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scene.02 可能性の話



 前世の記憶を取り戻した俺は、とりあえずクソガキをやめて普通のガキになろうと決めた。


 何をどうすればいいかわからないが、まずは命を救ってくれた使用人にお礼を言い、母に頼んで報奨も出してもらう所から始めた。

 正しい事をした人間には正しいお礼をしてこその貴族だろう。



 そうして前世の記憶が蘇った翌日、グリフィアの屋敷に来客があった。



 ◇ ◇ ◇



「オーランド様、お体の具合はもうよいのですか?」


 屋敷を訪ねて来たのは、紫色の髪に紫の瞳の笑顔の女の子。


「心配させてごめんね、フェリシア」


 オーランド=グリフィアの婚約者である、フェリシア=リンドヴルムだった。


「溺れてから3日もお目覚めにならなかったとお聞きしましたが……」


「いやー恥ずかしいですね、まさか庭の池で溺れるとは…でももう大丈夫なんで!ご心配おかけしました」


「本当によかったです」


 2人でお茶を飲みながらの会話、目の前に座るフェリシアは安堵の表情を浮かべている。

 悪ガキでしかなかった俺の事をこんなに気にかけて心配してくれて、なんと優しい子なんだろうか……


「これからはこう言った事がないように僕も心を入れ替えていきますので、どうか安心してください」


 これまでの俺はやりたい放題の我侭なクソガキだったかもしれないが、日本人であった前世の記憶が蘇った今となっては他人に迷惑をかけるような行為が本当に嫌だと感じている。9歳しか生きていないオーランドの常識よりも、19年生きた日本での常識のほうがより濃く精神に反映されているのだろう。


「そうして頂けると私も嬉しくおもいます。どうか御身体には気をつけて、これから先も婚約者として共に家を盛り立てていきましょうね」


「ええ、これまでは迷惑をかけましたが。今後は両家の為に僕も頑張っていきます」


 グリフィア家とリンドヴルム家は、ラーガル王国における武闘派貴族の二大巨塔だ。

特にグリフィア家は古くから王家に仕えてきた歴史ある一族であり、グリフィア家当主は代々王直属の近衛騎士団長に就くことが伝統になっている。この国の軍の中心ともいえる名門中の名門だ。


 そんな王家からの信頼が厚いグリフィア家は王都周辺の軍を掌握しているわけだが、地方への影響力は王都から離れれば離れるほど弱いものとなっている。

 しかし、国内の軍の意思は常に統一されていなければ、いざ周辺諸国と衝突した際に一歩遅れる事も有り得る。それでは困ると考えた俺の父…当代のグリフィア家当主は、地方への影響力が特段に強いリンドヴルム家との繋がりを強化する為にリンドヴルムとの婚約を決めた。


「フェリシア様のリンドヴルム家と我がグリフィア家が手を取り合えば、ラーガル王国は更に磐石なものとなりましょう」


「はい……はい!オーランド様もようやく……ようやく次期当主としての自覚が芽生えられたのですね…フェリシアは嬉しくおもいます!」


 うおっまぶしっ!

嬉しそうに笑うフェリシアはまさに美少女だ。あまりにも可愛くて光が放たれているかと感じてしまった。

 日本人の顔なら前世で見飽きていたが、オーランドはまだこの世界の人間の顔を見飽きるほどみていないのだろうか。たかが婚約者の笑顔を見ただけでこれほど照れてしまうとは、9歳児の身体は不便かもしれないな。


「今日は来てくださりありがとうございました。ご覧の通り僕は元気なので、フェリシアもこちらを気にせずリンドヴルムにお帰りください。また会える日を楽しみにしております」


「え?」


「ん?」


 元気だからもう帰っていいと言ったのだが、何かまずかったのか?


