84.憧れの人
明日、頑張って間に合わせます。期待はしないでください。推敲してませんので、読みにくい箇所は補完してください。最近チェックしてないので、まとめて直していきます。よろしくお願いします。
「う、うっす?何を言うとるんじゃ、アホんだら!」
魔石からのどぎつい怒りが室内にこだまし。
「お前が奴隷になったとか、よその国に逃げたとか情報が錯綜しとる間、ワシがどんな想いだったか」
「それはすまん。連絡できない事情があったんだ」
「連絡できない!?そんな事情があってたまるか!このボケナス!何かあった時の為にギルドがあるって耳から血が出るほど叩きこんだじゃろ!」
「すみませんでした!今度顔出すから勘弁してくれ。とりあえずここ、通っていいか?」
「通れ!それと、そこに騎士はいるか?」
「ああ、いるけど」
「騎士さん、うちのもんがすまんかった。これは一つ貸しっちゅう事でどうじゃ」
オルキスは首を横に振りリーダーの青年と魔石に答える。
「貸し借りは嫌いだ。気にしなくていい」
「そうかい。悪いね。レンセン、別のもんを寄越すから帰ってきな」
「あいよ」
レンセンという【碧斂集団】のリーダーは魔石から意識を逸らすと、バードンを目を向けた。この男が伝説のパーティのリーダーなのか?と疑わしさをにじませた目を。
がっしりと言えなくもない、たるんだ体。冒険に不向きなスーツ。オールバックのヘアスタイルが、広くなったのであろう額を際立たせ、輝きのない革靴が、大雑把な性格を表している。
じっとバードンを見つめるリーダーに、波乱を予期したメンバーの一人が声を掛けた。
「レンセンもう行こう。これ以上は流石に……」
「何もしねえよ」
レンセンは舐めるようにバードンを観察し、落胆した。
彼は【ハズレボンビー】の偉業に目を輝かせ、少年時代を夢に捧げた。ギルドの掲示板に張り出された依頼にパーティーの名前とCloseのハンコ。それはつまり、依頼完了を意味し、難易度の高い物ほど掲示期間が長くなる。
掲示されていた「魔界開拓」依頼はマルブリーツェでは初めてハズレボンビーが達成したものだった。
噂に聞くのは、オールラウンダーというハズレ役職のリーダーと亜人と異世界人、そしてガキンチョと赤ん坊のパーティーとだけ。
これまで何度もこのパーティーが達成した依頼を眺めていた少年は、この不思議で常識ハズレのパーティーがキラキラした人達なんだろうと、憧れと夢を抱くことになった。
だがある日、数年は張り出されるであろう「魔界開拓」の張り紙が無くなっていた。聞けば、彼らは領主と揉めてしまい行方を暗ませたとか。ある人は奴隷になっただとか、ある人は殺されただろうだとか、またある人は海外に逃げただろうだとか。
彼にとってそれらの理由はどうでも良かった。何よりも堪らなく寂しかったのは、【ハズレボンビー】に関する張り紙が全て取り去られ、過去の遺物のような、歴史の1点の出来事でしかないかのような、何か遠い昔の事のように誰もが話す事だった。
日常を送るだけで精一杯。ハズレボンビーは確かに凄かった、仲が良かったんだという人もいたが、助けに動いたという人とは出会わなかった。
少年の夢が時代遅れなのか、はたまた領主に目をつけられるような悪行なのか。【ハズレボンビー】が大きなうねりに消し去られたという事実が、彼の夢や憧れを否定しているような感覚を覚えたのだ。
それ以来、何かを払拭するようにひたむきに努力を続け、とうとうA級へと上り詰めた。そして、数人のパーティーから今では王国全土で活動出来るほどの大規模なクランを組織し統括している。
ただひたすらに力をつける日々でいつの間にやら忘れていた、少年時代の夢。
【ハズレボンビー】が成した、単独パーティーでの魔界開拓やダンジョン攻略という大きな夢。
最近では、新参者やランクの低い冒険者には任せられないという仕事ばかり振られ、冒険者というより傭兵のような扱われ方をしていた。
食料品の物価も高騰している割には、地元で取れた野草や肉の買取価格は変わらない。
それならば、安全を優先する安い仕事よりも、冒険者らしいく高額で危険な仕事をしたいと思っていたのだが、まだ早いと突っぱねられ続けた。
