チート催眠アプリで無双する俺ってすごくないですか?(すごくはない)
物事にはやはり流行りというものがある。
異世界転生だってそうだし追放だって悪役令嬢だってそうだろう。流行ったジャンルは根を下ろしテンプレを作り後発を受け止めるよう大きく、そして常識になっていく。
それはエロ方面も同じで流行りに関係なくコンスタントに生産されているのは時間停止モノくらいだ(偏見)。まあ時間停止モノの9割はやらせと言うのだけど。
VR形式のAVだって今じゃあジャンルとして定着しつつあるし、えっちなASMRは今まさに隆盛のまっさなかだろう。
そんなエロ方面で少し前に隆盛を迎えたジャンルがある。催眠アプリだ。
催眠術は昔からジャンルとして存在していたのだが、スマホ時代となり個々の技量によらず手軽に催眠術を行使できるようになった。
つまり催眠術や時間停止(1割本物)といった能力を磨くことなくエロに持っていくことができるのである。これが画期的だ。
……というのを同じ研究室のエロ大魔神田中から聞いたのが昼飯時。
そして今、俺のスマホにはその催眠術アプリが入っている。
理由は至極単純だ。俺が開発したのだ。正確には俺と研究室の先輩とボスである平坂先生だ。平坂研究室での研究にコンシューマ圏における欲望とセキュリティというテーマがあり、俺はその研究の一環として催眠アプリによる使用者の動向を調べている。
まあ俺のスマホに入っているのは単純に動作検証の為なので、研究には関係しない。つまり被験者が必要だ。
お分かりだと思うが被験者は田中である。自身が画期的と呼んだ技術を手に入れるとどうなるのか、さてさて。
田中のスマホに催眠アプリをインストールさせるまでが正直一番の課題だったりする。
幾つか確認したが催眠アプリは大抵「いつの間にか」スマホにインストールされているのだがそんな魔法ある訳ないだろ。それは誰かが夜中にこっそりスマホを触って代理でインストールしたとかそういった事だと思うのだがちゃんと気にしろ。
田中のスマホは当然ながらロックがかかっている(が指紋認証なので本人が居れば解除は一応できる)。そのため導入は田中が研究室内のWi-Fiでブラウジングしている際に広告として表示する事にした。ただの広告であれば見向きもされないだろうが非日常への導入である。1度目は無視されたが2度目で無事にインストールへ持ち込むことができた。田中ちょろいな。
インストール時にも問題がある。たとえば野良アプリならインストールの権限を拡大しなければいけないし、そもそもインストール時にもアクセス機能についての情報が表示される。通常は最初のインストール権限の時点で引っかかるがそれなりにゲームをしている人ならこの部分はクリアが容易かもしれない。バトルロワイヤルゲーとかエロゲーをやろうとするとそういった公式アプリストア以外のルートから入手しなければならない場合もあるのだ。田中はエロ大魔神らしく後者である為インストール権限は既に拡大されている、はずだ。
用心深い人であればその後のアクセス情報もきちんと確認するだろう。今回の催眠アプリではカメラ、マイク、位置情報、メディアへのアクセスが求められる。催眠アプリであれば必要あるのか? といった内容だが俺もそう思う。しかし田中はこれらの権限アクセスが必要である事を了承した上でインストールを行った。好奇心というのは恐ろしいものだ。
ちなみにこの様子がなぜ分かるのかと言えば研究所内の監視カメラを確認しているからである。そんな事をしていいのかという意見もあるだろうが、平坂研は頭がおかしいので研究室所属になった時点で「研究室内外問わず所属学生は研究対象として扱われる(法的に問題がある場合を除く)」という書面にサインしているので問題ない。なんだよその誓約書。俺も同意してるんだけど。
催眠アプリを起動すると律儀に利用規約が出てくる。なおコピーライトはアプリ名と同じく「催眠アプリ・ニュースEX」となっている。ニュースアプリに偽装(最初に催眠アプリと付いている時点で意味が無い)しているのと単語の切れ目を変えると別の意味になるというくっそ無駄なダブルミーニングだ。考案は平坂先生である。俺じゃない、濡れ衣だ。
