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79.どんな道にも一応の終わりはある

半端だけど投稿します。修整と追記が終わるのは夜中だと思います。


7/31 0:06

とりあえず書き終わり。未推敲だけど、それは明日にします。


書くの忘れてたのですが、マイ・メイの両名、序盤に出てきますが、名前入れ替えました。この話書いてる時にミスに気づきました。失礼。

もう一点。バードンは流れでマイを殺そうとしてました。なので、整合性取れるように一文修整しました。大した変更ではないので気にしないでください。

 バードンは足と手が繋がった錠で身動きができずにいた。更に手足に渡る鎖を絞るように腰に鎖を巻かれた為、ペットにでもなった気分でいた。


 おしりが痛くなる幌馬車に揺られながら、両脇と目の前でこちらを凝視する騎士たちが不快感をより一層高める中、見知った顔のオルキスが去りゆく路面を見ながら言葉を発した。


「嵌められたな」


「あんたもそっち側だろ」


「フッ。敬語はどうした。私は騎士だぞ」


 イライラしているバードンが面白いのか、オルキスは大して気にしてもいない事を口にする。

 宿泊者が通報したとバードンは聞かされたが、エントランスホールには転移者と従業員以外いなかった。つまり、最初から仕組まれていたのだ。バードンはユーリにナイフを突きつけた女の言葉でマルブリーツェ卿の策略だと気付いたが、引くには遅すぎた。


「今から何処に行くんだ?」


「領主邸だ。お目通りできるぞ」


「わざわざこんな呼び方しなくてもいいだろうに」


「招待状を破り捨てるだろう?」


「それは来てみないと分からないだろ」


「とりあえず今日は一泊する。休んでから閣下へのお目通りとなるから今は楽にしていろ」


「これで?」


 バードンはジャラジャラと手錠を揺らして見せた。


 どんどん遠くなるほのぼの郷。三区市場も通り過ぎ、日が暮れ暗くなった頃には商人が多くマルブリーツェ州で1番人口が多いニ区へと辿り着いた。十年前にはこの辺りにも来ていたバードンだったが、それ以来三区から出ることは無かった。別に生活に困る事も無かったし、領主邸が近いニ区にまで行く用事もなかったからだ。


 久々に見た風景は十年前とは当然違う。均一の石で舗装された大通りは馬車が行き交い、その端では歩行者が行き交う。いまバードン達が通っているのは東側大通りで領主邸へ直通で行ける道である。通り沿いには宿やレストランが軒を連ね、マルブリーツェ産の果物や工芸品等を売る店も少ないながら店を構えている。そこで目立つのが紳士淑女の礼装を扱う店。【バレットオーダーズ】とアーチ形の看板を掲げ、とんがった三本の塔は不必要な程目立つ。ガラス扉の向こうに見える柔らかな明かりとは裏腹に、外観を装飾する光は大通りの路面を照らす程明るい。両手を重ね笑みを張り付けた人形のような男性が店内で佇んでいる光景を眺めながら、幌馬車は領主邸があるヘヌート市付近の宿屋に到着した。


「手錠を外すから、くれぐれも逃げようなんて思うなよ。余計面倒になるだけだ」


 手足の錠が外れ、腰の鎖も外されたバードンは軽くなった手首を擦りながら、こちらの味方であるかのような態度をとるオルキスに悪態をつく。


「そんなに俺を気にしてくれるなら、まずはあの転移者達を捕まえるべきじゃないのか?」


「宿から追い払ってやっただろう」


「従業員がケガさせられて、俺は反撃しただけだぞ?なんで俺が悪人みたいになってるんだ」


「はあ。分かったから中に入れ。話はそれからだ」


 留め具の閂を外し、蝶番がギシギシうるさい扉を押し開ける。オルキスに続いてバードンもステップを踏み外さない様に幌馬車を下りると、カンデラに照らされた宿の入り口前には蝶ネクタイを締めた男性が恭しくお出迎えをしてくれる。


「ようこそお越しくださいました。お荷物は御座いますか?」


「無い。部屋に案内してくれ」


「畏まりました」


 一礼すると扉を開けさわやかな笑顔でどうぞと誘導してくれる。


 決して広くないロビーだが、清潔感がありこざっぱりとした中に整然とした美しさがあるなとバードンは何となく思った気がしていた。うちの宿の方がすごいなとすぐに思いなおしたが。


