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78.リンのお仕事

もう遅れたとかのレベルではない気がしますが、遅れてすいません。

7/29 17:21

後書きに追記。

州の位置関係について。

 地下には浮遊魔力が殆ど無い。例えば建物に地下室を作るとなると、深くすればするほど魔法が使えなくなり人力での作業が必要になる。

 刑務所等、人を拘束したりする場合に地下に閉じ込めるのは魔法を簡単に制限できるからである。


 リンはカリーニング州のアジトの地下室で、紫煙をくゆらせながら項垂れる男の後ろ姿を眺めていた。


 綿製の服が血みどろになった男は、両腕両足を縛られ、椅子の上で苛烈な暴力に耐えていた。彼は、ホロトコ商会の積荷を掠め取ろうと、荷受人を殺し荷物を待っていたところを、捕まえられ現在に至っている。


 リンが手を挙げると、山高帽の2人が手を止めた。彼らは自らの拳を擦りながら、内ポケットから取り出したマッチに火を点けタバコをふかす。


「すぐには殺さない。お前の記憶だけでは証拠にならないからな。喋るまでは生かす」


 短くなったタバコを一口吸うと立ち上がり、肩で息をする以外動きを見せない男へ近づいた。


「喋るまではずーっとこれの繰り返しだ」


 髪を掴み持ち上げると、こめかみにタバコを押し付け火を消した。流れた血や汗があっても熱は伝わる。ジュウという音とともに体をビクンと震わせた。


 リンが手を離しても、彼は動きを見せなかった。喋る様子もない。ハァとため息をつくと、リンは先程まで座っていた椅子へと歩き出す。すると、部下の2人はくわえタバコのまま拳にボロ布を巻き付け、男へと近づき出す。一人が髪を掴み、潰れた鼻へ拳を見舞おうとしたその時だった。


「……」


 何かボソボソと声が聞こえ、リンは振り返った。続く言葉は聞こえず、部下達へこちらへ向けろと手で合図をする。


「なんだ」


 顔を無理矢理上げられ、男は震える唇でリンの問いに答える。


「一本くれ」


 少しの間の後、リンは銀色のタバコケースから一本取り出し男の口元へ近づけ、くわえたのを確認するとマッチを擦り火を点ける。


 男は背もたれに体を預け、1つしかない明かりを見上げて息を吐く。タバコの煙が立ち昇りまた息を吸うと、語り始めた。


「ボボルは落ちた。東の言いなりだ」


 ボボル州はマルブリーツェ州の南にあり、州内の殆が魔界である。州民と呼べる人は殆ど軍人や騎士でその大部分が東側、つまり旧帝国派の息の掛かった者達だ。近年は魔界が落ち着いていた為、東に頼らずとも州民だけで自活出来ていた。だが、魔界を開拓する余裕も、特産品もこれと言って無い州が、他の州のように立て直す事は難しかった。

 だが何とか自分達だけで生きていくサイクルが出来てきた、他州の言いなりになりながら、頭を下げる生活から抜け出せたと思っていた矢先、魔界が活発化し始めたのだ。


「開墾した農地は魔物に荒らされ、来年の食い物はもう無い。またアイツらに魔物の駆除を頼むしかなくなって、俺達は自立する希望が無くなったんだ」


「で?今回の件となんの関係がある」


「西側は何もしてくれないだろう。これまでそうだった。だから、俺達を人とも思わない東側に付くしかなかったんだ」


「具体的に言え。どこの誰が指示を出してるんだ?」


「言えば死ぬ。契約したんだ。でも分かるだろ?俺はただの農民だ」


「末端だから知らないと言いたい訳だな」


「末端?俺はただの農民で、良いようにこき使われてるだけさ。今回の件も食うに困ってやるしかなかった。積み荷が何なのかも知らない」


 リンはため息をつき首を横に振った。何かいい情報が手に入るかと期待したが、今回も外れたからだ。最近、積み荷を狙った襲撃が頻発し、更には商人ギルドの輸送網制限、そして中部地域の不安定化。マフィア稼業だけでなく、商会としても芳しくない状況になっている。それもこれも、国内を完全統一したい旧帝国派と呼ばれる東側の州が動き出しているからなのだが、貴族政治に絡むには、リンでも力が足りない。


