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87.逮捕命令

後に追記します。今日更新ということを忘れてました。


9/4 20:58追記完了


 クーさんはひとしきり笑うと、表情を整えバードンへ顔を向けた。


「と考えればマルブリーツェ州とヌアクショット州とのゴタゴタに巻き込まれた、一人の可愛そうな転移者だという話で終わるだろう」


「でも違うんだ。イムリュエンは異世界人を保護してるだけで、何か計画があってというわけじゃない」


「だろうな。イムリュエンが保護した異世界人はヌアクショットに留まらず各地に居を構え、平穏な人生を送っている。戦力とするなら、ヌアクショットから出ることは許さないだろう」


「……さっきの話は?」


「王国騎士団達はそのように考えているということだ。つまり、東側の情報を鵜呑みにはできない」


 クーさんが何を考えているのか、全く予測できなくなり、困惑するバードン。つまり、イムリュエンを許せるということなのか、今後戦う必要は無いのか。どっちなのか分からない。


「ミホが情報を漏らしたのかもしれない事は理解している。だが、処罰を許すことは出来ない。出来ないが、報復を留まる事は出来る」


 消えたと思った和解の道が降って湧き、バードンは思わず聞き返してしまう。


「い、いいのか?許してくれるってことか」


「お前なら分かるだろう。10年近く貴族を恨み続ける徒労感を」


「……まあ、分からなくもない」


 マルブリーツェ卿を恨んでも、決して行動を起こさなかった。それは、ひとえにユーリの存在があったからだ。復讐が無駄だから、亡きエイミが悲しむから自制したわけではなく、現実として復讐が難しく、仮に成功してもユーリをまともに育てることは出来ないと悟っていたからである。


「納得できる理由があるのならそれを示して欲しい。ただ事実を知り、清算したい」


「じゃあ今のところは休戦てことでいいのか?」


「休戦?これでか?」


 ジャラジャラと手足の枷に繋がる銅の鎖が音をたてる。


「物理的には強制的に休戦だろうけど、精神的にも休戦でいいのか?自分の中で折り合いはつけられるか?」


「殺す為に、真実を探していると思っていた。だが自分に問い直してみれば、ミホが殺された理由の真相が知りたいだけで、その先の復讐はオマケだった。だから、情報源を減らすような真似はしない」


 納得してくれた、とは言い難いが、なんとか上手くまとまった話し合い。バードンは緊張が解け思わずニヤけてしまう。


「はあー。そうか。良かった良かった。ひとまず休戦だな」


「ミホが情報を漏洩させたと断定したのは状況証拠だと言ったな。具体的にどんな事だ」


「俺達パーティーがマルブリーツェ卿に追われていた時、ミホ・ジングウジからあの宿を紹介された。マルブリーツェで避難するならあそこがいいと」


「通信が傍受されていた可能性は無いのか」


「念話を使って秘匿化したから間違いない」


「誰宛に連絡が来た?お前宛か仲間宛か。ソイツが情報を漏らした可能性はないのか?」


「俺の妻、エイミ宛だ。彼女以外はミホ・ジングウジと話したこともない」


「話したこともない人物を信用したのか?」


「エイミは彼女を信用していた。召喚された時から気にかけてくれて世話になったと恩を感じていた人物だからある程度信用していた。イムリュエンの妻だからという事も信用できる理由だった」


「……妻、か」


 クーさんの険しい顔を見逃さなかったバードン。そういえば、ミホ・ジングウジは婚約者だと言っていた。婚約破棄されてイムリュエンの妻になったと思っていたが、実際のところをイムリュエンにもクーさんにも聞いたことがない。

 聞いてみようかとも考えたが、それがこの件に関係するとは思えずバードンは口を噤んだ。


「つまり、お前達はイムリュエンに匿われ、ヌアクショット州の軍事拠点である宿を急襲された。東側の王国騎士達が言っている話もあながち間違いでは無いように感じるがどうなんだ」