「オーランド様?…私達は3日後、シャーロット様の10歳の生誕会で挨拶をするのですが、お忘れなのですか?」


「あー……えっと、」


 そういえば、オーランドの記憶にそんなものが…あったあった。


「そうでした!シャーロット=ラーガル王女殿下の生誕会でしたね!すみません、3日も寝ていたもので頭から抜けていました。という事は、フェリシア様はそれまでこちらに滞在を?」


 シャーロット=ラーガル、ラーガル王のご息女にして長女、王位継承権第一位の王女でもある。

貴族や王族は10歳になると生誕会と呼ばれる宴を催すわけだが……そうか、シャーロット様の10歳の生誕会が3日後にあるのか。あぶないあぶない、すっかり忘れていた。


「思い出していただけたようですね?私達はまだ9歳なので舞踏会に参加することはありませんが、グリフィア家の次期当主であるオーランド様とその婚約者である私はシャーロット様と親睦を深めていかなければなりません。このまま王家に男の子がお生まれにならなければ、いずれ私たちが仕える事になる事にお方ですからね」


「そう、ですね……」



 第二王妃も第三王妃も頑張っているらしいが、そもそもラーガル王のお身体が優れないのだからこればっかりは仕方ない。


 ラーガル王は元々文武両道の完璧超人のような人で、特に武勇に優れた人であり、近隣諸国にその威光を遍く届かせていた方だったのらしいが、俺が生まれる年にこの大陸に現れたドラゴンの大群を討伐する為に戦い、その際に瀕死の重傷を負ってしまったのだとか。

 そして更に最悪な事に、共に戦場を駆けたラーガル王の第一妃ドロシー様はその戦いで王を助ける為に命を落としたのだとか……


 その結果、ラーガル王は身体と心を酷く消耗され、今も気丈に振る舞ってはいるもののかつての威光は見る影もなくなってしまった。

 そして、周辺諸国は弱体化したラーガル王国に付け入ろうと企んでいるとかいないとか…そういった連中を跳ね除ける為のグリフィア家とリンドヴルム家の政略結婚である。

 一時的とは言え弱体化してしまった王家の威光を再び遍く大陸に届かせるため、ラーガル王国の貴族たちは今必死になって頑張っている所だ。



「私とオーランド様は特別に招待されたのですから、池で溺れたと聞いた時は本当に心配になりました。このままシャーロット様との顔合わせが出来なければどうしようかと」


 あ、あー……心配って、俺の事じゃなかったのね……

そりゃそうか。フェリシアみたいにしっかりした子がオーランドみたいな悪ガキの心配はしないよな。俺に万が一があれば、シャーロット様への挨拶も出来ないから……心配心配って、シャーロット様への挨拶が出来なくなることへの心配だったか……


 

 まあ……彼女にしても、家の縛りさえなければオーランドになんて近付きたくもなかっただろう。

生意気な悪ガキの婚約者として生きるのは大変だろうからな。俺だったら使用人を面白半分で罰するようなクソガキの婚約者なんて絶対に嫌だ。フェリシアはよく今までよく我慢出来たな……


 


 そういや、日本でやったゲームでもそういうヒロインいたっけか……

悪役キャラの婚約者で、最初は近寄り難かったものの、接していくうちに少しずつ心を開いていって、最終的にはそいつが行ってきた数々の悪事を暴き、国王に処断させ、悪党の婚約者って役目から解放するんだよな。

 悪党から解放されたヒロインは晴れて自由の身となって主人公と末永くお幸せになる、と。


 いやー、この悪党がまたクソみたいな奴だったな………平民出身の主人公が王立の学園に居ることが許せないだの、通っている事が気に食わないっつって入学したばかりでまだステータスのしょぼい主人公をボコボコにしてくる強制負けイベントが発生したり、ダンジョンで宝探ししてたら見つけたものを横取りしようと襲い掛かってきたり、主人公が女生徒と仲良くなってきたら婚約者がいるくせにその女生徒にちょっかい出そうとしてきたりしたなー……ダンジョンで確率で襲って来るとか盗賊かよ!ってツッコミいれたことあったなー……名前もオーランド=グリフィアっつって俺と同じ名前でマジで最悪だったわ……………






 オーランド=グリフィアかー…………





 確か、そのゲームの婚約者の名前はフェリシアだったな




 いやいや……そんなまさかな………




 え?マジ?



 もしかしてここって、ゲーム世界…………なのか?

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