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scene.47 悪役を邪魔する者 Ⅰ



「うっし!行くか!」


 ダンジョンに行けばどうせ汚れるとはいえ、久々にちゃんと風呂に入って身体を清潔にした。

 色々と吹っ切れた想いや感情をお湯でザバザバと洗い落とすと結構さっぱりした気持ちになれた。


「髪か……もう、いいか。適当にナイフで切ろっと」


 (プリドウェン)を着用し、自室の姿見の前で最終チェックをしているとオーランドの長く美しい髪が目にとまった。



 この世界の人間は髪が長い人が多い。理由は簡単で、それがステータスの1つだからだ。

美しく長い髪は男性であれ女性であれ愛される。ハゲてても短くても別に問題はないんだが、長いほうが好まれる傾向にあるってだけだ。


 この世界の髪の色は魂の色を映し出しており、長く美しい髪は魂の美しさを現してるとか、そういう価値観が浸透しているからだ。

故に、髪を長く美しく保つ事は貴族にとっては最大限に重要なステータスだし、髪を褒める事は前世の日本では考えられないくらいに特別な意味を持つ。


 ついでに言うと未婚の男女は髪を布製の紐やリボンで纏めるのだが、既婚の男女は髪を貴金属の髪留めで纏めている。これにもちゃんと理由がある。

 この世界では結婚指輪という風習が無い代わりに、お互いの髪に似合った貴金属の髪飾りを送りあう風習があって、お互いに愛情を込めた貴金属の髪飾りを送りあい、それを身に付け合うことで互いの魂を硬く結びつけて共有するんだとかなんとか。


 髪を褒める事は相手への好意を示す言葉だし、


 リボンを送る事は相手への交際の申し込みだし、


 貴族が髪を切るという事は……



 ザクザクと、長い髪を適当にナイフで切り落とした。



「よし……こんなもんでいいか。頭を振り回しても視界に入らないな?よし!」



 髪を切り終わると、トントンとノックをする音が聞こえた。



「オーリー!私よ!準備はできたわ!」


 リリィはテンションがあがっているのか、言葉遣いがすっかり元通りになっている。

 そっちのほうがリリィらしいっちゃらしいけどな。


「ああ、ちょっと掃除してるから部屋はいっていいぞ」


「わかった!うわ!オーリー頭きったの?」


 部屋に入って良いといった瞬間にドアを開けて飛び込んできたが、俺の頭をみて驚きの声をあげていた。


「頭は切ってねぇよ!髪だ髪、髪を切ったんだよ」


「あ、そっか」


「変か?」


「ううん。そんなことない、似合ってる!」


「そりゃどーも」


 リリィは元気があってよろしい。難しい事も何も考えてなさそうだし付き合ってて楽でいい。


「でも何で髪切ったの?」


「だって戦闘の邪魔になるかもしれないだろ?目の中に髪とか入ったら嫌じゃん?」


「だったら私みたいに後ろでぐるぐるって纏めちゃえばいいんじゃないの?」


「まあそうなんだが……長い髪って洗うのも大変だし乾かすのも大変だし、邪魔だったんだよな」


「そっかあ……じゃあ私も髪切ったほうがいい?」


「いいや、リリィはそのままでいいだろ。切りたいなら切ればいいが、お前の髪は赤くて綺麗だしな、そのままでもいいんじゃないか?」


「わかった!じゃあ切らない!」


 赤く綺麗なポニーテールを持ち上げて不安そうな顔をして聞いてきたリリィは嬉しそうに笑った。

リリィが一生俺のパーティーメンバーで居てくれるなら適当な事もいえるが、あくまでも18歳までの期間限定のパーティーメンバーだからな。髪を切ったせいでリリィが婚期を逃すなんてことになったら責任が取れん。