利用規約に同意をすると画面が変わるのだがその際にカメラ、マイク、位置情報へのアクセス許可を求められる。田中は秒速で同意したためこれで研究室内のサーバーに田中の行動履歴が筒抜けになった。マイクとカメラのアクセスは田中が「誰に催眠をかけてどんな行動をするのか」を観察するために必要なのだ。
研究室には田中以外のメンバーはいない。残りのメンバーは講義の受講中だ。俺は研究室ではなくその隣の講師室にいる。平坂先生に鍵を貰っており自由に使っていい(平坂先生の不利益にならない範囲で)ようになっている。鍵を預っているのは平坂研の上位2名だけなので俺ともう一人所持しているのだが、ソイツはそもそも大学に出てこない。ちなみに研究室側の鍵は所属学生全員が持っている。だから田中も一人で居られる訳だ。
動作についての説明をちまちまと読んでいた田中だが、抑え切れない好奇心は隠しきれていない。ソワソワしている。ここで鏡を使って自分に催眠術をかけてみるような奇行に走ってくれたら面白いのだがそこまでの変態性はないようだ。
なお、平坂研の所属は15名おりうち院生が2名。このうち催眠アプリに関係しているのは平坂先生と院生1名と俺。他の研究室所属メンバーは知らない。一応俺の研究テーマ自体は公表されているが表向けには「情報セキュリティ」的な内容であろう。秋も深いこの時期であれば既にかなり研究が進んでいるメンバーも多く、例に漏れず俺も一応の体裁は整えてある。田中というサンプルから情報を得られれば更に興味深いものになるだろう。
3限の講義が終わり数名研究室に戻ってくる。研究室には冷蔵庫と電子レンジがあるし個々の机にはおやつも当然入っているのでみんな休憩はもっぱら研究室だ。複数人がいては流石に田中も催眠アプリを試す事もできず機会を計っているようだ。そうする内に次の講義やら帰宅やらで人が減り、田中ともう一人、大島が残った。大島は研究室内の成績序列でいえば中くらいであり、まあ普通の学生だ。既に内定も貰っておりIT系の上場会社に就職する予定。正社員使いつぶし疑惑のある会社だが、当人が選んだならまあいいんじゃないかな。
「大島さあ」
ちょっとぎこちなく田中が声をかける。ちなみに大島は男だ。
「ん?」
大島が田中のほうを振り向くと、そこには催眠アプリが既に起動中だった。初手催眠。
「喉が渇いちゃったんだよね。コーラ買ってきて欲しいんだけど」
大島と田中はそこまで仲がいい訳ではない。というか田中がエロ大魔神なので女子受けが悪く、男もそれを知ってあまり関わろうとしないというのが大筋で合ってる話だ。要するにTPO弁えずにオタムーブをして顰蹙を買うあれだ。よって通常大島の反応としては「なんで?」が正しい。もしくは「自分で行けよ」か「俺の分奢ってくれるなら」かもしれない。
「わかった。金は?」
「大島の奢り」
「仕方ねえな」
そういった通常起こすであろうリアクションではなく大人しく田中の言う事に従う大島。それを見たときの田中の顔よ。邪悪そのものである。
大島はそのまま研究室を出て行った。田中はガッツポーズ。でもお前の努力じゃないんだぞ。大丈夫か。
「これは……本物だ……!」
バッカお前もうちょっとサンプル取れよ。大島がちょっと遊んでやるかみたいな感じで動いてたらどうするんだよ。後でドッキリの看板持って誰かが入ってくることとか考えろよ。
俺の心配を余所に田中は戻ってきた大島に更に催眠アプリを使い彼女の写真やらエロ画像やらを分けてもらっていた。何やってるんだお前。いやエロ大魔神だから間違えてないのかその行動は。うーんわからん。
彼女を紹介してもらう約束をした上で今日のこの内容は誰にも言わない事および田中の指定した言葉を聞いたとき以外は思い出さないように催眠で改変をかけ、田中は大島を開放した。えっ、もしかして大島寝取られとかある? 流石にちょっと気が引けるんだがそれは。思うものの干渉はしないけど。
よくもここまで大胆な行動に出たとは思うが田中も催眠アプリ的な話は色々読んでいるだろうし脳内経験から来るムーブなのだろう。特に最後の証拠を出さないように念入りに隠蔽するのは「ばれる」系の物語を反面教師にしている部分はある。でもな、出所が怪しいアプリをそこまで信じるなよ。
