。


「よし来い」


 バードンの合図で青年が躊躇いなく踏み込むと、それに合わせてバードンは下がる。拳が届く距離に入らないようにと下がるが、そうしていると、遂に壁を背にしてしまい追い詰められてしまった。


「どうしたんすか?ビビってます」


 やや警戒感が漂っているが、少しの余裕が見え隠れしている青年。ここがチャンスとジリジリと細かくジャブを打ちながら前に前にと詰めていく。そうして後少しで力が最大まで乗る間合いだというところで、バードンが体を縮め腰に組み付いてきた。

 同じくボクサースタイルで戦うとてっきり思っていた青年はバードンのタックルを捌けずにあえなく倒される。マウントを取られてしまい、ガードしかできない青年を見てバードンはすくっと立ち上がった。


「お疲れ様。もういいぞ」


「えっ。あ、はい」


 恥ずかそうに立ち上がり、そそくさと自分が元いた所へ消えていく青年。バードンはあまりにも手応えがなかったので、少し違和感を覚えながらも、斧を担ぐ髭の彼を呼び出す。


「じゃあ、君」


「おう!ルールは同じか?」


「その武器使っていいよ。その代わり、こっちも武器を使うけど、いいよな?」


「構わん!」


武器棒ぶっきらぼう


 しれっと、武器が格納された造成魔法を使い、中から錆びたロングソードを取り出した。パタリと閉じて空中へと消えていく傘のような武器格納庫よりも、バードンが持つその剣に視線が集まる。


「それが、あんたの武器か?」


「ああ。見た目は悪いけど、十分すぎる機能があるから心配せず掛かってこい」


「……分かった、行くぞ!」


 恰幅の良い体型からは想像できない俊敏さで間合いを詰めると同時に、体を真っ二つにするほどの威力で斧が横薙に振りぬかれた。


 それを受けた錆びた剣からは、パキンと想像よりも優しい音が重なり、ポロポロと茶色い物体が床へと落ちる。


 髭を蓄えた巨漢はその場でグルリ回転し、更に一撃、逆サイドからの横薙を放つがこれも、受け止めたバードン。その手に持つ剣からはボロボロと錆が落ちていき、先程よりも薄く鋭利になっていた。そんな武器の挙動に構わず、今度は上段からブオォンと大風が巻き起こりそうな勢いで斧を振り下ろし、頭をかち割ろうとするが、そんな攻撃もバードンはいとも容易くは受け止めた。


 ホロホロと錆が落ちていき、剣は艶めかしい銀の地肌を露わにし、反転攻勢、今度はバードンが仕掛ける。斧刃に剣を滑らせ長い柄までもこそぎとるように刃を滑らせていく。意図に気づいた斧使いは後方へと飛びのき、ぐっと指に力を込める。しかし、休む暇は無かった。容赦なく降ってくる太刀筋を大きな斧で防ぐが、剣とは思えない重量感が腕を痺れさせ、どんどんと体が疲弊していく。防戦一方、これではまずいと剣を振りかぶった僅かな間隙に喉元へ大斧を突いた。

 すると、ガギーンと斧が振動しながら床へとめり込んだ。バードンが大振りに振り上げた剣は誘い水で、剣の柄を両手で下げ落とし、斧の腹へとぶつかったのだ。普通なら斧の重量が重いのだから突きの威力を殺せず、喉仏を砕くはずなのに、この有様。


 バードンは床にめり込むおのに片足を乗せ終了を告げた。


「お疲れ。君達は合格」


「負けたのに、か?」


「威力は十分ある。3回受けただけでこの錆が落ちたんだから、問題無い」


「その剣は一体なんだ」


「ダンジョン攻略のお土産だ。細かい話はまた今度」


「あ、ああ」


 見た目はただのおっさんだが、流派不明の謎の剣技に不思議な剣。理解の及ばないS級と言われても納得であった。聞きたいことは山のようにあったが、ひとまず下がる斧使い。

 シンと静まるギルド内。次はどんな試験なのかと注意深く誰もが固唾を飲む中、バードンはとんがり帽子の女性に尋ねる。


「君のパーティーメンバーにS級でもいるの?」


「え!?えーっと、前にいたけど、今はいないわ」


「ふーん、なるほど。ちょっとメンバーを見直したほうがいいな。構成はいいと思うけどランク差がありすぎるんじゃないか?さっきの彼、そうそう格闘家ファイターの。厳しい事を言うが、実力不足だ。でも、若いから訓練すればいい。ただし、別のパーティーに入る事をお勧めする。ランク差が有りすぎると、訓練や経験はおろか、最悪命を落としかねない。自分と近いランク帯のメンバーと組んだほうがいい」