「はいよ……んじゃ、リリィも準備できたみたいだし行くか……下級ダンジョン<ディカイ>に!」


「おー!!!」


 元気よく手をあげて答えたリリィを見て俺もやる気が湧いてきた。



 ゲーム知識もある。この世界で新たに仕入れた知識もある。

実際にこの目で見て歩いてみなければわからない事もあるだろうが、それでもいけるはずだ。

 俺がこの世界で始めて見た<戦魔熊(クランプベア)>やら<黒魔蛇(ソイルシュランゲ)>という魔物が討伐難度Cに分類されているが、今更あんなものに負ける気がしない。そもそも、下級ダンジョンに出てくるのは討伐難度FとGのゴミみたいな魔物ばかりだ。どれだけ油断すれば負けるのかが想像できない。

 こんな風に楽観的に考えていればどうせまた災難が降り掛かるのだろうが、それももう知ったことではない。


 ダンジョン攻略が出来るようになる冒険者ランクがある程度高く設定されているのは、フィールド戦闘とダンジョン内の戦闘では勝手が違うからだろう。

 ダンジョンの中はこの世界ではない何処か別の空間だと言われているし、俺達冒険者は1人から6人という単位のパーティーメンバーでしかその中に入る事はできない。限られた人数、指定された空間での戦闘となると、ある程度の経験を積んでいなければ簡単に命を落としてしまうことになる。

 実際の所、冒険者登録をしたばかりの人間が6人集まっても下級ダンジョンの攻略くらいはやろうと思えば出来てしまうが、不測の事態というのはなんにだって付き物だし、道中の攻略が出来てもボスはある程度の戦闘技術がないと突破できない。

 ダンジョンの難易度はつまり、そのダンジョンの最深部にいるボスの強さに他ならない。


 そして下級ダンジョン<ディカイ>のボスは討伐難度Eだ。

初心者にはちょっと辛いだろうが、俺とリリィの敵ではない。もちろん、大したボスドロップも無ければ大した経験値も稼げない、大したアイテムも拾えないだろうが、それでもゲームとは違う。戦うのは操作しているプレイヤーではなく、俺自身だ。身の丈にあったダンジョンを1つずつ、1歩ずつ、着実に攻略していく事が最強への一番の近道だろう。

この一歩が俺の長生きと一人暮らしに通じているはずだ。



 ダンジョン攻略の申請とついでに受けられるクエストがあれば受けていこうと思い、いざ冒険者ギルドに向かおうと屋敷の玄関を出たところで…


「オーリー!!お身体はもうよろしいのですか!」


 正面の門から当たり前のように入ってきたマリアとマデリンと……マデリンに手を引かれて連れられている小奇麗な服を着た緑髪の女の子が視界に入ってきた。


「オ、オーリー?髪はどうされたのですか?」

 

 マリアは当然のように俺とリリィの前に立ちはだかり、俺の髪を見て目を見開いていた。


「邪魔だから切った。それだけだ」


「そ……そうですの……でも!似合ってるからいいですわね!おーーーほほほほ!」


 一瞬戸惑った表情を見せたが、それも一瞬だった。

 マリアは気にした様子も無くいつも通りの高笑いをしてくれた。

 よかったよかった。もしこれが主人公相手だったら怒ってたかもな。

 マリアがただの取引相手でよかったよ。


「そりゃどーも。それじゃあ俺はリリィとダンジョン行ってくるから、またな」


「ちょちょちょっと!お待ちくださいまし!」


「なんだ?ダンジョンに行くって言っただろ?邪魔はしないって約束を破るのか?」


「いえいえ!そんなつもりはありませんわ!でも、あの、お話が……」


「俺は今ダンジョンの気分だから、話はまた今度な」


「私ではなく!そ!そこの女がですわ!」


 そう言って、マリアはマデリンに連れられていた緑髪の女を俺の前に引っ張ってきた。



 俺の前に引っ張ってこられた女の子はやはり、どう見ても怯えていた。

 見ないようにしていたのに……折角久々に良い気分だったのに……どうして思い出させんだよ……



 目の前で怯えた表情を浮かべる女の子を見て、俺の気持ちは再び沈んでいった。

お読み頂きありがとうございます!

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