4限も終わって他のメンバーが残って研究したりゲームしたりと研究室にたむろする中で田中は帰宅する。そうだよな。試したいよな。
アプリは起動した瞬間から音声データを飛ばすようになっている。画像はWi-Fi接続時のみリアルタイムアップロードでモバイル通信時には端末内に一時保存する。アップロード後はちゃんと消えるようになっているので自宅にWi-Fiがある(エロ動画をダウンロードするなら普通は設置しているだろう)田中であればそうそうデータ肥大化は起こらないはずだ。
そのまま構内や街中でアプリを試すのかと思ったがそうではなく、どうやら田中は家に帰ったようだ。家で家族相手に色々と試したらしい。母親には好きな料理を夕食に出させ、姉にはアイスを買いに行かせる。ふむ。検証を重ねるのはいい事だ。ただ、姉に何かを言いかけて黙ったのはわかってるからな。お前の姉ちゃん確かに美人という部類には入れにくいけど完全にノーセンキューという訳でもないからな。もしや田中はシスコンだったのだろうか。
次の日、一夜空けても催眠アプリがきちんと入っている事に田中は安心しているようだった。昼までは大人しく授業を受けて昼は一緒に食った。俺が田中と昼を食うのは今回の件もあるがこいつのエロへの探究心に感心しているからでもある。この大学の女子にどう思われても別に何とも無いというのもある。田中は昨日より少しテンションがおかしく、事情を知らないことになっている俺は心配をするフリをした。
田中は俺に催眠を使わなかった。まあ食堂で大っぴらに使うわけにも行くまい。今居る全員催眠漬けにしてやるぜみたいな気概を発揮するにはまだ早い。知ってる。
田中は慎重にターゲットを見極めようとしているようだ。たぶんエロい方面だ。催眠で洗脳してしまえば片腕にもできるしお役立ち(隠語)だしで一石二鳥だろう。つまり、狙うなら上玉。しかも二人きりになる瞬間を狙える状況が良い。今日の田中は講義もサボって食堂でチャンスを伺っている。ちなみに食堂の監視カメラは警備員室で確認できる。こちらは後で確認する事は可能だが、リアルタイムで田中の行動を確認できるのは催眠アプリを起動してからだけだ。流石に大学内で四六時中田中と一緒に居るわけにもいくまい。
白羽の矢が立ったのは3年の日高優衣という子だった。群を抜いて美人という訳でもないが優しげな顔立ち。少し垂れ目。化粧を薄めにしているのは恐らくわざとだろう。「それなり」の地位が良いという心理だと推測できるが自分を磨かない方向に行ってしまった彼女の過去を想像すると少し可哀想ではある。そんな彼女を田中がどうするかだがそこまで酷い事にはならないだろうと思う。少なくとも最初は。
アプリ起動後からの会話から、田中はこれまたベタな「落し物を拾ってもらう」という手段で彼女に近づいたらしい。日高さんが一人の時を見計らってポロっと物を落とす。優しい彼女が拾ってくれ、田中を呼び止める。振り向いた田中は既に催眠アプリを構えていて……という展開だ。
催眠アプリによる催眠深度は、俺達のチームでは3段階に定義している。
一、自身の疑問を気のせいとして処理してしまえるレベルの行動改変。
二、常識や習慣の改変。
三、人格の改変。
大雑把だがこうだ。俺は田中が2段階目までは早期に手をつけると踏んでいる。例えば日高さんを彼女にしてしまうというのは1段階目だ。その上で、彼女と自分の好みを合わせようとする場合、習慣の改変になる。たとえば服装であるとか食べ物の好き嫌いであるとかそういった部分。好みというのは本能的なものもあるが、今までの人生の積み重ね――つまり染み付いた習慣によって形成されているので「自分を彼氏と認識させる」よりも難度が高い。まあ日高さんが十年来の幼馴染と付き合っているとかなら「彼氏と認識させる」のも2段階目になるのだが彼女は今彼氏がいないらしい。田中が聞いていた。
3段階目はもはや相手を人形としか扱っていない。ここはまあ田中だとやらないだろうから置いておこう。
日高さんに行われたのは田中興味本位の幾つかの質問と「自分を彼氏だと思わせること」「明日の講義が終わったら彼氏とデートに行く事」の刷り込みだ。デートをしたいと言う辺りチェリーだが(本人も言っていたので童貞だと思われる)、そんなもんだろう。今日にしなかったのは恐らくシミュレーションをする為だ。健気ではあるが催眠アプリ使ってる時点で外道だからな。