 オルキスの顔を見ても顔色1つ変えないのは凄いなと思いつつ、受付を横目に階段を登っていく一行。


「50階の上等な部屋だ。囚人にしては高待遇じゃないか?バードン」


「50!?そこまで歩くのか?」


「いいや、ここだ」


 階段を登り切ると行き止まり。右側には簡素な扉が1枚ポツリとあるだけ。オルキスが丸いドアノブを回すとそこは絨毯が敷かれた広い玄関だった。


「なんじゃこりゃ」


 ほのぼの郷の客室程の広さがあり、正面と左右に更に扉がある。光沢があり、石を磨いた様な透明感と触れずにはいられない吸い込まれるような天然の装飾。土足のまま黄金色の取手を引くとシャンデリアが煌めき、丸いテーブルの上には氷水に入ったシャンパンと人数分のグラス。ナッツやスライスされたチーズ、黒いカウチに座ればサッシの無いガラス窓からは夜中でも怪しくも仄かに輪郭を表す真っ白なティケンドパバン山脈とそこから流れるアコーガ川が一望できる。


「嫌味も出ないだろう?」


「これは、すごいな」


「お前達は交代で休め。両端の部屋は殆ど同じだから喧嘩はするなよ」


 4人騎士達は頷くと部屋を後にした。


 バードンはいささかの気まずさを感じていた。もともとバードンとオルキスしか会話していなかったのだが、豪華な宿の一室に突然2人だけになると何だか気持ちが悪い。


「さて、お前の言い分を聞いてやろう」


 オルキスは広々とした腕を組み、腰掛けるバードンを見下ろす。


「目的は何だ?またダンジョンか?」


 問いかけに対し何も答えないオルキス。バードンは苦い顔をしながらも話を続ける。


「あのダンジョンは俺のものだ。国王が寄越せと言っても渡さない。況してやマルブリーツェ卿なんかに渡すもんかよ」


「狙いはダンジョンか」


「なんだ今更知らないフリか?」


「私は州騎士だが、マルブリーツェ卿の駒ではない」


「騎士は領主の駒だろ」


「貴様に弁解する必要もないが、とにかく私は敵ではない」


「別に敵でも味方でもどっちでもいい。見知った顔だが友達って訳でもないだろ?」


 オルキスはつっけんどんな態度のバードンに額を押さえた。敵の敵は味方であって欲しいのだが、どう説明しても理解してくれそうもないからだ。


「確かに連れ合いではない。だが、敵は貴様と同じだ。協力しようじゃないか」


「ああ、あんたもマルブリーツェ卿が嫌いとか言ってたな。でも敵って言うほどじゃないんだろ?こっちは10年分の恨みがある。それと比べられるのか?」


「貴様の不幸と比べるべくもない。誰にとってもそれは不幸だ。娘を()()される親は不幸だと思わないか?」


「……なんだ所有って。そういやあんたの娘さん、探せって話だが情報が少なすぎる。マイ・カガミとマイリー・オルキス2人ってことか?なんで名字が違うんだ。ていうか似顔絵とか特徴ぐらい話していくだろ普通」


「……産まれてすぐに妻の家に引き取られた。私は顔も知らん」


「それ、俺にどう探せって言うんだよ」


「マイ・カガミというのは転生名だ。彼女は転生者となりそれ以降勘当されたと聞いている。それが8歳頃だったか」


「なんつー家族だ」


「転生者の辿る道は貴様も知っているだろう。私は噂を聞き妻の実家へ真偽を確かめに行った。そこで聞いたのは王国裁判に掛けられ、無期限労働の刑を言い渡されたそうだが、そこで立ち上がった貴族がいた。それがヌアクショット卿だったそうだ」


「ふん。アイツならそうするだろうな。そんで?」


「貴族といえどもあの御方も転生者。身内が庇った所で判決は変わらなかった。しかし、旧帝国派の諸侯たちもヌアクショット卿に賛同し、マイリーは一転、貴族監視の元で自由を得られる事になる。その貴族がマルブリーツェ卿だ」


「なんでマルブリーツェ卿が出てくるんだ」


「立場上は中立、だがその実は東の傀儡。転生者を手懐けるなど過去に例がない事をするのだから、実験するにはマルブリーツェ卿が良かったのだろう。西側とてマルブリーツェが東に靡いていることを承知していたが、リスクを犯してまで一人の少女を助ける義理もない。まあ、転生者であるマイリーが暴れて東側の失策になれば上々ぐらいの認識だったのだろう」


「今のところ、マルブリーツェ卿はこき使われるいいヤツじゃないか?」


「どうだか。普通は親元へ返すだろう?それをしないのだからいいヤツではないだろう。お前の連れの女の情報も私が妻の実家から聞いたものと変わらなかった」


「連絡きたのか。じゃあこれといった手掛かりはなしか」


「ああ。今頃は恐らく、いや間違いなく隷属させられているだろう。貴族が転生者を普通の子のように育てるとは思えんからな」


 忌々しげに語るオルキス。言いたくもない言葉を並べる彼に、同じく娘を持つバードンは同情せずにはいられなかった。


「貴族か。厄介だな」


 その言葉の重みをオルキスは知っている。十年前の騒動はマルブリーツェでは有名だからだ。一流冒険者達が貴族に目をつけられ、メンバーの一人が死んだというその程度の噂なのだが、それを元に調べればマルブリーツェ卿の所業はいくらでも出る。そして、その噂が事実であったという裏付けも。


