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scene.32 意味のない取引



「お待たせ致しましたオーリー様!お話と言うのはなんでしょう!」


 カラドリアデパートまで1本のペンを返しに来ただけなのに、受付で話をするとあれよあれよと以前初めてマリアと話をしたたVIPルームのような場所に通されてしまった。

 待つこと30分以上、勢いよく扉を開けて部屋の中に飛び込んできたマリアはわけのわからない事を言ってきた。


「は?」


「え?……え?」


 なんで俺がこいつと話さないといけなのか。

 思わず変な声が出た俺に、マリアも戸惑いの声をあげてきた。


「いえ、母上よりペンを返すように仰せつかったので、それを届けに来たまでです。何かの手違いでしょうが、話は以上です。お時間を取るような真似をしたことを謝罪致しますカラドリア様」


「い、いえ私は……」


 早く帰ろう。

 そんで二度とここには来ないようにしよう。

 ダンジョン攻略を開始しても、鑑定はリリィか使用人にやらせよう。


 そう思い立ち上がって一礼した。


「では、いつか縁がありましたら」


 どうやら俺は生きて帰れそうだ。

まだ9歳だか10歳の子供だからな、いきなり人をぶっ殺せみたいな命令は出さないのかもしれんな、助かったぜ!


「お、お待ち………ください」


 クソが!!安心したらすぐこれだよ!!

なんだなんだ?俺はちょっとでも安心したり楽観的な思考になると神様から罰を貰うスキルでも持ってるのか?


「……はい、如何致しましたか?」


「いえ………」


 なんだよ……急に黙られると不安になるだろ……

 死になさいとでも言うのだろうか。


「……………」


「……………」


 周りにいるのはお姉さんばかりだが、どうせ滅茶苦茶強いのだろうな。マリアが指を鳴らした瞬間に全員素手で俺を串刺しに出来るくらい強いんだろ?目からビームを出してきたって驚かないよ……多少は驚くけど。

 逃げてぇ………逃げたいけどマリアが喋らないと怖くて動けねぇ………


 それから数分間、じっと黙って下を向いていたマリアがようやく発した言葉は、


「マリアとは…………呼んでくださらないのですか?」


 俺の頭では言葉の意味が理解できなかった。

 何か情報が欠落しているのか、マリアの思考は結構ぶっ飛んでいるのでこの発言の意図がまるでわからない。


「…………」


 呼び方なんて今更どうでもいいだろうに何なんだろうか……

 わからない……わからないがしかし、この返事はかなり重要な気がする。

 前世でも現世でも一度も役に立ったことがない俺の直感がDEAD or ALIVEを告げているくらいには重要な気がしている。


「そう呼ぶのは構いませんが、今私がカラドリア様をそのように呼ぶ意味が理解できません」


「私の名をお呼びなさい!」


 また命令か………やっぱりこいつは駄目だな。

前世でド貧乏だった俺とは相容れない思考回路をしてやがる…やっぱり俺はこいつが嫌いだ。


「いいえ……やはり、私とカラドリア様とでは住む世界が違ったようです。それと、出来れば鎧と短剣は諦めて頂けると幸いです。私もリリィもあれらを手放すつもりはございません。それでも強引な手段で来られた場合は冒険者ギルドに保護してもらいます」


 二度と目の前に現れるなってのも付け加えたいくらいだが、周りの護衛らしきお姉さん方が怖すぎてそこまで言う勇気はない。



「よ、鎧……い……いら、いらないから!短剣もいらないから!!」



 は?


「えぇー……………と、(プリドウェン)短剣(マルミアドワーズ)が欲しいのではなかったのですか?意味がわからないのですが?」


「い、いいから!もう1度……もう1度私の名前を呼びなさいよ!」


 名前名前って、名前なら呼んでるだろうが。


「ですから、カラドリア様と」


「ちち!ち違うわ!カラドリアじゃない!私の名前はカラドリアじゃないわ!私にも名前があるわ!!」


 おわ………すげぇ怒ってるな……別に名前くらいいくらでも呼ぶが…いや、でも駄目だ。俺はマリア=カラドリアの命令には従わない。

 こいつと俺は相容れない星の下に生まれている。既にカラドリアとの取引が決裂している今、ご機嫌伺いもなにもない。こいつが怒ろうが泣き叫ぼうが知ったことではないし、鎧も短剣も絶対に譲らない。譲らないが……


 だけど………


「それでは、商人らしく取引といきませんか?」


 意味不明ではあるが、千載一遇のこの機会を逃す手はない。


「取引……ですの?」


「ええ、私はカラドリア様の望むように名前を呼びます。カラドリア様が望む時に望むだけ名前を呼びましょう。その意味はわかりかねますが、カラドリア様の名前をいつでもお呼びします」


「い、いつでも?」


「その代わり、鎧と短剣は諦めると一筆認めてください」


 名前を呼ぶ事になんの意味があるかは知らんが、お前の命令に従うつもりは無い。だから、どうしても名前を呼んで欲しいのなら取引に応じることだな!!馬鹿め!!!

