76.転移者
後に修整予定。
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修整済み。
いろいろ誤変換がありました。読み返してビックリ。
体裁も整えましたので、読みやすくなったのでは、とおもてますー。
『麻痺しろ麻痺しろ麻痺しろ麻痺しろ麻痺しろ』
やたらめったらに魔法を放つユーリ。バードンはくの字に体を曲げ何とか避け切るが、どうやらユーリは何も見えない中、麻痺させる魔法を連発しているようだ。
「ユーリ!ストップ!ちょっと待て!」
感知魔法だと伝えようとしたが、近づけばあの魔法が当たる。大声で伝えれば敵に初見殺しの対処法を教えることになる。だが、敵はとっくに感知魔法を張り巡らせており、どっちにしても視界を晴らすしかなかった。
『解除』
地面からクリアになっていく視界。天井に吸い込まれていく色。エントランスでは10人程の転移者達が倒れている。火傷を負い呻く者や、麻痺の魔法が当たり硬直している者。それ以外は頑丈そうな障壁で自分を取り囲み防御に徹していた。
『麻痺しろ麻痺……』
戦闘とは子供の喧嘩ではない。この辺で辞めておこうというお互いの認識が無いのだから、行くところまで行くしかない。つまり、相手が殺しにかかるならこちらも殺さねばならない。そう考えれば、子供に向ける優しい笑みはなく、首筋を狙い澄ます獣のような獰猛な表情になるのは当然だ。
ユーリは固まっていた。眼の前で倒れている人達は動かない。死んでいるのだろうか?いや麻痺させただけだ。死ぬはずはない。でも頭を打っていたら危険かもしれない。確認しないと。でも、彼らがそれを許さないかもしれない。何でそんなに睨むのか。暴れるから悪いんだろう。私もやりすぎたかもしれない。だからこの辺で終わりに。
「あの!止めませ」
「殺す!『アイスバレット』」
高校生になって初めての彼女が目を見開き倒れている。微動だにせず、触れれば呼吸と脈はあった。だが、こんな事をされて黙っているわけにはいかない。と、考える耳にピアスをつけた青年が魔法を放った。白色の冷気がたなびき、パキリパキリと礫を作り出す。数えるのも馬鹿らしくなるほど沢山の氷は一直線にユーリへと迫った。
『障壁!』
バードンは固まる娘の前に分厚い障壁を張るが、礫がぶつかるたびにピキピキと嫌な音をたてる。転移者の持つ異常な魔力量と魔法の才能。力で押されれば魔法に長けるバードンとて防ぐのは容易ではない。
『武器』
「させるかよ!『毒鳥』」
スライムの卵と呼ばれる水色の球体は鉱物であり、あらゆる衝撃を吸収し、あらゆる形態へ変化する貴重な物質。そもそも存在が疑われる様な代物なのだが、それをバードンは冒険者時代に手に入れた。その武器を取り出しユーリの防御に使おうとするが、紫色の毒々しい小鳥が数匹高速で飛んでくる。
このまま避ければユーリにぶつかる。だが、スライムの卵がなければユーリを守る障壁が保たない。そして、目の前に迫る攻撃を受ければ、どんな影響が出るか分からず、戦闘不能になっては、ククルーザ・スパワと戦った時と同じ結果になってしまう。
「『障壁』ユーリ!避けろ!」
戦闘不能はこの状況において最悪。ユーリ自身に対処させる他なかった。バキンッ!という音が響き障壁が砕けると、無数の氷がぶつかり砕けていく。冷気も相まって、白い靄がかかりユーリの安否が分からない。
「ユーリ!」
『ライトニング』
ユーリの安否を確かめようと動き出すと、閃光がバードンの頬を掠めた。
「おっさんの相手は俺だ!」
火の玉を放ち仲間達に重傷を負わせた青年が、憎々しげに睨む。
「ユキトを返せ!『クリエイトソード』」
ビー玉程の球体が青年の胸のあたりに降ってくると、空中で跳ね銀色の剣へと変化した。柄を握り締め受付に迫る。バードンはユーリの方へ視線を送りたいが、一瞬の隙が命運を分ける事を知っている。
『武器棒』
武器が収納された和傘のような物体が空中から降ってくるが、青年は気にせず受付へと手を掛けた。片手で勢いよく受付を乗り越え、バードンに蹴りを見舞うが、容易く躱され鋭い蹴りを腹へ返される。
