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80.ソンボイユ・ヘヌートとバードン・オンツキー 前編

すみません。また中途半端ですが、今日中には書きます。


8/2 0:24 追記しましたが、まだします。間に合わなくて申し訳ねぇ。所用がありどうしてもここまで。日付変わりましたが本日中にも完成させます。

8/3 1:25 追記終わり。

 ジャッ!とカーテンを乱暴に開ける音が聞こえ、眩しい日差しが室内に差し込む。朝に見える山脈は雄大で自然の偉大さを感じさせ、大河は静静と緩やかで生命の神秘を感じさせる。


 そんな絶景を眠気眼で眺めながら、面倒くさそうに起きる容疑者バードン。着替えは持っていなかったのでパンイチで眠った。起きてみれば洗濯しアイロンも済んでいるスリーピースの従業員服が壁に掛けられている。一流宿は凄いなと感心しながら、窓辺でグビグビと水を飲むオルキスを見る。


 そこで気付いた。おっさん2人で泊まる宿では無いなと。


「私も同じ思いだ。さっさとシャワーを浴びろ。貴様以外準備はできているぞ」


「シャワー?ああ、異世界の体を流すアレか」


「さっさと動け!お目通りに1秒でも遅れれば不敬罪だぞ!」


「はいはい」


 オルキスが顎で示した部屋へ、ボーッとした頭で向かうバードンであった。


 玄関扉を開けてくれ、馬車が遠くなるまでずーっとお辞儀してくれる従業員。昔、大金を出して泊まった宿もこんなんだったなと思いを馳せながら、経営する宿との違いを思い知った。


 通行量の多い大通りに面した立地。そこを通る人達もわりかし金のある人々。ただ泊まるというよりは、ささやかな非日常に泊まりたい、そんなニーズを汲み取った接客や内装。


「ここいくらなんだ?」


「確か、8万だったか」


「8万!?一部屋かそれとも一人か?」


「一人8万だ。ああ、朝夕の料理代と部屋を変えれば5万ぐらいにはなるはずだ」


「8、万、か」


 値段に驚愕しニーズも客層も違うほのぼの郷には取り入れられないだろうなと思いつつ、コスパだけを追求していた自分の経営姿勢に改善の余地が大いにあるなと、1人納得顔のバードンであった。


 通りを抜けると景色は一変し、マルブリーツェ州が一国であった時代の英雄、カバルハット・ヘヌートの巨大な銅像を中心とした環状の道路。バードンが乗る幌馬車は道路を半周し放射状に抜けるいくつかの道の内、先程通った道の正面の道に入る。


 飾り気の無い集合住宅が並び、半ばまで進むと、今度は食堂が林立。漏れ出る美味そうな匂いに目を引かれまばらにいる店内の客の食べているものを見ようとするが、バードンの座席位置からではそこまでは確認できない。


 ガタガタと揺れる幌馬車が減速し、御者と誰かの話し声が聞こえてくる。


「9時にお目通りの州騎士団アールガウ支部長オルキスで御座います」


「通れ」


 今いるのは道の終わりで、目の前には大きな建物が並ぶ開けた場所。こんなところで停められるのか?と不思議に思ったバードン。


「随分と厳重だな」


「かなりな。何度か停められるぞ。アールガウからも人を寄越せと言われるほど人員を割いてるのだが、これでは支部を点在させる意味がない」


「昔もこんなんだったか?」


「いや、ここ最近始まった。何に怯えてるんだか」


 オルキスと同じ様な鎧を纏う騎士達が行軍していたり、法衣姿の人々が何やら大笑いしていたり、蝶ネクタイに燕尾服の人々が高級そうな馬車から出てきたりと、ここがこの州の要衝である事が窺える。


 何度か検問を通りながらも、道なりにゆっくりと進み辿り着いたのは、十年前に数回来たことのある領主邸。この間建て替えはしていないのだろう。古びた外観以外は全く変わっていない。


 門扉の前にはやはり門番がおり、御者ととのやり取りを経て、ギィーといやーな音を立てながらゆっくりと門が開く。軽い坂を上り終えると馬車は止まり、外からガシャガシャと鎧達の音が近づいてくる。


「来たか」


「おお、バッヘン!久しぶりだな」


「そうだなオルキス。このまま閣下のところへ案内しても?」


「ああ、よろしく頼む。やはり錠は必要か?」


 向かい合わせの座席の間に、ポツンと投げ捨てられた腰に這わせる鎖と手足の錠を指差し尋ねた。


「閣下は丁重にと仰せだ。不要だろう」


 オルキスは頷くと、後部のステップを降り、来いと手招きをする。


 バードンは仇敵に会う割には冷静だった。憎い相手だが長い間関わらないようにしていたのだから、復讐の機会が来たというより、会わずに帰れないものかと、ここに来ても思っていた。どうせ無理難題を言われるに決まっているのだという確信的な偏見が、経験から導かれればそんな散々な心情になるのも無理はない。


