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81.ソンボイユ・ヘヌートとバードン・オンツキー 中編

またもや追記します。全然捗らなくてすみません。


8/6 3:43追記終了。未推敲。今後も間に合わない日々が続くかも。。。

9/2 3:58  訂正 鉱物商人バッヘン・シャスキー→ベンケン・シャスキー

まさかのバッヘンかぶりでしたので変更しました。



「10年前は転移者の協力が必要だった。そして今回は安全なダンジョンに興味がある。我としてはお前に関わりたい訳ではない。そういう巡り合せなのだろうな」


「転移者はエイミ以外にもいたはずです。どうして彼女だったんですか?」


「法だ。異世界人の召喚は首都とその周辺州でしか認めないと法が言っていた。だから彼女は貴重だったのだ。どの貴族にも与しない、大きな戦力の彼女が」


「当時は戦争も政治の不安定化も魔界からの侵攻もなかったはずです。それなのにどうして戦力がいるんです?やはりダンジョンを攻略するためですか?」


「我が領主を継いだ時、当時の国王陛下の体調が思わしくない事は全土に知れていた。そうなれば、貴族は派閥を使い、次期国王となる者を擁立しようと、どちらにも付かない中部州に色気を出し始める事は自明であり、やはりその通りであった。その触手を防ぐには力が無くてはならない。まだ経験がなかった我は、安易に手に入るであろう、異世界人に目をつけたのだ」


「緑のマントの騎士、あれは東の勢力だと聞きました。閣下は東についたのでは?であれば、東が庇護してくれるはずです。わざわざ戦力を求める必要もなかったでしょう」


「庇護と独立は相容れない。どの州も望むは独立だ。マルブリーツェが東と協調したのもその一途であり力を蓄えるための一時的な関係に過ぎない」


「当時からダンジョンを欲しがっていたのも戦力の為ですか」


「我が領地に支配の及ばない建造物と森がある。お前の家に猫がが住み着く忌まわしい様を想像してみろ。駆除するだろう?その猫が金を運んでくるのなら、従えたいと思うだろう?地を統べ、人を動かし、金を動かす。その中にダンジョンも魔界も組み込めば、民も潤い安全を享受できる。領主として当然の振る舞いだろう」


「対価を払って雇おうとは考えなかったのですか?俺達は猫ですか?」


「あの時は経験も浅く若かった。確かにやり方がまずかったことは認めよう。すまなかった」


「えっ?」


 屁理屈を並べ自己弁護でもするのかと思っていた。非を認め謝罪するなど想像もできなかった。だが、目の前の領主はワインを置き、バードンをしっかりと見据え失敗と謝罪を口にしたのだ。


「お前には辛い思いをさせた。我にも子があり、10年経てば若き日の振る舞いを悔やむこともある。こうして謝罪できた事に感謝する」


 どうせ上っ面だけの謝罪だろう。10年経て変わったと言いたいのだろうが、そもそもこちらへ連行されたのもこの男の策略だ。その策のせいで娘が殺されかけたのだから、これで手打ちとはいかない。


「俺がここにいるのは、アンタの手下が宿に乗り込んできたからだぞ?さっきもそうだ。協力出来ないなら刑務所行きだと脅しただろ。アンタは何も変わってない」


 バードンの言葉に、再び騎士が動くがソンボイユ・ヘヌートが手で制する。


「誤解を解くとしよう。転移者達をお前の宿に送ったのは、使者としてそして客としてであって、お前を引っ張り出す為の策などではない。こうして捕らえられているのも我が望んだ形ではない。そして、お前は州の戦力である転移者を傷つけた。簡単に無罪としては我の沽券に関わる。だから取引を持ち掛けたのだ」


「そもそも転移者から手を出してきたんだ。応戦するに決まってるだろ」


「そうなのか?」


 ソンボイユ・ヘヌートはちらりとオルキスに目をやる。その視線の答えが返ってくると、公爵は額を抑えた。


「すまない。御しきれ無かった我の責任だ。相応の罰を与え、宿の修繕や怪我人の治療費も払う」


「……アンタが分からない。どっちが本当なんだ」


 パーティーが追われ、死に物狂いで逃げたあの時、間違いなくマルブリーツェ卿は敵だった。今もそうだと思っているが、バードンには引っかかっていることがあった。

 エイミの死はコイツの責任なのか。

 魔界を通り逃げると選択したのは自分であり、マルブリーツェ卿が誘導した訳ではない。彼に追われ仕方無く選んた道だが、バードンは彼を責めきれずにいた。


「緑のマントの騎士はアイウン王国騎士団と呼ばれている。彼らの正体をペレーゲ公爵から聞いたのだろう?」


「ああ」


「彼らも制御出来なかった。今も昔も何も御しきれない。どちらが本当かという問いは悪か善かという意味だろう。それに答えるならば権力を持ち使いこなせない者は悪人だ」


「隷属や縛心の魔法を使ったのもアンタの指示か?」


「いいや違う。騎士の独断だ」


「じゃあ、アンタは何を指示したんだ」


「お前達を捕縛し面前へ連行せよとだけ。その中には暴力も含まれていたが、魔法による服従は望むところでは無かった。だが明言もしなかった。解釈の余地を残したのだ。意図しないところでな」


