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86.すり合わせたらすれ違う

推敲してません。書き上げるのに必死でしたのでご勘弁を。

 扉を少し開くと、廊下から続く鈍色の床。ハンガーをかける木製の棒が据え付けられ、ボロボロのスリーピースのスーツが壁に掛かっていた。


 それ以外に目立った物もなく、中に入れるほどに扉を開くと、ベットで天井を見つめるククルーザ・スパワが目に飛び込んでくる。


 バードンは中に入りゆっくりと扉を閉めた。何から話せばいいのか、まずは座りたいが、そのための椅子がない。造成魔法で造ってベットの隣に置こうか。あまり近すぎると飛びかかって来ないだろうか。


 などと考えている間、バードンは無言で立ち尽くしていた。当然ククルーザ・スパワも、人がいるとなればそちらを見る訳で、互いに認識しながらも無言のままの時間が流れる。


 そこで口火を切ったのはククルーザ・スパワであった。


「何をしに来た」


 被害者が加害者に会いに来る。目的といえば恨みを晴らす以外に考えつかないところだが、襲って来ないバードンに至極まともな質問を投げかけた。


 丸いメガネの向こうから鋭い眼光がバードンを覗き込む。

 先手を取られたバードンは、覚悟を決めたのか造成魔法で背もたれのある椅子を造った。それを手にベットの横まで行くとドスンと腰掛ける。


「話をしに来た。落ち着いてちゃんと話がしたい」


 クーさんは再び天井をぼんやり眺める。


「……話せばいい。どうせ逃げられない」


 ヂャリヂャリと音がするかと思えば、捲られた布団の中から手に嵌められた茶色の枷と一本の鎖がチラリと覗く。


「銅の枷。足にも嵌められている。魔力も吸われ自力でも動き辛い。安心したか?」


 内心ホッとしたが、いくらバードンでもそれは言わない。


「銅の枷か。実物は初めて見た。魔力は大丈夫なのか?」


「魔力切れの疲労感が来るだけだ」


「……そうか」


 再び沈黙が流れた。時計も窓もない部屋で、お互いの衣擦れの音だけが響く。


 クーさんの視線を追いかけ、天井を眺めてみても床と見紛うものがそこにあるだけ。ここは病院というより収容所だなと、ポツリと思った。


「ハッキリ言って、分からない」


 脈絡もなくその言葉が飛び出し、クーさんは眉間にシワを寄せ少し思案する。だが、やはり意味が分からなかった。


「どういう意味だ」


 ミホ・ジングウジは裏切り者である。だから、殺された。正当な理由があるのだから、手を引いてくれ。そんな言葉でクーさんの恨みを抑えられるとは思っていない。

 それが真実ならお互いに平行線のまま生きていく道もあっただろう。


 だが、真実は正当性を訴えるには脆く拙いものだった。ミホ・ジングウジが誰に何を伝えたのか。そしてバードンたちを売ったのか。全て状況証拠で固めた裏切りという罪。イムリュエンから聞いたそれらの事実では自分を守る事も、ミホを貶めることも、クーさんを否定することもできない。


 本当にミホは裏切り者で、死に値するか分からないのがバードンの本心であった。


「ミホ・ジングウジが何をしたかったのかだ。俺らを敵に売り、ヌアクショット州の機密を漏らした理由がわからない。それに、機密を漏らしたのかどうかも状況的に見て、としか言えない。だから、分からないんだ。今は」


「……領主に取り入り、機密を漏洩した。ヌアクショット州で処刑されたあの日、街で聞いた言葉だ」


 クーさんは天井から目を離さず、ポツリポツリと話し始めた。


「誰も細かい事は知らなかった。何を誰に漏らしたのか。それがどの程度の影響を州に齎すのか。それを知らずにいても、裏切りには死だと誰もが口々にそう言っていた」


「領主邸の前、噴水のある大きな広場には州民が集まりミホの処刑を見ていた。ミホの膝が地につくと歓声があがり、首が落ちてもその声は止まなかった。その場で皆殺しにしてやろうかとも思ったが、その声を止めた貴族こそが本当に討つべき敵だとその時は留まった」


「ただの逆恨みかもしれない。だから調べた。州民に罵られる程の事をミホがしたのかもしれないと怯えながら。だが、出てきたのはある場所が露呈した事だけ。ただそれだけだった」


「マルブリーツェにある、あの宿屋。あれは何なんだ。州にとってそれ程重要なのか?重要なのにミホに教えていたのか?だとすれば身から出た錆ではないか。今では有名な話だが、あの領主は転生者。当時、その事実を隠すためにミホの話を大きくして殺したのではないか。もしくは、弟に傾く民意を取り戻すために。そう考えれば納得がいく」


 イムリュエンを知らなければ、そう考えてもおかしくはない。だが、バードンなら分かる。そんな理由で人一人の命を奪うはずがないと。そして、イムリュエンのミホに対する想いを知っているなら尚更、その考えを否定せずにはいられなかった。


「あいつはそんなことで処刑したんじゃない」


「じゃあどんな理由だ」


「あの宿はただの宿じゃない。ヌアクショット州が長年守ってきた軍事拠点だ、とイムリュエンから聞いてる」


「軍事拠点?ただの、いち地方がそんなものを置いてどうする気だ。反乱でも起こす気だったのか?」


「……それについては聞いてない。けど、昔からアイツが言ってた話を思い出した。それを考えれば、納得できる」


「なんだ」


「大昔の話だが、ヌアクショット州がヴォルガ・エル・ヘルデモン帝国から解放されて、国として独立していた時代。その時代にマルブリーツェ州以西の州が、奴隷となっていた4州に進軍し勢力下に置いた。これは知ってるか?」


