scene.09 ゲームには無かった話
「おー!凄いですお母様!ありがとうございます!!」
「いいのよ、グリフィア家にあったものを仕立て直しただけですからね」
完成した装備は一見するとしょぼい革のようにみえる素材で出来た鎧と、片手剣とバックラーだった。
一言で説明してしまうとなんとも味気ないが、
「これがその………グリフォンの革なんですか?」
「ええ……グリフィア家がその昔、グリフォンに愛された一族だと言うのはもちろん知っていますね?」
「それはもちろんです。故にグリフィアの家紋はグリフォンをかたどっているのですよね?」
「その通りよ。初代グリフィア家当主はグリフォンに跨り空を駆け、一度戦場に出れば一騎当千の力を振るったと言われている方ですからね。そんな初代当主様と共に王国を支えたグリフォンもやがては命を落としましたが、そのグリフォンは死して尚我らグリフィアを守っているのです」
「つまり……この鎧の素材は…?」
「ええ。グリフィアの宝物庫に保管されている初代様が愛されたグリフォン『プリドウェン』の素材から作られたものです。これから貴方が魔物と戦う時、必ずやプリドウェンがその身を守ってくださいます」
何百年も昔に死んだ生き物の素材か……いくらグリフォンの素材だからってこれはちょっと……
「プリドウェンですか……でも、なんといいますか」
「ふふふ、まだまだ柔らかいでしょう?」
試しに手足や胸当てなど、全身に装備してみたものの、グリフォンの革かなんなのかは知らないが非常に柔らかいだけのただの布にしか感じない。
「はい」
「心配しなくとも貴方が魔物と戦うようになれば自然と成長していきます。プリドウェンはとても不思議でね……使えば使うほど成長していくのですよ」
「成長?」
意味がわからん。どういうことだ?
そんなシステムはゲームになかったと思うが……
「今お父様が身につけている鎧も、始まりは今オーランドが着用しているものと大差がなかったのよ」
「そんな馬鹿な!?」
父上…ドレイク近衛騎士団長が装着している鎧は誰がどう見ても革製ではないし、何処からどう見てもこんな安っぽい見た目ではなく一流の鍛冶職人が生涯を掛けて作ったような世界に2つと無いカッチョいい鎧だったぞ?
「ふふふ、そうよね、驚くわよね。でも、だからこそグリフィア家は一目置かれているのよ。グリフォンの加護を受けし一族、この世の何よりも硬い鎧で王を守るラーガル王国の盾である、と。ラーガル王家は剣として国を切り開き、グリフィアが王の盾としその身を守る。貴方がこれから守るべきはシャーロット様とそのお子となるでしょう」
「大事に使わせていただきます!」
グリフィア家はこの鎧の力を持って建国以来王を守り抜いてきたのだろうか。
プリドウェンは着用者に合わせて成長し、着用者が強くなればなるほど鎧としての性能が跳ね上がり、使用者の死と共に役目を終えた鎧は元の革のような素材に戻る。
幻獣とは不思議な生き物だ。ゲームには登場しないモンスターだったし、そもそもモンスターをテイムする様な要素はゲームには無かったし、飼い馴らせるのだろうか?
今も何処かに生きているのだろうか……いるのなら会ってみたいものだな。
最高の鎧と同じく、剣とバックラーもまたミスリル合金で作られた…目玉が飛び出るような値段の特注品だった。
普通の冒険者が生涯掛けて揃えるような装備を金と家の力で準備できてしまうとは、前世でも金持ちはこんな感覚だったのだろうか……金持ちすげぇ………
◇ ◇ ◇
現状考え得る限りで最高の装備を整えて貰った俺は、早速王都にある冒険者ギルドへと足を運ぼうと考えていたのだが……
「え?またですか?」
「ええ、暇な時間があれば王城に来て欲しい、と」
王女殿下から呼び出しを食らっている事を母に告げられた。
「招喚の理由は何か言われていましたか?」
「王家とグリフィア家の今後について話したいとは仰っていましたが……でもそうね、シャーロット様もまだ10歳ですからね……遊び相手の1人や2人は欲しいのではないかしら」
遊び相手って……もう10歳になるような子供に遊び相手なんて要らないだろう。
確かに、王女付きの遊び相手は必要だが、そもそもそういうのは同性がなるもんじゃないのか?
「……わかりました、本日参りたく思います…申し訳ありませんが先触れをお願い致しますお母様」
装備も貰って魔術もバッチリ覚えたから早い所冒険者ギルドに行って登録したいんだけどなあ……
まあ仕方ない……呼ばれれば馳せ参じるといったのは俺だ。成人の儀までラーガル王国で生き残るに王家のご機嫌取りをしておくのは最優先事項だ、そこに文句を言うのはやめよう。
◇ ◇ ◇
「それでは行って参りますお母様」
先触れを送ってしばらくの後、着替えを済ませ馬車に乗り込む前に母に挨拶をする
「無礼が無いように気をつけることと、本当に護衛はつけなくてもいいのですか?」
「王女殿下のお相手は気をつけますが、護衛であればグレゴリーが居れば十分です。どうやら彼は強そうですからね。それに、ここから王城までの道は多くの騎士が巡回しておりますし、そう心配されることはございません」
グリフィア家の屋敷は王城と目と鼻の先の距離にあるのだから危険も何もあったものじゃないし、なんなら馬車で行くほどの距離でもない。馬車の準備をしてのんびり歩く馬よりも俺が走って行った方が確実に速い。
しかし、こういうのは体裁が大事らしい。グリフィア家の家紋がついた馬車に乗って赴く事で内外に誰が来たのかをアピール出来るわけで、相手側としても対応がしやすいのだとかなんとか。
「それもそうね。ですがグレゴリー、オーランドに何かあればわかっておりますね」
「お任せください奥様」
ラーガル王国はこの世界の基準でいえば非常に治安が良いが、だからといって貴族の子供が1人で出歩いて何もないとは限らない。子供の1人歩きは少ないし、歩いていても人通りの多い道でしか見かけない。夜になれば女も子供も1人では絶対に歩いたりはしない。治安が良いといってもその程度であり、前世の日本とは比べることもできない程度の治安だ。
「すまんなグレゴリー」
「いえいえ、私を重用してくださり感謝しております。王城に行く機会などそうはありませんので、光栄であります」
オーランド=グリフィアはゲームの悪であり、主人公たち主要キャラは正義だ。
この世界がどういうものかはわからないが主要キャラに関われば関わるほどオーランドは死に近付く気がしてならない。こちらに敵対の意思がなくても、この手の作品には歴史の修正力とかなんとか言うのがありがちだからな……気がつけば処刑台……なんていうのは勘弁願いたい。
「俺はグレゴリーを誰よりも信用している、感謝の言葉なんていらないよさ」
だから俺は、この世界で生き残る事を考えた結果、ゲームに登場するキャラは信用しない事にした。