scene.26 第三の刺客
ラーガル王国王都の中で一際大きな建物がある。
1つはもちろんラーガル城だ。
王都の中心に聳え立つ巨大な城はこの大陸でももっとも大きな建造物ではないかと思う。
そしてもう1つが冒険者ギルドだ。
高さこそ4階建てではあるが、その敷地はとんでもなく広い。
サッカーコートくらいの大きさの敷地をもつ建物が4階分もあるのだからその馬鹿でかさも相当なものだ。…とは言え、ラーガルにある冒険者ギルドは支部であり、本部はこんなものではないとかなんとか。
そして最後に、商業ギルド『カラドリア商会』の本部だ。
これはあれだね、デパートだね。でか過ぎてびっくりしちゃうくらいでかいデパートだね。冒険者ギルド王都支部がすっぽり2個くらい入る大きさのデパートなのだから、見て回るだけでも楽しそうだ。
そんなデパートカラドリアに今、俺とリリィは足を踏み入れた。
いくつもの商店がカラドリア商会の本部の中に軒を連ねている姿は本当にデパートのように感じるし、中に入れば冒険者や一般のお客さん……平民や貴族など関係なく大勢の人々で賑わっていた。王都の大通りよりも全然人が多い……すごい。今までヒロインが怖くて近寄れなかったが、お祭りみたいで楽しいかもしれない。
「あのー……鑑定ってお願いできますか?」
「もちろんでございます、ご案内いたしますね」
しかし、今日の俺達の目的はカラドリア商会でのお買い物ではなく、あくまでも装備品の鑑定だ。
その辺を歩いていた警備に雇われているであろう冒険者っぽいお姉さんに声をかけると、子供である俺やリリィの姿をみても眉1つ動かす事もなくすぐに鑑定する場所まで案内をしてくれた。
なんて教育が行き届いた店なんだ……恐るべしカラドリア商会の接客レベル!
案内された先はカラドリア商会の中ではなく、建物の外だった。
「鑑定は外でやるのですか?」
「いいえ、鑑定を外でやるわけではありません。冒険者の方々はダンジョン攻略が終わると着の身着のままで戦利品の鑑定に訪れる方が殆どですので、建物の中にいるお客様の迷惑にならないように鑑定の受付は外に設けてある次第です」
「ははー……」
案内してくれているお姉さんは一度こちらを振り向き、やはり子供相手にも関わらず丁寧に説明をしてくれた。それにしてもマジですげーな……色々考えられてるんだな。
ダンジョン攻略が終わってそのままカラドリア商会の建物に入ると荷物だってかさばって邪魔だし、土汚れや埃だって凄い。何日もダンジョンに潜っていたような人だったら体臭だって相当やばいだろうし、魔物の血なんかが付着していれば病気になることだってありえる。そういった諸々を考えて鑑定の受付は外にあるのか……今更ながらなんとも不思議な世界だ。
案内されながらしばらく歩くと、ようやく鑑定の受付が見えてきた。
「あちらが鑑定所の受付となります。ただいまの時間は空いておりますが、待機列が出来る場合はあちらで整理券をおとりください。割り込みや順番飛ばしをされますと最悪の場合は以降の当店での鑑定を受け付けない事もございます。くれぐれも規律を持って整列をお願い致します」
「はい!ありがとうございました!」
「助かったわ!」
俺達の案内を終えると冒険者風のお姉さんは一礼して去っていってしまった。
それにしても凄いな。カラドリア商会。ゲームのときはここまででかい建物だとは思ってなかったし、鑑定の受付場所やらなんやらそんなところまでは深堀されてなかったし、ダンジョン探索以外は全部テキストと絵だったからな。
「んじゃ、鑑定してもらうか」
「うん!」
◇ ◇ ◇
受付に並ぶ事数分、俺達の番はすぐに回ってきた。
「それでは鎧のほうは3ゴールド、こちらの短剣は1ゴールドで鑑定させていただきます。よろしいですか?」
「あ、はい。お願いします」
「か、返してね……!」
「鑑定が終わり次第すぐにご返却いたしますので、安心してください」
リリィがおっかなびっくりと言う感じで短剣を預けたが、受付のお姉さんは笑顔で答えながら番号札を俺に手渡してきた。
「鑑定が終わり次第お呼び致しますので、あちらの休憩所でお待ちください」
鑑定が終わるまでの間は番号札を持って近くにあるビアガーデンのような場所で待つようにと言われたが……どうやら、冒険者が集まる場所は冒険者ギルドや飲み屋ではなく、ここっぽいな。