「ちっ。旧帝国派か。いちいち面倒くさい奴らだ」


 ブルブルと小刻みにポケットが震え、リンは魔石を取り出した。正八面体になった石から聞こえてくるのはバードンの娘であるユーリの声。


「ホロトコさん!お父さんが騎士に連れて行かれた!」


 焦った様子の若々しい声が地下室に響く。リンは部下たちに視線を送ると魔石に向かい、また頭を振る。問題が山積する状況に目を背けようとする自分を奮い立たせる為だ。


「何があった。詳しく話せ」


「転移者達が来て暴れたからお父さんが応戦したんです。そしたら騎士が来て」


「待て待て。バードンは生きてるのか?」


「生きてます。私はやられたけど、ピクちゃんに治してもらったから、怪我したのは転移者達だけです」


「ハァ。転移者達ってのは具体的に何人だ?3人ぐらいならバードンと黒ゴマだけで対処できるだろうが」


「30人ぐらいです」


「ちっ。そんな数相手に無傷か」


 転移者相手に全力で殺り合えば、勝てるはずがない。つまり、釣られたと考えるのが自然だ。経験の浅い部下を送りボコボコにさせて戦争をする、マフィアでもよくあるやり口。今回の首謀者はと言えば。


「マルブリーツェ卿が絡んでいると思います。転移者が言ってましたから」


 貴族なら平民一人を拘束するのに大義名分は必要無い。不興を買えば平民の命など家畜よりも軽くなるからだ。だが、こんな回りくどいやり方をするのだから、目的は透けてくる。バードンが持つダンジョンだろうと。


「何もせず待ってろ。殺されることは無いはずだ」


「でも」


「クソチビ。ガキは黙って待ってろ。必ずバードンは帰ってくる。問題無い」


「確信があるんですか?」


「ダンジョンを取りたいとすればバードンを殺すだろう。まあ、引きこもりのバードン相手にうまくは行かないだろうが。だが、強行しなかった。だからバードンを懐柔してなにかするんだろう。最悪、隷属させられるだろうが、その時は私が対処するから大人しく宿にいろ」


「……分かりました」


「じゃあな。私も忙しい」


 形を変えた石を魔法で握りつぶすと、再び殴られた男に近づき破片を顔に擦りつけた。


「農民で下っ端だから情報は無いだ?クソが!貴族が何だ!全部テメェの選択のせいだろうが」


 瞼や潰れた鼻、唇に破片が刺さり、見るも痛々しい男は口端を歪め、わずかに開く目でリンを見据える。


「信念は捨てない。お前らみたいな外道に落ちるぐらいなら、不幸でも真っ直ぐに生きるさ。選択は間違えてない」


 堂々とした男の言葉に、リンは不快感を表す。


「不幸?飯が食えないから?バカ言え」


「妻は東から来たクズ共に体を売ってる。俺は東の言いなりのクソ領主に媚を売るヤツの奴隷みたいなもんだ。それもこれも子供の為さ。アイツらが将来路頭に迷わないように」


「だから何だ。ガキの為に必死に働いてるから許してって言い訳か?それが不幸なのか?くだらねぇ。何もかもテメェの選択だろ。ガキを作るな。結婚もするな。幸せになりたいなら別の州に逃げろ」


「俺とは血がつながって無い。妻は被差別民の亜人だ。俺は間違ってない。正しいことをしてきたのに、何でお前らみたいなクズが生きられるんだ」


「立派な善人だ。それで不幸か。テメェの頭には何が詰まってんだ?どれだけ不幸でも、どれだけ他人を羨んでもテメェは何一つ変わってない。で、このざまだ。テメェがクズと罵る奴らに殺されるのを待ってる」


「少なくとも、自分を偽らず、正直に生きられた。お前よりは絶対に正しい人生だった」


 睨みつける視線を真正面から受け止めるリンは、片方の口角を吊り上げ右手を差し出した。


「なんだ?」


 男は訳が分からず、そう問い返した。すると、部下の一人が腰からナイフを取り出し、柄をその右手へと添えた。


「私より正しい人生か。それは良かったな」


 握ったナイフを見上げる男の首元へ躊躇なく突き刺すリン。刃が喉に吸い込まれ、痛みで動く男の頭を左手で固定すると、少しだけ刃を抜き、再び差し込む。


「短いクソ人生お疲れさん」


 しっかりと目を見て、最期の別れを告げたリンはナイフを手放し、錆びた扉へと向かった。


「記憶を抜いておけ」


 そう言い残すと、重たい扉を開け暗い階段を踏みしめる。


「貴族か。まだ先だな」


 女帝と呼ばれる裏社会の王とて、貴族に牙を向くのはまだ先の事であった。

ワカチナ連邦王国はほぼ四角で、その左下にあるのがカリーニング州です。

イムリュエンが領主をしているヌアクショット州は左上で、ちょっと出っ張っていて最西端です。

マルブリーツェ州は国のど真ん中です。ボボル州はその下。

マルブリーツェ州を基準として東側や西側と呼んでいます。


後書きに書くのがアリなのか分からないですが、読みやすいようにとりあえず補足で書いておきます。

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