「これまでと同じようにまた探し続ける。バードン、協力を頼む」


 簡単に頭を下げる騎士オルキス。こんな光景は滅多に見られない。


 クーさんと戦ったあの時、オルキスはリンに、何をくれるのかと問われ、全てだと即答した。


 今の姿を見て彼の言葉と気迫を思い出し、バードン少しばかり尊敬の念を覚えた。


「ああ、もちろん。ところでリンからの情報は他になかったのか?アイツなら裏の情報網があるからマジで知ってると思ったのに」


「関係あるか分からないがと前置きした上で、マイではないがメイという同じぐらいの年齢の暗殺者は知っていると言っていた。白磁の仮面を被った子供だと言っていたが、関係はないだろうな。あらゆる情報が欲しいとは言ったが、まさか娘が暗殺者ではないだろう」


「……ん?」


「なんだ」


「それって二人一組で行動してるか?」


「知らん」


「アンタが初めて宿に来たとき、転移者の勇者候補が来たか聞いたよな。確か個人的な質問だと言ってたはずだ。あれは何だったんだ?」


「転移者が消えたとマルブリーツェ卿から捜索命令が下り、情報を集めれてみればその時同行していた者が12、3の女だったそうだ。マルブリーツェ卿が絡む件ならば娘の可能性もあると考えるだろう。そこで行き着いたのが貴様の宿だった。だから尋ねた、それだけだ」


「……はあ、なるほど。とりあえず1つアンタに朗報だ」


「なんだ急に」


「マイという女の子を見た」


「何!?」


「マイとメイ、2人見た」


「な、何故それを早く言わなかった!マイという名前だぞ?この国では滅多に聞かない名前ではないか!忘れてたとは言わないだろうな!」


「いま思い出したんだよ!まさか、あんな激強の女の子だなんて思うわけ無いだろ!こっちは、ウチの娘みたいな優しそうな町娘を想像してたんだ。情報をろくすっぽ寄越さないアンタが悪いだろ!」


「……激強?どういう意味だ」


「アンタが探してた転移者がうちの宿に来た時に一緒に居たんだ。どっちも仮面を被ってたから顔は見てない。メイっての子も確かに強かったが、マイは桁外れに強かった」


「本当に私の娘なのか……?」


「マイ、だろ?苗字は聞いてないな。年齢的にもうちの娘と同じか下ぐらいのように見えたから、可能性は高いだろ」


「つまり、マルブリーツェ卿が娘を引き取り、暗殺者として育て、転移者のお守りをさせているのだな」


「……まあ、そうだな」


 バードンは記憶を必死に掘り返す。ベッドでもぞもぞしていた気がするが、あれは確かメイだったはず。そして窓辺で薄気味悪く笑っていた女の子がマイ。あまり詳細は話さないでおこうと1児の父であるバードンは思った。


「そうか。良かった。生きているのだな。それが分かっただけでも良かった」


 遠くを見つめるオルキス。だが、それもすぐに怪訝な表情に変わる。


「戦闘になって逃げられたということか?」


「あ、ああ」


「何故転移者がマルブリーツェ卿の元へ帰っていないのだ。帰っているのなら捜索命令など出ないだろう」


「んー、それは本人に聞いてくれ。のっぴきならない事情でもあるんだろう」


「マルブリーツェ卿もバカじゃない。転移者は大事な財産だから勝手に逃げないよう抑え込める者を側に付けているはずだ」


「お、おん。確かに強かった」


「お守りの2人が転移者を逃がすはずがないだろう。だが、捜索命令が出た。転移者が消えたのだろう。忽然とな」


 眉も睫毛もない肉肉しい火傷痕から鋭い眼光がバードンを凝視する。


「だが正直転移者はどうでもいい。娘は生きているのだろうなバードン」


「も、もちろん!うちの娘と重なってまともに戦えなかった」


「誓えるか?貴様の娘の名にかけて娘を殺していないと」


「もちろん!」


「……そうか。転移者はどうだ?やったのか?」


「な、何をかなー。やったって何をー?」


 嘘みたいに嘘が下手なバードン。下手が災いしてバードンが殺したみたいになっているが、彼は殺していない。


「フッまあいい。転移者は好かんからな」


「へ、へえー」


 豪奢な室内では下手くそな口笛が遠慮がちに夜を祝った。

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