お前が取引に応じるなら俺とリリィの安全は確保できるし、応じないなら別にそれでもいい。


 こんなわけのわからない取引に応じる馬鹿がいるわけないが、なんでも自分の思い通りになると思うなよマリア=カラドリア。お前の腐った性根はいつか主人公が叩き直す時が来るだろうが、世の中には金で解決できない問題があると言うことを今のうちに教えておいてやるよ。


 これが俺からの最後の言葉だ、よーく覚えておけ!


 でも…やっぱりちょっと怖いから後で冒険者ギルドに相談に行こー……



 と、思ったのだが…



「わ、わかったわ!今すぐ書くわ!」



 いや、そうはならんだろ。


 意味不明な取引を快諾したマリアを目の前にして顔を引きつらせていると、この部屋に入ってきてからずっと俯き加減だったマリアがようやく顔をあげた。



 そこには出会ってから見た中で、1番輝いた笑顔をした女の子がいた。



 ◇ ◇ ◇



「さあ書いたわ!これで契約は成立よ!」


 マリアは、ふんっと鼻から息を吐き勝ち誇った顔をしているが、


「いや…………まあいいけど……これって何か意味あんのか?」


 あまりに馬鹿らしい契約を結んでしまった俺は、呆れて口調まで戻ってしまった。名前呼ぶから鎧と短剣に手を出すなって…………なんだこれは?意味あんのか?紙代の方が高くつくだろ……。まあ、俺とリリィの装備が強引にカラドリアに奪われる事がなくなったのはありっちゃありなのか………?



「さあ、約束ですわ!」


「約束ってなにが?」


 なんちゃって


「な、な、な、なん!!!」


 やべ!殺される!

 顔真っ赤っていうのを初めてリアルで見た!ヤバイ!


「なんてな!!マリアごめんて、怒るなって。っと………失礼致しましたマリア様、気が緩んでおりました」


「い、いいわよ!今まで通り普通に話しなさいよ……話してよ……」


「え?いいのか?」


 まあ鎧も短剣も取らないってんならもういいや。

 後は殺されんようにマリアから距離を取るだけで解決だ!


「い、いいわ!おほほほ……特別に許してあげましてよ」


「はいはい、んじゃもう帰るわ」


「え?どうしてですの!!」


「どうしてって……もう夜だからだろ」


 陽が沈んでんだぞ?

いくら馬が夜の道をすいすい走れる生き物だとしても、早く家に帰って休ませてあげたい。


「泊まっていけばいいではありませんの!部屋ならいくらでもありますわ!」


「いやいや、俺は枕が変わると眠れないんだ」


 ホントは何処でも寝れるが、だからと言ってこんな敵地のど真ん中で寝るような事だけは出来そうにない。


「で、では…次はいつこちらに来てくださるのですか?いつでも名前を呼ぶと言う取引ですわよね?」


「んなこと言われても、俺だってやらなきゃいけない事が山程あるからな。鎧も短剣も取らないってんなら暇なときに家に来ればいいんじゃないか?それなら名前くらいいつだって呼べるだろ」


 なんで俺がこんな所に足を運ばないといけないんだよ、ふざけるなよ。

 いつでも名前を呼ぶ契約だが、いつでもカラドリアの家に行く契約じゃないだろ。


「……えっと…いいのですか?」


 嫌に決まってんだろ……


 でも、まあ……


「……稽古の邪魔をしないならな。マリアにしてみたらわけわからんだろうが、俺は本当に…真剣に強くなりたいんだよ……だから、その邪魔をしないなら家に来るくらい好きにすればいい」


「邪魔なんてしませんわ!おーーほほほほ!」


 どの口が言うんだよ!!喧嘩売ってんのか?!


「んじゃそういうことだから、ペンは確かに届けたからなマリア」


「ええ…ええ、確かに受け取りましたわ。オーリー様」


「いつまで様なんてつけてんだよ、オーリーでいいだろもう。じゃあな」




 カラドリア商会本部を出ると、外はすっかり暗くなっていた。


 そうは言ってもここはラーガル王国の王都、夜は夜で賑やかになる。

そんな昼とは違う独特の喧騒の中、俺は1つ肩の荷が下りた爽快感と共に馬を駆けて家路へと就いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] う~~~ん・・・・・・ しつこいが、ほんと何故こんなに好かれてるのか判らない 他のヒロインに関しては、 主人公に好意もつことに特に違和感なかったけどなぁ あれか?武器や防具をいくら金積んでも…
[一言] まーた巨大な地雷が設置されてしまったかw
[良い点] 設定は好きです。 [気になる点] 主人公の悪役感が非常に薄い気がします。またヒロインたちが出てから惚れるのも早くヒロイン同士の絡みもそこまで多くないのでそれぞれの印象も薄いかなと思います。…
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