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23.騎士とマフィアの歓談

 当時を思い返すと、やはり今の状況は相容れない感がある。

 騎士に追い立てられ、捕縛され隷属させられて、人生を一変させた記憶の登場人物である騎士が、こうも頼もしく見えるのだから。


 宿泊客が通報したのだろうからお呼びでない騎士がやってきたのは、仕方ないとしよう。そこまでは想定内だ。

 しかしまさか、この人がやってくるとは、()()()誤算である。


 州の騎士といえば、領主の手足のようなもの。


 下手をすれば、領主にこちらの動向を伝えることになりかねない。

 それは避けるべきなのだが、この人が相手ならもしかすると……そう考える理由は、以前の検査にある。


 支部長自ら部下を引き連れ、貴重な魔物であるルカプフォドフィまで連れて来たあの検査だ。

 あの時は大して気にも留めなかったが、今思えばあれが検査なら、世には犯罪者がのさばっているはずだ。

 部屋で死んだ異世界人の件についても、対した追求はなく、個人的な理由から質問したと言っていた。

 そして何よりも、彼は領主のことをこう呼んでいた。


 マルブリーツェ卿と。


 あまりにも他人行儀な呼び方だ。

 この州の騎士は、騎士団という組織内の武装した執行官を示し、マルブリ―ツェ州内に複数の支部が存在する。その支部の支部長ともなれば、かなりの地位にいる人間だ。

 つまり最高指揮官である領主との距離もかなり近いはず。

 家名を用いて「ヘヌート卿」と呼んだり、単に「閣下」と呼んだりしてもいいはずなのに……そう呼び慣れていないから、「マルブリ―ツェ卿」と口走ったのだと思う。


 口ぶりから察するにマルブリ―ツェ卿とは距離があり、尚且つ部屋で死亡した変態異世界人についてはさして問題にもしていない。彼が重視しているのは、失踪した娘の事だ。


 要するに、マルブリ―ツェ卿を気にせず取引が出来そうなので、好都合だと思うわけだ。



「兎に角、この、コイツか?を捕まえろとそういう訳だな」


 生々しい火傷痕を撫でながら、分厚く嗄れた答えが返ってきた。


「え、ええ。それと、詳しく事情を聞きたいのですが、お力添え頂けませんか?」


 その言葉に反応し顔を向けたダストン・オルキスのギロリと濁った右目が、明らかな答えを示している気がする。


「便宜を図れと言うことか?」


「いえ、なんと言いますか、私は被害者ですし。せめて詳しい動機とか経緯(いきさつ)ぐらいは知りたいので」


「私が尋問しお前に内容を伝える。これで解決だな」


「あーーーー、いやーーー、どうですかね。是非とも直接聞きたいのですが」


 やっぱそうなるよなーと思いながらも、直接聞くことに拘るのは、このまま収監されれば聞き出すチャンスを失ってしまうからだ。


「無理だな。素人に尋問させて捜査が有利になるとは思えない。そもそも、コイツは1人で暴れて返り討ちにあったのだろう?」


「ええ」


「ならば動機を聞いて終わりだ。捜査なんて大げさな事をする必要もない。よって、お前の出る幕は無い」


「……」


 やっべーどうしよう。

 収監されると簡単には面会は出来ないはずだし、赤の他人が尋問したところでクーさんが過去をペラペラ話すとは思えない。

 それに、この体だ。

 ジナキウは過去に実験体として囚われていた時期があったことを考えれば、スパワもヤバいだろう。

 古代魔法で死なない、魔人のような人間。格好の実験材料だ。


 このままいけば、収監されてしまうか実験体として死んでいく事になる。だから収監されるまでの短い間に、どうにか話す機会を設けないといけないのだ。


 だが妙案は出てこない。バードンは機転が効き頭が良い、小説の主人公の様な男ではないからだ。戦闘や魔法だけは例外だが。


 うーんうーんと唸っていると、ダストン・オルキスは、いかめしい顔をいっそうとげとげしくさせた。


「何が可笑しいのだ、ピエロ」


 龍すら射殺しそうな視線を追うと、そこに居たのはリンの後ろで佇む、山高帽の男だった。


「汚らしい面だこと」


 ピエロと呼ばれた山高帽の男は、嘲るように肩を震わせた。

 2回戦開始を告げるように、2人の視線が交錯する。


 法と治安を守る騎士。

