降雪の夜
息を吐けば白く変わり、風が吹けば体が震える。
体から放つ白くなる前の息を手にフーっとかけながら、俺は一人の女性を待つ。
誰一人としていない夜の公園。中央にそびえ立つ時計台偽をもたれながら。
ただ目の前に見えるのは、雪の布団をかけられたようなすべり台と、深々と降り続く雪。
けれどももう、帰るつもりだ。ましてやここは外。こんな寒い中、厚いジャンバーと手を突っ込んでいるポケットでは長くいることなどできない。
それに、どうせ女性は来ない。それは俺がとりあえずの男だから。
『とりあえず』付き合っとけば良い。そんな存在。
ある日女性が、友人らしき人と話しているのを見た。その時彼女は薄ら笑いを浮かべながら、友人らしき人とこう話していた。
「とりあえずあの人と付き合っとけばいいのよ。
だってそうでしょ?人間は愛する人に恋人がいるほど、もっと愛する人が欲しくなるんだから」
その言葉からわかったことは、俺という存在は彼女の餌に過ぎない。
どうせ今日は来ない。デートの約束なんてするんじゃなかった。
ただ、彼女の愛を知りたかっただけだった。
時計台に背をもたれるのをやめ、俺は歩きはじめる。
ただ静かに、ザクザクと雪を踏む音が聞こえるだけ。
降雪の夜。今は21時を回ったところ。