「アンタの言うとおり、悪人だな」


 仇敵は権力を持て余すただの貴族。過去を悔やみ、善処しようとしているようにも見えるが、許す材料にはならない。


「使者を送るなら一人で十分だろう。そして宿ならアールガウの二区や三区に腐るほどある。それはどう説明するんだ」


「転移者は召喚してから魔法の教育とこの世界の生活と文化を教えて初めて戦力になる。つまり魔法の訓練と交流が必要だったのだが、この地には異世界人の魔法に耐えうる訓練場が無い。召喚法が改正されるまで異世界人の為の施設など考えもしなかったのだから仕方がない。そこで考えたのだ。大規模な魔法を使える広い土地、そしてこの世界の民と交流できる近くの宿。それを叶える宿は州の北部にある。だが、苦情が連日続き別の場所に変えざるを得なかった。そして南部の三区辺りにある宿に移動させたが、そこでも問題が起きた。そうなれば、誰も近寄らない魔界という演習場と近場の宿を備えたお前のところがいいと言うことになったのだ」


「じゃあ、数カ月前アンタが送り込んだ転移者と仮面の女の子はどうなんだ?」


「あれは手に負えなかった。だからああするしかなかった。お前に迷惑をかける結果となってしまった事は申し訳ない」


「貴族なら一人や二人殺したって誰も文句は言えないだろ。何でわざわざ俺の宿で」


「お前のところに送った転移者達は学生だそうだ。柔軟で野心的で染まりやすいうら若き子供たちだが、ここでは強力な兵器であり戦力だ。彼らの気を削ぐことは出来ない。名は確かショウタだったか。不遜で傲慢、我とこの地の民を見下す愚か者だった。遊興の旅を勧めその道中の魔界で殺そうかと思ったが、どうやら東の間者と繋がっていたようでな。お前の宿で早めに処理するしかなかった」


「で、俺に罪を擦り付けた?」


「何故そうなる」


「オルキスに捜索命令を出し、その学生たちには俺が殺したと言ったんだろう?」


「捜索命令は学生達を宥める為に出した。学生達にはお前の宿で死んだとしか言っていない」


「……訳が分からん」


 向かい合った二人の間に沈黙が広がる。バードンはこの男を図りかねていた。恨みが晴れる事は無いが、ただの悪人という訳でも無いのかもしれない。だが、今の話が全て作り話で実際には自分の想像以上のクソ野郎かもしれない。

 そんな思いで押し黙っていたバードンを暫し眺めていたヘヌートは円卓の上にあるベルを鳴らした。すると少しの間目を瞑り、誰かと会話をしているように頷いたりした後バードンへ視線を向けた。


「お前にいくつか見せたいものがある。初めに言っておくが、許せなどとは言わない。そして信用しろとも言わない。だが、我がお前に固執していないという事だけは理解してくれ」


「見せるって何を」


 扉が開きそこから若い男性がため息を付きながら、ヘヌートの元へと歩いていく。両手で抱えた大量の書類の上には大きな青い石が嵌め込まれた高そうな銀色の首飾りがあり、それらを乱雑に円卓の上に乗せた。


「閣下、これは表に出さないはずでは?」


「状況が違うだろう?今更隠す意味もない」


「はあ、そうですねー」


 燕尾服の余った袖を気にしながら、チラリとバードンの様子を窺う。失礼な話だが、舌唇を突き出し、眉間に皺を寄せ、頭を振る様は明らかにバードンを毛嫌いしている事を如実に表していた。だが、バードンはこの男に見覚えがない。何でこんな顔をされるんだと思いつつ、気だるそうにお辞儀をして去っていく男の背中からヘヌートに視線を向ける。


「何だ今のは。初対面なのに何であんな顔をされなきゃならない?」


「州民としての誇り故だろうな。許してやってくれ」


「……はあ、意味不明だ」


「この書類は10年前の契約書とそれ以来結ばれたある契約の全てだ。相手は旧帝国派のラサパロス州とジャイサルメイル州の2つだ」


 首飾りをつまみ上げ脇へ寄せると、一番上の書類をバードンへ手渡す。


「それは最新の契約だ。読んでみろ」


 言われるがまま、とりあえず契約書を目で追っていく。そこに記されていたのは、州境における検問と関税徴収に関してのことだった。


「これが、何なんだ?」


「これまでは州を出る時に税を支払うだけで良かった。だが、その契約によって州に入る時にも税を義務が生まれた。そして、その税は一律では無く荷の重量に比して増減し、その徴収も我が州の義務となっている」


「ああ、だから何だ」


「……お前は元冒険者で商人だろう?何も思わないのか」


「俺は三区から出ないから、これが何を意味するのか全く分からない」


「最近、食料品の物価が高騰しているだろう。こうやって商人を締め出しているからなのだ。こちらからの通行には多額の税を取られ、ラサパロスやジャイサルメイル出身の商人は僅かな税で往来できる。これが、特定商人の免税契約書だ」


