第9話 再会。金の瞳に射すくめられるように。
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入学願書を出すために、騎士団を訪れた。
今回は、中に入ることなく入り口で願書を提出すれば終了だ。
――――それにしても、この場所は変わりがない。
仲間と過ごした日々を思い出して、心が切り刻まれるような気がした。
ずっと、アリアローゼの居場所は、ここしかなかった。
アリアローゼが生まれた日から、救国の乙女としてしか見てもらえなかった日々。
でも、この場所にいてくれた騎士団長を務める祖父と、仲間たちだけはそのままのアリアローゼを見てくれた。
だからきっと、アリアローゼは救国の乙女として求められるまま、戦い続けることができたのだろう。
そんな感慨にふけっていたせいで、私は近づいてくる人の気配に気づくのが遅れた。
いや、近づいてきた人間が気配を押さえていたからかもしれない。
振り返れば、先ほどの記憶の中に存在した金色の瞳が私を射るように見つめていた。
――――どうしてこの場所に。
その金色の瞳は、確かに記憶の中にあるけれど、彼と同一人物のはずもない。
だって、あの戦いで私の部隊はカイルを除き全滅してしまったのだから。
でも、その若い騎士はたしかにウィードの面影と、同じ色彩を纏っている。
アリアローゼが隊長を務めていた部隊の副隊長ウィードとそっくりの騎士が、私の目の前に立っていた。
「――――救国の乙女」
私と同い年くらいの騎士が小さくつぶやいた声は、たぶん私にしか聞こえなかっただろう。
救国の乙女としての色彩は、今はどこにでもある平凡な茶色で隠されているはずなのに。
もしも、魔法薬の効果を見破って、もともとの色彩に気がつくとしたら、それは騎士として最上位の実力を持つ証でもある。
「あの……?」
まだ、完全に気がつかれているとは限らない。
もう少し、状況を確認しなくては。
私は、何もわからないふりをして会話を続けることにした。
「っ……。失礼いたしました。かつての知り合いに顔立ちがよく似ていらしたので……」
「――――そうですか」
かつての知り合いって、たしかに救国の乙女っていいましたよね?
たしかに、色彩を替えたとしてもこの顔は、救国の乙女本人を知っている人間からすれば同じものに違いない。
私の心まで射すくめてしまうみたいな、その金の瞳。
まるで、あの日のウィードが目の前に現れたみたいだった。
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あの日、恐らく誰か高位貴族の策略により私たちの部隊は孤立し、苦戦を強いられていた。
たぶん、時間の問題だっただろう。
そして、カイルを庇った私は深手を負い、部隊は崩壊の危機に瀕していた。
「――――お願い、ウィード。残りは私たちだけだわ。カイルと逃げて」
あの日も、金色の瞳が私を射抜くように見つめた。
「――――もし、俺が貴女より強くなることが叶ったなら」
「ウィード?」
「こんな戦いばかりの場所から、貴女を連れ出してしまいたいと思っていました」
それでも、救国の乙女として生まれ持った力を越えることは、仲間たちの誰一人としてできなかった。もちろん、持って生まれた力だけでなく、私も誰よりも努力をしたけれど。
「せめて……最後まで、そばにいることだけは許してください」
そういえば、最後が訪れる直前に、私の手の甲にウィードはキスを落としたのだった。
それは、忘れてしまいたい出来事の中、なぜか切り取られた絵画のように美しく、私の心に残る場面だった。
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