そうして妥協案として引き受けた仕事は、とにかく暇。病院に収容される患者が逃げ出さないように見張り、必要があれば実力行使せよ。必要があれば面会人の護衛もするようにとのお達しだったが、ここに来るのは調査研究か健康状態の確認で訪れる役人ぐらいで、時たまやってくる親族も手紙と金だけを置いてさっさと帰ってしまう。
何度か起きた脱走未遂も錯乱した一般人が暴れた程度で、危険とは言い難いものだった。
危険が好きなわけでも、金欲しさに冒険者になったわけでもない。ただ、憧れたあの冒険者のように、成りたかっただけだった。
そんな折、目の前にあのバードン・オンツキーと名乗る男が目の前にいるのだ。ギルマスがバードンだと認めて話していたのだから本人なのだろう。
キラキラどころか、どこにでもいそうなただのオヤジ。自分の置かれた窮屈な状況も相まって、より一層落胆してしまう。
レンセンは残念そうな表情で、バードン達に会釈をすると、とぼとぼと出口へと歩きだした。
「通路を進めば病室がある。名札見て入ってくれ」
すれ違いざまにボソボソと言い残すと、【碧斂集団】のリーダーと実地訓練としてやってきた新人達は狭い出口へ消えていった。
「なんだろう。俺、凄く哀れな目で見られてた気がする」
バードンが誰にでもなくそう呟くと、オルキスは鼻で笑った。
「元S級で、先駆者を得たパーティーのリーダーが、お前だからな。不憫にも感じるだろう」
「んー、メチャクチャ失礼だ」
バードンは納得が出来なかったが、追い掛けて説教するような事でもないなと、モヤモヤした心持ちのまま、笑いながら歩きだしたオルキスへとついて行った。
通路もまた狭く、オルキスを先頭に1列になって進むと、落下防止の柵のあるロの字の通路へ突き当たった。向かい側と左右には部屋があり、木製の扉の前に名札が掛かっている。
とりあえずオルキスについていくが、一巡して元の細い通路の前へと戻ってきてしまった。
「お前、知らないのか?」
「知らん。奥まで来たことはない」
「……医者か看護師に聞くしかないか」
と言ってみたが、それらしき人はどこにもいない。柵から体を出し下を覗くが2階通路が丁度名札と重なり名前を確認できない。一応、部屋の配置は2階と同じようだが、どうやって降りればいいのかも分からない。
辺りをキョロキョロしながら、誰か来ないかと待ってみるが何の音もしない上に人影すらない。扉の向こうに誰かいるのかも疑わしい程静かな場所で、騎士達の鎧が動く音だけが響く。
病院と言われて来たのに、絶対に出会うはずの白衣は目に入らず、何かと無機質な部屋ばかりで、更にとっても静か。
何故か思い出される、厳重な監視と地響きがする程の門。
時間は過ぎていき、だんだんと全員の気持ちが1つになってくる。
「なあ、一回出ないか?」
「あ、ああそうだな」
不気味すぎて少しずつ怖くなってきたとは言わないが、バードンの提案に誰も反対しないのだから、皆が同じ意見だったのだ。
バードンは振り返り、元来た通路を引き返そうとしたその時、天井から女性の声が聞こえた気がした。
バードンだけではなく、誰もが聞こえたのだが、指摘する者も声の方を見る者もいない。誰もがさっさと通路を引き返したかったからだ。
ずんずんと通路を引き返して行くと、道半ばで今度ははっきりと声が響いた。
「面会ですか!」
「で、出たーー!」
バードンの言葉を皮切りに、男たちは全力で通路を走り抜けていった。
それを、3階から見ていた医師ボーデウス・トゥルーバックはギラリと光るメガネを中指で押し上げ、一言呟く。
「フッ。ヘタレが」
ここはマルブリーツェ州の魔法傷病専門病院であり、魔物や魔人、亜人に襲われてしまい、通常の医療では完治できない後遺症のある患者を診察したり入院させたりもできる、この国でも数少ない高水準の医療を提供できる病院である。
あまり知られていないというのが、この病院の唯一の欠点であり、冒険者であるバードンや騎士であるオルキスも知らないのだから、一般市民が知らないのは当然だろう。
病院に監禁され、無念の死を遂げた怨霊が出たのだと慄く一同は、真剣な顔で走り抜けた通路を見ていた。生者を引きずりこもうと追って来ないだろうかと心配しながら。そして、その奥からコツ、コツと誰かがやってくる音を捉えた一同は、剣を抜き、魔法陣の描かれた紙を手に持ち、その正体と対峙しようと腹を据えていた。




