第1話 たしかに、言いましたけど。
目が覚めると、白い空間にいた。
そこには、全身が白くて神々しい感じの人が立っていた。
「いい加減にハッピーエンドが見たいんだけど、どうなってるの。もう99回目だよ!」
「――――いきなりそんなことを言われましても」
「どうして、気がつかないの? すぐ隣に青い鳥はたくさんいたのに」
「……え? 鳥なんかいませんでしたよ?」
白い人は、私を嫌いな食べ物を目の前に出されてしまった子どものような視線で長々と見つめたあと、盛大な溜息をついた。
「はああああっ……。僕はハッピーエンドが見たいのに、君ときたら。もう少し、誰かと距離を縮めるとかできないの?」
「――――距離は詰めてきたつもりです。いつでも、先手必勝を心がけていましたから」
「……戦場の話じゃない。いや、もしかしたら、好みの男性がいなかった? 君ってどんな人が好きなの」
「え? ……私より強い人が好きですね」
その瞬間の、白い人の顔をたぶん私は忘れない。
「え、世界を救う救国の乙女より強い人間? なにそのムリゲー。いや、時間さえあれば、誰かはそこまで到達できる……か? スタートが一緒だと絶対に救国の乙女の方が仲間たちより強い仕様だし。え? ハッピーエンドのためにまさか、そんな隠し条件が」
「あの……」
――――戦場に自分の部隊を残してきてしまったので、そろそろ戻りたいのですが。
そろそろ、元の場所に帰してほしいと言いかけた時、まるで心の中を読んだみたいに、白い人が少しだけ気の毒そうな顔をした。
「君は、死んでしまったんだよ。バッドエンドだ」
「えぇ……。困ります」
「救国の乙女は真実の愛を見つけられないと、バッドエンドを迎えてしまうんだよ」
「何ですかそれ」
白い人は神様だと名乗った。神様なんていないと信じていたのに裏切られた気分だ。
そして、強さが正義だと思って生きてきたのに。ひどいじゃないか。
それに、白い以外はごく普通の人に見える。
「もう一度、やり直して? そして、今度こそハッピーエンドを僕に見せてよ」
「えっ、どういうことですか」
「そうだね、バッドエンド後の世界なら、君より強くなる人がいるんじゃないかな? 続編ってやつだ」
「――――私の部隊はどうなるんですか」
白い神様は、目を逸らした。
これは、やましいことがあるってことね。
「君がいなければ全滅だ。だって、これは救国の乙女のための物語なのだから」
「――――そんな」
「いや、一人だけ……。え? 現状、最弱じゃないのか。クリア条件満たせるのかな。そろそろ飽きてきちゃったんだよなぁ。もうリセットして、新しい世界を作ろうかなぁ」
この人は神様と言っても、邪神なのではないだろうか。
「――――さて、ここでの出来事を少しの間だけ覚えていられるようにしてあげる。そして、しばらくしたら忘れるけど、十五歳の誕生日に思い出す。今回だけ特別大サービスだから」
「えっ、あの」
「じゃ、頑張ってね!」
そして、私は強制的に白い部屋から追い出されてしまった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
――――熱いんですけど! さっきまでいた戦場に赤ちゃんになって戻るとか、ハードモードすぎるんですけど!
それでも、私は泣くしかできない。
このまま、バッドエンドというやつを迎えてしまうのではないだろうか。
きっと、白い神様が言う通り、仲間たちも死んでしまったに違いない。
――――このまま、私も終わりにしたいよ。
その時戦場の炎の中、まだ幼さの残る騎士が一人歩いてきた。
まるで、その表情は死に場所を探しているように見えた。
――――カイル、生きていた。
あんなに無邪気に笑っていたその瞳には、暗い影が差している。
私は、最後の瞬間に庇ったのがカイルだったことを思い出す。
――――生きて欲しい。
確かに私は、最後に彼にそう告げた。
「――――アリアローゼ様と同じストロベリーブロンドの髪とスミレ色の瞳……。救国の乙女の証」
幼さの残る騎士が、私のことを抱き上げる。
そんな目をしていないで生きて!
私は、あなたをそんな軟弱に鍛えた覚えない!
そう言いたいのに、「アウアウ」としか言葉が出ない。
雨にしては、温度が高い雫が次から次へと私の頬に落ちては流れていった。
そこから先、物心つくまでの記憶は私にはない。
あとになって思い出せるのは、ローゼと名付けられて、大切に育てられた、ただ幸せな子ども時代の記憶だけだった。
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