 更に1枚の紙を手渡されたバードン。だが、その書類を読むことはなく、ヘヌートの顔を怪訝な表情で見つめる。


「結局何が言いたいんだ。マルブリーツェが虐められてるって?それと俺への固執と何の関係がある」


「西側派閥にも入れず、マルブリーツェは一層孤立している。10年前はアイウン王国騎士受け入れやマルクシャス・バルハブ侯爵の個人的なお願いを叶える程度でこちらに利を齎すことができた。もちろん、その為にお前にしわ寄せがいったことは謝罪する。そして、時を経て徐々に州を飲み込もうと動き出した東には抗えないほど、骨抜きにされてしまった。このままでは東の奴隷になり果てるしか無くなってしまうのだ。だから、ダンジョンを調査し、異世界人を集め、魔界を開拓し独立の道を歩まなければならない。それが理由でお前に協力を依頼しているのだ」


 ヘヌートは首飾りを掴みバードンへと放り投げる。高そうなアクセサリーだと思っていたバードンは変な声を出しながらも、何とかそれを受け止める。


「フッ、大した価値はない。それはダンジョンの遺物だ」


「遺物?ああ、形見のことか」


「形見だと?奇異な名前をつけるものだ。数カ月前に出来た新たなダンジョンを攻略した際に手に入れたのだが、ダンジョンは調査に入ってから2日で崩壊した。その調査に入っていた冒険者や学者は跡形もなく消え去り、ダンジョンの跡地は今、森となっている。最近では魔物も出ると噂になっている」


「そうか。要するに、俺の宿は安全そうだから調べたいんだな?」


「話を聞いていたのか?この州は既に東の手に堕ちかけている。起死回生のダンジョンは謎のまま、調査すれば死人が出て成果はおろか新たな魔界と思しき物まで誕生する始末。お前の宿はこの州にとって絶対手放せない宝だと言っても過言ではないのだ」


「あー、つまりこういうことか。州にとってダンジョンが大事で、そのダンジョンをどうやってか宿にしている俺に敵対する気は無い。情報を引き出すまでは」


「情報の引き出し方はいくらでもある。だがこれまでやらなかったし、これからもしない。これを見てみろ」


 書類の中にいくつがある羊皮紙。その中でも比較的新しそうな物を引っ張り出すとバードンへ手渡す。

 その中身は、何名かの名前と職業、そして州の名前と日付。上から横線を引かれた者が殆どだが、数名の名前は残ったまま。その中で気になったのがクールメ商店の鉱物商人、ベンケン・シャスキーという人物。この人物だけ赤字で不明と記されているのだ。


「それはお前の宿に泊まった他州からの間者や刺客だ。線で上書きされているのは対処済み。何もされていなければ、今も宿泊中か逃げられたかだろう。恩を着せる気は無いが、お前の宿に入り込む虫を密かに追い払ってきたのだ。情報を引き出そうと思えば、何時でもできた」


 そういえばリンは、既に刺客が送り込まれているだろうと言っていた。そして、ヘヌートはダンジョンが貴重だという。それを考えれば、何時命を狙われてもおかしくないし、ユーリや従業員数を人質に取られてもおかしくなかった。能天気にも運がいいとか、元S級にビビっているのだとか思っていた自分が恥ずかしくなる。


「その中のベンケン・シャスキーだが、ホロトコのところへ転がり込んだのか?何名かウチの者達が怪我をして帰って来てな。何か知らんか」


「ベンケン・シャスキーか。んー、あ!アイツか!今はリンの部下だ。確か、本店の指示でダンジョンの調査に来たとか何とか」


「ふむ。ならばその者は敵ではないのだな。以上が過去と現在のマルブリーツェであり、お前に固執している訳ではないという証明だ」


「ダンジョンってことだな」


「そうだ。それから、お前のところに転移者がいるだろう?」


「……何でそれを?」


「身構えるな。何もしない。ペレーゲが転移者をヌアクショットに連れ帰り懇意にしている人物達の元へ送っていると聞いてな。お前のところにもいるかと思ったのだ」


「カマかけたのか?」


「そうだ。州内を魔法で監視できても、ダンジョンと魔界だけは中に配下を送らなければ我の魔力が届かないからな」


「頼むから余計な事はしないでくれ。あの人は戦闘向きじゃないし、アンタに協力出来るような性格じゃない」


「聞いたのは、お前にキチンと認識させる為だ。異世界人は強い。州を動かすことが出来る程強大な力を持っている。そして、異世界人は服従させることが出来る」


「服従って、ああ、服従魔法のことか」


「知っているのか。そうだ、古代の強力な魔法のことだ」


 最近聞いた話がここでも出てくるのかと辟易しながらも、自分がどれ程大きな物をたくさん抱えているのか、一応の仇敵である人物に認識させられたバードンだった。






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