「知っている」


「東側が勝手な進軍を認めるはずもなく、西対東で内乱になったことも知ってるよな。その戦場は中立を守ったマルブリーツェ以外の中部地域だった。その時、4州は解放されたばかりで、食料の自給が出来なかった。だが、なけなしの食料も支配する西側の州に根こそぎ買い叩かれ、残ったのは土と薬用植物だけ。奴隷時代なら食えた飯も食えなくなり、餓死者は増え、徴兵で男達は死んでいく。東西戦争と呼ばれる内乱が終わるまでの死者は30万人だ。そりゃあ、恨むし備えもするだろ」


「70年以上前の話だろう」


「70年以上も受け継がれてきた恨みと屈辱なんだ。この国は一国といえど所詮は寄せ集めの国だろ?ヌアクショットはそういう歴史もあって他州に対する備えもしていたんだ。それがあの宿、って事じゃないか」


「重要施設を愛人に教えたのはどんな理由なんだ。それもヌアクショットの歴史が関係しているとでも?」


「俺はイムリュエンとは長い付き合いだが、州の機密は聞いた事が無い。それに本人も言ってたが、ミホ・ジングウジには話していないそうだ」


「じゃあどこから情報を仕入れたと?彼女は異世界で生まれ召喚されたのはアイウン州だ。ヌアクショットの機密を手に入れるツテは持っていない。であればイムリュエンの愛人となり情報を得たと考えるのが自然だろう。仮にイムリュエンでないならば、邸にいる臣下の誰かが漏らしたのだ。それなのに処罰はミホだけ。おかしいと思わないのか」


「まず、ミホに情報を提供するよう唆した人物がいる。そしてヌアクショット州の機密をミホに渡した人物がいる。これが同一の人物なのか別人なのかは分からないが、イムリュエンはこの点について認識している。処刑してから何年もかけてその人物について調査をしたけど、未だに判明していないそうだ」


「……ウルソンドは故郷だ。そしてアイウンやブデレ、ポートコーチには情報をくれる友が多くいる」


 クーさんは顔を傾けバードンの目をじっと見つめる。


「アンタは奥さんを亡くしたんだろ?貴族に追われて」


 エイミが亡くなった事を知っている人間は多い。それ自体は隠していないからだ。だが、原因について知っているのはハズレボンビーのメンバーとごく少数の仲間とユーリだけ。何故それを知っているのかとバードンは怪訝な表情でクーさんの言葉を待った。


「王国騎士団は知ってるか?アイウン州が今よりも大きな国土を持つ一つの王国だった時代から存在する、強く気高い守護者達だ。アイウンが帝国となる前の話だから400年以上前から続く組織だが、彼らとは特に仲良くしていてな。彼らから聞いたんだ。ハズレボンビーとマルブリ―ツェ卿、現月覇(げっぱ)会の会長リーンピム・ホロトコ、そしてヌアクショット州の領主であるイムリュエン・ペレーゲについて。ホロトコ、マルブリ―ツェ卿についてはあまり情報は得られなかった。だが、ハズレボンビーとイムリュエンについては色々聞けた」


 マルブリ―ツェ卿であるソンボイユ・ヘヌートの話を全て信じている訳では無いが、仮に真実である場合、10年前の事件が、全く知らない東の州の人間によるものだという事になってしまう。あれだけ追い込まれたのも、隷属の魔法を掛けられたのも、ユーリを連れ去られたのも。


 バードンは険しい表情で一言一句漏らすまいと、神経を尖らせた。


「連邦王国の端という立地を活かし、異世界人を集め不穏な動きをしていたヌアクショット卿。そして、その友人であるお前の仲間には力だけしか存在価値の無い亜人と、人の形をしているだけの魔物である魔人、そして異世界人。お前たちが手を組んで、東西どちらともつかず中立を保っていたマルブリ―ツェを攻め落とそうと画策していたとな」


 過去の因縁について何か手掛かりがつかめるかと思えば、突拍子もない陰謀論に、バードンは面食らってしまう。


「あの宿は軍事拠点だったと言ったな。ならば合点がいく」


「待て待て、勘違いしてるぞ。俺たちはそんな」


「王国騎士団に宿を落とされ、そこに隠れていたお前たちは計画を潰そうとしている内通者を探した。そこで目についたのがミホだったのだろう。マルブリ―ツェを手中に収める計画は王国騎士団によって頓挫し、イムリュエンは責任の所在を曖昧にするためにミホを処刑した」


「だから違うって」


「マルブリ―ツェ卿は早い段階で計画に感付いて、あらかじめ東の諸侯に対策の依頼をしていたそうだ。つまり、諸侯が王国騎士団を派遣した時点でお前たちは終わっていたんだ。それなのにミホに汚名を着せた」


 バードンが口を挟む余地がないほど早口でまくし立て、ひとしきり言い終わると再び天井を仰ぎ、誰かを嘲るように笑い出した。


「フフフ、ハハハハハ」


 和解できなくてもいいから、何とか話し合いだけで溜飲を下げられないかと期待していたバードンだったが、その望みは叶いそうにないと考え落胆していた。だがその表情は悲しそうであり、お節介のバードンらしいものであった。


ワカチナ連邦王国中央にあるマルブリーツェ州。

マルブリーツェ州東に隣接するポートコーチ州、北東にアイウン州。

アイウン州東に隣接するウルソンド州、ポートコーチ州東に隣接するブデレスリーン州。


ヌアクショット州は連邦王国の最西端。正確には北西の端。

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