第7話 意味も分かっていないのにそういうこと言うのやめて。
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気がつくと、白い部屋にいた。
「やればできるじゃない。むしろ、今までの99回の僕の苦悩は何だったの」
神様が、拗ねたように。それでいて、少しだけ興奮したように私に言った。
私はカイル様が戦に行ってしまった今、少しでも早く強くならなければいけないので、忙しいんですけれど?
「何のことですか?」
小首を傾げた私を見て、その動きを止めた神様は、何か思い当たることがあったらしい。
「あーっ。それに関する記憶を消しちゃったんだっけ。でも、あんまり介入しすぎると周りに怒られちゃうからなぁ。……つまり、良くやったとだけ言っておくよ」
「よくわかりません」
「……カイルのこと好き?」
「好きですよ。育てていただいた恩もありますし、可愛い部下でもありますし」
もう一度、その動きを凍り付かせた神様は、「え……これは」と言いながら、その色素がほとんどないけれど、淡い水色でほんの少しだけ色がある虹彩で、私を凝視する。
「――――カイルのこと、どう思っている?」
「大事な家族です」
「うわぁ……。初恋の人とか、恋人すっ飛ばして家族になってしまったパターンだ! え? これ、難易度が高すぎないか?!」
難易度とは何のことだろう。初恋とか……強くなるのに関係あるのだろうか?
「――――そういえば、騎士団に入るんだよね?」
「入団試験を受けるつもりです」
「そう。入団試験当日に、素敵な出会いがあると思うよ? カイルが無理なら、そちらの線もまだあるんだから」
「――――カイル様で無理なことは、他の人でも無理だと思いますよ?」
だって、あの可愛らしくて誰よりも弱かったなんて信じられないくらい、強く素敵になったカイル様は、何をしても完璧なのだから。カイル様に無理なことをほかの人が出来るなんて想像できない。
「意味も分かってないくせに、そういうこと言うのやめて!」
その声を最後に、今日も白い部屋から追い出されてしまったらしい。
いつも、人のことを勝手に閉じ込めて、勝手に追い出す。
まったく、神様とは自由なお仕事だ。
ベッドの上で目が覚める。
いつもなら、この後は就業前にカイル様と早稽古をしている。
でも、カイル様はいつ帰るかわからない戦いに身を投じてしまった。
「――――カイル様、ご無事で」
あの神様が、願い事なんて叶えてくれると思わないけれど、思わずカイル様の無事を祈ってしまう。
「……走ろう」
今まで、カイル様が任務に出かけても、こんな風に感じることはなかったのに。
堂々と訓練することも、許されたのに。
私は、塩を入れ忘れてしまったスープみたいに味気ない一日の始まりを感じていた。
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