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71.くすんだ金の女性像

遅れました。

修整しますが恐らく明日。


7/15修整しました。

修正前より分かりやすくしたつもりです。


7/16修正しました。

シリンダー→ブランジャー

「浮遊魔力に変換されるから人が持つ魔力同士が喧嘩しないってことか?」


「仰る通りです。では試しに何か魔法を使ってみてください」


「うん。えーと『水玉』」


 手の上に現れるはずの水球は現れず、不思議な顔をするバードン。


 本来なら、自分の持つ固有の魔力が周囲に漂う浮遊魔力へイメージを伝える事で、魔法が発現する。バードンは今それをやっているのだが、どうも魔法が現れない。いつもの感覚があるのに魔法が使えないのだ。


 ウネツは像に触れる。すると、立ち昇っていた靄は消え、それに伴いヴェールも消えてゆく。


「今、変換が終わりました。魔法を使ってみてください」


『水玉』


 今度は手のひらから水が現れ、ゆっくりと綺麗な球体を作った。


「おお。まあ面白い道具だな。でも、使い道はこれだけ?」


「いえ、もう一つ機能があります。この像はバードンさんの魔力を記憶しました」


「記憶?そうするとどうなる?」


「お見せします」というと、像を掴み天を見上げる女性の顔を机に向けた。支える事が出来ず倒れそうなその像は、頭を支点に台座を上に向け絶妙なバランスで独立した。

 様子を見ていたバードンはまさかこれだけじゃないだろうと、先ほどよりも像を注視する。


 すると台座は反り返り、液体の様に重力に導かれる。ドロドロと足、足首、ふくらはぎまで流れ、太ももまで溶けてきたかというところで、さっきまで台座があった部分には目線を下に向ける女性の顔が現れる。くすんだ金の波が机に近づくほどに首や肩、胸部が形成されていき完成したのは、皿の様にした両手を見つめる女性の像だった。


 すごいすごいと静かに手を叩くバードンを他所に、ウネツは魔力を流し始めた。すると、先ほど現れたヴェールがぬるりとなびきだした。


「さっきも見たやつだ」


 ヴェールはひらひらとはためくだけで変わった様子はない。触れるとどうなるのかなと、単純な疑問が湧き手を近づけたバードン。


「バードンさん、爆発するわよ」


 その言葉にピタリと手を止めたバードン。ケリーはジト目でウネツを見やると、それを受け止めた彼は申し訳無さそうに頷いた。


「俺はこのヴェールに触れて爆発したんです」


「そ、そうか。あー、そうだったか」


 バードンはウネツ君に怒ったあの時を思い出していた。注意した自分が同じ轍を踏もうとするとは。バードンは小っ恥ずかしい空気を変えようとゴホンと咳をすると腕を後ろに回した。


「あの件があって、魔法について勉強し直しました。浮遊魔力が魔法を発現させ、我々が持つ動的魔力はイメージや思考の仲介役である」


「おお!それはベルムストン・ハウラー先生の説だな!」


「はい。つまり浮遊魔力自体は俺たちが持つ動的魔力との繋がりを持たなければ、魔法を生み出すことができない。そして、先ほどの様に魔力を変換すると動的魔力が変質する為に仲介を担えない。そして今から実証するのは、このヴェールが他人の動的魔力を生産した結果だという事です」


「生産?」


「このヴェールは先ほどバードンさんが流してくれた魔力を記憶し、俺の動的魔力を変換してできた滞留している魔力です」


 バードンは腕を前で組みなおし難しい顔で頷く。


「後でまとめて質問するから続けてくれ」


 ウネツは頷くと、魔石の入った袋から銀の円筒を取り出した。見た目はただの細長い棒。それを何の感触もしないヴェールへと突き刺した。そしてヴェールとは反対の円筒の先をつまみ、ギューッと手前に引き絞ると、元の状態の倍ほどに円筒が伸びた。


「バードンさん、袋の中に大きい魔石がありますから、その中に少しだけ魔力を注いでください」


 バードンは了承すると、袋の中で一番大きい魔石を取り出した。手の中にある冷たい石へ魔力を流し込むと空の魔石だと分かった。空の魔石に魔力を流し込む時、一番初め大きな反発がある。その感触を感じたのだ。少量の魔力を注ぐと、バードンは頷き机の上にコロンと魔石を転がした。