 権益と面子を守るマフィア。

 一方は法の番人であり、一方は法を食い物にする者。


 バチバチと火花が散るのは当然の成り行きであった。


 どうにか交渉してクーさんとの面会を取り付けたかったが、その前にやることができた。

 火花を火事にしないための、消火作業だ。

 呼んだのは自分だ。確かに自分だが、流石に辟易する。

 こうも何度も問題を引き起こすマフィアに、ため息も出なかった。


 ため息代わりに、いくつかストックのある仲裁の決まり文句を切り出そうとすると、先に口を開いたのはリンだった。


「ダストン・オルキス。娘は元気か?」


 まさかまさか、名前を知っていることも驚きだったが、娘というワードが出たことも意外だった。意外というか、その情報網の広さに面食らった。

 一方のオルキスは表情を失い、目を細めた。


「お前は誰だ?」


「フッ。コイツは分かっても私は知らないのか。つくづく無能だな」


「……娘について何か知っているのか?」


「ゴミ貴族のキモチイ所をねぶって飯代を稼ぐクソ狗の娘の事か?知っていたらどうする」


「……教えてくれ」


 縋る様な目には同情を禁じえない。バードンは娘を持つ親として、やはり思うところがあった。ヒシヒシと10年前を感じ、この人には手を差し伸べなければならないと確信じみた気持ちになっていた。


「リン。教えてやってくれ」


「――そいつの肩持つってか?気色悪い真似すんなボケ!」


「皆さん!お話は後にして、この人を至急搬送してください」


 ジナキウは治癒魔法にて、出来得る限りの回復を試みていた。

 人間ならば身体の再建まで到達できたであろうが、彼が()なのか分からない以上、応急処置しか出来ていなかった。


 人間のようで人間でない彼を治す事は断念し、バードンが言っていた通り、延命に専念したのだ。


「……お前のパーティーは人外が多いなバードン」


 人外とは人間以外の人型の生物に対する差別用語のことである。


「うちははみ出し者しかいないので」


「フンッ。それで?コイツは助かるのか?」


「ええ助かりますよ。直ぐに病院へ連れていけばですが」


 ジナキウは差別的な発言ごときで怯むことなく、粛々と治癒を続けながら答えた。


「だそうだ。連れて行け」


 ドームに入った部下と思しき5人の騎士たちは、ジナキウからクーさんを受け取ると、もたつきながらも玄関を後にした。


 支部長の部下、という割にはかなり経験が浅いように感じたのは、たどたどしい歩き方のせいだ。どうもフルプレートアーマーに慣れていない様に見受けられる。それに、よく分からないドームに、何の確認もせず入った事や、敵前で上司を一人残す有様だ。


 支部長ともあろう者の側仕えが、まさか見習い騎士とは。

 この事実は、交渉に持ち込めるか不安が残るバードンの心証をより強める要因となった。


 この支部長さんは、権力を手にしたはぐれ物に違いない。

 政治の下手な、無骨な男。たぶん見習いの騎士を押し付けられたとか、そんなところだろう。

 プライドの高い騎士が、それでもあっけらかんとしているのは、権力に固執していないのか、体面を気にしていないのか。

 もしくはそれ以上に、気に掛ける懸案があるから。


 つまるところ、領主に媚びる暇か理由がないのだろう。


 それは好都合。

 寧ろ、やりやすい。


「あのーそれで」


「構わんぞ」


「え?」


「便宜を図れだろう?」


 交渉に入るまでもなく、便宜という言葉が出たことに驚いたバードンだったが、内心を悟られない様に、平気な顔を貫く。


「便宜、まあ、そうですね」


「お前がマルブリーツェの公爵と一悶着あったことは知っている」


「……それは、どこで知ったんですか?」


「上にいれば、耳を塞ごうと聞こえてくる。ここにマイリーがいると聞いていろいろ合点がいったのだが、ハズレだった時は存外応えた」


 火傷痕が引き攣り、悪巧みしているかのような笑みだが、どうやら自嘲しているようだ。


「それはどういう意味ですか?」


「……私もマルブリーツェ卿に対しては思うところがある、ということだ」


 州の騎士が領主に対しての不信を流布するなど聞いたことがない。一般人ですら不敬罪で禁固刑がありえるのに、大丈夫なのだろうか。と思う一方で、やはりと心の中でニヤけてしまう。


