第11話 入団試験。不正ではありません。
入団試験当日になっても、カイル様は帰って来なかった。
もどかしい気持ち一杯に、それでも一緒に戦いたいのならまずは入団試験に受かるしか方法がないのだと、私は試験会場に足を運んだ。
実技試験の会場は、ひどく騒めいていた。
それは、一人の人間が無理やり試験官長として参加してしまったせいだった。
「――――名誉騎士団長が試験官長として参加しているらしいね」
後ろから声をかけられて振り返ると、金色の色彩が目に飛び込んできた。
「レイン先輩……。そうですね」
「やはり、気になってしまったのかな?」
「――――それしか考えられないです」
実は、お祖父様は、前回の時も入団試験でごり押しで試験官になったのだった。
それでも、前回は騎士団長でしかなかったから、そこまでの騒ぎにならなかったけれど、現役を退いた名誉騎士団長ともなれば話はかなり違ってくる。
「もう……。別に問題は起こさないと思うのに」
「ああ、でも下手な試験官だと相手にならないだろう? 俺に当たるように、試験官長に調整してもらったから」
「レイン先輩、それって」
「不正ではないよ。公正に試験をするから、本気でかかってきて」
驚いたことに、私と同じ年のレインはすでにカイル様の直属部隊に所属していた。
たった三年で、最前線を任せられる王国の精鋭部隊に選抜されるなんて異例の人事だ。
前世の記憶を持ったままのレインの実力は確かに折り紙付きだろう。
その人事にもお祖父様とカイル様が絡んでいそうではあった。
「入団試験を圧倒的な結果で越えてもらわなければ困る」
「……それはいったい」
「ローゼは、アザウェル隊長の直属部隊に、入団したらすぐに所属することが内部で決まっているから」
それこそ、職権乱用というのではないだろうか。
でも、私の実力はもちろんすでに、基礎体力以外はすでに直属部隊配属が全く問題ないレベルにまで到達している。
入団試験でも、よほど実力を隠さない限り目立ってしまうことは避けられない。
前回は、救国の乙女として入団試験は免除されたが、今回はそうはいかないのだから。
「分かったわ……。レイン先輩、勝負となれば負けるわけにはいかない。覚悟しておくように」
「そうだな。ぜったいにローゼには、負けない。そのためにここまで戦い続けてきたから」
年上だったウィード副隊長とは違い、年は同じになってしまったのに、以前よりも自信に満ち溢れているレインを見つめる。
なぜだろう、胸がドキドキと音を立てる。
『こっちのルートでも、僕は構わない!』
なぜだろう、神様の言う言葉の意味が理解できないのは。
私は、愛剣を握りしめる。救国の乙女が使っていた剣は、どこにでもある普通の剣。
決して折れることの無い魔法がかかっている以外は。
「そう、私は決して折れたりない。誰よりも強くなって見せる」
――――そしてすべてを守るのだ。
『守りたかったら、強くなっちゃ……。うう、突っ込みを入れられない制約がツライ』
やっぱり、神様の言うことは分からない。
それでも、その声に少しだけ緊張を緩めて、レインと一旦別れた私は試験会場に足を踏み入れた。
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