「ゲフッ」
バードンは傘を握ると受付の中を転がる青年へ投擲した。ビュンッ!と風を切る音が響く。
転がり終えた青年は肘を付き顔を上げる。すると目前には尖端が迫っていた。
「危ねえな!」
火の玉を防ぐために張った障壁がその攻撃を防ぎ、助かったと安堵した青年は次の攻撃に移ろうと、刺さったままの傘に手を掛けた。すると、握力よりも強い力が押し返しバサリと傘が開く。
『動作補助』
そう聞こえると、ガンッと鈍い音が障壁にぶつかりギリギリと拮抗する。
バードンは傘の柄を両手で握り全体重を載せ、魔法の補助により更に力をかける。彼の障壁は体を覆うタイプ。攻撃は防げても力を受け流すことはできない。こうして僅かでも隙を作ることで、武器を取る時間ができた。
傘の内側には弓やボウガン、ククリナイフや錆びた剣、魔法陣が描かている丸められた陣紙が張り付いており、その中からスライムの卵を掴むと、天井に放り投げた。
『ギロチン』
柄を掴んだまま今度は後方へ下がる。抑えと視界を遮る物が無くなり青年は再び顔を上げようかと思う間もなく、目の前に迫るものに恐怖した。地面へ2脚の太い脚が接地し、ギラリと光る刃が青年の首の上に構えたのだ。
シャーと滑り落ちる音が命の終わりを予期させ、青年は思わず目を瞑る。
「ユーリ!生きてるか!」
ガチン!刃は首の皮膚に食い込み薄っすらと血が流れた。半殺しにするとは言ったが殺す気は無い。というか、この人数の転移者を相手に勝てるとは端から思ってはいない。
死の危機を感じれば怖気づき引くだろうと、経験から考えたバードンだったが、アテは外れた。
後方にいるユーリへ声を掛けたが返事が来ない。不安で押し潰されそうになりながらも、戦意を失った青年は捨て置き後ろを振り返ろうとしたその時。
「動かないで!」
いつの間にか受付に入り込み、バードンの背後、従業員控室付近で、ユーリの喉元に刃を当てる制服の女。
ユーリの声ではない。知らない声。バードンはゆっくりと振り向き、親ならば絶望するであろう状況を目の当たりにした。
両腕は血まみれでだらんと垂れ下がり、この頃よく履いていた短パンから見える片足はあらぬ方向を向いている。顔がキレイなのは両腕で頭を庇ったからだろう。胸から腹を守る鎧はポツポツとクレーターができ、貫通しなかっただけマシだが、衝撃は免れない。辛そうな顔をするユーリの背後に立つ女は、引き攣った笑みでバードンを挑発する。
「あなたがやった事の報いよ」
「そもそもお前たちが襲ってきたんだろう」
「それはあのバカが勝手にやったことよ。一緒にしないで」
「娘は関係無い。離してくれ」
「ここにショウタって勇者候補が来たでしょ?」
「ショウタ?知らん」
「いいえ知ってるはずよ。あなたが殺したとヘヌート公爵様が言っていたもの」
バードンはこの時点で理解した。何かしらの目的でマルブリーツェ卿が転移者達を差し向けたのだ。おおよそ、ダンジョン確保の為だろうが、つくづくやり方が汚い。
「いや、殺していない」
「来たことは認めるのね。まず1つ。嘘の罰よ」
肩までかかるユーリの黒髪を無造作に掴むと、その束にナイフを通した。指に絡まる髪の毛を床に投げ捨て、涙を浮かべ震える子供に再びナイフを突きつけた。
「信じられないだろうが、本当に殺していない。あれはマルブリーツェ卿がやったんだ」
「私達は勇者になるためにここに呼ばれたのよ?そんな簡単に殺すはずはない。それに、公爵様が息抜きに旅でもしてこいと送り出したのよ?お粗末な言い逃れはやめて」
「信じる気が無いんだろ。それなら娘は離して俺にナイフを向けてくれ」
「それじゃあ罰にならないでしょ。ショウタは、彼は小さい頃から私の側にいた。辛いときに必ず助けてくれた私のヒーローよ。こんな所で、訳の分からない相手に殺されていいはずないわ」
「その子はまだ12だ。頼むから止めてくれ」
「ショウタは16だったわ」
ナイフを強く握り、細い首筋に突き立てようと振り被った。
「ユーリ!」
刃は吸い込まれるように消えていった。