「マフィアとも交友があるとはな。上にいく者は清濁併せ呑むのが必定か」


「え、いやあいつらは」


「いい。仔細は話すな。私は騎士だぞ」


「は、はい」


「私の望みは娘を取り返すことだけだ。僅かな情報でもいい。バードン、頼むぞ」


「それは、対価ということですか」


「ああ」


 あまりにも控えめな対価だ。何故?バードンは率直にそう思った。


「簡単に見つかるなら私が見つけている」


 その疑問を察してかオルキスはそう言うと、リンの元へと歩きだす。

 値踏みするようにお互いが視線をぶつけ合う中、バードンは考えていた。マルブリーツェ卿が嫌いだって何で言ったんだろう?マルブリーツェ卿がオルキスの娘が失踪したことに関連しているのだろうか。


「それで、答えを聞いていないが?お前は誰だ」


「誰だと思う?教えて欲しいなら不敬罪で自分を逮捕してみろ」


 挑戦的なリンの態度に一切怯まないオルキス。当然といえば当然だろう。150センチのリンよりも35センチほど高い身長で、厳しい顔。それに騎士だ。怯む要素が無い。


「ピエロこと、フォバット・クロス。五大マフィアを束ねる、月覇会の幹部は有名だ。その横にいるのだから、当然マフィア関係者なのだろう?」


「ハハハ。だってよ。有名人だなお前」


 ニヤニヤとした顔はそのままに恭しくするので、バカにしているようにしか見えない。というか、馬鹿にしているのだろう。


「お前呼ばわりか……。私が来たとき、ピエロが指示を仰いだ先はお前だったな。つまりお前は……会長の愛人か?」


「ゲスが。女は股を開くしか能が無いとでも思ってんのか?ああ?」


「では何者だ」


 リンは暫し目の前の男を観察する。支部長の割には古いアーマー。顔の傷も治せるほど金を貰っているはず。

 敵であるマフィアの前で平然と領主への不信を表明するイカれ具合。


 リンはバードンと共に生き伸びた時代を重ねていた。何もかもを犠牲にして手に入れようとした、生き生きとした幼き頃。

 バードンが好きそうなやつだ。お節介を焼くには困らない優良物件。それは危険な毒を孕むということでもある。特に、上に行けば行くほど致命的になり得る毒を。


 放っておけば、あのバカがどこまでやるのか知れたもんじゃない。


 不承不承だが、話ぐらいは聞いてやろうと考えるに至った。


「愛人だ。これ以上聞くな。で?私とお喋りでもしたいのか?」


「娘だ。何か知っているのなら教えてくれ。この通りだ」


 平民、しかもマフィアの愛人とされる者に頭を下げる人間がこの世界に何人いるだろうか。


「何をくれるんだ?支部長さん」


 リンには血も涙もある。熱く滾る血と澄んだ川のような涙がある。しかしそれは、真に心を許す者にだけ見せるものである。それ以外に流す血も涙も持ち合わせていないのがリンなのだ。


