ほのぼの郷の日常
いつも乙。
朝9時。
朝勤組は控室からそれぞれの持ち場へと向かう。本日の当番はアーリマが受付、ミリスとアゼルが見回り、ユーリが待機である。
受付当番のアーリマは玄関を出て、石畳の清掃から始める。
エル字の石畳の奥には巨大な格子状の門扉があり、常に開かれ、いつ見ても光沢があり美しい造形をしている。その数十メートル先にはごみ溜めがあり、その周辺で浮浪者が思い思いの寝床を作っている。
いつもの風景から石畳に視線を落とすと、木の葉がかぶり、少しだけ土がついている。ここは森の中だから当然起こりえることで、これを毎日清掃するのが受付の仕事である。
『風』
まずは小さな風の渦をいくつか作り邪魔なものを取り除く。それらは上空に飛散し石畳より離れた木陰に落ちていくが、自然にあるものを返しただけなので問題ないだろうとアーリマは考えている。
『無水洗浄』
お次はバードンが作った魔法で石畳の汚れを落とす。何人もが行き交う石畳の上をこの魔法で洗えば、汚れを大幅に消せるのだが、元々綺麗な石が使われている訳では無いので、見た目に大きな変化は無い。
「ハイ次!」
玄関には吸水効果の高いネルガスの羽毛を使ったマットが敷いており、艶やかな濡れ羽色が床一面の純白と対照的で美しい。
このマットを魔法で浮かせ無水洗浄で洗う事で、元の深い黒が蘇る。
入り口付近が終わると、今度は左右にある休憩所を掃除していく。玄関から見て右にあるソファーとカウンターには無水洗浄をぶちかまし、暗殺者特有の身のこなしと魔法で素早くほこりや食べカス等を落としていく。入り口から左の観葉植物に雑な水魔法で元気を与え、2人用のテーブル群にはさっきやった事を繰り返す。こうしてあらかた掃除が終われば、目にもとまらぬ速さで、受付横の清掃用具置き場へ向かいほうきとちりとりとモップを取り出す。
まずは先ほど落とした、ほこりなどを掃いていく。魔法で自立したほうきは一方向へごみを溜めていき、椅子やソファーの周りは丁寧に掃いていく。あらかた掃き終われば、ちりとりでごみを掬いゴミ箱へポイッ。今度は、観葉植物周りの飛び散った水をふき取り、広いホール全体も吹きあげていく。先ほどの様に魔法で動かしているのだが、道具の近くで汚れを確認しなければいけないので、自身でモップやほうきをを持つのとあまり変わらない。
こうして、受付の最初の業務は終わり、あとはのんびり客が来るのを待つか、連絡用魔石の対応をするだけである。たまに来るクレームの対応をしたり、見回り組に指示を出したりすることもある。大体のクレームは「はい、申し訳ありません」「ご自身で対応をお願いしております」と言っておけば問題ないのだが、上手くいかない時は見回り組へ謝りに行くよう指示を出す訳である。
ミリス、アゼルは見回りに向かう。まずは外の巡回を行うのだが、何か緊急時の為に連絡用魔石の携帯が社内規則で義務付けられており、その魔石は宿から全員に支給されている。玄関を出て、大きな格子状の門扉を抜ける。
そこには森と居住地域を区分する為の細長い更地があり、その向こうにはごみ溜めや浮浪者がある。いつも通りだなとミリスとアゼルは踵を返し宿の方面へと戻る。
門扉の横にあるほのぼの郷の看板を、手に持っていた雑巾で丁寧に拭き上げ、石畳の上を歩く。2人は左右に鬱蒼と茂る木々を注視し、獣の痕跡が無いかを確認しながら、バードンが作った動物・魔物対策用の忌避剤を撒いていく。
人誘花を使った忌避剤は動物や魔物に対して高い効果を発揮し、昔は魔界であったこの森でも滅多に魔物が近づくことは無い。もちろん人間には無害である。
この見回りは、宿周辺で魔物や動物の死骸や人間の死体が無いかのチェックと、森という隠れやすい場所なので、ヤバそうなブツや人がいないかなどの見回りである。一時期は禁止薬物が捨てられていたり、保護指定魔物の無残な死骸が散乱していたりという事があって、この見回りが始まったのだ。
外の見回りが終わった2人は、宿へ戻り1階洗濯場へ向かう。忘れものや服は無いか、洗濯泥棒はいないかなどの見回りである。洗濯場は150メートル×5メートルと細長で巨大なので、2人でやるのが基本だ。
それが終われば、転移陣の動作チェックを行い不具合が無いかを確認。そして、各階の廊下を歩き軽く掃き掃除をしながら騒音やドアの汚れ、破損等が無いかを確認して、見回りは終了となる。
それ以後は、受付へのヘルプに入ったり、クレーム対応で客室まで行ったりと細々した仕事をする。そして、定期的に見回りと清掃を行い、昼の3時になると大浴場の見回り清掃に向かう。
大浴場は250メートル×5メートルの巨大細長大浴場でこれが一番面倒で大変な仕事である。
見回りは、男女入べき場所にいるかどうかや服泥棒はいないか、湯は汚れていないかのチェックを行う。清掃は50メートル×5メートルの脱衣所が主でロッカーを確認し空いている所を拭いたり、床の掃き掃除をしたりする。
こうして朝勤組は夜の9時まで仕事をしている。
ここで、待機しているユーリは何をしているのか疑問に思うだろう。
まず、待機とは忙しい時の雑用をする当番で、いつもユーリが担当している。何故なら、建前上は手伝いだからだ。ユーリには給料が支払われていないので当番を回すのは違うよなとバードンは考えている。その為、待機という暇で苦痛な当番をしているユーリ。
ほのぼの郷は忙しくなることがほとんどないので、待機とは暇を持て余せと言っているようなものなのだ。
なので、受付に立ったり、休憩所にいる話しかけやすそうな商人や冒険者に話しかけ可愛がられたり、風呂に入ってマルブリ―ツェの耳より情報を喧伝したりと、有効に暇を活用している。
それが続くうちにユーリは宿の看板娘となっていたのだが、本人にその自覚は無い。
そんな毎日のほのぼの郷の店主はといえば、執務室に引きこもり魔法研究に明け暮れていた。もちろん、応援要請があればいつでも分かるように、連絡用魔石を机の上に置いて。
まいど蟻。
明日、魔物と植物の説明的なやつ投稿します。既出のやつらだけです。