「それが、その、実は正式なメンバーじゃないんです」


「どゆこと?」


 格闘家ファイターの青年の予想外の返答に、バードンも素っ頓狂な返答をしてしまう。


「前に、ピルドっていう冒険者がいたんですが、アイツ、S級に上がった途端辞めたんです。約束を果たしてもらうから、ここにはいられないって。それで、正式なメンバーが見つかるまでの繋ぎとして俺が入ってるんです」


「あーーーー、なるほど」


 約束とは恐らくバードンと師弟関係を結ぶというやつだろう。S級になったら弟子にしてやると言っていたとはピルドの言だが、バードンにその記憶はない。まさか、他人に迷惑を掛けていとは思わなかったバードンは、少しだけバツが悪くなる。


「どうしてS級がいたって分かったんですか?」


 事情を説明して謝ろうかと考えていると、とんがり帽子の質問が飛んできた。これ幸いと間髪入れず答えるバードン。


「なんとなくだよ。君はパーティーの頭っぽい。それ以外は、成長途中の若者。だとしたら、もう一人ぐらいは実力だけのスターがいるかなって思っただけ」


「なんとなくですか。あの、私達は不合格ですか?どうにか魔界開拓に参加して、この子達に経験を積ませたいんです」


「んーー、現状だと厳しいな」


 ゴミ掃除のパーティーは埋まってしまった。残るは対魔人のパーティーなのだが、彼女達ではあまりにも心もとない。レンセンのパーティーが18人程と中々多いパーティーなので、うまいこと調整して、どうにかしてやりたいなと、少しの贖罪の気持ちで頭をフル回転させる。


 とんがり帽子の魔法使いに、格闘家ファイター弓使い(アーチャー)剣闘士グラディエーター盗賊シーフ。その内、剣闘士グラディエーター盗賊シーフが攻撃を食い止める構成なのだが、経験が浅そうな彼らでは、魔界開拓に送り出せない。もっと頑丈で、臨機応変な対応ができそうな役職が必要だなと考えるバードン。


「オールラウンダーが必要だな」


 ポツリと呟くと、皆の視線がバードンの隣に向く。そこにいるのは小さなゴブリン。


「あのー、私オールラウンダーですけど」


 バードンは人より魔力量が多い。もちろん、化け物じみた異世界人には敵わないが、常人を凌ぐ圧倒的魔力を持っている。といっても、そんな人は珍しくもなく、人によってはバードン以上の才能を持つ者もいて、それ程貴重というわけではない。

 そんなバードンが昔、よく言われた言葉。


「えっ。なんで魔法使いを選ばなかったんだ?勿体ないだろ」


 その言葉を流用し、ゴブリンへと尋ねる。


「最初は雑用だったんですけど、剣の練習とか体術の練習とか、回復の練習とかをするうちに色々の覚えまして、オールラウンダーになれって言われました」


「……それ、まあうん、そっか」


 恐らく、サンドバッグにされていたんだろうなと思ったが、それは口に出さなかった。


「じゃあ、試してみるか。武器はある?」


「これがあります」


 グッと握り拳を見せるゴブリン。



「……」


 ユーリよりも小さな子供と殴り合いをするのは気が引ける。しかし、これは大事な仕事を受けられるかという選抜であり、バードンのそんな気持ちは寧ろ相手の邪魔をしてしまう。


「怪我してもモッちゃんが治すから、全力で掛かってこい!」


「はい!」


「お前が治せ」


 モートンの言葉は無視し、ゴブリンは構える。3本の太い指が握りこまれ、ボロ布の下からバードンの弱点を探す。


 バードンはといえば、特に身構えることもなく悠然と立っていた。正直全く期待していないのだ。やる気はあるようだが、サンドバッグをさせられたぐらいで上手くなるなら、誰だって上達してしまうから。


「自分に魔法を掛けてもいいですか?」


 魔法禁止にしていたのは、パーティーに一人は魔法専門のメンバーがいるからだ。つまり、魔法職でない彼らが単独で魔法を使う時は緊急事態ということであり、逃げるべき状況である。その事態にどう戦えるかを見るのではなく、通常時の戦闘が見たかったから魔法を禁止にしていたのだが、彼女はオールラウンダー。