今日は空いていると案内してくれた人が言っていたが、それでもだだっ広いビアガーデンにはちらほらと冒険者の塊が座っている。恐らくあの塊がパーティーなのだろう。
鑑定待ちの間にここで飲み食いさせるんだろうけど、カラドリア商会は抜け目がないねぇ……
俺が今回鑑定してもらうのは、幻獣鎧プリドウェン。名前は今付けた。
そしてリリィが鑑定してもらうのは母親から貰ったという短剣だった。
鑑定は本当に安い。
子供の小遣いでも余裕で出来てしまうほどに安い。どうやって利益を出しているのか、そもそも利益なんて出ていないのではないかと思うくらいには安いが……実際、鑑定での利益は考えていないのだろう。
鑑定で良いアイテムが出ればカラドリアが冒険者に金額を提示して買い取り、カラドリアはそれを更に高値で売る。冒険者の連中に高価なアイテムを高値で売りさばくようなツテを持っている奴なんてまず居ないし、こればっかりは仕方ない。
高く売るためには維持費や移送費もかかるし、買い手を見つける為に集める情報だってタダではない。そういった諸々を考慮すればダンジョンのアイテムはカラドリア商会に売り払ってしまうのが一番手っ取り早い。結果、どっしり構えているだけで冒険者が次々にダンジョン産のアイテムを運び込み、カラドリアは永遠に儲け続けるわけだ。
折角なので待ち時間にリリィと一緒に、なまぬるーい砂糖水を注文して飲んでみることにした。
リリィは美味しい美味しいと言っていたが、前世のジュースを知っている俺にとっては甘いだけの水だった。冷蔵庫みたいな魔導具ってないんだろうか、今度屋敷の厨房を覗いてみよう。
「カラドリア商会大きいね!オーリー!」
「そうだなーめっちゃくちゃでかいなー……掃除大変そうだなー」
「そうね!これだけ大きいと冒険者ランクもあがりそうね!」
「はは、そうだな」
リリィの頭の中では、掃除する=冒険者ギルドへとても貢献出来る=ランクアップって感じか。
子供の頭なんてそのくらい単純な方がいいよな。大体あってるし。
そうして椅子に座り水を飲みながらリリィとどうでもいい事を喋り、のんびりと待つこと30分が経過した頃……
「あ、あの……番号札157番のお客様でお間違いないでしょうか?」
「え?はい」
ビアガーデンまでやって来て呼びに来るとは思わなかったが、どうにも呼びに来た人の様子が気になる。
「申し訳ございませんが、少々お付き合い頂いても宜しいでしょうか?」
「そりゃついていきますけど……」
申し訳ないもなにも鑑定してもらったアイテムは預けたままなんだから、ついてくるなと言われても俺の鎧とリリィの短剣は返してもらうぞ。
「ありがとうございます!!それでは、奥までご案内致します」
「はいはいー」
「行くわよ!オーリー!」
どうにも案内人の態度に違和感があったが、通された場所はカラドリア商会の建物の中だったので詐欺とかそういうのではないだろう。
「鑑定って凄いね!」
「ん?ああ…そうだな、毎回こんな大変なんだとしたらちょっとだるいけどな」
案内にしたがって建物の中に入りしばらく進むと、やたらめった豪華な部屋に通されてしまった。
高そうな絨毯に豪華なシャンデリア、美しい椅子にこの世界では珍しい透明度の非常に高い薄いグラス。窓の外からは王都が一望できるるようになっているのも芸術点が高い。城からの景色には勝てないけど。
◇ ◇ ◇
案内された絢爛豪華な部屋で待つこと数分、俺達の入ってきたドアとは反対側のドアから人が入ってきた。
ドアから現れたのは……海のように深い青い髪に、空のように澄んだ青い瞳、シンプルで綺麗な青いドレスに身を包んだ少女……
「初めましてミスター&ミセス、私はマリア=カラドリアと申します。本日はお2人にお願いがあり、こうして声をかけさせていただきました。突然のお呼び出し、大変失礼致しました」
恭しく一礼しながら話す少女は確かに言った。
眼の前の女は、フェリシア、ケルシーに続く第三の刺客『マリア=カラドリア』という名を、確かに口にした。
俺は口を開けたまましばらく固まった
お読み頂きありがとうございます!
誤字脱字の修整いつも恥ずかしいですが感謝しかありません!