「どうって?」


「何故マルブリーツェ卿に追われていた。いち冒険者が領主に目をつけられ王国騎士をけしかけられる程の罪とは何だというんだ」


「……ちょうどさっきマルブリーツェ卿と話した。彼が言うにはエイミという都合のいい力がどうしても欲しかったそうだ。そういう時流だったからというのが原因らしい。だから俺達は狙われた」


「異世界人の召喚は特定の州を除き禁じられている。仮にマルブリーツェ卿の思惑が異世界人の支配だとすればわざわざ東が手を貸すはずがない。法を作った東側の思惑と矛盾するからだ」


「思惑って何だ。戦力の強化とか?」


「ワカチナ連邦王国の統一だ。その為に戦力を拡充し他州の力を削ぐ。首都アイウン周辺の旧帝国地域には魔界が無く、中部地域に魔界が残る理由が分かるか?」


「それは、開拓できる戦力がないんだろ。マルブリーツェ卿も言ってた」


「旧帝国地域にはあるぞ。王国騎士団と軍の力があればとっくに魔界は開拓できる。何故やらないのか。いくつか理由はあるが、よく言われるのは魔界の暴発を望んでいるということだ」


「暴発?魔物の侵攻を望んでるって?何でそんなことを。東にどんなメリットがあるんだ」


「東側からの新技術は異世界人と魔界から齎されている。異世界人は手懐けられても魔界は簡単にはいかない。だから、頻繁に発生する魔界を首都周辺ではその都度潰し、そこで技術を生み出している。だが、それでは効率が悪いだろう。もっと大きな技術革新が起きるかもしれないというのに、魔界が成長する前段階で潰すのだから。つまり、必要な犠牲として首都周辺以外の地域の魔界暴発による被害は受け入れ、その機に乗じて州を完全な支配下に置こうとしている」


「な、何でクーさ、いやスパワがそれを知ってるんだ。あ、もしかして軍と関係があるからか?」


「軍秘密部隊の隊長ともなれば、その程度の情報は集まる」


「それが本当なら、異世界人を欲しがるマルブリーツェを助ける真似はしないか。じゃあなんで手を貸すんだろうな」


 問い掛けとも取れるバードンの言葉を最後にまた沈黙が流れる。

 バードンは難しい顔をしながらも、あまり頭が働いていなかった。自分と同じく貴族に憎しみを向け、やるせない日々を送っていた。自分にはユーリという感情の重石があったからどうにかやってこられたのだ。無我夢中で目の前の事だけに意識を向けられた。


 だがクーさんは違うのかもしれない。子供は恐らくいないだろう。ほのぼの郷に来たときには何かから逃げているように感じた。だから、故郷を捨ててマルブリーツェで新たな人生を始めたのだろう。


 孤独の中、どうにもならない敵に想いを馳せていたのだろうかと勘繰ってしまい、クーさんを放っておくことは出来なず、自分の本当の敵を探す作業に思考を回せないでいた。


 すると、クーさんは上体を起こして、向いにある扉を見据えた。


「軍の秘密部隊は主に情報を扱った。知識、経験、伝手、どれをとってもお前達より優れている」


 何かと思えば、いきなり自己アピールをされたバードン。だが結論はまだ先だろうなと黙って聞き役に徹する。


「東側に住むのは身分、階級、法を厳格に守る従順な者達だ。だが、何故そうなっているのかに目を向けず疑うことをしない愚か者でもある。その点に目を向け、ミホを殺された過去を一旦隅に置けば、未だに調査を続けるお前達の方がまだ信用できる」


 クーさんは視線をバードンへと向け、自分の手に嵌められた枷と鎖を揺らして見せた。


「納得出来なければ、お前達を殺すだろう。イムリュエンにまで届かなくとも、バードンとホロトコお前達なら殺れる。そうしてイムリュエンを苦しめる事も出来る。だが、それはまだ先でいい。何よりも真実が欲しい。お前はどうだ?妻が死んだのは誰のせいか、知りたくないか?」