「それならいいよ。相手に魔法をかけるのは禁止ね」


「はい!」


 ブツブツと拳を構えながら唱えたゴブリンは、魔法をかけ終わると同時に勢い良く突っ込み、バードンの目の前で消えた。


 ブオン。


 バードンは右横から飛んできたパンチを、体をのけぞらせて交わし、重力を無視してゆっくりと空中を落ちていく彼女の左脚の蹴りはのけぞった勢いそのままに、もっさりとしたバク転でぎりぎり交わす。


「よっしゃ、まだできるわ」


 久々のバク転に喜ぶバードンを尻目に着地したゴブリン。間髪入れずバードンへと突進。またもやバードンを目前に消えようかとしたその直前で、バードンも同じく突進しゴブリンの脳天にチョップを叩き込んだ。


「痛って」


 岩にでもチョップしたかと思うほど硬いゴブリンの脳天。すぐさま手を引っ込め次撃に構えるが、ゴブリンはその場で固まってしまった。

 ただのチョップ。魔法も使っていないおっさんのチョップで意識が飛ぶはずが無いのだが、やってしまったと思ったバードンは慌ててゴブリンへと近づいた。


「ごめん!大丈夫か?」


 可愛そうなゴブリンに近づき倒れる前に支えようと手を伸ばしたその瞬間だった。


「ちぇいやー!」


 ブオンと風切り音がするほどの正拳突きがバードンの下っ腹へとめり込み、魔法で強化された力は、ゴブリンから見れば巨体のその身体を思い切り吹き飛ばした。


 キイインと物凄い音が響くギルド内。


 壁に激突したバードンを誰もが死んだと思うほどの勢いだったが、壁は無傷でその下には項垂れへたりこんだバードンがいた。


 シンと静まり返ったギルド内にモートンの笑い声がカカカとこだまする。


「ざまあないのー」


 ゴブリンは滾る闘士が留まらず、止めを刺そうと突進した瞬間、顔面から地面に激突した。


「アホンだら!これ以上やったら死んでしまうわ」


 ゴブリンの足を引っ掛けた障壁がすうっと消えると、モートンは杖をつきながら気絶したバードンの元へ行き、腿に爪先が食い込むように蹴りを入れた。


「ふがっ」


 元S級だと信じていた彼らの気持ちは水泡のように消えていき、やはりホラかと思ってしまうような有様。


「ふがっ、じゃないわ!はよ起きんか」


「えっ!?あ、おん」


 目を瞬き辺りを見回すが、状況が掴めずにいるバードン。


「あれ、確か、あ!ゴブリン!大丈夫か!!」


 自分がそのゴブリンにぶっ飛ばされたとは思いもしないバードンは、まず先に気絶させたと思っているゴブリンを心配する。


「アホ!ピンピンしとるわ!お前こそ大丈夫なのか?アタマの方は」


 グエっへっへと悪徳商人のように笑いかけるモートン。1ミリも心配していないようだ。


「ああ、大丈夫っていうか、あれ?俺は何してんだ?」


「チビにぶっ飛ばされたんじゃ」


 体を起こし自分のしてしまったことに目を向けるゴブリン。

 動作補助により体力の消耗を魔力の消耗へと代替し、筋力の動作を魔法で補助する事で、肉弾戦を有利に進めようと考えた。そして、全身でなく急所だけを硬化させることで攻撃の備えとし、初見殺しとなるような技で突進したのだが、敢え無く交わされてしまった。


 最初の攻撃以降は想定していなかったゴブリンは、見透かされる攻撃以外が簡単には思い付かず、隙を与えてはダメだと、その一心でもう一度初見殺しの攻撃を見舞つた。当然、それは2度目なので、きっちりとカウンターをもらってしまったが、頭部は硬化で守られていたから全くダメージは無かった。


 そしてここで、以前のパーティーメンバーとの練習が思い出された。一か八かという時に敵に大きな隙を見せれば、それを餌に最大の攻撃を叩き込めるぞ。自分の攻撃がたまたま当たり、うずくまった相手を治療しようと駆け寄った時に木刀でその言葉を叩き込まれた。


 まさに今だと、ダメージを食らったのか何かを企んでいるのか分からないように敢えて動かなかった。そして、ギリギリの魔力を絞り出し、拳に重みと硬さを加え、魔法のアシストで途轍もない威力の突きを放ったのだ。


 こちらが魔法を使うのだから、バードンも魔法を使っているのだと思っていたからできた技だったのだが、あの感触は魔法ではないはず。そして、この現状を見てやってしまったと気づいた。


 ゴブリンはせめて治療しようとバードンの元へと駆け寄った。

 何とか生きているようだが、これでは開拓に参加するどころの話ではない。絶対に不興を買っているのだから、宿で働く話も何もかも無くなるだろう。また一人露店で働くしかないのかなと考えながら、片膝を付きとりあえず治癒の魔法を掛けた。


『ヒール』


 ヂヂヂヂ、バヂン!