 のっそりと席を立ち、かなり大所帯になった騎士達に囲まれて屋敷の玄関へと向かう。馬車からは見えなかったが、歩いてみると玄関前も何一つ変わっていない。弧を描くように植わった木々に、緑の芝。中央にはヘヌート家の誰かだろう、髭面のおじさんの銅像。現当主は伝統を守るタイプなのか?とも思ったが、前当主とは全く異るやり口で自分達を従えようとした過去を振り返れば、ただ単に拘りが無いだけだろうとボンヤリ考えながら領主邸へと入った。


 侍従達が忙しなく動いているのかと思えば、あちこちに騎士がいて、特段やることもないのだろう、暇そうに談笑している。やっと目に入った侍女は気まずそうに騎士達の間を縫い、バードン達の元へとやってくる。


「ようこそお越しくださいました。ご案内致します」


「貴様が?」


 侍女は基本的に表には出てこない。屋敷の掃除や手入れ、主の召し替えや賓客のお世話等、雑事をこなすのが一般的なのでオルキスはそう尋ねたのだ。


「は、はい。当家執事は暇を頂いておりまして、代わりに私が……申し訳ございません」


「ふむ」


 バケモノじみた顔の男に、貴様が?と問われれば、魔物だって怖い。案の定、侍女はメチャクチャ動揺しながらも階段を上り3階の一室へ案内してくれた。


 コンコンと侍女がノックをすると中から、あの声が聞こえてくる。


「入れ」


 円卓が一台中央に置かれた質素な部屋。そこにはあの、ソンボイユ・ヘヌート、その人がワイン片手に座っていた。


「バードンはいるのか?顔を見せろ」


 バードンが公爵の視界に入るよう、騎士達は横へ移動する。バードンは顔を顰め目を合わすまいと努力するが、ソンボイユ・ヘヌートはニヤリと笑いかける。


「座れ」


「……ハァ」


 小さなため息をすると、バードンは渋々、椅子に腰掛けた。マルブリーツェ州の州旗が壁面に掛けられ、その横にはいやらしい笑みを浮かべるソンボイユ・ヘヌートの自画像。年代物の間接照明は見る人が見ればそれは喜ぶような代物だろうが、バードンの目にはさもしく映る。


「さて、近況はどうかね」


 バードンはテーブルクロスに残る小さな小さなホコリをこれでもかと見続け、何も言葉を発しない。


「ふむ。よろしく無いようだな。我々は知らない仲では無いのだから、相談するといい。どうだ?」


「……要件を言ってくれ」


 平民が暴れ出さないように、しっかりと脇を固めたひとりの騎士がその言葉を聞きバードンの肩を掴んだ。


「貴様無礼だぞ!敬語も使えんのか愚か者!」


 相手を選んでるんだよバカが!と言いたいところだったが、厄介な貴族の前で、厄介事に巻き込まれている中、不敬罪だなんだと騎士の厄介になるのは嫌なので、グッと言葉を飲み込み、言い回しを変えてみる。


「ご要件は何でしょう閣下」


「そう畏まらなくともよい。そうだな、今回呼んだのは他でもない。バードン、お前が宿としているダンジョンの調査をさせて欲しい」


 畏まるなと言うくせに騎士をなだめるでもなく、呼んだと言う割には、騎士に連行され今は周囲を取り囲まれている。

 ソンボイユ・ヘヌートのいちいち白白しい態度にうんざりしつつ、どうせそんな事だろうと仇敵の思考を簡単に読めた自分を情け無く思った。


「申し訳ありませんが、年中無休で営業してますからご協力はできませんね」


「我の送る調査隊が勝手に調べるだけだ。それに、金も払う。その間客を入れて営業を続ければいい。どうだ?断る理由が無いだろう?」


「お互い知らない仲じゃないと仰った通り、私は閣下の事をよく知っています。ですから宿で勝手に動かれては困ります。」


「ふむ。ならば、このまま刑務所に行くか我の調査を受け入れるか選べ」


 そう言うとナッツをポリポリと齧り、策士面で得意満面。端からこんな流れになる事は分かっていた。あくまでも"気のいい貴族"を演じ続けるつもりらしく、バードンの内心も穏やかではなくなってくる。とにかくすべての所作が鼻に付くのだ。

 だが、刑務所に行くのは困る。従業員に任せようにもダンジョンを放置して何かあってはいけない。親友のリンは自分の仕事で忙しく、そこまで甘える訳にもいかない。何より、ユーリを一人にしてまでこの貴族の挑発に乗る必要はないだろう。


「宿泊費は一部屋1500ワカチナ、朝夕の料理代1日600ワカチナです。調査には俺が帯同しますがそれで構わないですか?」


「うむ。分かってくれてよかった。調査が終わり次第、礼金も支払おう」


「では、私からの質問に答えて頂けますか?こんな機会はもう無いでしょうから」


 ソンボイユ・ヘヌートは矯めつ眇めつバードンの顔を覗き込む。


「平民からの質問か。確かにそんな機会は無いな。面白い、いいぞ」


「10年前の件といい、今回の件といい、なぜ私に関わろうとするんですか?」


 バードンは包み隠さず、過不足なくそれでいて曲解しようもない、真っ直ぐな質問を投げ掛けた。

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