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スマホと女子高生


友達と流行りを追いかけ、可愛いものにはスマホを向ける。それを投稿した暁にはもれなくフォロワーからの「いいね」という支持、そして優越感を得られる。 学生は楽しい。社会人になると学生時代とどう変わってしまうのか想像も出来ない。もちろん、学生にだって悩む事はある。でもそれは大人と比べたら微々たるものであることも親を見れば分かる。だからこそ、終わりのある学生ライフを精一杯満喫しようと青春計画を立てている。それにはスマートフォン、略してスマホ。それが学生には不可欠。そして時間潰しに打って付けなのがスマホにインストールするアプリ。その中でも出会ったのがインスタ。まして今を全力で生きる女子高生にとっては無くてはならないアプリなのかもしれない。インスタグラムとは。ー


学校終わり。いつもの場所へと走る。閉店時間が迫っているのだ。この日は雨。ただでさえ、学校が終わった解放感から傘を持たず遊びに出掛けたいのに。羽織った重い冬用のコートには幾つもの雨粒が粒状のまま付着している。今日は友達から勧めてもらったスマホのアプリ「インスタグラム」の魅力を紹介してもらう。これまでは友達が撮った写真を見せてもらい「かわいい!」「ここにあるこれが全体を際立たせているよね。」などと、どこかの批評家みたく自己流の審査を展開させるのが落ち。けれど、不毛な一日には不毛なりに刺激が欲しいと思い、滅多に口を聞かない親にスマホを買ってもらえないかと頼み込む。ガラケーは持っている。しかしそれでは今の時代、やって行けず"時代遅れ"のレッテルを周りから貼られてしまう。誰かと違う方向に足を向けてしまう事が恥ずかしいのだ。気が付くと、下げた頭とフローリングの床の間に「スッ・・・」と男性特有の筋肉質な手を差し込んできた。握り拳の状態で入ってくる父親の手の中から現れたのが1万円札三枚。つまり、3万円を私に手渡してくれたのである。今時、スマホを買うのに3万も要らない。我が家は両親ともガラパゴス携帯一択の主義。まして、現代にこれっぽっちと言っても良いほど関心が見られない。その為か、一家でトレンドなんていうオメデタイ会話は出来ないのだ。でもそれでいいのかもしれない。私にとっては。だからスマホを持つ事による危険性とかいうものも知らない。放民主義というと語弊がある。けれど一貫して興味がないことが判るだろう。


興奮冷めやらぬ、この時間に買いに行きたいが夜も遅い。それに何故か機嫌の良い両親の機嫌を損ねたくない。スマホは明日、学校帰り買いに行くとして、この時ばかりは今夜寝られるか心配になった。これほどにまで時計に早く進めと念じる事はない。なんせ学生で居られる時間は短く、それに抗うかのように今という時代を築き上げるのが女子高生だからである。ところが一夜明けると意外なもので冷静に過ごすことができる。強いて言うならば友達にスマホを買う報告をする時だけは、はしゃぎ合ってしまう。感受性豊かなのも”十代らしさ”だと受け入れてもらえたら嬉しい。私にとってスマホを持ち、それを使い慣らしている様には”勝ち組”という認識を抱く。元々、この日もインスタを始めた時のため、写真のストックを増やしに出掛ける予定だった。しかしそれを断り、スマートフォンを買いに行くのだから友情に亀裂が入ってしまうのではないかとセンチメンタルな気分になる。しかし「スマホを買うのなら仕方ないね!」と器の大きさに救われ、携帯ショップへ足早に向かう。通学には徒歩を選択している。私の学校では通学申請といった毎朝の通学方法を登録しなければならない校則が存在するのだ。でも、この日は待ちに待ったスマホデビュー。校則を破ることにはなるが自転車を利用する。


スマホのデザインとはガラケー同様、多彩な種類があった。ここは一生使用するものと考えず、等身大の女の子らしく可愛いデザインを軸に悩んで選び抜く。一人で携帯ショップに来たのはこれが初めて。若干の不安がありつつ「これ!」と思うものを指差し、丁寧にも説明してくれるショップ店員さんの話をひたすらに聞いて回る。契約の手続き中、店内から外を眺めると土砂降りの雨が。さっきまで降っていなかった雨に内心そわそわし始める。屋根の無い駐輪場に置いた自転車が気になって仕方ないのだ。自転車で通学したのだから傘は無い。自転車で通学したのに雨合羽すら持ち合わせていない。これには自身の準備の悪さが際立つ。契約書類の最後には家族からの了承が必要となった。すぐにでも手放したいガラケーを学生バッグから取り出し父親に来てもらえないかと連絡する。その口調から、夕食前すなわちお酒を飲む前といった背景が読み取れる。受付に取り残される私は迷子になって親に迎えに来てもらうようで恥ずかしさが最骨頂まで到達してしまった。窓から父親の運転する車が店の駐車場に入って来るのが判る。父と娘は一緒にこれまで進めた手続きの内容を再確認する。「これなら大丈夫!」そう思ったのか、慌てて履いたような擦れたジーパンのポケットから印鑑を取り出し全ての手続きを終えた。


携帯ショップからの帰り父親は車、私は自転車なので別々に帰宅する。父親と店の入り口で別れてから走って自転車を置いている駐輪場に向かうと案の定、ビショビショに濡れた自転車が一輪だけポツンと停められていた。まぁ、こんな天候の中、あえて携帯ショップに足を運ぶ人は少ないだろう。サドルに染み渡る雨の証拠を意味なく振り払うと冷たさ残る状態でもペダルを漕ぎ続ける。店がある場所から暫く漕いでいると道なりに伸びる街灯や店々が減っていき、ついには灯りが一つも無くなってしまう。いつしか雨しか降っていなかった天候には風まで加わり、雨風となって道行く者に襲いかかる。


「キキィ・・・!」


視界が悪い状態でも白銀の箱形をした乗り物がこちらに向かって突っ込んで来るのが見えた。どうやら私はそれに跳ねられたらしい。スローにも身体が宙に舞う感覚がわかる。しかしそれは不思議と痛みを伴う事が無く、静かに道行く車のテールランプが路面反射するアスファルトに叩きつけられた。遠ざかっていくテールランプは死にゆくかもしれない私に別れを告げるよう閉ざされる意識と共に消えていった。ー

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