第2話 育ての親が、かつての部下とか。
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何不自由なく育てられてきた。
誰よりも強くて優しい育ての親であるカイル様は、いつも私のことを第一に考えてくれた。
たった一つだけ、剣を握ることだけは決して許してくれなかったけれど。
それでも私は、自己流で鍛えてきた。
どうしてなのか分からないけれど、剣を握っている時だけは自分が自分でいられるみたいに思えた。
そして、運命の十五歳の誕生日がやってくる。
私は、見覚えのある白い空間にいた。
その直前に、私はいつも鍵が掛けられていた部屋の奥でかつての愛剣を見つけて思わず掴んだところだった。
「……やあ、十五年ぶり」
「――――私にとっては、先ほどの出来事みたいですが」
「いいじゃない。僕は十五年待ったんだから。さて、恋は訪れたかな?」
「いいえ、全く」
恋とか愛とか、そんな甘ったるいものは私には一つも経験がない。
それにしても、育ての親だと思って懐いていた人が、かつての部下だったとかやるせない。
赤子だったって事は、おむつ交換までさせてしまったって事じゃないか。
「――――君より強い人間は、現れた?」
「カイルは、当時の私よりも強いと思います。でも、私だって今日から鍛錬を積むのですぐに抜いてみせますけど」
「君、本題を忘れていないかな?」
あきれたように白い神様が、私を上目遣いに見つめた。
そういえば、真実の愛を見つけないとバッドエンドだって言っていたっけ。
「僕はもう、百回目の挑戦なんだから。……今回失敗したら、本当に終わりにしちゃうからね」
「え……自信ありません。世界最強になるのでは、ダメですか?」
「うん。違う話になっちゃうからね? さ、行っておいで。ただし、真実の愛を見つけないとバッドエンドってところだけは忘れてね。そうじゃないと面白くないから」
次の瞬間、私は記憶を取り戻して、かつての愛剣を手につかんだまま鍵のかかっていた部屋にいた。
そして、目の前に育ての親、改め私よりも一回り以上年上になってしまった、かつての部下が怒ったような、今にも泣き出しそうな表情をして、なぜか私の前に立っていた。
「――――どうして、その剣を抜くことができたんだ」
「……カイル様」
「それに剣を持つことだけは、許さないっていつも言っているのに」
「――――カイル様? ……じゃあ、こうしましょう。一度だけ私と勝負してください。私が勝ったら、誕生日のお祝いにこの剣をください」
カイル様は、しばらく思案していた。
断られてしまったら、これからも隠れて鍛えなくてはいけない。
私は少しだけ緊張した。
「――――わかった。手加減はしない。俺が勝ったら二度と剣は握らないと誓ってもらう」
いつの間にか、低い耳の奥で響くような声になって、私と同じくらいだった背は、はるかに私よりも高くなっている。
そして、今や救国の英雄と呼ばれている、戦場では無敗の騎士。
かつての上司として、ただ無条件に褒めてあげたい。
――――もちろん、本格的に鍛えているわけではないこの体。全盛期にはまだ及ばない子どもの体格。この状態で、カイルに勝つなんて、難しいだろう。
カイルの弱点を知らなければ。
そして、私が勝てるなんて思っていないだろう、その油断を狙うのだ。
私は、剣先をカイルに向けた。
絶対に勝つ。そして、もう一度、私の方が強くなって見せる。
神様の『だから、そうじゃない!』という声が、どこからか聞こえてきた気がした。
たぶん気のせいに違いないだろうけれど。
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