 ウネツはその魔石の上から銀の筒を近づけ、先端を魔石へ押し当てた。すると4枚のブレードが横に飛び出し垂直に折れ、石をロックする。


「こうして魔力を注ぎます。先輩が作った放出魔力吸引圧縮注入器のコンパクト版です」


 試作品の放出魔力吸引圧縮注入器を改良し、正規版を完成させたケリーは、持ち運べない欠点を補う為コンパクト版の試作品を作っていたのだ。そのコンパクト版のブランジャーをゆっくり押し込むウネツ。


「もし、俺の魔力が入った魔石に、このひらひらの物を足しているなら確かにすごい。ウネツ君の魔力を変換しているって証明になるからな。でもこれじゃあ、魔石に魔力が入ってるのかどうか分からなくないか?」


 最後まで押し込むと、円筒を魔石から離した。するとブレードはピンと一直線に戻り筒の中へと引っ込んだ。そのコンパクト版注入器を袋の中へしまい、魔石を手にバードンへ答えるウネツ。


「『光』この魔石は記録蓄魔石です。ご存知ですか?」


 魔石はボウッと仄かに光る。


「ああ、知ってる。魔法を1つ記録して合図すれば発現させてくれるやつだな」


「はい。バードンさんが先程入れた魔力を光にするとどのくらいもちますか?」


「まあ、2秒ぐらいか」


「では、2秒以上光るならこの魔石に入っている魔力は俺の魔力を変換したもの、ということになります。ではいきます」


 ウネツは魔石をそっと撫でた。ボウッと魔石は発光し明かりは強さを増す。1、2と数えるがその光は衰えない。ぼんやりした間接照明程の光は10秒ほどで暗くなった。


「ほお。他人の魔力を模倣したという事だな?」


「そうです。模倣というと偽物のように感じますが本物です」


「じゃあ、質問していいか?」


「質問は先輩にお願いします。魔力や魔法に関する知識に自信がないので」


「ん、そうか。ケリーじゃなかった。スカーレット、さっき像をひっくり返したのは機能の切り替えだと思うんだけど、1番最初の状態は人が持つ固有の魔力である動的魔力を浮遊魔力に変換するだけ?」


「ええそうよ。そしてその時変換した内の直近の魔力が記憶されるわ」


「そうか。始めに浮遊魔力に変換された俺の魔力を魔石に注いだだろ?あの魔石は使用できるのか?というのも、魔石に浮遊魔力を注いだ事が無い、というかできないと思ってたんだ。だから、使えるのかなって」


「使えないわ。現在使われている魔石を動力にした道具や工具は、蓄魔されているものが動的魔力という前提でできてるの。だから、浮遊魔力を魔石に入れても使い道は無いわ」


「やっぱりそうだよなー。じゃあ最後の質問。このひらひらに触ると爆発するって言ったろ?どういう原理でそうなる?」


「ああそれはね、魔力の制御ができないという意味よ。ここにあるのはバードンさんの魔力なんだから制御は簡単だと思うでしょ?でもそれは体内にあるからなのよ。体中を使ってその動きや量を感じているから出来るのだけど、ここにあるのはその埒外の魔力で、しかも、バードンさんのイメージをとても伝えてくれる魔力」


「で、爆発!?」


「え、いや違うわよ。埒外の魔力を目算に入れずイメージを伝達すれば魔力がコントロールできず()()するの。例えば、水玉を使えば見積もり以上の魔力に命令を下すわけだから、ここが洪水になったり、火を使えば火柱が立ち上ったり、火花を散らそうと思えば」


「爆発か」


「そゆこと」


「じゃあ、訓練すればコイツも制御できるのか?」


「できると思うわ。ただ、このヴェールがどの程度の魔力を孕んでいるのか分からない上に、常に拡散し続けているから、魔力量を正確に測れない。だからかなり難しいはずよ」


 バードンは、そのヴェールを眺めながら、新たな疑問が脳裏に浮かぶ。これを持ってきたのは鉱物商人で、彼はこう言っていた。「あたりの魔力に干渉できる」と。本店の指示で道具工具制作庁の人間を名乗る者から渡されたとも。


 目的は何なのか、思案するバードンであった。

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