日高さんに催眠をかけたのは4限前なのでその後5限まで研究室で時間を潰し、5限の授業を受けて田中は帰っていった。催眠アプリは起動していない。
次の日、夕方以降はほぼ催眠アプリが起動しっぱなしだった。理由はまあ明白だ。
更に次の日。
田中はウキウキ気分で大学に来た。今日は平坂先生の卒研進捗チェックがあるのでほとんどのメンバーは研究室に一度は顔を出す。事前に提出済みのメンバーはいいが進捗駄目ですなメンバーには先生からのアドバイスが入るので有難い機会なのだ。
「なんか田中機嫌いいな」
「まあね」
「内定決まったのか?」
「おま、随分前に決まったって言ったじゃねえか!」
田中の研究室内ポジションはそんなもんである。大島も以前の催眠の事は忘れている(ことに催眠でなっている)ので特に触れない。田中も「彼女ができた」とは言わない。奴は昨日言ったのだ。「これさえあればもっとすごいことができる」と。尻尾を出すわけにはいかないのだろう。隠せていないが。
若干怪しいながらも田中は今日を乗り切った。先生に催眠をかけようとしたが俺がさりげなく割り込んで止めた。先生が催眠にかかると困るという話ではなく、俺達は催眠アプリによる催眠は効果が無いのだ。健康食品よろしく効果に個人差がありますとしてもいいのだが、理論的にはアプリ未使用状態で効かない人間はいないので困るのである。
催眠アプリプロジェクトチームの3人が催眠アプリにかからないのは「それより強い催眠によって『催眠アプリの催眠は効かない』暗示が入っている」からだ。
無茶苦茶簡単に言えば催眠アプリの出力が100だとすると俺達は200の出力で「催眠アプリの催眠は効かない」という催眠状態にある。作者が使用者に負けるという展開も世の中にはあるが次善策は立てておくものだ。プログラミングをしたのは俺だが催眠理論の構築は先生と先輩なのでどちらが欠けても問題が生じる。そのため俺達は互いを出し抜かないし出し抜けない。いい関係だ。
田中は彼女ができた(実際は強引に作ったのだが)喜びで万能感を持っていることだろう。水を差す必要もないじゃないか。
それから田中はより大胆になって行った。街中で目を引く美女を見つければ催眠アプリを起動し、研究室内でもメンバーひとりひとりに田中を敬うような催眠を施し王のように振る舞い、実の姉すら催眠で貪った。
2週間。たった2週間でこうなった。
「チートアプリ万歳だな、ふふふ」
監視カメラの映像は田中を囲む会のような状況になっている。この無敵感よ。チート催眠アプリで無双する俺ってすごくないですか? そうだねすごいね。
ちなみに俺は旅行に行っている事になっている。催眠がかからないから仕方が無い。ボロ出たら観察している意味がなくなってしまう。
そして田中は忘れていた。このアプリは与えられたものであるという事を。お前の万能感は作られたものなんだよ。
楽園が崩れる日が来た。
「ちわっす」
ある日、研究室に人がやって来た。田中は研究室に女を連れ込んでギリギリ不純にならないくらいの異性交遊ぽい事をしている。ちなみに相手は日高さんではない。
余談なのだが田中は日高さんを特別扱いしている節がある。昔から好きだったのかもしれない。日高さんにだけはこう、厳しい催眠をかけていないのだ。神聖化しているだけなのかもしれないが。
おそらく2ヶ月ぶりに研究室に来たのは講師室の鍵を持っているもう一人、坂田だ。ちなみに男。
「や、やあ坂田君、久しぶりだね」
「田中? 彼女連れ込むのは感心しないよ」
「あ、うん」
王様気分ではあるがそういった田中の変化に関係なく坂田は今までと同じように話しかける。田中からすればやりにくいだろう。
だから奴が何をどうするかはわかっている。
「坂田君」
「んー?」
自分のPCの電源を入れながら田中のほうを向いた坂田に、催眠アプリの画面が表示される。
「あれ?」
言ったのは坂田だ。
「田中もそれ持ってんの?」
「えっ!?」
焦る田中。ちなみに連れ込んでいた女はまだ田中の隣にいる。二人を見比べて坂田は合点いったようだ。
「これは自己暗示のアプリだと思っていたんだけど、どうも田中は違った使い方をしたようだね」