「全てやる」


 ダストン・オルキスは淀みなく言い放った。


※※※


 騎士団とマフィア達が帰り、広いエントランスには戦いの痕跡が残る。


「終わりましたね」


「あーあ久々に動いたぜ。ったく、体が鈍ってらあ」


「ボス、下にいる皆に知らせに行きましょう」


「おいハゲ、帰ってもいいか?」


 ジナキウ、ワパック、アーリマにリン。

 あんな戦いの後でも、どこかほのぼのとした仲間達。バードンはその中にいて、どっと疲れを感じた。


「皆まだ帰らないでくれ。今後の事で話したいこともあるし、特にリン。お前は絶対残れ」


 ここぞという場面で、バードンの決定に逆らうのがリンである。毎度の事では無いし、悪意が有る訳でもない。

 だが、大事な決定を簡単に覆そうとする態度には腹が立つもので、昔から喧嘩をしていた。


 今回もそうなる予定である。


「暇じゃねんだ。急げよハゲ」


「はいはい。皆俺ん家に行っといてくれ。俺とアーリマは地下に行ってくる」


「よーし、ユーリちゃんと戯れるのは久々だなー!すぐ来いよ!」


 そう言ったワパックは、急いた様子で執務下の方へと向かうが、ボロボロの受付が足元を阻む。

 瓦礫となった受付を慎重に乗り越え、無惨に倒れた控え室前の扉を踏みしめ、その奥の荒れた室内へと消えていった。


「では、私も行きます。お家お邪魔しますね」


「おう、ワパックが荒らさないように見張っててくれ」


 ジナキウは、不機嫌そうに腕組みするリンを引き連れて、これまた慎重に瓦礫の上を歩いていった。尻尾を隠す布が、瓦礫に取られないように。リンが足を取られて怪我をしないように。


「じゃあ行くか」


「うっす」


「あ、無いわ」


 地下へ転移する為の鍵となるチェーンが無い事に気づくバードン。ユーリに返してもらっていないなと思い、天井を見上げた。


「おーい、ダンジョン!」


 何時もなら無視を決め込むか、イヤイヤながらといった感じで答えてくれるのだが、今回はそうではなかった。


 床からニョキニョキと生えてくる扉。ドアノブには満面の笑みを浮かべる火の妖精が鋳造されており、扉には花冠を載せるユーリが彫られていた。


「何だこれ」


 今までに見たことがない造形の扉に疑問を覚えたが「アイツもユーリ好きなのか」程度の認識で、扉を開いた。


 すると、視界一杯に広がるのは無機質なダンジョンの地下ではなかった。草原が青々と茂り、そよぐ風に靡く色とりどりの花たちまである。

 そして、至るところに魔物がいた。ユーリと遊んでいたり、寝そべっていたり、全力で駆け回っていたりとテーマパークのような有様で、荒んだ心にじんわりとした温かみを感じたのも束の間。

 こいつらは魔物だと、緩んだ気を引き締めた。


「おつかれー。バードン君も遊んでいきなよー」


 不意にダンジョンの声が背後から迫ってきた。幼い容姿で、背中から翅の生えた魔物。妖精族を模したであろう姿は、見る者に愛嬌を振りまく。


「これってどうなってんすか」


「アーリマ君も遊ぼー。ほらほら」


 アーリマの手を引くダンジョン、自称ジョンだが、バードンが制止する。


「皆はどこだ?連れて帰る」


「皆遊んでるよー。ほら向こうにいるでしょー?」


 遠くの方で猫のような魔物を撫ぜるミリス。ウネツとスカーレットは植物や魔物を観察し何やら議論をしており、ユーリは大きな狼の背に乗って駆け回っていた。


 じわりと苦い味が口内に染みる。魔物と戯れる様子に、少しは危機感を持てよ!という感情と、お父さんめちゃくちゃ戦ってたんだけどちゃんと心配してくれてた?という感情がないまぜだった。


「おーい!終わったぞー。上に戻ろう!」


 呼び掛けで気づいたユーリは、狼の背に乗ったままこちらへと駆けてくる。

 175センチのバードンよりやや高い体高の狼の迫力に、アーリマは少しだけ警戒していたが、背中に乗るユーリの笑顔を見てほっと安堵していた。


「お父さん!」


 ユーリは狼から飛び降り、駆け寄ってきた。相手は魔物だし、ガキっぽい思考のダンジョンだ。怪我はしていないか隅々まで体を確認した。


 どうやら怪我はしていないみたいだ。


「スパワさんはどうなったの?」 


「騎士が連れて行った」


「理由は?何か話してたの?」


「んー、まあそれは後でな。とりあえず帰ろう」


「分かった!ちょっと待ってて」


 そう言うと、名残惜しそうにする魔物達の中に飛び込んだ。

 思わずビクリと反応したが、魔物たちは存外落ち着いていた。律儀に座り込み、列をなしてユーリに撫でられるのを待ち構えている。


「バードン君」


 飛び切りの笑顔でユーリを眺めるジョンは、いつの間にか隣にいた。


「閉じ込め過ぎちゃったね」


 ジョンの身を包む火は大人しく仄かに燃えている。


 魔物如きに批判される謂われはない。

 ふつふつと、小さな炎が心を煮立たせた。


「人の家庭に首を突っ込むな」


「ハハハ。君を責めてるわけじゃないよ。ユーリちゃんには申し訳ない事をしているなと思ってさ」


「ここに留まると決めたのは俺だ。お前は関係ないだろ」


「いつまでその態度でいるつもりなの?僕たちが君たち親子に何かしたかい?君たちのパーティーに何かしたかい?あ、君達と戦ったのは、ダンジョンを奪いに来たからだよ?せ、いとう、ぼーえいだよ!」