 奇妙な振動音がしたかと思えば、魔法を掛けようと重ね合わせた両手が弾かれてしまった。


「あ、ごめん。怪我はしてないから大丈夫。魔法は掛けないでね、危ないから」


 バードンは立ち上がり、ポケットから取り出したのはチェーンで纏められたガラクタだった。

 そのうちの一つである片眼鏡にヒビが入っており、曇りガラスのようになっている。


「これ、ヤバいな。危なかった」


「なんじゃそれは」


「これもダンジョン土産。魔力を完全に抑えると良いことが起きるってやつ。こんなヒビが入ってるの初めて見たわ」


 その言葉に異を唱えるかのように、すうっと曇りが晴れていき、クリアできらりと光る鏡面が戻ってきた。


「お前、魔法は使っとらんかったんか」


「ああ。ハンデぐらいあげないとダメだろと思ってたんだけど、ミスったな」


「はあー。アホじゃ」


 ゴブリンも立ち上がり、バードンを見上げる。魔法で強化された渾身のパンチを生身で受けて生きているバードンが不思議でたまらなかった。自分が元いたパーティーのメンバーもそれは強かったが、この人は桁が違う。何故か大自然を目の前にしたような感覚であった。


「あ、君合格ね。マジで強いわ。才能あると思う。後は仲間に恵まれればS級も夢じゃない!」


 不意を誘われた汚い手について思い出していたが、特に気に留めた様子もなく、ポンポンと子供を褒めるようにゴブリンの頭を軽く叩くと、とんがり帽子達へ視線を向けた。


「この子どう?強いよ?」


「……魔界に行けるの?」


「まあいいと思うよ。ただ実力的に心配なところもあるから、ピルドも呼ぶ」


「えっ!?アイツと知り合いなの?」


「まあ、知り合いだな。その話は置いといて、ゴブリンはウチの子だから、変な事したらぶっ飛ばすからな!肝に銘じるように!」


「分かったわ。魔界に行けるなら、上手くやるわよ」


「オッケー!これで選抜終わりだ!皆、お疲れ様!」


 この抜けた掛け声に、いまいち締まらず、場は何となく解散の雰囲気。


『解除』


 モートンがそう言うと、パチリパチリと照明がつき、窓を塞いでいた黒い靄それぞれがボール状に丸まり、小さく小さくなっていくと、米粒よりも小さくなり消えていった。


「選ばれたパーティー以外は解散じゃ!どっか行け!」


 呼び出しといてこの扱いは酷すぎるのだが、ここの冒険者達にすれば日常である。飲みに行くか!いや家に帰らないと、など思考が日常に戻った冒険者達は早々に玄関へと歩いていった。


 選ばれたパーティーだけが残ったギルド内は静かになり、その視線はバードンへと集まる。この依頼のクライアント代理であるバードンが、これから魔界開拓の詳細を話すのだろうと期待しているのだ。


 しかし、当の本人は選抜を終えた開放感から、任務説明という重大な仕事を忘れていた。バードンの頭の中は、この将来有望な子ゴブリンをどう育てようかという事で一杯だった。


「君のご両親はいないの?面倒を見るにしても、まずはご挨拶しないと」


「既に他界しています」


「そっか、まだ小さいのに大変だね。うちにも君ぐらいの娘がいるんだ。きっと仲良く出来るよ」


「おいバードン!」


 しわがれ声の怒声が鼓膜に直撃し、耳を抑えながら振り向く。


「なんだよ」


「なんだよじゃないわ!皆待っとるぞ!」


「ん?何が。選抜終わったから帰っていいぞ」


「ちっ、このボケは本当にしょうがないやっちゃ。依頼内容の説明があるじゃろ!」


「あ」


 すべき事を思い出したバードンは、呆れ顔を何とか隠す後輩達に3日後の魔界開拓の概要を説明するのであった。


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