「さ、坂田?」
坂田は院進学を決めていて、この2ヶ月は短期留学をしていた。催眠アプリは先生が「催眠イメージトレーニング用」として留学中の坂田に渡していたのだ。坂田は頭のネジがおかしい方向に曲がっていて、自分の為の努力にしか興味が無い。こんな中堅どころの大学にいるのも「最大限の努力」をしてようやく入れるからなのだ。坂田にとって、努力は応えないが裏切らないものである。
よって愚直に催眠アプリを自身の為にしか使っていなかった。つまり100の出力の催眠を既に自分でかけている。同じ100の出力の催眠で上書きするには丁寧な催眠でなければならない。矛盾が生じる場合、先にかかっている催眠が優先される。
「田中、隣の彼女はどうやって知り合ったんだ?」
疑っている。完全に疑っている。
坂田は努力が裏切らない事を知っているが故に努力しない者は嫌いである。彼にとって催眠は努力をブーストするものだ。自己暗示、信じる力はそれだけで強い。
逆に田中は自分を信じられないからこそ催眠を他者に使った。互いの道は最初の段階で交わっていない。
「確かにそうだ。どうして気づかなかったんだろう。暗示は他人にも有効なのか」
坂田は自分のスマホに入っている催眠アプリを起動する。田中も思っているはずだ。どうして気づかなかったんだろう。自分だけがこのアプリを持っているだなんて虫のいい話などない。自分で開発したものでない以上、誰か創造主(俺だけど)がいるのだから。
「田中、悔い改めるんだ。自分の行った後始末をきちんとつけろ」
坂田の催眠に田中が抵抗できるわけも無い。深度2の意識改変によって田中の催眠天下は終了した。田中は自分が改変した者達の常識を戻した。沈めた記憶はそのままで、田中によって明らかに変わった部分のみ元に戻った。面白いのは日高さんが田中の催眠が解けているのにも関わらず結構田中を気にしているという所だ。体に刻まれた田中なのか心に刻まれた田中なのかは分からないが、どうやら催眠を最低限の行使で止めていたため通常の心にも影響があったらしい。なんだかなーとは思うが今回の本題ではないので後追いはしない事にする。
研究室内では「田中が先生の開発したアプリを不正に利用していた」という形でこの件は終わっている。アプリの事を知っているのは4人だけだし真相は3人知ってるしで坂田が納得する形であれば別にどうでもいいのだ。俺達はデータが取得できる。坂田は自身の能力向上と正義感が満たされてそりゃもう満足。田中はなんだかんだで彼女ができた。日高さんは被害者なのか何なのか良くわからないが幸せなのであればマイナスではないだろう。経緯がマイナスなら田中を恨んでくれ。
今回実験して分かったのは、催眠アプリ開発者はなぜ催眠アプリ物に出てこないのかというと「阿呆を見て楽しんでいる」か「自分はアプリで満足しているから余興で与えた」のどちらかではないかという事だ。要するに神ムーブなんだな。俺もちょっとそんな気分になったよ。
つまりいつの間にか催眠アプリを手に入れていたら「他の誰かも同じアプリを持っているかもしれない」という対策を行った上で行使するのが恐らく最大限利用できるだろう。開発者たる神とエンカウントする可能性は低いが、出会ってしまったら終わりだ。可能性を信じて使うか坂田のように自己暗示に使うかそれとも使わないか。これはもう個々のスタンスの違いでしかないように思う。そもそも「いつの間にか」入っている時点で催眠に落ちてる可能性もあるからな。気をつけよう。
ところで、これを書いている俺が「本当に催眠にかかっていない」という断言は実際できない。チームの3人は互いに出し抜けないとしているが、実際催眠の理論は平坂先生が主軸になっているので別の手法で先生が行使していれば俺にはわからないのだ。その理論をコードに起こした俺は「一応」アプリという形式でしか催眠の形を取る事ができないというのは理解しているが、それが刷り込みであればもうどうしようもないのである。これは疑ってしまえば全てが疑える。なので催眠かかってても気楽に行こうやというのが俺からの最後のアドバイスである。
自分でも良くわからない内にできたので催眠アプリを使われてしまったのかもしれない。