「お前たちは魔物だ。ユーリが勘違いしないように線引きはしなきゃならない」


「ふーん。じゃあバードン君が僕達と仲良くしないのはユーリちゃんの為って事?」


「話す気はない」


「そっか。まあ君の考えは分かったよ。でもね、ユーリちゃんの邪魔はしないで。ボク怒るからね」


「はあ?なんだ邪魔って」


 首を突っ込むなと言ったそばから、体ごと突っ込む図々しさに、言わずもがな苛立ちを覚える。娘の邪魔など、するはずもないだろう。たいして答えを期待していたわけでは無いが、剣呑な態度で意味を問うた。


 すると大きな狼に乗ったユーリが割り込んできた。

 随分と懐く狼に、満面の笑みを浮かべるユーリ。

 その後方には二回りほど小さい狼に乗った従業員たちがいた。


「お父さん、帰ろう」


 膝を折る狼から降り立つと、すぐさま俺の手を引いた。

 ジョンと俺が話すのを嫌っているようだ。


「ユーリちゃん!じゃあ、明日ねー。ボク達待ってるからねー-」


「う、うん」


 何かしらの約束を匂わせる発言に、ユーリは気まずそうに返答した。

 俺の顔を見ないのは、まあ、そういうことだろう。


 あれだけ魔物から遠ざけようとしたのに、結局こうなってしまった。

 好奇心旺盛な子だ。いつかこうなるだろうことは、予想できた。いや、危機感を持っていたから、遠ざけていた。そうすれば予想が現実にならないだろうと踏んで。


 魔物と関わって良いことなんてないんだ。


「おいダンジョン。説明は無しか?」


 意識を取り戻した時、やけに上機嫌のジョンが従業員を守ると言ったのは、善意なんかじゃない。


 ユーリが顔を伏せるのは、俺が嫌うことをしたからだ。


 狡猾な魔物と、契約でもしたのだろう。


 契約の知識を得たのはいつか。過去を話したときだろうか。


 気を失って、責任を全てを押し付けてしまったのだから、ユーリを問いただす事は出来ず、火の妖精へと怒気を放つしかなかった。八つ当たりも含むが親として無茶な契約ならばなんとかせねばという気概もあった。


「ハハハ。怖くないもんねー。どうせ殴れないでしょー。ベーー--だ」


「確かに殴れないが、お前の嫌がる事は出来るぞ。試すか?」


「うわー--性格悪いねバードン君。でも、説明はユーリちゃんにしてもらいなよ。ボクはお友達を裏切らないもんね」


「……は?友達?」


「どうせボクを信用してないんでしょー?でもねーー、ボクも頑張ってるんだよ?バードン君に信用してもらおうと思ってさー。今日なんか部屋から出ようとする人間を閉じ込めて守ってあげたんだから」


「……」


「お友達が頑張ってるのを見ると、ボクもがんばろーってねー-。ねー--ユーリちゃん!」


「う、うん」


「ユーリ。後で聞かせてくれ。意味が分からん」


「う、うん」


 こんなに歯がゆいのはいつ以来だ。確かにこのダンジョンの魔物たちは優しくて愉快かもしれない。だが、それは普通じゃない。


 俺たちが生業としていた冒険者というのは専らハンターのことだ。魔物を狩る者だ。今までに数多く屠ってきた生物こそ、目の前にいる魔物たちなのだ。そしてエイミを殺し、魔人を産ませたのも魔物なのだ。


 人生において刻まれた魔物という存在は忌むべき、憎むべきものであって、その定義を変えるのは難しい。というか一生無理だろう。


 波乱を乗り越えたというのに、気持ちは晴れない。

 ユーリの気まずそうな表情に、余計不甲斐なくなった。

 ジョンが気前よく出した扉を前に、俺とユーリだけは、ギクシャクした足取りだった。

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