「……つい最近までは、マルブリーツェ卿のせいだと思ってた。でも、本人から聞いた話とスパワから聞いた話、合わせて考えると恨む相手を間違えていたかもしれない」


「ミホは人を裏切ってまで生きようとする人間ではない。もし仮に、ミホが情報を流したのだとすれば、裏に誰かがいる。それはつまり、同じ相手を恨むべきだということだろう」


 ミホを唆し、その情報を元にして、バードン達なのかあの宿が目的なのか分からないが、どちらにしても傷つけ追い回し、果てはエイミを死なせた。


 確かに、恨む相手は同じなのだ。ミホが情報源ならば。


「その通りだな。でも、その後はどうなる。イムリュエンは許されるのか?」


 黒幕を見つけ出し殺したとしても、イムリュエンが処刑を命じた事実は変わらない。


「裏切り者を処刑したのか、勘違いで処刑したのか。それも黒幕を問いたださないと分からない。1つ言えるのは、一時的に協力したほうがいいということだ」


「そうだな。話を聞く限りそれがいいと思う。けど、牢屋に入って調べるなんて出来るのか?」


「入らない。そろそろ来る頃だ」


 冷たい床に布団を放り出すと、器用にベットを転がり、まだ温もりのある布団の上に立つ。


「スパワ、何してる?こんな時間に飯でも配りに来るのか?ああ、おやつか」


 バードンは呑気に独り言ちていると、扉の向こうからオルキスと誰かの言い争う声が聞こえて来る。


「田舎騎士が出しゃばるな。下がれ」


「駄目だ。ここはマルブリーツェ州でこの建物は州の管理する建物だ。お前こそ下がれ」


 声のする方へ自然と顔が向いてしまったが、まさかと思いクーさんを見ると、クーさんもこちらを見ていた。それもニヤリと薄く笑いながら。


「クーさ、じゃなくてスパワ。まさか逃げる気じゃないよな」


 侮辱され言い合う声は大きくなる。


「王国政府の命令だ退け!」


「王国政府だろうと領主の許可無くば、なんの権限も無い!お前こそ失せろ!」


 クーさんは問い掛けに答えず、また視線を扉に移す。どう考えてもヤバそうな状況に、バードンはどうしようかと扉とクーさんを見比べだした。

 そして、外から聞こえる声はいよいよ最後とばかりに勢いを増す。


「罪人の連行に領主の許可はいらない!そんなことも知らないのか、田舎者!勉強し直してこい」


「この州で罪を犯し、この州で捕まえた罪人だ。引き渡す義務はない!」


「バカが。これでは埒が明かん。実力行使してもいいのだな?」


「騎士を脅すか。本気で罪人になりたいのか?」


 バチバチとしたオルキス達の殺気が室内まで伝わってくる。

 会話の内容を聞く限りクーさんの味方ではなさそう。寧ろ敵のようなのだ。だが、クーさんは薄く笑いながら扉を見つめる。

 バードンは、危険だが理解しがたいこの状況から身を守る為やっと立ち上がった。


「連邦王国軍憲兵司令部第三憲兵分隊第二班班長が最終通達する。ククルーザ・スパワに抗命と逃亡の疑いで逮捕命令が出ている。邪魔立てする場合お前達も処罰の対象になる。直ちにそこを退け!」


「いちいち役職を繰り返すな!何回聞いても長くて覚えられん。そして何度も言わせるな。私達は退かん!さあ実力で処罰してみろ」


 ベット脇で手枷足枷をはめられたまま立ち尽くすクーさん。彼が何を企んでいるのか、何故笑っていられるのかと思いつつ、この後どうしようかと頭を悩ますバードンであった。



1つだけ謝りたいです。

恐らく話の中に矛盾や疑問点が生まれているかもしれません。これは後に修正いたします。2章終わるまでは我慢していただきたく。以上

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